良くも悪くも圧倒的なインパクトを残した元総理大臣の父の地盤を継いで大注目された初当選から15年。
かつて何度も取り沙汰されてきた自民党総裁選への出馬がいよいよ現実味を帯びると、一気に大本命に躍り出た小泉進次郎を今、国民はどんな目で見ているのか? そして、政治家としての実像やいかに?
■「進次郎政権を見てみたい」人多し。ただし......
岸田文雄首相の突然の不出馬表明が事実上の開戦のゴングとなり、"コバホーク"こと当選4回の若手・小林鷹之前経済安保担当大臣を皮切りに、有名議員が続々と手を挙げる乱戦状態となった自民党総裁選挙(9月12日告示、27日投開票)。
そんな中、本人が「出る」という前から次期総裁=次期首相候補の大本命に浮上し、待望論から実力に懐疑的な見方までさまざまな声が飛び交い、あっという間に話題の中心になったのが小泉進次郎元環境大臣だ。
国民人気は抜群だから、裏金問題で逆風がやまない自民党の新たな"顔"に立てるには最適だとか、43歳の新総裁なら"刷新感"が出るといった分析がなされているが、実際のところその「国民人気」がどんなものなのか、いまひとつつかみどころがない。
そこで今回は、新総裁=新首相の下で年内に行なわれる可能性が高い衆院解散・総選挙まで見据え、18歳以上の男女600人(10代、20代、30代、40代、50代、60代以上の6世代、それぞれ男性50人・女性50人の計100人ずつ)に緊急ネットアンケートを実施(8月26日)。日本人は今、「小泉進次郎」のことをどう思っているのか?
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まずはシンプルに「好きか、嫌いか」(Q1)。実は、同じく国民人気が高い石破茂元幹事長についても同じ質問をしたのだが、ふたりの調査結果は「好き」「嫌い」ともほぼ互角。ただし、明らかに差が出たのが次の2点だ。
●小泉氏のほうが「どちらかといえば好き」が多い(4.3ポイント差)。
●小泉氏のほうが「関心がない」「知らない」が少ない(5.7ポイント差)。
また、石破氏の支持がやや男性に偏っているのに対し、小泉氏は老若男女満遍なく「好き」「どちらかといえば好き」を集めた。このあたりが"ふんわりした人気感"の正体だろうか。
次に、「進次郎政権を見てみたいか」(Q2)。この質問について特筆すべきは、「今ではないが、いつかは見てみたい」人の多さだろう。もう少し詳しく言うと、
●小泉氏を「どちらかといえば好き」な人の約7割、「好き」な人でさえ4割近くが「今ではない」と考えている。
●「好きでも嫌いでもないが、関心はある」人の約3分の2、「どちらかといえば嫌い」な人の4割以上も「いつかは見たい」と考えている。
彼には期待しているが、まだ早い―これが有権者の多数派だとみて間違いない。
では、「まだ早い」小泉氏がなぜ総裁選の大本命になっているのか。自民党議員秘書が解説する。
「とにかく今は次の衆院選で下野しない、つまり自公で過半数を死守するというのが党の至上命令ですから、『とりあえず進次郎』というムード。
特に衆院当選4回以下の、これまで楽な選挙しかしてこなかった議員は自分のクビが危ないので、進次郎なら勝てる、負けても僅差で比例復活できる、というわけです。出馬表明前の時点で、推薦人になるかどうかは別として彼を支持する議員はすでに50人を超えていたようです。
また、これは同じく40代のコバホークを推す若手議員にもいえることですが、今のベテラン中心の党運営のままでは重要なポストはもちろん、国会質問のチャンスもほとんど回ってこない。一気に世代交代をやりたいという思いから支持する議員が衆参問わず多いのです」
■支援の中核メンバーは選挙目当てではない
小泉氏のイメージや印象について聞いたQ3、総裁候補たちの中でどう見られているかを調べたQ4~6を見ても、"ふんわりした人気"はあるが"今の実力には不安"という傾向は変わらない。
しかし、小泉氏の初当選以来、個人的なインタビューも含め継続的に取材を行なっている政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「実像は、世襲のボンボンという世間のイメージとは違う」と指摘する。
「今の党内のムードが次期衆院選に向けたものであることは間違いありませんし、主要閣僚や党三役を経ておらず経験値はまだまだ足りないというのも事実。ただ、それでも将来の総理・総裁候補としては高く評価されています。また、ぶら下がり取材を拒否しない一方、のらりくらりとかわして大事なことを言わないずるさも身につけています。
