【ラーメン】24時間お手頃に飲める酒場のラーメンが、こんなにうまくて550円なことにただただ感謝:パリッコ『今週のハマりめし』第229回

取材・文・撮影/パリッコ

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

久々に「桔梗(ききょう」)へ飲みにいって、その変わらぬ良さにしみじみと驚いた。

桔梗とは、西武新宿駅とJR大久保駅の中間ほどにある酒場で、正式名称を「麺屋酒場桔梗 新宿店」という。その名のとおり、ラーメン屋と居酒屋のハイブリッド店。すごいのは24時間営業なところで、新宿界隈で終電を逃したときも、事情があって早朝から飲みたいときも、いつでもそこで営業してくれている頼もしい存在だ。

「麺屋酒場桔梗 新宿店」「麺屋酒場桔梗 新宿店」
この日、僕が入店したのはお昼時より少し前。近所で友達と会う予定があり、その流れで軽く一杯やっていこうかと一緒に入店した。

桔梗の愛すべき点はたくさんあるが、第一は独特すぎる段ボールメニューだろう。大きな段ボールにぎっしり、整然と書き込まれた酒つまみのメニューたちはどれも魅力的で、しかも安い。僕の大好きなホッピーセットが今どき税込470円というのは、この立地を考えると相当なことなのではないだろうか。

これぞ桔梗! なオリジナルメニューこれぞ桔梗! なオリジナルメニュー「ホッピーセット」「ホッピーセット」

ホッピーと合わせて注文するのは僕の定番「おつまみセット(小)」(390円)だ。これは、チャーシュー、煮玉子、メンマ、ゆでもやし、ねぎがどさっと1皿に盛られたプレートで、端的に言えば、ラーメンの上にのっている具をおつまみ化したもの。僕はいつも小サイズだが、その上に大サイズもあり、小でも相当のボリュームなので、大はいかほどのものなのだろうかと思いつつまだ頼んだことはない。

「おつまみセット(小)」「おつまみセット(小)」
ワイルドに盛られた、ラーメンだれのかかったそれらをわしっとつまむと、麺がないのに笑ってしまうくらいにラーメンの味がして、愉快だし酒がすすむ。

また、桔梗新宿店の特徴として、店員さんにそちら方面の方が多いという理由で、メニューのところどころにミャンマー料理が混ざっているのがおもしろい。ミャンマー風ポークソテーの「ワカウキン」、同じくビーフジャーキー「アメーダジョー」、「おつまみミャンマーカレー」などがあるなか、僕がお決まりのように頼んでしまうのが、ミャンマーを代表する大都市の名を冠した「ヤンゴン玉子焼き」(490円)だ。

「ヤンゴン玉子焼き」「ヤンゴン玉子焼き」
お決まりのように頼むと言いつつ、毎回実際に食べるまで、ところでどんな味だったっけ? と忘れてしまうんだけど、表面がパリパリに焼かれて香ばしく、なかにはたっぷりの玉ねぎスライスが入り、塩気が絶妙でなんともうまい。その塩気に加わる風味はおそらく、日本の醤油ではなくて魚醤によるものだろう。タイのナンプラー、ベトナムのヌクマムに似た調味料として、ミャンマーには「ンガピャーイェー」という魚醤があるらしいから、きっとそれだ。

ところで、この店のホッピーの「中」(290円)は非常に濃く、しかもおかわりのたびに氷とともに足されるので、飲めば飲むほどソトを注ぐスペースがなくなってゆき、つまりは要するに、手っ取り早く酔っぱらう。今日も早くもいい気分だ。そろそろお会計を......と思ってふと周囲を見渡す。いつの間にかカウンターには、飲みにきたのではなくてランチ目当てのお客たちが大勢いて、みんなうまそうにラーメンをすすっている。気づいてしまったらその香りが急速に自分を誘惑しだし、どうにもたまらなくなってきた。ラーメン、食べて帰ろうかな...。

そこであらためて麺類のメニューを確認。醤油はもちろん、みそも、塩白湯も、辛も、つけめんも、かなり豊富にそろっていて完全に専門店のラインナップだ。トッピングのバリエーションも幅広い。いちばんシンプルな「醤油らーめん」が850円。が、僕はあることに気がつく。それらとは別に、壁に「【復刻版】醤油らーめん 細麺」というメニューがあり、なんと550円だ。復刻の経緯まではわからないものの、安すぎる。これがちょうどいいに違いない!

「【復刻版】醤油らーめん 細麺」「【復刻版】醤油らーめん 細麺」
やってきたラーメンを見て驚いた。なぜなら、値段からしてもどう考えたって、ごくシンプルな具なしの醤油ラーメン、なんならハーフサイズくらいのものがやってくると想像していたからだ。しかし実際は、大きなどんぶりに入って、なるとにメンマに海苔にねぎ、さらには立派なチャーシューまでがのった、とても豪華なラーメンがやってきたのだ。それに、そのオーラからしてどう見てもうまそうだ。

まずはスープからまずはスープから
さっそくスープをすすってみて、大げさでなく感動してした。ベースは、かなり強めにかつおだしが香る魚介系の味わい。しかしそこに豚の背脂が浮いており、決してあっさりしているだけではなく、ガツンとしたパンチもある。基本は醤油味だが、うまいつけめんのつゆのようなイメージというか、ほのかな甘酸っぱさも感じる。思わずしばらく、ひたすらスープを飲み続けてしまった。

麺は細麺と書かれていたが、そもそも桔梗のラーメンのデフォルトはかなりの太麺であり、それと比べると、ということなのだろう。一般的に言う中太麺くらいの太さはある。これがぶりんぶりんで、すすり心地も楽しく、絶品スープと相性抜群。大きな1枚チャーシューは炙りたてらしく、表面が香ばしくて噛みしめるととろりととろけ、脂が甘い。ありがたい。この時代にありがたすぎる一杯だ。

麺もたっぷり麺もたっぷり

無心ですすり、3回目のナカをおかわりしたホッピーもぐびぐび飲み、大満足の放心状態。なんでこんな店が実在するんだろう? ってくらいの名店っぷりを、久しぶりに堪能した昼下がりだった。

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  • パリッコ

    パリッコ

    ぱりっこ

    1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
    著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
    公式X【@paricco】

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