
矢内裕子
やない・ゆうこ
矢内裕子の記事一覧
ライター&エディター。出版社で人文書を中心に、書籍編集に携わる。文庫の立ち上げ編集長を経て、独立。現在は人物インタビュー、美術、工芸、文芸、古典芸能を中心に執筆活動をしている。著書に『落語家と楽しむ男着物』(河出書房新社)、萩尾望都氏との共著に『私の少女マンガ講義』(新潮文庫)がある。
写真/©吉原重治
25年前、成人向け同人誌の世界に颯爽と現れた天才エロ漫画家・クリムゾン氏。その後、商業誌などにも創作の舞台を広げつつ、イベントや自身のYouTubeでは姿を明かさないことにこだわりを持つなど、謎に包まれた存在だ。
そんなクリムゾン氏が画業25周年を記念して『週刊プレイボーイ』に降臨。ここまでの道のりと、創作の流儀について語った。
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今年でデビュー25周年を迎える、漫画家・クリムゾン氏。バーチャルYouTuberとしても活躍し、チャンネル登録者数は23万人。また、Xは10.6万人、Instagramは10万人とSNSのフォロワーも多く、漫画界以外にも影響力の大きい存在だ。
成人向け同人誌でデビュー以降、圧倒的な人気を誇り、商業漫画に進出。王道かつ洗練された絵柄、時にハードなストーリー展開で、男女双方からの支持が厚い。
代表作『クリムゾンガールズ』を筆頭に、作品の多くがゲーム化、実写化などさまざまなメディアで展開。クリエーター支援プラットフォームのファンティアやファンボックスの課金者数は4000人超、定価2万円を超す2冊の全集(電子書籍)は、それぞれ1万7000本以上を売り上げている。
クリムゾン氏の成功の秘訣はどこにあるのか。その軌跡と創作の流儀を深掘りした。
『クリムゾンガールズ』は08年に同人誌として発表された後、コミックシーモアで配信。実写AVやアニメOVA、アプリゲームなども制作された
クリムゾン氏が作画を担当した『蒼い世界の中心で』(原作はアナスタシア・シェスタコワ氏)。エロはほぼ皆無のバトル漫画。テレビアニメ化もされた
――画業25周年、おめでとうございます!
クリムゾン ありがたいですが、正直、ここまで続くと思っておらず......。本当は20周年をひと区切りにしようと考え、積み立て保険や資産運用も調整していたんです(笑)。
けれど、作品の人気が予想を超え、その頃に始めたYouTubeも思いがけない反響を得て、今に至っております。
――クリムゾン先生は漫画とSNSのどちらにも力を注いでいますよね。バーチャルYouTuberとしても活躍していますが、2015年のイベント登場で初めて女性だと知った読者も多く、話題になりました。動画内の3Dアバターも先生の優雅な語り口に合っています。アバターはご自身の姿にかなり近い?
クリムゾン 主役は作品なので、作者像については自由に想像してもらえればいいと思っています。イベントに登壇したのは「影武者」とはっきり言っていますし、YouTubeやSNSに出ているのも、あくまでアバター。真相は覆い隠しています(笑)。
――子供の頃から漫画家を志していたのでしょうか。
クリムゾン 小学生時代の夢は漫画家かゲームクリエーターでした。算数が得意だったので、「博士になりたい」と思っていたこともあります。
ただ、突き詰めると研究職は大勢で実験をやることも多い。自分ひとりで完結しないのは面倒だなと思って、なら「ゲームか漫画かな」と。その後、ゲーム制作も規模が大きくなったので、最終的に漫画家を選びました。
――クールな分析です。子供の頃に愛読していた漫画は?
クリムゾン 幼少期は『キン肉マン』『キャプテン翼』『北斗の拳』あたりですね。当時から『週刊少年ジャンプ』が圧倒的に読まれていたので。
もちろん『ONE PIECE』や『るろうに剣心』も好きです。作品を描く上で、印象的なセリフ回しやページをめくりたくなるコマ割りなど、影響を受けましたね。ほかにはCLAMP先生の作品も読んでいました。
――セリフといえばネットミームにもなった「くやしい...!でも...感じちゃう!!」はクリムゾン作品における名ゼリフとして有名です。
クリムゾン 皆さんに認識していただきありがたいのですが、実はそのセリフは過去の作品に存在しないんです。近いものはあるのですが......。 もちろん、セリフは漫画にとって大事なもの。印象深くなるよう工夫をしています。
――ゲームクリエーターも視野に入れていたとのことですが、ハマっていた作品は?
