ベトナム人不法滞在者が闇バイトの"駒"に! 凶悪集団が"悪魔合体"していた!!

取材・文/水谷竹秀 写真/共同通信社

先月上旬、大阪府警はベトナム国籍の男8人を覚醒剤所持の疑いで逮捕。同月4日、大阪市中央区で捜査員らが容疑者らの拠点とみられるベトナム人向け店舗の入るビルの中のカラオケ店を家宅捜索した先月上旬、大阪府警はベトナム国籍の男8人を覚醒剤所持の疑いで逮捕。同月4日、大阪市中央区で捜査員らが容疑者らの拠点とみられるベトナム人向け店舗の入るビルの中のカラオケ店を家宅捜索した
日本国内での不良ベトナム人による犯罪行為が増加している。その多くは、技能実習生として来日するもなんらかの事情で不法滞在状態となり、お金に困って犯罪に手を染める「ボドイ」と呼ばれる者たちだ。

そんな中、凶悪事件で日本を恐怖に陥れ続ける「トクリュウ」が、特殊詐欺や強盗に都合の良い"駒"として彼らを使い始めているという。実態を調査すると、両者をつなぐ巨大な犯罪ネットワークが見えてきた!

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【特殊詐欺に使われるキャッシュカードを売買】

証言台と傍聴席を隔てるついたてが折り畳まれると、黒髪をボサボサにしたベトナム人男性、ホアン・ゴック・フエ被告(33歳)が現れた。拘束された姿を傍聴人に見られるのを避けるため、手錠と腰縄はすでに外されている。

行方美和(なめかた・みわ)裁判長から「証言台へ」と促され、ホアン被告がおぼつかない足取りで向かった。左胸に「官」と印字されたグレーのTシャツに長ズボン姿。いずれも留置場で貸与されたもので、自前の衣類を持っていないのだろう。

検察によって起訴状が読み上げられ、行方裁判長から「間違っている点はありませんか?」と尋ねられると、ホアン被告は法廷通訳を通じて「間違いありません」と公訴事実を認めた。

じっとりした暑さに覆われた8月末の夕暮れ前。横浜地裁川崎支部の第1号法廷では、傍聴人が数人しかいない中、被告人質問がひっそりと行なわれていた。

起訴状などによると、ホアン被告は2025年3月から4月までの間、埼玉県内および東京都内で、自分名義の銀行口座のキャッシュカード2枚を別のベトナム人男性に渡し、現金を受け取ったとされる。このカードには外国人名義による犯罪収益の振り込みが多数確認されており、特殊詐欺などの被害金の保管に使われた疑いが浮上した。

国際ロマンス詐欺による収益を資金洗浄するために使われたとして押収された、通帳やキャッシュカード。ベトナム人による口座の売買や特殊詐欺への関与が増加しているという国際ロマンス詐欺による収益を資金洗浄するために使われたとして押収された、通帳やキャッシュカード。ベトナム人による口座の売買や特殊詐欺への関与が増加しているという
ホアン被告が来日したのは17年7月で、技能実習生として鉄工所などで働いてきた。ところが生活に困窮したため、一昨年に出会ったベトナム人男性に現金40万円を借りた。この男性は実習生を管理する団体の職員で、ホアン被告にとっては仕事を紹介してもらう"主従関係"にあった。

やがて返済を催促され、「ボコボコにするぞ」「おまえの命と引き換えだ」と脅迫もされた。さらに男性から「キャッシュカードをくれたら返済期間を延ばしてやる」と持ちかけられ、銀行で自分名義の口座を開設し、キャッシュカードを男性に提供した。

争点は、ホアン被告が渡したカードの使い道を知っていたか否か。弁護人からの質問には、「口座が何に使われるのか知らなかった」と答えたが、検察から突っ込まれるとこう証言した。

「お金を入金したり、毎日少しずつ引き出すという話を(団体職員の男性から)聞きました」

カードが何か良からぬことに使われる危険性を認識していたが、返済を催促されたために渡したと弁明した。検察からの求刑は罰金40万円。最後に行方裁判長から「何か言いたいことは?」と促され、ホアン被告はこう述べた。