知られているとおり彼は世襲議員ではありますが、本人は相当な覚悟で政界に身を投じ、父である小泉純一郎元首相がいた清和会(当時は町村派、現安倍派)には入らず、自らの判断で無派閥を貫いてきた。
派閥の雑務や人間関係に縛られることなく、応援演説の要請があればふたつ返事で引き受けてきたことで、党内に敵が少ないのも大きな特徴です」
今回の総裁選で小泉氏を支援する議員たちについて、自民党関係者もこう語る。
「当選目当てで選挙に弱い若手議員が集まっているという指摘は一面を言い当ててはいるものの、それが全体像ではありません。
実は、小泉氏は党青年局長時代(2011~13年)から基本政策を若手の政策通の議員らと温めており、特に日本の国力が衰退している現状への危機感が強い。今回、推薦人に名を連ねるとみられている議員の多くはそうした仲間たちです」
Q7では、「印象に残っている仕事・シーン」を聞いた。上位3つ(レジ袋有料化、初当選、セクシー発言)はいわばワイドショー的な話題で、ここでもやはり進次郎人気・知名度の"ふんわり感"が伝わってくるが、政界ではどうなのだろうか?
「一番評価されているのは、復興大臣政務官時代から続けている東日本大震災の復興支援。今でも毎月11日には支援を継続しており、本人ひとりで愛車に支援物資を積み、被災地にひょっこり顔を出すこともありました。避難所や復興住宅で住民から話を聞き、補助金や制度の創設、税制変更といった仕事もしています」(前出・鈴木氏)
「世間では中身がないと批判されがちな農政改革も、党内ではそれなりに評価されています。当時、安倍晋三首相から入閣の打診を受けた小泉氏は『まだ実力をつけるために党務に専念したい』と断ったのですが、それに対して半ば懲罰的に、TPPや減反政策への反発が強く難しい時期だった農林部会長のポストが割り振られたのです。
最終的には骨抜きにされた面もありましたが、"攻めの農業"を打ち出して農協改革を訴えた小泉氏の発信力と胆力には特筆すべきものがあり、党内では『入閣要請を断ったことも含め、単なるボンボンではない』という評価が定着しました」
■一番人気の「進次郎構文」は?
ただしその一方で、重量級の閣僚ポストや党三役を経ていないこともあり、小泉氏はこれまで外交、安全保障、財政政策など国家観に関わるようなテーマについて、ほとんど公に語ってこなかった。
言うまでもなく、これらは総理大臣にとって最も重要なテーマだ。また、大きな争点になる安倍派の裏金議員の処遇も、敵をつくらずここまできた小泉氏にとっては正念場になるかもしれない。
出馬会見は台風の影響で先送りになったが、そこから投開票までの約3週間、小泉氏は百戦錬磨の政治家たちが互いに攻め合う論戦に身を投じることになる。
元の期待値が大きいだけに、ここでボロが出るようなら、経験不足、器ではない、能力がないといったレッテルを貼られ、待望論は一気にトーンダウンしかねない。果たして"ふんわり人気"を溶かすことなく固めることができるかどうか――。
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最後に、半分オマケのQ8は「進次郎構文(小泉構文)」について。「同じ内容を繰り返したり、中身がないことをもっともらしく言う」というような意味のイジリ系ネット用語で、特にXでは映像・画像付きのミームがすっかり定着しており、検索すれば山ほどヒットする(本人の言葉よりも2次創作やフェイクが多いので、自己責任でお楽しみください)。
年代別にその浸透度合いを調べてみると、やはり若い世代ではかなり一般化していた。なお、具体的に好きな「構文」についても聞いたところ、一番人気はこれ。
「今のままではいけないと思っています。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている」(編集部注:気候変動対策について)
この発言、実は続きがあってちゃんと"成立"していたのに、テレビ番組の尺の都合でカットされ、結果として有名な「構文」になったとの説もある。だが、いずれにせよ政治家はイジられるのも知名度の証し。いや、もしやこれも「のらりくらりと大事なことを言わないずるさ」なのか?
......と、勝手に深読みさせてしまうところが"進次郎マジック"なのかもしれない。