水没車も"宝の山"で争奪戦! なぜ海外は「ニッポンの中古車」を欲しがるのか?

取材・文・撮影/週プレ自動車班 写真/共同通信社

経済制裁で日本メーカーの新車が正規ルートで買えないロシアでは中古の日本車が人気沸騰。クラスノヤルスク郊外の野外中古車店には日本車がズラリ経済制裁で日本メーカーの新車が正規ルートで買えないロシアでは中古の日本車が人気沸騰。クラスノヤルスク郊外の野外中古車店には日本車がズラリ
クルマの価値は、海を渡ればガラリと変わる! 日本では値段がつきにくい中古車が、海外では思わぬ"お宝"に化けている。いったいニッポンの中古車のどこに魅力を感じているのか? 国境を越えて巻き起こる争奪バトル、その知られざる事情を追った!!

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【日本では敬遠、海外では争奪戦】

今、ニッポンの中古車が海外へ大量に流出している。しかも、高年式の人気車ばかりではない。日本では「古い」「走りすぎ」と敬遠されるクルマや、さらには水没して動かなくなったクルマまで、海外では買い手がつくというから驚く。自動車誌の編集者が説明する。

「中古車を巡っては、円安を背景にした海外需要もあり、高値が続いています。JUMVEA(ジャンベア/日本中古車輸出業協同組合)がまとめた中古車輸出統計によると、2026年上半期(1~6月)の日本の中古車輸出台数は約85万台(前年同期比3.7%増)を記録し、上期としては4年連続で過去最高を更新しました。海外での需要拡大を背景に、国内の中古車価格も高騰していますね」

輸出先で最も多いのはロシア。続いてタンザニア、ニュージーランド、チリ、モンゴル、UAE(アラブ首長国連邦)、南アフリカ、スリランカ、ケニア、マレーシアの順だ。

中古車業界の関係者によると、今年2月末以降、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となった影響で、従来主要なハブ(中継地)だったUAE向けの輸出は急減した。だが、輸出業者や海外バイヤーがアフリカ、東欧、ロシア、南米などへの直接輸送ルートを確保したことで、中東リスクによる減少をカバーしたという。

これほどまでに中古車が海外へ流れる背景には、根強い日本車人気がある。映画『ワイルド・スピード』や漫画『頭文字(イニシャル)D』『湾岸MIDNIGHT』、ゲーム『グランツーリスモ』などの影響に加え、海外で古い軽トラが現役で走る姿を紹介する動画も話題を呼び、その人気はスポーツカーだけにとどまらない。

現在では幅広い車種に需要が拡大。特に世界的に引く手あまたなのが、トヨタのランドクルーザー、ハイエース、アルファード、ヴォクシー、カローラ、プリウスなどだという。

【日本車は壊れない! "神話"が広がるワケ】

では、なぜ海外のバイヤーは日本から中古車を買うのか。長年、世界中で取材を続ける自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏はこう語る。

「日本車はずっと壊れないという"神話"があり、壊れても修理しやすいともいわれています」

その背景には何があるのか。

「実態として、日本のクルマは海外と比べると走行距離が少なく、走行速度も比較的低く、道路環境も良い。しかも、しっかりメンテナンスされた、程度の良い中古車が多いことが挙げられます。日本車は何年たっても丈夫で壊れないし、修理のための交換部品も多く出回っているという安心感が根強くあります」

都内の整備士も、日本独自のクルマの使用環境を挙げる。

「日本には世界的に見ても非常に厳しい車検制度がありますし、道路も舗装路が多く、路面の凹凸が少ないため、足回りへのダメージが少ない。また、車内を土足禁止にしたり、こまめに洗車や内装の掃除をしたりする文化が日本にはあるので、外装や内装が非常にきれいに保たれています」

一方、中古車ブローカーは、海外バイヤーを引きつけているのは流通過程への信頼だと指摘する。

「日本のオークション会場などでは、走行距離の改竄(かいざん)や事故歴の隠蔽(いんぺい)が徹底的に排除されている。海外のバイヤーにとっては、日本から買えばだまされないという安心感が強い」

つまり耐久性だけでなく、車両の状態や履歴についても信用されている。そこに、日本ならではの「価格」という好条件が加わる。その典型が、過走行車だ。桃田氏はこんな具体例を口にした。

「日本では、10万㎞や15万㎞といった走行車は価値が低い。しかし、例えばアメリカでは10万マイル(約16万㎞)以上までクルマに乗る人は少なくありません。

そもそも日本車の耐久性に対する品質は高いのですが、このような理由で程度が良い中古車が比較的低価格で手に入るため、海外に流出しやすいわけです」

日本の中古車市場では、走行距離が価格を大きく左右する。ところが、その距離を「まだ使える」とみる市場は海外に数多く存在する。つまり、日本で値段がつきにくくなったクルマでも、輸出先では十分な商品価値があるのだ。

【水没車が海外では"宝の山"と呼ばれる!?】

そして、さらに意外なのが水没車である。今年は全国各地で豪雨災害が発生し、クルマの水没が相次いだ。「レベル5大雨特別警報」が発表された千葉豪雨をはじめ、石川県、富山県、福井県でも記録的な大雨となり、東海地方も豪雨に見舞われた。そんな中、完全に走行不能となった水没車に買い取り業者が殺到しているという。

なぜ、動かないクルマに買い手がつくのか。前出の中古車ブローカーが解説する。

「海外では日本車のパーツ需要が常に逼迫(ひっぱく)している。部品取り用の"資源"として日本から丸ごと仕入れるほうが、正規ルートでパーツを輸入するよりもはるかに安い。

水没して動かないクルマでも、ドア、ボンネット、フェンダーなどの外装品は部品としての価値があり、シートなどの内装も洗浄すればまだ使える。人件費と修理技術があれば、"ニコイチ"(複数の水没車や事故車から使える部品を集め、1台のクルマに仕上げる)にして高く売ることもできる。海外の公共交通機関が未発達な地域ではよくある話なんです。今回の水害に対して、『宝の山が生まれた』という声も」

豪雨で水没したクルマ。走行不能になっても、海外では需要があるという。写真は大雨災害に見舞われた富山県氷見市豪雨で水没したクルマ。走行不能になっても、海外では需要があるという。写真は大雨災害に見舞われた富山県氷見市
しかも、日本車の中古車流通は日本国内からの輸出だけではない。桃田氏が言う。

「実は日本からの輸出だけではありません。アメリカからも、東南アジアやアフリカに日本車の中古車が数多く輸出されています。

その中には事故車も含まれているんですが、事故の程度によっては日系メーカーの正規ディーラーが修繕をし、品質保証をして販売するケースもあるんです。私は実際に、カンボジアでそうした事業について取材したことがありますね」

日本では「古い」「走りすぎ」と敬遠されるクルマが、海を渡れば元気に走り、水没しても部品として価値を持つ。価値を失ったはずが、まだまだ"お宝"に化ける。ニッポンの中古車争奪戦は、当分収まりそうにない。

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