「今回、自分の一連の行為により、周りの方にいろいろと迷惑をかけてしまい、深く反省している」

心から言っているようには聞こえなかった。裁判は結審し、手錠と腰縄をつけられたホアン被告は静かに裁判所を後にした。

【窃盗から大麻栽培まで】

昨年、日本国内での被害総額が約1423億円に上り、前年から倍増した特殊詐欺。カンボジアやミャンマーなど東南アジア一帯に拠点が置かれているこの犯罪は、組織の実体を持たない「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ばれる犯罪集団によって行なわれている。

実行犯は主に日本の若者たちで、その入り口はSNSなどを通じて高額報酬をうたう闇バイトの募集だ。トクリュウはSNSで若者を勧誘し、詐欺や窃盗、強盗などの犯罪を行なわせ、犯行が完了すれば解散してまた別のグループで新たな"ミッション"へ移行するという、離合集散を繰り返してきた。

ところが近年、特殊詐欺の末端、つまりホアン被告のような犯罪収益の振込先に使われる口座やキャッシュカードの売買などに在日ベトナム人たちが加担し、摘発されるケースが相次いでいる。その中でも今、目立っているのが特殊詐欺の収益をATMで引き出す「出し子」だ。

警察庁によると、25年における特殊詐欺の外国人検挙数は239人。国籍別では中国人が87人と最も多いが、これに続くのはベトナム人56人、マレーシア人36人の順だった。出し子に限ってはベトナム人が27人と最多で、前年から倍増している。以前から中国マフィアとの関連でトクリュウに絡んできた中国人の検挙数に、関係が薄いと思われていたベトナム人が追いついてきたのである。

この背景について、元警視庁警視で、現役当時は"マル暴刑事"として外国人の犯罪取り締まりにも力を入れていた櫻井裕一氏はこう指摘する。

「最近は、特殊詐欺のグループが日本人の出し子や受け子をSNSで募集してもなかなか集まらない。警察が周知を徹底してきたから、若者も闇バイトには簡単に手を出さなくなったのです。

だから日本人の若者は、偽の求人募集などでだまされた上で、詐欺の電話をかける『かけ子』として海外に連れていかれている。

その穴埋めとして、ベトナム人などの外国人が使われるようになりました。簡単に言うことを聞くし、日本語が拙いから組織の上層部のことまでは把握できない。だから捕まっても情報が漏れる恐れがない。要は使い捨てです」

しかも、在日ベトナム人たちによる犯罪は闇バイトだけにとどまらない。母国で密売するための化粧品の集団窃盗、価格が高騰する銅を狙った銅線ケーブルの窃盗、アパートの一室における大麻草の栽培など多岐にわたっている。

技能実習生として来日するために、ベトナムの研修施設で日本語を学ぶ若者たち。来日時点で多額の借金をしてしまっており、実習期間の終了後もベトナムに帰国できない実習生が多くいることが問題視されている技能実習生として来日するために、ベトナムの研修施設で日本語を学ぶ若者たち。来日時点で多額の借金をしてしまっており、実習期間の終了後もベトナムに帰国できない実習生が多くいることが問題視されている
今年6月下旬に大阪府警が家宅捜索した大阪・ミナミの繁華街に立つビルは、料理店やクラブなどが入居する一棟丸ごとがベトナム人専用の"箱"になっていた。その中のカラオケ店のVIPルームで覚醒剤を所持していたとして、ベトナム人の男8人が逮捕されている。在日ベトナム人による犯罪の検挙は年々増加し、日本社会における彼らのイメージは変わりつつある。

その兆候が見え始めたのは10年代半ば頃からだと、当時新宿警察署に勤務していた櫻井氏は振り返る。

「ユニクロを狙ったベトナム人による集団窃盗などは当時から頻繁に起きており、現場は警戒を強めていました」

櫻井氏の記憶に今でも鮮明に残っているのは、歌舞伎町のど真ん中で起きたベトナム人グループ同士の抗争だ。

「夜中に現場に駆けつけると、現場で背中をぱっくり切られたベトナム人が倒れていた。犯人はリュックサックに刃物を3本も忍び込ませているようなやつらで、本当に凶暴化していました。

