かつて紫雷イオとしてスターダムで活躍し、現在はWWEに所属するイヨ・スカイ かつて紫雷イオとしてスターダムで活躍し、現在はWWEに所属するイヨ・スカイ
世界最大のプロレス団体WWEの日本公演で、世界一のムーンサルトを携えて凱旋帰国を果たしたのがイヨ・スカイだ。公演では3日間で5試合をこなし驚異的なスタミナとスター性を証明したのに加え、WWE公演に先駆け、ロッシー小川の新団体マリーゴールドにも異例の電撃参戦! 6年ぶりの日本での試合で、世界に羽ばたくレベル違いの華やかさを見せつけ、新旧のファンを熱狂させた。

さて、このWWE、知っているようで知らない人も多いのでは? 23年に総合格闘技団体UFCと経営統合しコンバットスポーツ界の頂点に。世界的な経済誌Forbsによると、WWEの企業価値は68億ドル(1兆円超え)! 世界165カ国で放送され、トップ選手のギャラは10億円以上とのウワサも。当然、選手の数もケタ違いで、トップに昇るためには想像を絶する競争がある。

そんなスゴい団体で女子チャンピオンにまで昇りつめたイヨ・スカイに、日本公演の会場入り直前に直撃! 貴重なインタビューが実現した! 彼女が語ったアメリカでの6年間からは、WWEの今のリアルが浮かび上がった。「これから観てみたい」という人のWWE入門としても最適! ファンも業界関係者も選手も必見だ!

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6年ぶりの日本での初戦はマリーゴールド両国国技館大会。WWEで磨いた世界レベルの華やかさを見せつけたイヨ。指先までオーラに満ちた姿で観客の心を射抜き、大声援で迎えられた 6年ぶりの日本での初戦はマリーゴールド両国国技館大会。WWEで磨いた世界レベルの華やかさを見せつけたイヨ。指先までオーラに満ちた姿で観客の心を射抜き、大声援で迎えられた

■日本の女子プロレスのヒロインから、アメリカの観客が求めるハードコア路線で女王に!

――6年ぶりの日本での試合は、一挙一動から感情が伝わり圧巻でした! 世界で華麗に変身した姿には新しいファンだけでなく古参ファンも胸アツだったはずです。

イヨ 6年間アメリカで揉まれに揉まれて、スーパースターになって帰ってきましたよ! でも使っている技は日本にいた頃とほとんど同じ。違って見えたなら、大勢のライバルの中で私が生き残った理由かもしれませんね。ふふっ。

――WWE公演の前には、ロッシー小川の新団体「マリーゴールド」にも参戦。イヨさんは以前「紫雷イオ」として、ロッシー小川が創設した「スターダム」で21歳から渡米までの7年間を過ごしたし、世話になった社長の元に戻る義理堅さにも胸アツ...! WWE所属なのに他団体に参戦したのも異例で驚きました。

イヨ 今まではWWEから外部の試合には出られなかったので、今回は実現して私もびっくりしました。WWEも変わってきているし「イヨなら外でも世界クオリティを見せつけてくれる」という信頼感もあってのことでした。

これからの日本女子プロレス界を牽引するマリーゴールドの林下詩美と対戦。詩美のパワー殺法を受け切りムーンサルトで勝利した これからの日本女子プロレス界を牽引するマリーゴールドの林下詩美と対戦。詩美のパワー殺法を受け切りムーンサルトで勝利した

――WWE入団は2018年夏。まずは新人としてNXTで試合を始めましたが、日本との違いは感じましたか?

イヨ 違いましたね。1年ぐらいは「紫雷イオ」の女子プロレスを見せてきました。つまり、正義のヒロインみたいな「ザ・ベビーフェイス」という感じ。でもWWEのユニバース(観客)が求めているコトは日本とは違うなという感覚があった。そこで思い切って、自分の意志でヒールに転向したんです。せっかくならWWEのスタイルを取り入れて、日本では見せたことのない私のダークな部分を解放してみようと!

――それでハードコア路線に切り替えたんですね。女子初の金網デスマッチ、初ラダーマッチなど「初」を連発の革命的な活躍をしました。

イヨ 歴史を作りまくりましたね(笑)。NXTはそれまでストリーミング配信だけでしたがテレビ放送が始まり、放送第1回目の1発目に入場した選手が私です。

――日本では新人が最初に試合しますが、WWEの放送では注目選手が最初に出ます。ということは、最注目選手だったということですね!

イヨ 入団時から"新しいものを見せる存在"と期待されていたし、このヒールターンがバチっとハマって、その勢いでNXT女子王座も獲得しました。

■「3日後デビューだけど行ける?」すべてがサプライズのアメリカ

――しかしその後コロナ禍に...。

イヨ そうなんです。試合ができなくなって、2年ぐらい停滞してました。

――NXTで活躍すれば、WWEの2つの看板ブランド「RAW(ロウ)」と「Smack Down(スマックダウン)」に"昇格"するのが定石ですが、チャンピオンになりながらも...。

イヨ 結局4年もNXTのままで...、もう何度も日本に帰ろうと思いました。努力でどうにかなるなら続けられるけど、コロナはどうにもならない。ファンの人も私に期待してくれてるのに、見せたくても試合ができない。しかも一人暮らしだから考えもどんどん暗くなっちゃうわけです(笑)。

日本ではトップを張ってたし、帰ったら喜んでくれるファンもいる。「一人で腐ってるより、アメリカに見切りをつけた方がいいのかな」って選択を迫られました。でも憧れのビッグマッチ「レッスルマニア」に出てないからまだ帰れないって、耐え抜きました!


――22年、4大大会の一つ「サマースラム」でついにRAWにデビュー! その経緯は?

