【#佐藤優のシン世界地図探索130】イスラエルの対ハマス戦は「ナチス党壊滅作戦」

取材・文/小峯隆生

イスラエル軍はガザ地区の高層ビルを全て空爆破壊後、地上侵攻を開始した。目的はハマス根絶......(写真:ゲッティ=共同)イスラエル軍はガザ地区の高層ビルを全て空爆破壊後、地上侵攻を開始した。目的はハマス根絶......(写真:ゲッティ=共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――9月10日にイスラエル軍は、F35Aステルス戦闘機に長距離精密誘導ミサイルを搭載して、カタールの首都ドーハのビルを空爆。そこは、隠れ潜んでいるハマスの交渉団が会議を行っているビルであり、ハマスメンバー5人を爆殺しました。この攻撃、どうご覧になりましたか?

佐藤 これは禁じ手です。カタールのハマスたちは皆ここに逃げていました。

イスラエルが言っていることはたったひとつです。安全にパレスチナ=カナンの地で生きたい、それだけです。なぜなら、彼らはユダヤ人であるから。そして、そのユダヤ人を皆殺しにしないといけないと考えている人たち、つまりハマスを根絶しなければならないのです。

それは、共存できないことがはっきりしていることを意味します。ナチスとはひとりも共存できない。イスラエルがやったたことは、草の根を掻き分けてアイヒマン(※)を見つけてきて、首を吊るしたのと一緒。だから、イスラエルにとってハマス狩り=ナチス狩りだということです。
※150万人を超えるユダヤ人を殺害施設に移送した中心人物

――すると、イスラエル軍はガザ地区の地上侵攻を開始して、そこのパレスチナ住民を全員避難させ、ハマスだけを皆殺しにする。そして、終わりを迎える......。

佐藤 そうです。皆殺しして終わりです。だからこの路線を続ければ、10万人は殺すことになります。東京大空襲と同じですね。

――すさまじい戦争です。ただ、ハマスの交渉相手をドーハで殺してはならなかったと。

佐藤 ハマスはもう交渉しても、その結果を達成できないからです。

例えばヒトラーが自殺した後、ナチスドイツにはもう交渉できる人間がおらず、結局、絶滅しました。それと似たようなものです。最終降伏文書は書いてあっても、残ったハマスのメンバーにはなんの実権もないので、意味をなさないということです。

――すると、いまのハマス戦争を理解するには、イスラエルはナチスドイツのヒトラー相手と同じ戦争をやっていると考えたらいいのですか?

佐藤 というか、ナチス壊滅作戦ですね。もちろんハマスはナチスです。

だから、ひと言で言うと「良いナチスは死んだナチスだけ」と一緒で、「良きハマスは死んだハマスだけ」となります。それが、民生部門だろうが何だろうが関係ないんです。

――壮絶な戦いであり、すさまじい最後です。

佐藤 そこまでイスラエルを追い込んだのは、制裁を加えて圧力を掛けたヨーロッパですよ。ガザ地区でのハマスの戦争の始まりは、ユダヤ人を絶滅しようとしたことですから。その根っこがなければ、こんなことは起こらなかったんです。

イスラエルとしては、ただ平和にあそこで生きてきただけの話です。しかし、それを破ったのがハマスでした。そして、それは申し訳ないですが、パレスチナの住民が選挙でハマスを選んだことから始まっていますからね。

――最近TV番組などで、「大イスラエル構想」が紹介されています。イスラエルがサウジ、シリア、イラクの半分を占領して、大イスラエルを作る構想ですが、これは現実的なんでしょうか?

佐藤 それは、反イスラエル主義者がときどき言うことですね。

――プロパガンダですね。

佐藤 はい。聖書にカナンの地の先は書かれていません。だから、ユダヤ人はその先に行こうとはしていないんです。パレスチナがあれば充分だということです。

それにもかかわらず、ヨーロッパにおける反ユダヤ主義、反シオニズムという形でイスラエルの政策を批判しています。大イスラエル構想なんてものが平気でテレビに出てしまうということは、現代の反ユダヤ主義が生まれてくることになりかねません。

もちろん、こういう極端なことを主張する人がイスラエルに一人もいないということではありません。しかし、大イスラエル主義などというものをまともに取り上げること自体、反ユダヤ主義です。

――ヨーロッパは何かあると「人道」を持ち出す。

佐藤 その人道とは自分たち、つまりヨーロッパが得する人道です。会田雄次の『アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界』をもう一回、読み直してみろという話ですよ。

――英軍の捕虜としてビルマの収容所で強制労働させられた、歴史家の実体験を書いた本ですね。

佐藤 ヨーロッパの人種主義は、ユダヤ人もロシア人も、ヨーロッパ人より低い人種であることが前提です。

――だけど人道を説く。

佐藤 そういう矛盾に自覚がないんです。

次回へ続く。次回の配信は10月17日(金)を予定しています。

★『#佐藤優のシン世界地図探索』は毎週金曜日更新!★

  • 佐藤優

    佐藤優

    さとう・まさる

    作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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