クリムゾン こちらも王道ですが『マリオ』や『ドラクエ』シリーズですね。もちろん、『ファイナルファンタジー』も。ちなみに自分でプログラミングもできるので、今でも趣味でゲームを自作して遊んでいます。
――YouTubeでは成人漫画やアニメ表現についての分析もされていますが、思考法が非常に論理的ですよね。先ほど、最終的に漫画家を選んだ話が出ましたが、「物語を自分で思うように展開させたい」という気持ちが強い?
クリムゾン そのとおりです。他人との共同作業もやろうと思えばできます。ただ、展開を自分ひとりで決められる仕事に魅力を感じたんですね。
登録者数23万人超の『クリムゾンチャンネル』。クリムゾン氏はアバターなど仮の姿で出演。創作に関する解説動画のほか、美人アシスタントのコスプレなども拝める
――学生時代に漫画賞などには投稿していましたか?
クリムゾン 高校生の頃から投稿を始めましたが、小さな賞はいただいたもののデビューには至らなかったですね。
――そこから成人向け漫画に移った経緯とは?
クリムゾン エロ自体には昔から興味はありましたが、描き始めたのは、大学で漫画サークルに入ってから。後輩が「コピー本を作って儲けた」と話していて、自分もやってみることにしたんです。
最初は大学の印刷機で200部刷って、ホチキスで留めたものを売ってみた。すると思いのほか小銭が稼げて。そこから本格的に同人誌を作り始めました。
――時期は2000年頃?
クリムゾン はい。インターネットがやや成熟し始めた時期でした。そこで一般向けとアダルト向け、ふたつの漫画のホームページを作ってみたら、アダルト向けサイトがすごいアクセス数を稼いだんです。まずはホームページから知名度を得て、カラーページを入れた同人誌を作ったら、いきなり1000部ほど売れました。
――みんなが個人のホームページを作り始めた時代ですね。成人向け作品を描くに当たり、女性の描き方の研究は?
クリムゾン していないですね。もともと少年漫画を描いていたのでかわいい女のコを描くのは慣れていました。
――先生のファンには女性も多い印象です。
クリムゾン そうですね。昔から女性視点の作品や、女性の〝性の開花〟を重視した描写が多いので、こうした点が女性に読みやすいのかな、と自己分析しています。
メディアでいうと、ケータイコミック時代に女性読者がかなり増えて、「読者の半分が女性」と出版社から聞きました。
当時、女性漫画家が描く男女の絡みは少々ぬるい......もう少し過激なものが読みたい。けれど、男性向けの作品は描写がエグい――そう感じる女性読者が多かったようです。「男性漫画家と女性漫画家の中間くらいがクリムゾンの作品」という感想もありました。
――SNSでは先生の「創作の流儀」が話題になりました。
クリムゾン 私が漫画を描く際に決めている掟ですね。登場人物の女性について「痕が残るような傷は負わせない」「廃人にしない」「妊娠させない」「気持ち良くなる前に挿入しない」「顔はなるべく汚さない」「女性が寝る床面はなるべく柔らかい場所にする」。
一見、ハードな展開の中でも、こうした流儀を守ることで、結果的にクリムゾンらしさが出ているのかもしれません。
こちらも人気のオリジナル同人誌『退魔士カグヤ』シリーズ。毎回、主人公が「妖魔」に陵辱されながらも、討伐のために戦いを繰り広げる
――クリムゾン先生の作品ではサディスティックな世界観が展開されることが多い印象ですが、先生ご自身はSかMでいうとSなのでしょうか。
クリムゾン そうだと思います。ただ一般的に言われるような、一方的にいじめるのが好きなSではなく、私が目指しているS像があります。
それは大きな木のような、依存したくなる存在。雨が降ったら寄りかかっていいし、晴れたら自由に離れていい。ちょっと変な実がなっていたり、安心感はあるけれどミステリアスで、気づけばそれなしで生きていけなくなる......。
Sの世界は流派もいろいろありますし、私が偉そうに話すのは違うと思いますが、私が目指しているS像は最終的には「依存」がキーワードになるのかな、と思います。
――最後に今後新しく挑戦したいことは?
クリムゾン 漫画を描き続けるのはもちろん、また面白いSNSやツールが登場したら、やってみたいですね。YouTubeを始めたときは子供時代のような刺激を受けて、脳が活性化しているのを感じました。新しいチャレンジは若さの秘訣でもあります。
――漫画を描きながら、日々進化を目指すんですね。30周年では「クリムゾン流ビジネス思考」についてもお聞きしたいです!