イヨ アメリカって日本と違っていつも急展開で「3日後にサプライズデビューするけど行ける?」という世界。お客さんにもサプライズだけど、選手にとっても「まじで聞いてない」という(笑)。WWEには「レッスルマニア」「サマースラム」「ロイヤルランブル」などのビッグマッチがありますが、裏で他の試合を見てても知らないことがどんどん起こるから普通にビックリするんです。

私も「デビューするよ」って当日に聞いたかもしれない(笑)。でもおかげで常にイケるコンディション作りと度胸が身につきました。今の私なら何が起こっても動じませんよ!

――野球では2軍と1軍は大違いですが、WWEでも昇格すると違う?

イヨ もう生活が変わります。NXTでは自宅から通えて毎日家に帰れるけど、RAWに上がると「メインロースター」と呼ばれて試合数が大幅に増えて、全米を自分でレンタカーを運転しながら移動して、家に帰れるのは週に2日だったりする。

しかも私は試合もTV番組もほぼ全部に出ているんです。日本の女子プロレス団体だと全員がすべての大会に出るけど、WWEは選手の数がケタ違いで、一部しか出ないんですよ。

――全部に出るとは完全に女子のエースですね! 

イヨ エース格の1人なことは確かです。

■チャンピオンになって「見える世界が変わりました」

――そこからは怒涛の活躍で、1ヶ月でWWE女子タッグチーム王座を獲得し、翌年には女子シングル王者というWWE女子の頂点に。

イヨ チャンピオンになって見える景色が変わりましたね。会社が用意してくれる飛行機もファーストクラスに(笑)。

――WWEのトップ選手の給料は10億円以上とのウワサもありますが、イヨさんも当然、ギャラはアップした?

イヨ 日本にいた頃のインタビューでも、私は収入面でも業界トップという記事が出たことがありますが...、日本のあの頃から比べてもアメリカの現在では間違いなく増えましたね。今はメルセデスベンツのゲレンデを買っちゃおうか迷ってます(笑)。

――Gクラスも余裕で買えちゃうと! その後、目指していた年間最大興行「レッスルマニア」にも出場を果たしました。

イヨ レッスルマニアで8万人の前に立った時は「ついに来たか」と誇らしくなりましたね。

――レッスルマニアでは2日公演の大トリの直前という試合順からも期待度が分かります! いかがでしたか?

イヨ WWEはベビーフェイスとヒールの対立が基本なので、ヒールの私にはブーイングの嵐。でも試合の私の一挙一動で、会場の空気が「イヨすげえ!」に変わっていって、「今、アメリカンドリームを掴んでいってるな」って手応えがありました。その後ベルトは失ったけど、私の支持率はバーンと上がりました!

――世界最大のWWEは選手数もケタ違いな中、日本人として成功するなんて、並大抵ではないですよ!

イヨ これは日本人に限らず世界中の挑戦者に言えることですけど、WWEに入るまでは漕ぎつけられても生き残れる人はたった一握り。TVすら出られないままクビになったり、上に行っても登場できないまま去る人もいる。日々ふるいにかけられる環境で生き残れたことは「自分にしかない何かを持っている」という自信になっています。

トントン拍子で来ていたら、チャンピオンになってもこんなに感慨はない。人間は苦労して手に入れたものの方が大事なんだなって実感しました。すべての苦労の日々が今では愛おしいですね。

イヨに憧れプロレス入りした林下詩美にとって対戦は人生最大の夢。身をもってその強さを知り「イヨ・スカイ超え」を新たに誓った イヨに憧れプロレス入りした林下詩美にとって対戦は人生最大の夢。身をもってその強さを知り「イヨ・スカイ超え」を新たに誓った

――プロレス界でまさに大谷翔平級の活躍を見せるイヨ・スカイですが、日本の女子プロレス界を振り返って、感じる課題やこれからの期待はありますか?

イヨ 今の日本の女子プロレスは、私がいた頃より圧倒的に選手数も増えてレベルが上がっていると思います。でもその中で問題点があるとしたら、選手のルックスや試合内容がみんな同じような理想系を追っているようにも見えるので、ひとつのショーとして大会を見終えたあとに、お客さんの印象に残らないものがでてきてしまうというところだと思います。

WWEには本当にさまざまなキャラクターのスーパースターがいて、そのどれもが洗練されているのですごく印象的です。最近RAWでThe Wyatt Sicksというユニットがデビューしたのですが、かつてないほど不気味でクールで、いま全米を大熱狂させています。

かわいいとか、強いとかのさらに先、もしくはまったく違ったものをきちんと表現できる選手や団体が今後増えてくれたら、日本プロレス界の全体的な面白さが何倍も増すと思います。

――今やチャンピオンになり、すべてを手に入れたのでは?

イヨ まだまだ! ようやくメインロースターになったばかりで、まだ道の途中。満足なんかしてません。もっとすごくなったイヨ・スカイとして、もう一度頂点に立ちます!

――では最後に、日本のファンにメッセージを!

日本のファンの皆さんのおかげで世界に旅立つことができ、今では世界中を飛び回り「イヨ・スカイ!」と熱烈に声を掛けてもらえています。「世界中」にはもちろん日本も含まれています。これからはもっと日本で試合する機会も増えると思うので、世界レベルに成長したイヨ・スカイに注目してください!


●イヨ・スカイ 
1990年5月8日生まれ。2007年3月「紫雷イオ」としてデビュー。フリーで活動したのち12年からスターダム所属。15年度からは「女子プロレス大賞」を3年連続受賞するなど日本女子プロレス界を代表する存在に。18年8月WWE入団。22年「イヨ・スカイ」に改名してからは破竹の快進撃で23年8月にはWWE女子王座を獲得し、世界の頂点に立った。器械体操の経験を活かした得意技のムーンサルトプレスは"世界一"と称されるスゴ技