
当サイトでは当社の提携先等がお客様のニーズ等について調査・分析したり、お客様にお勧めの広告を表⽰する⽬的で Cookie を使⽤する場合があります。
詳しくはこちら
12月1日、東京都港区で開催された国際金融会合で、対日投資の拡大を呼びかける高市首相
高市早苗首相の言葉はどうにも"軽い"。近頃、中国を不用意に激怒させた「存立危機事態」発言をはじめとして物議を醸す発言・発信を連発している。なぜ首相は妙に軽率なのか。その理由を官邸関係者に取材して解き明かした!
* * *
「ジャスト・シャット・ユア・マウス&インベスト・エブリシング・イン・ミー(いいから黙って全部オレに投資しろ)!」
都内ホテルで行なわれたサウジアラビア系ファンド主催の国際金融会合で、高市早苗首相が人気漫画『進撃の巨人』の有名なセリフを引用し、日本への投資を呼びかけたのは12月1日のこと。
『進撃の巨人』はサウジでも大人気だ。首相にすれば、月並みな言葉より、投資家にアピール効果があるはずと計算したのだろう。ただ、結果はイマイチだったようだ。
「高市さんの英語がたどたどしいせいもあったのでしょうが、出席者は一瞬、ポカンとしたような表情でした。海外の参加者の中には『進撃の巨人』を知らない人もいたはず。あの場にあのセリフはそぐわないし、トップリーダーの発言としては軽すぎると感じました。
あと、同席していた小池百合子都知事が冷ややかな笑顔を見せていたのが妙に印象的でした(笑)」(会合に参加したメガバンク関係者)
確かにこの高市発言、いかにも〝軽い〟。実は高市首相の軽い発言はこのひとつだけではない。首相に就任してわずか2ヵ月ほどで、ほかにも「こんなセリフ、軽率に口にして大丈夫?」と首をかしげるような発言がめじろ押しなのだ。
「国会で企業・団体献金の規制を迫る立憲民主党の野田佳彦代表に、『そんなことより、(議員の)定数削減をやりましょう』と言ってしまったり、Xで『外交交渉でマウント取れる服、無理をしてでも買わなくてはいかんかもなぁ』とつぶやいたり、いきなり和歌を詠んで外国人観光客によるシカ暴行を訴えた『奈良のシカ発言』など、枚挙にいとまがありません。いずれも軽率な発言としていまだに物議を醸しています」(全国紙政治部デスク)
中でも大きな余波を生んだのが、11月7日の国会での台湾有事発言。「(中国が)戦艦を使って、それが武力行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうる」と、歴代総理が決して口にしなかったセリフを軽々しく発し、中国を激怒させてしまったのだ。ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「台湾有事の際、日本はどう動くのか? その手の内を明かさないことが中国への牽制になると、政府はあいまい戦略を維持してきた。だから、歴代の首相も台湾有事を具体的に語ることはなかった。
それを高市首相はあっさり口にしてしまった。あまりに軽率だし、危うい。一議員と違って、総理の言葉は重く、それ自体が国の政策として受け止められるからです。企業・団体献金について『そんなことより』と言ったことも含め、発言について熟慮に欠ける部分があると言えます」
それにしても高市首相、どうしてそんな発言を軽々しく連発してしまうのか? 「質問レクが嫌いだから」と分析するのは総務省関係者だ。
「国会答弁に先立ち、各省庁が作成した答弁書の内容を事務方が大臣に説明する。これを質問レクといいます。高市首相はこの質問レクを受けたがらない政治家として霞が関では有名です。
高市首相は政策通として知られ、そこらのキャリア官僚より自分のほうが政策に詳しいという自負があるようで、事務方のレクが嫌いなようなんです。
彼女は総務大臣時代には自分の言葉で語りたいと、答弁書に自らペン入れして野党に答えるシーンも目立っていました。そうした答弁書にない表現や言葉遣いは、しばしば物議のタネになってきました」
今回、問題になった台湾有事発言でも高市首相は「戦艦」というセリフを発している。
「戦艦はすでに軍事用語上、死語になっている。現在、巨砲を搭載した戦艦と呼ばれる軍艦を運用する国はありません。当然、答弁書にもそんな用語があるわけもなく、あの戦艦答弁は首相のオリジナルでしょう。
事務方にすれば、徹夜で準備した答弁書どおりに読んでくれれば、中国とこれほど関係悪化することもなかったのにと、肩を落としているはずです」(前出・全国紙政治部デスク)
歴代首相の中には野党に不用意な発言を追及されないよう、スピーチライターを配置し、答弁に備えたケースも少なくない。高市首相にスピーチライターはいないのか?
