
山本シンヤ
やまもと・しんや
山本シンヤの記事一覧
自動車研究家。自動車メーカーの商品企画、チューニングメーカーの開発、自動車専門誌の編集長などを経て2013年に独立。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営
第1位「ホンダ スーパーワン」ホンダらしさ大爆発の新型コンパクトEV。やりすぎ補助金も追い風に鬼ヒット。上半期の頂点に
今年上半期に取材した話題のモデルの中から、他の追随を許さない「やりすぎカー」を選び、勝手に表彰!! 選考委員長は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で、自動車研究家の山本シンヤ氏。それでは、厳選された珠玉のやりすぎカーを一挙大公開!!
山本 上半期の第1位はホンダのスーパーワンに決定です。
――5月22日に発売された新型コンパクトEVですね。
山本 ホンダはもともと「小さくて楽しいクルマ」を得意とするメーカーです。その一方で大きいモデルは少々迷走気味な気が(笑)。今回のスーパーワンのモチーフとなったのは1983年に登場した通称ブルドッグこと「シティターボⅡ」。小粒だけどピリリと辛い〝じゃじゃ馬〟を現代のEVでよみがえらせました。
――スーパーワンは、見た目からしてやりすぎです。
山本 軽EVのN-ONEe:をベースに、前後の専用バンパーや張り出したブリスターフェンダーなど、「足しました!」と言わんばかりのデザインでホットなボーイズレーサー(表現古っ!)に変身させています。「子供っぽい」という人もいるでしょうが、この元気の良さこそが〝ホンダらしさ〟の真骨頂です。
――実際に走らせると?
山本 発進直後から力強いトルクが立ち上がるのはもちろん、EVらしからぬ伸びの良さも印象的です。スペックは64PSですが、体感的には80PSくらいのイメージで十分楽しい。
さらにBOOSTモードを選ぶと、出力アップ(95PS)に加えて仮想変速機構とサウンド演出が連動。体感100PSオーバーの加速が味わえ、音とメーター表示の連携もお見事。「爽快」を超えて「痛快」と呼びたくなる楽しさです。
ギアごとのレスポンスやキックダウン演出など細かな制御も盛り込まれ、エンジン車以上にエンジン車らしいフィーリング。思わず「バカだね」「面白い!」と声が出るほどで、開発陣の本気の遊び心には感心させられました。
――仕上がりは?
山本 シャシーはEVの強みである低重心に加えてワイドトレッド化が利いており、軽快さと安定感が高い次元で両立。「軽くて背の低いクルマはやっぱりいい」と改めて実感しました。
ラフなアクセル操作をするとシティターボⅡのようなじゃじゃ馬感をわずかに感じますが、それ以外は見事に洗練された「令和のシティレーサー」と呼べる走りに仕上がっています。
――乗り心地は?
山本 引き締められながらも上質で、実は街乗りだけでなくGT的な資質も感じさせます。結論を言えば、スーパーワンは「ホンダが本気でふざけた令和のリトルダイナマイト」。乗るだけで元気になれるホンダ車です。
同じく軽自動車派生EVの韓国ヒョンデ・インスターにスペック面では譲る部分もありますが、クルマ好きが思わずニヤリとする遊び心、往年の名車へのオマージュを含めたプロデュース力、そして国や自治体の補助金を活用するとビックリするほどの価格になることも評価し、1位に!
――第2位は、開発段階で山本委員長がサーキット試乗し、今年1月の東京オートサロンで市販化が発表されたダイハツのミライース tuned by D-SPORT Racingですね。
山本 やっと発売されました(喜)。ダイハツとSPKが共同開発した、モータースポーツ直系のコンプリートモデルです。
最大の特徴は5ドアのミライースに、コペン譲りのKF-VET型660㏄直列3気筒ターボエンジンと5速MTの組み合わせであることです。最高出力64PS、最大トルク92Nmを発生し、専用ECU(電子制御ユニット)により低回転から力強い加速を実現しています。
第2位「ダイハツ ミライース tuned by D-SPORT Racing」710㎏の軽量ボディに競技直系装備をメガ盛り。公道もサーキットも楽しめる本気仕様で即完売
――力強い加速を支えているのは?
山本 ターボパワーはもちろんですが、710㎏という軽さがデカいですね。加えてフロントスーパーLSD(リミテッド・スリップ・デフ)やベンチレーテッドディスクブレーキ、6点式ロールケージなどを備え、本格的な走りを追求しています。
日常での使い勝手も確保しつつ、タイヤとサスペンションを変えればモータースポーツに参戦可能......という一粒で二度おいしいクルマ。価格は299万8600円。シリアルナンバー付きの限定100台で販売され、数千人が応募したというウワサ。すでに完売していますが、続編も期待されています。
――続いて第3位は?
