
日野秀規
ひの・ひでき
日野秀規の記事一覧
フリーライター、個人投資ジャーナリスト。社会経済やトレンドについて、20年にわたる出版編集経験を活かし幅広く執筆活動を行なっている。専門は投資信託や ETF を利用した個人の資産形成。
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世界最大級の半導体メーカーである、韓国のSKハイニックス。AI向け半導体のHBMに強みを持つ。日本の半導体メーカー、キオクシアの筆頭株主でもある
台湾の半導体メーカー・TSMCが進出した熊本県に続き、今度は韓国の世界トップ級半導体メーカーが宮城県への進出を検討しているとの報道が! もちろん、まだ確定段階ではないが、週プレは我慢できませんでした!? もし相成った場合の経済効果をどこよりも早くシミュレーション!!
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AIブームの中、日本経済にとって要注目のニュースが飛び込んできた。8月21日、韓国の半導体メモリー製造企業であるSKハイニックスが、宮城県で数兆円規模の工場建設を検討していると韓国の新聞が報道したのだ。
31日に仙台市で開かれた「日韓商工会議所首脳会議」に出席したSKグループ会長の崔泰源(チェ・テウォン)氏は、場所は言明しなかったものの、日本国内での工場設立を検討中と回答した。
この報道についてITジャーナリストの三上洋(よう)氏は、喜ばしいことだと声を弾ませる。
「SKハイニックスは、AI用半導体に不可欠なHBMという高性能半導体メモリー(記憶装置)製造で、ライバルである韓国のサムスン電子や米国のマイクロン・テクノロジーを引き離しつつあります。今、世界中でAI用データセンターの建設ブームが起きており、空前のHBM需要に日本工場がフル稼働で対応するとなれば、その経済効果は絶大なものになるでしょう」
SKグループの崔泰源会長。SKグループは韓国の4大財閥の第2位で、AI半導体のほか、エネルギーや化学などの事業を行なっている
そもそもSKハイニックスって、どんな会社?
「AIの話題で一番よく耳にする名前といえば、米エヌビディアでしょう。AI用の処理に特化したGPU(画像処理装置)という半導体の製造で独走しています。
GPUの脇には必ず、HBMがセットで配置されています。その最強メーカーがSKハイニックスで、いわば両社は同盟関係のようなもの。エヌビディアのチップが売れれば売れるほど、SKハイニックスの利益もうなぎ上りという図式で、株価も絶好調。8月31日までの1年間で、株価は約6.5倍になっています」
同社は韓国と中国で工場を稼働させており、この8月には米国での工場が着工。前月には米国ナスダック市場に株式を上場させ、265億ドルの資金調達を行なった。
半導体メモリーが作ったそばから売れていく上に、設備投資資金も万全。本拠地の韓国に程近い日本での工場設立を検討するのはむしろ必然で、その背景には、同社の歴史に育まれた体質があると三上氏は語る。
「SKハイニックスは、もともとの主力製品だったDRAM(ディーラム/半導体メモリーの一種)の市場暴落を受けて2001年に経営危機に陥り、政府系金融機関からの資金援助を受けて立て直しを図りました。
汎用品(はんようひん)で価格も安く、市場の波に翻弄(ほんろう)されやすいDRAM一本足打法に危機意識を持った同社は、10年代から技術力を追求し、高度・高価なHBM製造への大胆な路線変更に成功。このときから、常に数年先を見据えた攻めの姿勢で巨額の投資を積み重ねていくことが、SKハイニックスの流儀になったのです」
ここで気になるのは、SKハイニックスの進出候補地がなぜ宮城なのか?ということだ。三上氏が続ける。
「実は、宮城県は24年、半導体工場誘致に一度失敗しているんです。台湾の製造受託専業のPSMCが、日本のSBIホールディングスと組んで工場を造る話が進んでいたのですが、白紙撤回になってしまった。それがここにきて、災い転じて福となす可能性が出てきました」
PSMCが入るはずだった、仙台市から20㎞ほど北にある工業団地の土地が宙に浮いている。加えて、PSMCと宮城県で話し合われた協定や、国からの補助金スキームまでが可視化され、SKハイニックスにはメリットとなる。
宮城県の村井嘉浩知事は半導体企業の誘致を公約に掲げており、2025年の知事選でも「複数の世界的な半導体企業と交渉中」と話していた
経済評論家の鈴木貴博氏は、異なる視点から同社のメリットを分析してくれた。
「宮城県が半導体製造に向いている理由は、3つあります。水が豊富なこと、電力事情が良いこと、良い人材が得やすいことです」
半導体の製造工場では、かなり純度の高い、純粋な水が大量に消費される。そこで、奥羽山脈の雪解け水に恵まれた宮城県の、ダムの宝庫という特徴が生きてくるのだ。そして電力については、女川(おながわ)原発が稼働中であることに加え、東北電力が秋田と青森を中心に風力発電に注力している。中長期的に、ほかの地方に比べて電力の余力が見込めるというわけだ。
「人材については、県内の東北大学との連携が図れる点も見据えていると思います。SKハイニックスは、韓国の大学と契約して半導体製造を学ぶ学科を設立し、卒業生を同社社員として確保しています。日本でも同じようなことを考えているとしたら、面白いことになりそうです」
SKハイニックスに、宮城県を選ぶ理由があることはわかった。となれば宮城県、ひいては日本全体で、ドデカい経済効果があるのでは!?
