市川紗椰が語る"冬季五輪公式マスコットの自由奔放な歴史"

1972年の冬季五輪の会場、札幌で。公式マスコットは特になかったらしい

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「冬季五輪公式マスコット」について語る。

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2026年の一大トピック、ミラノ・コルティナ冬季五輪とパラリンピック。競技はもちろん、公式マスコットにも注目していました。今回のキャラは、細長い小動物の「ティナ」と「ミロ」。アルプスに住むイタチ科の動物、オコジョのきょうだいという設定を聞いた瞬間、私は「そこできたか」と。

なぜかファンシーマスコットが多い冬季大会。神話や抽象的な存在に寄りがちな中で、14年ソチ大会からは現実にいる動物に回帰している。しかも今回はオコジョという、かわいいのにどこか俊敏で山岳感のあるチョイス! ヨーロッパの冬をふわっと体現していて、近年のキャラ設計のうまさがにじむ入り口ですね。

この「ちょうどいい」にたどり着くまでの冬季キャラ史は自由奔放でした。

例えば、1998年の長野大会の「スノーレッツ」。見た目は4羽のフクロウで、それぞれ火、風、地、水を象徴しているという設定。自然や知恵を象徴する知的な存在なのに、名前は「スッキー」「ノッキー」「レッキー」「ツッキー」と韻を踏みすぎていて、親戚の子供感がある。この真面目な理念と親しみやすさの絶妙なズレこそ、日本的マスコット文化の真骨頂ですね。

でも、スノーレッツが発表された際は、真っ先に「これをどうやって着ぐるみにするの!?」と子供ながらに心配したのをよく覚えてます。結果、あの平面的なイラストをどうにかこうにか着ぐるみにしただけでしたけどね。あの子たちは今どこにいるんだろう。かわいいけど、かなりかさばりそう。

さらに抽象度が一気に跳ね上がるのが、06年トリノ大会の「ネーベ」と「グリッツ」。雪玉と氷の立方体という、概念の会話劇。「雪」と「氷」をそのままマスコット化する潔さは哲学的ですらあり、絶妙に締まりのない表情と諦めたような体のデザインも味わい深い。

方向性なのは76年インスブルック大会の「シュネーマンドル」。ドイツ語で「雪だるま」という意味で、キャラの見た目も設定も雪だるま。雪の大会→雪だるまの超シンプル発想。ド直球すぎて逆に哲学。勉強になります。 

02年ソルトレークシティ大会のウサギの「パウダー」、クマの「コール」、コヨーテの「コッパー」は、それぞれ雪、石炭、銅に由来した名前。社会科教材のような構成です。「ソルトくんはいないんかい」と思ったのも覚えてます。

ちなみにソチ大会はシロクマ、ヒョウ、ウサギと、ソルトレークと似たようなメンツ(アメリカのソルトレークとロシアのソチで。感慨深いね?)。しかしソチは、「人気投票でほぼ同率だから全員採用」という民主主義の結晶のような3者主役制。投票にこだわるなら、もう一度人気投票してもよかった気もするけど。

〝何その合わせ技!系〟も。お気に入りは、88年カルガリー大会のテンガロン帽をかぶったシロクマのきょうだい「ハイディ」「ハウディ」。カウボーイ×シロクマ、ほかでは見られないですね。22年の北京大会の「ビンドゥンドゥン」も、パンダ×宇宙?という最強コンボ。実は宇宙服ではなく未来の氷のスーツ的な何からしいですが、あんなに大人気だったのも納得です。悔しいけど。

84年サラエボ大会のオオカミ「ブチコ」など、まだいます! 次回に続く。

●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。夏季五輪キャラの変遷も味わい深い。公式Instagram【@its.sayaichikawa】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!

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