気象庁は8月8日に「巨大地震注意」を発表した(*8月15日に呼びかけ終了)。南海トラフ地震は、すぐそこまで迫っているのか? そして、首都・東京にはどんな影響があるのか? 地震や火山に詳しい地球科学の専門家が解説する!
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■100年周期と1000年周期の地震が重なってしまった!
8月8日、宮崎県で震度6弱、マグニチュード(以下、M)7.1の地震が発生。この地震を受けて、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。
また、翌日の8月9日には神奈川県西部で震度5弱、M5.3の地震も発生した。
南海トラフ地震の想定震源域やその近くでの相次ぐ地震で、南海トラフ地震の発生確率は高まったのか。また、発生した場合、東京を含む首都圏はどんな影響を受けるのか。
『首都直下 南海トラフ地震に備えよ』(SB新書)、『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(PHP新書)などの著書がある地球科学に詳しい京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏に聞いた。
――発生確率は高まったのですか?
鎌田 高まっていません。政府の地震本部は、南海トラフ地震の発生確率は「今後30年以内に70~80%」としています、また、2035年±5年に発生という予測もあります。それらは変わりません。
――でも、気象庁は会見で「巨大地震の発生する可能性が普段よりも数倍高まった」と言っていましたが......。
鎌田 それは、今回M7.1の地震が起きたので、それよりも大きなM8などの地震が起きる確率がやや高まったということです。それで巨大地震注意を出したのです。
次に発生する「本番の」南海トラフ地震は、東海地震・東南海地震・南海地震の3つの地震が連動するM9.1の「超」巨大地震です。南海トラフ地震は約100年に1度の周期で起きていますが、その3回に1回は超巨大地震です。
1707年の宝永地震は超巨大地震でした。その後の1854年安政地震、1944年と1946年の昭和地震は、ほぼ同時に3連動した地震ではありません。そのため超巨大地震よりもマグニチュードが小さかったのです。そして、超巨大地震が発生すると日本の総人口の半分を超える約6800万人が被災すると予想されています。
――ということは、その南海トラフ超巨大地震が起こると、首都圏にも影響があるということですか?
鎌田 はい。地震が起こると「短周期地震動」と「長周期地震動」が発生します。長周期地震動は遠くまで伝わりやすい性質があり、首都圏まで届きます。
首都圏には高層マンションがたくさん建てられているので、長周期地震動と共振するものが出てきます。しかも、南海トラフは静岡県から宮崎県まで約800㎞もあるので、静岡県の揺れと共振するビル、宮崎県の揺れと共振するビルなど多くのビルが大きく揺れるでしょう。
すると、置いてある家具などが窓ガラスを突き破って落下したりします。東日本大震災のときに10分ぐらい揺れていたマンションがありましたが、南海トラフ超巨大地震は、それよりも長く大きく揺れるのではないでしょうか。
また、南海トラフ超巨大地震が起こると、東京にも2~3mの津波が来ると予想されています。2mの津波でも海岸から数㎞近くまで水没する地域があるといわれていますし、地下鉄や地下ショッピングセンターなどには大きな被害が出るでしょう。
――首都圏に住んでいる人間も南海トラフ地震は人ごとじゃないということですね。神奈川県でも大きな地震がありましたが、首都直下地震の発生確率はどうでしょうか?
鎌田 首都直下地震は19ヵ所の震源域があるといわれています。そのひとつが神奈川県西部です。ですから、8月9日の地震は、首都直下地震の小さなものが起きたといってもいいでしょう。この地震のマグニチュードは5.3でしたが、M7.3のものが起きると約100兆円の被害の出る「本番」の首都直下地震になります。
南海トラフ地震は約100年周期で起こっていますが、首都直下地震はいつ起きるかわかりません。そして、2011年に起きた東日本大震災が、首都直下地震を起こしやすくしているともいえます。
東日本大震災は1000年の周期で起こっており、前回は平安時代869年の貞観地震でした。この地震が起こると、「大地変動の時代」となり、その後、数十年間は首都圏を不安定な状態にします。19ヵ所ある地震域のどこかが動く可能性があるのです。
現在は、南海トラフ超巨大地震を前に内陸地震が増える時期でもあり、東日本大震災の後でなかなか地震が減らない時期です。運悪く、ふたつの巨大地震が起きる「季節」が重なった時代というわけです。
――東京も実はヤバいということですね。
鎌田 そうです。特に地震後は火災が発生し、ビル風によって炎を伴った強い風の「火災旋風」が起きる可能性が高いので注意が必要です。特に東京23区の西部は木造住宅が密集しているため延焼被害が心配されています。
また、東部は地盤が軟弱なため、液状化して家屋の倒壊被害が大きくなるでしょう。首都直下地震では60万棟以上の家屋が全壊・焼失するといわれていて、犠牲者は最大2万3000人になると予想されています。
――南海トラフ地震も首都直下地震もどちらも怖いですね。
鎌田 実はほかにもM9クラスの地震が起きる地域があるんです。それは、岩手県沖から北海道日高地方沖の日本海溝沿いにある震源域と、襟裳岬から千島海溝沿いの震源域です。政府は前者がM9.1で、後者がM9.3と想定しました。これは東日本大震災のM9.0よりも高い数値です。
また、政府は沖縄の琉球海溝を震源域に南西諸島周辺でM8の地震が起きる可能性があると発表しています。今後30年以内にM7の地震が起きる確率は与那国島周辺で90%以上、沖縄本島に近い南西諸島北西域で60%です。
このように日本列島は、北から南までM9クラスの地震を警戒しなければいけないことを知っていただきたいと思います。
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日本はどこでも巨大地震が起きる可能性があるということを肝に銘じておきたい。