「まず考えたいのは、工場設立によって生み出される雇用。ここで参考になるのが、熊本県菊陽町に工場を設立したTSMCです」
現時点でSKハイニックスの投資額や工場の規模は明らかになっていない。そこで今回は、TSMC熊本工場と同等の規模になるという前提で考えるとしよう。
「TSMCは熊本ですでに第1工場を稼働させており、直接雇用は約1700人に上ると発表。これらは半導体製造に関わる上級人材ですから、県内の既存の雇用に比べて給与水準は大幅に高くなり、その家族を含めた消費効果が生まれるでしょう。さらに、TSMCと取引を行なう関連企業が集積する効果を見逃してはいけません」
巨大な工場は、それ単体で完結するものではない。巨大工場を運営するためのサプライチェーンを構成する企業が、その周辺に工場や支店をつくり、企業城下町が形成される。
TSMCの工場がある熊本県菊陽町。雇用が増加し、賃金が上昇した。なお、7月28日の地震で工場は一時稼働を停止したが、現在は通常の生産体制に戻っている
「宮城には、製造・検査装置の分野で世界トップクラスの東京エレクトロンやアドバンテストの工場がすでに操業中で、半導体基板メーカーの工場もあります。
SKハイニックスが宮城に来れば、製造装置メーカーや素材メーカーといった取引先の集積がさらに進むでしょう。その雇用効果は、熊本では1万人に上るというシンクタンクの試算があり、宮城でも同等かそれ以上の雇用拡大が期待できると思います」
面白いところでは、熊本では台湾タウンができていると鈴木氏は指摘する。宮城でも同様にコリアンタウンができれば、東京の大久保のような観光名所が新たに誕生するかもしれない。製造業と観光の合わせ技が決まれば、消費と雇用が刺激し合って拡大する、またとない好循環もありえるだろう。
「これらを総合して、傘下に熊本の地銀を持つ九州フィナンシャルグループが、TSMC第1工場の経済効果を試算した金額が6兆9000億円でした。
後に第2工場の建設を受けて11兆2000億円に上方修正されており、SKハイニックスの進出に同程度の経済効果を期待しても、決して的外れとは言えないでしょう」
SKハイニックスのHBMは、エヌビディアのAI用GPUに不可欠だ。メモリーを何層にも積み重ねて製造することなどから、参入障壁が高いとされる
10兆円規模の経済効果! まさにビッグバン! さらに忘れてはいけないのが、株価への波及効果だ。
「TSMCにSKハイニックスが続き、北海道に国内半導体メーカーのラピダス、そして広島に米マイクロンの新工場建設が予定されています。これに既存の半導体製造装置や素材メーカーを加えて、日本が台湾や韓国に並ぶ半導体の世界的製造拠点であるというストーリーが、これから世界の機関投資家に向けて浸透していくことになるでしょう。
そうなれば世界の投資資金の流入が起こり、すでに半導体関連企業が多くを占めている日経平均は早晩、10万円をうかがう展開になります。今後はオルカンより、日経平均を買ったほうが儲かる時代になるかもしれませんね」
こんな夢想が現実のものとなりますように!