
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
アフリカには4億人の貧困層がいる。飢えた子供たちがたくさんいる。日本にもアンダークラスという貧困層がいるが子供はいない。低収入で結婚できず子供も作れない。そして、高齢者になれば野垂れ死にするだけ。どうすれば救えるのか......(写真:ABACA PRESS/時事通信フォト)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――いまの日本ではマルクスの資本論で想定されていない「アンダークラス」が形成されているとのことですが、これは日本国滅亡の危機ということですかね?
佐藤 そうです。年収216万円程度、その数は890万人で就業人口の13.9%を占めます(橋本健二『新しい階級社会』講談社現代新書、2025年)。その3/4が結婚できずに独身です。
――すると、日本にアフリカに存在する貧困層ができたということでしょうか?
佐藤 いえ、アフリカの貧困層は子供をたくさん産んでいますが、日本のアンダークラスはそうではありません。だから、人口減少が止められず、ゆえに日本は滅亡するということです。
男性の場合、たまに風俗に行くくらいで、それ以外は無料動画で処理するのが日課です。その中には女性に対する憎しみが強く、女性専用車両は男性差別だと言っているような人たちもいます。
――不満と怨恨が渦巻き、それが日々、強化されていると。
佐藤 そうです。まさに生活の階級で言うとアンダークラスなんですよ。橋本健二さんが書いた前出の『新しい階級社会』に加え、『アンダークラス 新たな下層階級の出現』(ちくま新書)を読んでみるといいですよ。
――読んでみます。
佐藤 彼らの年収は平均で216万円です。これが平均ですからもっと低い人もいます。当然、給与が低いので、年金もほとんどがまともにもらえません。
――その人たちが老人になったらどうなるんですか?
佐藤 何の保障もありません。子供がいないので貧困の連鎖もこのアンダークラス内では生じません。一世代で消滅してしまうのです。
もっとも、他の階級からアンダークラスに転落してくる人がいるので、こういう人たちの集団は維持されます。
――日本はやがて絶滅に至る。
佐藤 友達も彼女も家族もいない、そういう人たちが14%ほどいます。それから、アンダークラスは女性の方が多いんですよ。
――なぜですか?
佐藤 女性が離婚してシングルになると、アンダークラスになってしまうんです。
――このアンダークラスを救う方法はあるのですか?
佐藤 一種の社会主義的な措置になりますが、政府が介入して、底上げのために再分配する政策をやるしかありません。
――それはできないような気がしますね。すると、スキマバイトとかしてかっこよく生きている方々は、永遠に仕事スキルが身に付かずに老人となり野垂れ死ぬ。
佐藤 問題は、そういう人たちを同じ日本人だと思うか、同胞だと思うかどうかなんですよ。
――解決方法はないのですか? 日本全国でマルクス資本論講座を開いて、再教育するとか?
佐藤 そこで施すべき教育は、資本主義の担い手、全国の資本家である経営者に資本主義をきちんと循環させるために賃金を払え、ということですね。個別資本ではなく、総資本の立場を徹底させる、と。
――働く労働者ではなく、経営する資本家の再教育なんですか?
佐藤 そうです。資本家の再教育が重要です。アンダークラスにはそんなことを考えている余裕はありません。
――日銭を稼いで食い物を買わないと餓死してしまいますからね。
佐藤 それから、理想的なのは北朝鮮に学ぶことです。
――何を学ぶんですか?
佐藤 北朝鮮はマルクス資本論と違う発想で共産主義を実現しました。
――毎分発射速度数千発の高射機関砲で、国民が銃殺される国です。
佐藤 そういう面ではなく、民の欲望の水準を下げれば、共産主義は21世紀中に実現できます。
――「欲望の水準を下げる」とは?
佐藤 21世紀中に米の飯を腹いっぱい食べ、肉を食らうのではなく肉の汁を啜(すす)って茅葺屋根の家に住めばいいんです。そうすれば共産主義ですよ。どうですか?
――とても清く貧しい感じがしますが、どんな生活なのか想像がつかないです。
佐藤 『世界まるごとHOWマッチ』という番組を覚えていますか?
――故・大橋巨泉氏が司会の番組ですね。懐かしい。
佐藤 その番組で、TV取材撮影班が初めてアルバニアに入ったんですよ。当時アルバニアは鎖国していた頃で、そのレベルまで落とせばどの世界も楽園になります。その頃は「ヨーロッパの北朝鮮」と言われていましたけどね。
――北朝鮮ですか......。
佐藤 パン屋の商品は四角い切り分けられていないパン1種類のみで、一斤そのまま手渡しです。レタスも葉っぱに分解されて、量り売りが通常ですね。そして、政府が推奨しているのは散歩です。
――欲望の水準が、すさまじく低く設定されています。
佐藤 結婚式にも豪華な食べ物はなく、飲み物も普段と変わらないが、量が多い。みんな楽しく踊って、結婚を祝福しています。
――欲望のレベルを鎖国時代のアルバニアに下げれば、それがノーマルクラスになる。だからみんなそれで幸せ、となっている。
佐藤 日本のレベルだと1840年代、開国の直前、安政の時代ぐらいですね。
――そこまで欲望のレベルを下げることで、平等に結婚できて、未来があると。
佐藤 そういう時代になったら、ホテルのロビーにあるおしゃれな喫茶コーナーなんて廃止ですよ。政治家御用達の5000円のカキ氷もなくなります。しかし、そういう世界の構築に成功すれば、日本からアンダークラスは消えるのです。
次回へ続く。次回の配信は2025年12月19日(金)予定です。
