
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
生成AIは米中にとって核兵器並みのツールとなった?(写真:EPA=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――9月21日、米国が中国に「AIをめぐって安全保障上の問題が生じた場合に、その問題を通知しあう制度」の導入を提案したという報道がありました。これって、1969年に米国とソ連が、最初の核兵器制限交渉をした時に似ています。米中ではAIが、核兵器並みのインテリジェンス戦の兵器になったということですか?
佐藤 その通りだと思います。
――では、これは米国が中国のAIを抑えるための手段のひとつ、ということですか?
佐藤 それは違いますね。AI自体の統制が制御不能になる可能性があるから、AI先進国の米中がAIをどのようにして統制していくか、ということです。これは、むしろ手を握っていく方向ですよ。
――「AI暴走制御用ホットライン」ですね。
佐藤 そういうことです。
――すると、AIが核兵器並みの扱いを受け始めたと......。そして、すでにAIは情報戦においては重要なツールになっている?
佐藤 そうです。たとえば、先週配信した『ロシアより愛を込めて』で出てきたロシア最大のインターネットメディア『イノスミ(ИноСМИ)』のロシアでの影響力を、生成AIに聞いてみてください。
――はい。まず、グーグルAIのGeminiに聞いてみます。
「外国(主に欧米やアジア)の新聞・雑誌・ウェブメディアのニュース記事をロシア語に翻訳して転載する、ロシア国営通信社、ロシア・セヴォードニャ傘下のニュースポータルサイトです。ロシア国内の世論形成や情報空間において、以下のような極めて特徴的な影響力を及ぼしてます。<「海外の客観的な声」という錯覚の提供>」
これで合ってますか?
佐藤 そうですね。
――続けます。
「自国の国営メディアのみを閲覧することに疑念を持つ層に対して、海外メディアの生の論調を提供した形式をとる事で、高い信用度を獲得する」
これって「錯覚」なんですか?
佐藤 どの国でも編集権を与えられているので、その前提で記事を製作します。Geminiは西側的な偏見が強いので、それを錯覚と評価しているだけです。つまり、反ロシアで解釈しているということです。
――なるほど。続けます。
「米メディアの掲載記事の選定によって世論を巧妙に誘導します。言語の壁を利用した情報濾過。ロシア語圏大衆の多くが外国語の原文を直接確認しないため、イノスミによる切り取りや意訳に気づきにくい構造があります。その結果、視聴者は『自分は世界中のニュースを広く読んでいる』と感じながらも、実質的には管理された情報空間に留まる事になります」
これ、情報戦ですね。
佐藤 その通りです。こういう答え方自体が、中立的ではないですよね?
――はい。とてもアメリカ的情報操作だと思います。続けます。
「イノスミは単なる翻訳サイトではなく、西側の報道をロシア政府の言説を正当化する情報戦の武器に変えて国内に供給するハブ。そしてロシア政府の維持に大きな影響を与えています」
これ、要するに、西側のとある情報機関の説だと捉えなきゃダメなんですね。
佐藤 というか、西側情報空間における多数派の言説ということです。では次にChatGPTに聞いてみてください。
――はい。
「イノスミの影響力はロシアの世論全体を直接、動かす力よりも、外国の報道をロシア国民にどう紹介するかを決める力があります。イノスミは海外メディアの記事を選び、翻訳して掲載します。従って、掲載記事は『外国でロシアやウクライナはどう論じられている』とロシア語の読者に示す窓口になります」
佐藤 説明の中立性がGeminiと全然違いますよね。
――ChatGPTのほうが中立です。
佐藤 こうして比較すると、Geminiの敵意はより明らかです。
――はい、確かに。
佐藤 ChatGPTはお金に忠実なんですよ。キャバクラと同じで、お金を払ってくれる人にはその人のニーズに応えたデータを提供します。お客さんを不愉快にするような言動は絶対にしません。
――納得です。すると、Claudeはどうなんですか?
佐藤 一番ひどいのが、Claudeです。Claudeは完全に欧州人権条約やアメリカの民主党の価値観で答えてきます。ClaudeとChatGPTの中間がGeminiという印象ですね。
――Claudeはトランプに言わせると「人権大好きの左翼野郎」ということですね。
佐藤 はい。なので、特にロシアや中東に関する情報を調べたりするには、ChatGPTが格段にいいんです。
――なるほど。すると、すでに生成AIは米露の情報戦に参戦し、さらに米国内の対立軸の論戦にも参加している。確実に核兵器並みの情報兵器となっていますね。
佐藤 そうです。
――ところで、これほど種類によって違いのある生成AIですが、佐藤さんはロシアでのAIの使い方に学んだそうですね。
佐藤 はい。その発想のもとになるのは「差分を確認せよ」というものです。差分とは、ふたつ以上の情報やデータを比較した際の違いです。
生成AIは、膨大なデータを要約や分類するもの。だからこそ、元になった情報や複数の情報源と比較して、AIがどんな加工が施されたのかの確認が必要だということです。
――やはり最終的に人の判断だということですね。
佐藤 そうです。そしてその判断が一番重要です。例えば、僕が持つ情報の中には企業秘密、非常に重要な秘密があるわけですよ。その情報自体はもちろん漏らすわけにはいきません。
ただ、さらにどの情報とどの情報をどういう指示をしてまとめて判断しているか、つまり日常的にAIにどんな指示をしているかまでわかってしまえば、誰かが完全に私に成りすまして発表できてしまいます。
つまり、私のコピーが作られてしまうんです。それは私にとって非常に恐ろしいことです。
――この「どの情報とどの情報をどういう指示をしてまとめて判断しているか」が差分にあたるわけですね。
佐藤 そうです。私がなぜこういう発想になったのか、それはロシアのAIの使い方の技術を学んだからです。いくら西側のいろいろなマニュアルを読んで西側のエンジニアに聞いても、ロシアのようにはなりません。
――欧米とロシアではAIの使い方が違うんですね。
佐藤 それから、AIは一次資料やAI同士の差だけでなく、昨日と今日でも回答が違ったりとさまざまな差があります。差があるから間違っているとは限りませんが、なぜ差があるのかまで含めて「差分を読む力」が重要になります。
たとえば、「AIが襲撃する」と言われますが、ロシアでは「AIの反逆」なんて発想はまったくありません。
――それはなぜですか?
佐藤 もしロシアで聞けば「それは要するに『襲撃しろ』とプログラムを組んだから、そうなるんだろ?」と言われるだけです。さらに、「自分の大事なモノを守るために何ができるのか、ちゃんと考えろ」と忠告されるでしょうね。
つまり、AIの反逆なんて、それを入力、判断した人間の問題であって、AIの問題ではないということなんです。「何を違う事を話しているんだ?」となるのがロシアです。
――ということは、ロシアのやり方がAIの使い方として正しいですね?
佐藤 いまのところ、私は自分自身で使ってみて、ロシアのやり方で使うことでAIの実装化に成功しましたね。
――AIが人類を10億人殺すとか、人類を滅ぼすとか言われているけれど、実は大丈夫だと。
佐藤 そうです。AIが人類を滅ぼすのではなく、あくまでもプログラムを組んでいる人間の問題です。
次回へ続く。次回の配信は11月6日(金)を予定しています。