植村祐介
うえむら・ゆうすけ
植村祐介の記事一覧
ライター&プランナー。専門誌編集部勤務ののち独立。ニュース&エンタメ系、インタビュー記事執筆のほか、主にIT&通信分野でのB2Bウェブサイトの企画立案、制作、原稿執筆を手がける。
今年6月、ブリヂストンや住友ゴム(ダンロップ)など各社が一斉に9月からのタイヤ値上げを発表。背景には原材料費や人件費の高騰がある
9月から国内主要タイヤメーカーが一斉値上げ! 出費を抑える救世主として「アジアンタイヤ」などが注目されるが、安さだけで選ぶのは危険だ。今こそ知っておきたい、失敗しない格安タイヤの賢い選び方を伝授!
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9月1日からブリヂストンやダンロップをはじめとする国内主要タイヤメーカーが出荷価格を一斉に引き上げる。
原材料費や物流コストの高騰を背景とした値上げであり、車検や点検を控えたドライバーにとっては直前の駆け込み需要も含めて頭の痛い問題だ。
社会人3年生のAクンも、まさにその渦中にいるひとり。愛車は中古で購入したトヨタ・シエンタで、走行距離はそろそろ4万kmに達する。前回の点検でディーラーから「次の車検のときにはタイヤ交換が必要でしょう」と言われていたことを思い出し、お盆休みにカー用品店を訪ねてみたのだ。
「『ダンロップ エナセーブRV505』はどうでしょう? ミニバン専用設計で長持ちしますよ」(ショップスタッフ)
しかしAクン、その見積もりを聞いてがくぜんとする。
「タイヤ4本、工賃や廃タイヤの処分料込みで約7万円ですね。実は9月から値上がりするため、駆け込み需要で品薄になる前の今すぐがオススメです」(同)
値上がり率は5~6%とのこと。痛い出費に悩むAクンだが、アウディA4に乗る友人Bクンから意外な話を聞く。
「この前タイヤ交換したけど、工賃込みで6万円くらいだったね。『ネクセン』ってメーカーで、乗り心地も満足しているよ」(Bクン)
シエンタよりもタイヤサイズの大きなアウディA4でその価格なら......と思ったAクン、ネットでネクセンの価格を調べてビックリ。なんと諸経費込みで約3万6000円! これなら予算が大幅に節約できる!
でもいったい、ネクセンってどんなメーカーなの?
そうした〝聞いたことないメーカー〟について解説してくれたのは、自動車評論家のこもだきよし氏だ。
「ネクセンは韓国のタイヤメーカーです。実は今、日本市場に韓国、中国、そして東南アジアのメーカーが手がけた〝アジアンタイヤ〟が上陸し、徐々にシェアを伸ばしています」
えっ、アジア製タイヤってこと? ぶっちゃけ、品質や安全性は大丈夫なの?
「あまり知られていませんが、アジアは今や世界屈指のタイヤ生産拠点です。ミシュランやピレリ、コンチネンタルといった欧州の一流メーカーもタイや中国に工場を構え、そこで作ったタイヤを日本へ輸出しています。
つまり、私たちが普段目にする有名タイヤの多くも、実はアジア製なのです。タイヤは重くかさばり、製品単価も決して高くはないため、消費地に近い拠点で生産するのが合理的。
しかもアジア諸国は先進国に比べて人件費が安く、自動車の販売も急拡大しているため、市場としても非常に有望です。
そうした理由でアジアに工場をつくった一流メーカーの技術が現地企業へ移転し、自前でタイヤを作るメーカーが誕生しました。彼らが低価格を武器に、日本をはじめとする海外市場へ進出しているわけです」
では品質への心配は不要?
「きちんと選べば、国内ブランドの中級モデルに匹敵する乗り心地や静粛性を安価で味わえますが、すべてがそうではありません。
タイヤの評価でまず重視すべきは『きれいに丸く、均一な品質で作られているか』。ですが、一部のアジアンタイヤはそれができていません。
通常、タイヤの重さの偏りはホイールにバランスウエイトをつけて調整しますが、形状や構造自体が不均一なタイヤはウエイトをつけても振動が残ってしまうのです。
次にハンドリングの応答性です。質の良いタイヤは直進性がしっかりしつつ、指1本分ハンドルを切るだけで素直に向きを変えます。
しかし、粗悪なタイヤは直進時もふらつき、切り始めの反応が鈍いのに、拳ひとつ分切り込んだところで急激に曲がり始めるような挙動を示すことがあります」
でも、乗ってみないとわからないんじゃ、アジアンタイヤは選びにくいなぁ......。
「まず、価格がひとつの明確な指標になります。例えばミドルクラスのミニバン向けサイズだと、国内ブランドの中級モデルなら1本1万5000円前後、プレミアムモデルで2万3000円前後ですが、格安のアジアンタイヤなら1本1万円前後です。
ただ、1本7000円以下など、あまりにも安いタイヤは乗り心地や直進性に問題が出やすく、お店に苦情を申し立てても『安いタイヤなのでそんなものですよ』で終わってしまうリスクがあります」
じゃあ、価格だけを見て決めればいい?