「もちろん、高市首相にも秘書官や補佐官らがいて、答弁の方向性をその都度、相談しながら決めているはずです。ただ、専門のライターがいるとは聞いたことがありません。
首相は会食もほとんどせずに公邸にこもりっきりで、政策の勉強や答弁書の読み込みに余念がない。答弁もライターを頼らず、かなりの部分を自分の言葉で準備し、語っているはずです。政治家として能力が高いのは間違いない。
ただ、高市首相の場合、自分の言葉で語るという姿勢が良い方向に出ていない。それが問題なんです」(前出・総務省関係者)
頑固さとサービス精神が高市首相の安全運転を邪魔しているという声もある。
「こだわりの政策では持論を譲らないなど、高市首相は良く言えば信念の人、悪く言えば頑固で独り善がり。一方で、もともと物腰が柔らかでサービス精神が旺盛。だから、官僚の振り付けに従わず、自分の言葉で政策を押し通し、それがしばしば騒ぎになる。
でも、それではあまりに生硬すぎるからと、サービス精神で笑いを誘うような軟らかめの言葉をポロッと挟み、それがまた不謹慎だと物議になる。高市さんの答弁にはそんなパターンが散見されます」
ただ、見逃せないのはこうした高市首相の性向によって国益が日々、むしばまれている可能性があるということだ。ジャーナリストの布施祐仁氏が言う。
「高市首相の台湾有事関連発言で、経済、安全保障面で日本の利益が損なわれています。中国の空母『遼寧』が初めて沖縄近くの海域で戦闘機の発着艦訓練を行なうなど、特に軍事的緊張が高まっていることを心配しています。
偶発的な衝突が起きかねず、最前線で中国軍と対峙している自衛官の命が現に危険にさらされている。もし中国と交戦となってエスカレートすれば危険は国民全体に及びます。
この危険な状況を解消するには、高市首相が自らの発言にこれまでの政府見解を踏み越えてしまった部分があったことを素直に認め、中国に撤回なり修正なりの意思表明をするしかない。
ところが、それをせずに、『撤回はしない。政府の従来の方針はいささかも変わりはない』なんてごまかしをしているから、中国もいつまでたっても振り上げたこぶしを下ろせない。高市首相の責任は重大です」
前出の鈴木氏もこう続ける。
「失言やポカは誰にでもある。大切なのはその後の危機管理です。問題となった発言を撤回でなくとも例えば修正などして対中外交に動くべきなのに、官邸は鈍かった。首相のある意味で不用意な言動がトラブルの原因です。しかも、その後の収拾に動かない。高市政権の危機管理に危うさを感じます」
日本と中国が角突き合わせているうちに、トランプ大統領は中国をアメリカと並ぶG2と褒めそやし、来年4月の訪中をスケジュールにちゃっかり書き込んでしまった。
それを見たフランスのマクロン大統領は12月6日に中国を訪れ、四川大学1500人の学生の前で「あなた方は競争相手でなく、これから30年間、気候変動やAIの発展に共に取り組むパートナー」と中国を持ち上げた。また、韓国の李在明大統領は日中激突を見るや、来年4月の予定を1月に前倒しし、習近平主席との首脳会談に臨む構えだ。
アメリカが、欧州が、そして東アジアがそれぞれに、今世紀中に世界最大の経済大国になる中国の取り込みに動いているのだ。
「尖閣諸島国有化の影響で2013年に日中が険悪になったときは関係改善に2年半かかった。今回の日中間のトラブルはそのとき以上に深刻です。そう考えると、高市首相の在任中に日中首脳会談が実現することはもうないのでは?」(布施氏)
高市首相、ご自身の言葉で話そうとする姿勢そのものは大変素晴らしいと思います。しかし、もう少しだけ一国の宰相として、言葉の重さにご配慮いただけるとありがたいのですが......。