山本 6月2日にGRが世界初公開した究極のハイパフォーマンスモデル、GRMNカローラです。開発テーマは独ニュルブルクリンクでの徹底的な走り込み。スーパー耐久シリーズでの実戦フィードバックや最新のドライビングシミュレーターも活用しながら、細かな改良を積み重ねて完成度を高めた一台です。
第3位「トヨタ GRMNカローラ」ニュルで鍛え抜いた究極モデル。ふたり乗りを実現したGRMNカローラ(左)の気になる走りは!?
――何がスゴいんですか?
山本 エンジンは1.6L直列3気筒ターボ「G16E-GTS型」ですが、最大トルクを+15Nmアップの415Nmに向上。さらに長時間の高負荷走行でも安定した性能を発揮するために冷却性能も抜かりなし。フットワークは専用サスに加えて、リアシートを撤去したふたり乗り仕様にすることでベース車から約30㎏の軽量化を実現。
また、空力性能もシッカリ手を入れています。まさに〝やり切り〟モデル。日本では今秋頃から商談申し込みが始まる見込みです。ちなみにこのモデルをベースに5人乗り+ロードに振った味つけを施した「MORIZO RR(ダブルアール)」もスタンバイ中です。
――第4位もトヨタです。
山本 トヨタが5月14日に発売したランドクルーザーFJです。注目は、ランクルシリーズ最安となる450万100円という価格設定。ランクルの名を掲げた本格クロカン車でありながら、この価格を実現したのは驚きです。
第4位「トヨタ ランドクルーザーFJ」450万円台のランクル。価格と性能の常識を覆した戦略モデルがニッポン市場に大きな衝撃を与えた
――使い勝手は?
山本 かつてトヨタにラインナップされていたプラドやランドクルーザー70のショートボディが復活したイメージです。日本の道路事情にも配慮されたサイズですよ。サイコロをモチーフにしたデザインや、分割式バンパーなど実用性へのこだわりも光ります。
シャシーはアジア戦略車のIMVをベースにしているので耐久性・堅牢性はお墨付き。その走りは250より硬派だけど70よりライトで「懐かしいけど新しい」。ただし、発売直後から注文が殺到し、すでに受注停止に。
――第5位はトヨタのタンドラです!
山本 北米専売のフルサイズピックアップが今夏から日本全国で正規販売されます。全長5930㎜、全幅2030㎜という圧倒的なボディに、349PSを発生する3.5LV6ツインターボと10速ATを搭載。2600㎏の巨体を軽々と加速させるフィーリングは、ターボというより大排気量NA(自然吸気エンジン)のような力強さ。
第5位「トヨタ タンドラ」北米のスーパーヘビー級ボディが日本上陸。圧倒的サイズと余裕の走りで価値観を塗り替える。価格1200万円
――走りはどうですか?
山本 見た目以上に洗練されています。直進安定性は高く、乗り心地も快適。オンロード性能はランドクルーザー300やレクサスLXを上回ると感じるほどでした。ただし、前述のように巨大ボディなので、最小回転半径7.0mという取り回しの難しさは想像以上。
誰にでも勧められるクルマではありませんが、大陸系のゆったりした乗り味はロングツーリングにはピッタリな相棒。クルマ好きにとって見逃せないと思います。
――第6位はBMWのiX3。
山本 BMWの次世代戦略ノイエ・クラッセ第1弾として登場した電動SUVです。新開発のプラットフォームや第6世代バッテリー、800Ⅴアーキテクチャーなどすべてを刷新。
469PSのAWDシステムを搭載しながら、2360㎏の車重を感じさせない軽快な走りが特徴で、いうなればBMWらしい「駆け抜ける喜び」とBMWらしからぬ「駆け抜けない喜び」が同居している感じ。
欧州WLTPモードで最大805㎞というロングレンジの実現で航続距離の心配もなし。EV時代の新たな基準になりうると感じました。
第6位「BMW iX3」航続距離805㎞を実現し、長距離移動の弱点を完全克服。BMWがEVの基準そのものを引き上げた
――第7位は日産の新型エルグランド。
山本 なんと16年ぶりのフルモデルチェンジです。従来の「走りのミニバン」という強みをより引き上げると同時に、トヨタ・アルファードが支持される理由にも真正面から向き合っています。
全長4995㎜、全幅1895㎜、全高1935㎜という歴代最大級のボディを採用し、第3世代e-POWERや進化版e-4ORCEによって上質な乗り味と高い操縦安定性を両立。
第7位「日産 新型エルグランド」日産の命運をかけたエルグランド。王者アルファードが君臨する大型ミニバン市場をひっくり返せるか!?