「もうひとつ、非常にわかりやすい目安があります。それは『自動車メーカーの新車装着タイヤとしての採用実績があるブランドかどうか』です。
新車装着タイヤに採用されるには、自動車メーカーの緻密な要求に合わせたチューニング技術や、高い品質を維持したまま大量生産・納品できる供給体制が厳しく要求されます。
韓国のネクセンやハンコックは、メルセデス・ベンツなどヨーロッパの大手自動車メーカーに広く採用されている実績を持っています」
ハンコックのサイトより。トヨタほか、メルセデス・ベンツやアウディ、ポルシェなど、世界の名だたるメーカーから、新車の標準タイヤとして選ばれている
でも国産車メーカーのタイヤで、それらのメーカーは見たことないけど......。
「日本の消費者は国産志向や欧米志向が強いため、マーケティング上の理由から国内販売車に韓国メーカーのタイヤを標準装着させるのは得策ではないとメーカーが判断しているのかもしれません。
しかし国産メーカーであっても、海外市場で販売するモデルには韓国メーカーのタイヤを採用している例があります。また日産も、国内で販売するSUV『キックス』にハンコック製タイヤを採用しました。今後はそれに追従する国産メーカーも出てくるのではないでしょうか」
ハンコックのタイヤは静粛性、快適性などが認められ、日産が6月に発売した新型「キックス」の標準装備に選ばれた(写真提供/日産)
ほかにはどんなアジアンタイヤのメーカーがあるの?
「日本国内で入手しやすいブランドとしては、ナンカン、ケンダ、シバタイヤなどが挙げられます。
ナンカンは台湾で最も歴史のあるメーカーで、ケンダも同じく台湾のメーカーです。ただ両者とも、国産タイヤとの価格差が少ないスタンダード系モデルにおいては、静粛性やグリップへの要求が厳しい日本のユーザーに対して競争力はいまひとつです。
両者の主力はスポーツタイヤですが、本格的な走りを求めるとサイドウォールの剛性が不足気味で、空気圧を高めに設定する必要があります。しかしそうすると一般道では跳ねやすくなり、運転に神経を使います。
シバタイヤは少し異色で、日本の企業が『モータースポーツを低価格で楽しめるタイヤ』を目指し、中国企業と連携して開発・輸入販売しているブランドです。
一般向けモデルもありますが、ほぼモータースポーツ専用と考えてよいでしょう。私がコーチを務めるサーキット走行会でも愛用者は少なくありません」
ということは、これらはあまり一般向けではない?
「競技やスポーツ走行専用と割り切るなら話は別ですが、日常使いであれば、同じアジアンタイヤでも多少高価にはなりますがネクセンやハンコックを選ぶのが無難でしょう。ただし乗り心地などを割り切った上で、ドレスアップ目的の見た目重視で選ぶなら選択肢としてアリです。
30偏平や35偏平といった超偏平サイズでは、国産メーカー品に比べて半額、場合によっては3分の1ほどの価格で購入できますから」
アジアンタイヤの特徴は理解できたものの、やはり知らない海外ブランドを選ぶのには抵抗があるという人はどうすればよい?
「それなら、オートバックスやイエローハットなどの大手カー用品店が展開している『プライベートブランド(PB)タイヤ』を検討してみてはいかがでしょうか。生産自体は国内の主要タイヤメーカーが行なっていますが、手頃な価格で提供されています」
なぜそのような低価格が実現可能なの?
「タイヤはサイズ展開が多岐にわたるため、在庫管理が非常に大変なのです。販売見込みが外れると過剰在庫となり、保管コストが膨らみます。
しかしPBタイヤの場合、カー用品店側が独自データに基づいてサイズや数量を指定して生産を委託し、その全量を買い取ります。メーカー側には在庫リスクや管理の手間が発生しないため、その分価格を安く抑えることができるのです」

国内ブランドの価格に頭を悩ませ、さらに9月からの値上げラッシュで購入の選択を迫られているAクン。
実績のあるアジアンタイヤやカー用品店のPBタイヤを選択肢に入れることが、賢い出費抑制への第一歩となりそうだ。