
直井裕太
なおい・ゆうた
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ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。
9月19日に発売された「Apple Watch Series 11」のアメリカ版には、「高血圧通知機能」が実装された。さらにファーウェイやGoogleも注力するスマートウオッチの最新の健康機能の実力、そしてユーザーはどう活用すべきか解説します!
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LINEやメールの通知・返信機能、各種フィットネスや睡眠スコアの測定などなど、スマホと連携して活用の幅が広がるスマートウオッチ。そして、最近は医療機器に近い健康管理機能を持った製品が続々登場しているという。
最新のスマートウオッチに搭載された健康管理機能を、ユーザーはどう活用すべきなのか? その最新事情を、ITジャーナリストの法林岳之さんにお聞きします!
――最新のスマートウオッチにはどのような健康管理機能があり、これらはいつ頃から登場したのですか?
法林 日本でスマートウオッチの健康管理機能が注目され始めたのは、2021年1月のアップデートでApple Watchのシリーズ4以降のモデルに「心電図(ECG)アプリケーション」「不規則な心拍の通知機能」が追加された時期です。
ここからライバルメーカーも心電図測定や血圧の自動測定機能を実装し、コロナ禍では血中酸素飽和度の測定機能も注目されることになりました。
そして、今年9月19日に発売された「Apple Watch Series 11」には「高血圧通知機能」も追加されたことが、アメリカでは話題になっています。
今年の新モデルとなるApple Watch Series 11のアメリカ版には高血圧通知機能が実装された。ただ、この機能が日本でも利用可能になるには高いハードルが!?
――これは最注目の機能ですが、日本では全然話題になっていません。その理由は?
法林 現状、日本国内で利用できない機能だからです。日本では年内中にアップデートで対応すると予想されます。
――なぜ、日本は後回しになっているのですか?
法林 スマートウオッチの心電図や血圧測定機能、それを管理するアプリには販売する国や地域ごとに医療機器として認証される必要があります。日本の場合は、厚生労働省の所管機関から認証を受けてからでないと提供することができません。
そういった事情があり、アメリカでは18年に認証されたApple Watchシリーズの心電図測定機能も、日本では遅れて21年から利用できるようになったのです。
――その時間差を考えると、9月に発売されたApple Watch Series 11の高血圧通知機能が年内中にローンチ予定というのは、かなりの高速展開になりますね。
法林 医療機器には4つのクラス区分があり、スマートウオッチの心電図や血圧測定機能はクラスⅡの「管理医療機器」となります。この管理医療機器については、医療機関などで使用する高額な機器を購入できない自治体や介護施設などの需要が多いため、素早い認証が行なわれるようになってきました。
現在、スマートウオッチの機能が管理医療機器として認証されている製品は、ほとんどが海外メーカー製品になります。彼らが日本の医療機器認証制度に慣れてきたのも展開が早くなった理由のひとつと言えるでしょう。
――どのような進化があって、スマートウオッチでこのような機能が実装できるようになったのでしょうか?
法林 本体背面、手首に密着する部分に設置されているセンサーモジュールの進化が大きいです。ここに小型化された圧力センサー、心電図測定に使用する電極、心拍センサーなどを設置できるようになり、各種計測が可能になりました。
製品によっては端末のサイドやリュウズに心電図測定用の電極を設置し、ここに数十秒間指を触れるだけで測定できます。
――スマートウオッチで血圧はどうやって測定するのですか? 通常、病院だと手首ではなく腕にバンドを装着して加圧しますよね。
法林 例えば、ファーウェイの「HUAWEI WATCH D2」(6万280円)の場合は手首に装着した状態で、端末を装着した腕を反対側の胸付近に置くだけです。バンド内に膨張式のカフ、ミニポンプを内蔵しており、加圧もしっかり行ないます。
今年2月に発売されたファーウェイ製のスマートウオッチ「HUAWEI WATCH D2」は、日本とEUで医療機器認証を取得。自動電子血圧計として利用できる
――このようなスマートウオッチの管理医療機器機能にはどういったメリットが?
法林 私が医療関係者に取材したときに挙げられたメリットとしては、まず厚労省の所管機関が認証したものなので測定精度がある程度、信頼できること。
そして、入院中でもなければ、一日に何度も測定することがなかった血圧の測定環境を、スマートウオッチを装着することで、自宅などでも得られるということです。
ただし、厚労省や医療関係者も口をそろえていますが、あくまでスマートウオッチの健康機能は補助的なものであり、参考指標になります。つまり、これらをユーザーが活用する場合は医療機関と連携することが理想とされています。
――具体的にどういった連携が必要に?
法林 スマートウオッチの測定だけでは診断したことにはなりません。測定結果に異常があった場合は、即医療機関を受診することです。近年では「スマートウオッチ外来」も登場しています。これはスマートウオッチが示す数値に異変のある場合、電話で医師に相談できるというものです。
その一方、アメリカや中国では、スマートウオッチと医療プラットフォームが連携しており、ユーザーの測定結果に異常があった場合は、医療機関側からも通知が届くようになっています。
――今後は日本でもスマートウオッチと医療機関とのより親密な連携を実現できる?
法林 まだ海外のような本格的な連携はありませんが、大手3キャリアは将来的にスマートウオッチと医療機関との連携を意識した取り組みを行なっています。
例えば、NTTドコモは「dヘルスケア」(440円/月)というサービスを提供しています。これはスマートウオッチが取得した各種健康管理データをサービスに連携し、それに基づいてスマホから医師の診断を受けることも可能です。
auの「auウェルネス」(550円/月)もスマートウオッチの取得データとの連携、そしてオンライン診療が利用できます。
なお、どちらのキャリアのサービスも、Appleやファーウェイの端末だけでなく、それぞれの独自端末にも対応。NTTドコモは「スマートウォッチ01」と「スマートウォッチ02」(共に6980円)、auは「au Smart Watch」(2万6400円)を今年から販売しています。
キャリアとしてはスマホとスマートウオッチから医療分野へも本格的に進出することを視野に入れたサービス展開と言えるでしょう。
――ところで、スマートウオッチはどんな基準で選べばいいでしょうか?
法林 フィットネス系、睡眠管理系、心拍数の測定、そして各種アプリの通知機能などはどのメーカーの端末も対応しています。
心電図計測となるとApple、ファーウェイ、ガーミン、そして10月9日に発売される「Google Pixel Watch 4」(5万2800円)などが対応しています。また、血圧の自動測定となると現状ではファーウェイの「HUAWEI WATCH D2」があります。
ファーウェイは健康管理機能に最も力を入れているメーカーで、3万円台の製品でも心電図の測定ができる。それもあって現在では世界的にApple Watchをしのぐシェアを誇っています。
――大手ECには「血糖値測定」をうたう製品もありますが、これは?
法林 現状、大手メーカーで血糖値測定機能が管理医療機器として認可された製品はなく、これらは並行輸入品となり、そもそも日本の電波法をクリアしてない可能性もあります。なので、購入すべきではありません! 一方、大手メーカーも血糖値測定機能の開発を進めていますので、今後は登場に期待したいですね。
――近年、健康管理系の機能が充実のスマートウオッチ。その測定結果に異変を感じたら、即医療機関を受診しましょう!