
坂口孝則
Takanori SAKAGUCHI
坂口孝則の記事一覧
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
朝・昼・夕、農水省が示す「バランスのとれた食事例」を自炊した際に、どれだけコストがかかるかを指数化。2020年1月を100とすると、昨年末は140前後!
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「自炊指数」について。
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「頭で食べる時代」というフレーズがあった。コロナ禍がはじまる前のデフレ期だ。味覚で楽しむのではなく、産地のウンチクとか、生産者や料理人のこだわりとか、映(ば)えとかの情報次第で、おいしく感じる、と。
経済状況が二極化している現在、多くのひとは「頭で食べる」なんて悠長なことをいう余裕などなく、インフレの波に飲まれ、まずは家族が食うことを優先せねばならない。
コンビニエンスストアは苦戦し、激安スーパーマーケットが好調だ。与党も野党も食料品の消費税減税を公約に掲げた。実現するかは別として、問題意識は共有されている。
ところで、農林水産省は「バランスのとれた、一日の食事例」を発表している。朝はごはん、目玉焼き、かぼちゃのみそ汁......といった具合に、栄養素を考えた朝・昼・夕食の献立だ。
日本国憲法は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としている。この献立は、国民が健康な生活を維持するための食事と解釈できる。
私たちの会社では、「朝食指数」「昼食指数」「夕食指数」を出している。国が推奨する食事を自炊で作るコストがどのように推移しているかを指数化したものだ。
2020年のコロナ禍突入からインフレ時代に突入した感があるので、同年1月の指数を「100」とし、必要な材料の物価変動を加味して推移を見てみよう。
結論からいえば、2025年11月の時点で朝食指数が145、昼食指数が141、夕食指数136(冒頭のグラフ参照)。3食をすべて自炊した際の、一日の「自炊指数」は2020年1月から40%増しになっている。
節約のために自炊していても、この上昇率だ。日本のエンゲル係数(食事関連支出が家計全体支出に占める割合)は約30%ほどだが、この支出が急騰しているのだから、給与も上がっているといっても生活がラクに感じるはずないよね。物価高対策は基本的人権の保護にかかわる問題といってもいい。
ところで、悪いことばっかりでなく、改善している点も指摘しておきたい。
先の指数はこの数ヵ月、高止まりともいえるが、傾向としては横ばいだ。まず、政府が卸売価格に影響を与える小麦の価格は着実に下落している。野菜も落ち着いてきている。まだグラフには反映されないが、コメ価格も春先にかけて下落する見込みが濃厚だ。
とはいえ、それはあくまでも「2025年よりはマシになる」だけであり、2020年の水準になるわけではない。当然の話だが、これからの実質賃金の伸びが期待される。ふたたび余裕をもち、「頭で食べる時代」を取り返したいものだ。俺たちゃ先進国なんだからね。
ところで、いまさらながらフードロスに注目したい。
現在、日本では年間に500万トン弱のフードロスが生じている。その内訳は消費する家庭と、事業者とで半分ずつとされる。
しかも、ここには豊作すぎた野菜の調整や、規格外で販路に乗らなかった農産物は含まれていない。国民が食料物価に困っているのに、いっぽうで食料が捨てられている。
形がヘンでも栄養素はおなじ。「目で選ぶ時代」は終わっていい。インフレを静かな飢餓にしてはならない。国民の財布がやせているいま、次の政権には、太ってねじれた農作物の有効策を望む。曲がった食物の活用に、まっすぐな未来がある。