――弱点はありませんか?
山本 リセールバリューでしょうね。走りはトヨタのアルヴェル(アルファードとヴェルファイア)より確実に良いですが、高級ミニバンとしての魅力をどこまで訴求できるかがカギです。日産復活の切り札になってくれることを祈っています。
――第8位はマツダ CX-5。
山本 本来はCX-60にバトンタッチしてフェードアウトする予定でしたが、思わぬ不振により急遽リリーフとして登場。開発テーマは「新世代エモーショナル・デイリーコンフォート」。プレミアム路線をやや抑え、使い勝手を重視した〝SUVの王道〟へとかじを切りました。
2.5Lエンジンと24Vマイルドハイブリッドの組み合わせで必要十分なパフォーマンスですが、本命は登場を控えるスカイアクティブZ+ストロングHEVでしょう。
操作系は軽くなりつつも、接地感と一体感はしっかり残されており、乗り心地は現行マツダ車の中でもトップクラス。マツダの総販売台数の4分の1を占めるエースですが、思想転換を強く感じさせてくれました。
第8位「マツダ CX-5」SUVの王道へと原点回帰。使い勝手と走りを高次元で両立。CX-5が新たな基準を示した
――第9位はスバルのWRX S4 STI Sport#。
山本 スバルが今年1月の東京オートサロンで初公開し、4月に正式発表したSTIコンプリートカーです。最大のトピックは、日本仕様として約6年ぶりとなる6速MTの復活。275PSを発生する2.4L水平対向ターボとシンメトリカルAWDに加え、専用チューニングの電子制御ダンパーやブレンボ製ブレーキなどを装備。
既存技術を磨き上げながら「走る楽しさ」を徹底的に追求しています。価格は610万5000円。限定600台はすでに完売していますが、次の仕様(量産モデル!?)もスタンバイと公言済みです。
第9位「スバル WRX S4 STI Sport#」6速MTが令和にまさかの大復活。走りを楽しめるスポーツセダンに男心が刺激されるが、すでに完売
――ラストを飾るのはトヨタの6代目RAV4。
山本 開発コンセプトは「継承と進化」です。キープコンセプトを貫きながら、電動化や知能化など次世代技術を盛り込んだモデルへ進化しました。オール電動車のラインナップで本命はPHEV(プラグインハイブリッド車)です。第6世代となるTHSⅡはシステム出力329PS、EV航続距離151㎞を実現。急速充電にも対応します。
第10位「トヨタ RAV4」EV走行とハイブリッドの両立を極めたRAV4。日常も高性能も妥協せず、新時代の完成形を叩きつけた
――走りの印象は?
山本 EVモードはモーターならではの力強いトルクと優れた応答性を発揮し、日常使いならほぼEVです。ただ、このシステムの本領発揮はHEVモード。アクセルを踏み込むと329PSを一気に解放し、時速100キロ到達は5.7秒。
高出力モーターにより違和感も抑えられ、静粛性も高い。RAV4のPHEVは「一台でふたつの顔」を持つパワートレインに仕上がっており、自宅に充電環境がなくても選ぶ価値があると評価!
――今回は、「やりすぎ番外編(次点)」もあるとか?
山本 やりすぎを超えて〝魔改造〟なモデルがトヨタのGRヤリスMコンセプトです。2025年の東京オートサロンで公開されたミッドシップ4WDの研究開発車両で、モリゾウこと豊田章男会長の発案から生まれました。まさに今、スーパー耐久で実戦投入され、「走って壊して直す」を繰り返しながら開発が続いているモデルですね。
次点「トヨタ GRヤリス Mコンセプト」限界突破にも程があるミッドシップ4WDへの魔改造。壊して鍛える開発思想が生んだ異端のGRヤリス
――山本さんは試乗したと聞きました。
山本 当初は同乗のみでしたが「試乗もどうぞ」と太っ腹。鋭い回頭性と高い旋回性能は圧巻で、従来のGRヤリスとは別物。その一方で扱いはシビアで、ドライバーの技量も問われます。
まだまだ課題は山積みですが、圧倒的な可能性を感じさせ、「絶対に面白いクルマになる」と確信させてくれました。おそらく量産モデルは「セ」のつくクルマとして登場するかも(笑)。
――では、山本委員長、最後に総括をお願いします!
山本 今年も豊作でした。実は下半期も〝やりすぎカー〟が続々登場する気配があります。また年末のやりすぎでお会いしましょう!