今は、そういう連中がトクリュウと手を組んでいてもおかしくない。大麻や覚醒剤の所持にしても、ベトナム人だけでは販売ルートを確保できないため、結局はその裏に彼らを使って密売する暴力団がいるでしょう。ベトナム人は、裏社会にいる日本人に都合の良い"駒"として使われているとも考えられます」

【顔も知らない指示役と隠語でやりとり】

トクリュウの上層部や暴力団員にとって「使い勝手がいい」という彼らは、いったい何者なのか。櫻井氏が続ける。

「多くは技能実習生や留学生として来日し、その後なんらかの事情で不法滞在になり、困窮してしまった若者たちです。生活の不安定さを解消するため、犯罪に加担してしまうのです」

技能実習生の場合、最初の実習先で職場環境が劣悪だったり、パワハラに遭ったりして失踪し、不法滞在に陥るケースが後を絶たない。彼らは来日するまでに多額の借金を抱えていることが多く、その返済のための金が必要だ。だから職場を逃げ出しても母国へ帰国できずに、逃避行のような生活を続けている。

留学生の場合も、アルバイトは1週間に28時間までと定められているため、上限まで働いても月収は10万円強。経済的困窮から闇バイトに手を染めるケースも少なくない。

そんな彼らは、厳しい軍隊から脱走した兵士になぞらえ「ボドイ(ベトナム語で兵士の意)」と呼ばれ、Facebookで情報交換のためのグループを形成している。

ボドイによるFacebook上のグループ『Tokyo Baito』に投稿された、キャッシュカードの売買を呼びかける投稿。みずほやSMBCなど、主要な銀行名が羅列されているボドイによるFacebook上のグループ『Tokyo Baito』に投稿された、キャッシュカードの売買を呼びかける投稿。みずほやSMBCなど、主要な銀行名が羅列されている
例えば『Tokyo Baito(トウキョウ バイト)』と呼ばれるグループには日々、在日ベトナム人たちによるさまざまな投稿が寄せられているが、中には次のようなものも散見される。

「あらゆる種類の通帳・カードを高価買い取り中。遠方の方は郵送も可能。帰国される方や、もう使わないという方はぜひDMをください」

「ゆうちょは値下がりしました。持っている人は今すぐ売ってしまわないと、また下がったときに後悔しますよ」

「ビザがもうすぐ切れるのでカードを売却したいのですが」

こうしてSNS上で売買された銀行口座のキャッシュカードが特殊詐欺に使われていると、事情に詳しい関係者は語る。

「カードはみずほ、三菱UFJ、三井住友といったメガバンクが人気です。

また、何回も引き出すと怪しまれるので、上限額が高いほうが犯行グループには使いやすい。個人口座は引き出し限度額の初期設定が1日50万円までですが、法人口座の場合は200万円なので高く売れます。法人といっても、ベトナム料理店をオープンすれば簡単に法人口座を持てます」

買い取り額は1万~2万円で、メガバンクの法人口座は数百万円ほどの高値で取引されることもあるという。

この関係者によると、闇バイトをするベトナム人に多い出し子の手口はこうだ。

募集に応募した彼らは、SNSを通じて指示役からQRコードを受け取る。指定された駅のロッカーに行き、そのコードで開錠すると中には封筒が入っている。中身は銀行口座のキャッシュカードとその暗証番号だ。

「まずはカードが使えるかどうかを確認するため、ATMで1000円札1枚を入金します。さらに暗証番号を入力し、その引き出しもできたらSNSで指示役に報告し、多額の現金を引き出すのです」

東京都港区にある東京出入国在留管理局。昨年末の統計によると、日本に在留するベトナム人の数は約68万人に上った。これは最も多い中国人の約93万人に次いで2番目の数字だ東京都港区にある東京出入国在留管理局。昨年末の統計によると、日本に在留するベトナム人の数は約68万人に上った。これは最も多い中国人の約93万人に次いで2番目の数字だ
確認が済むと、追加の指示を受け、その金を指定された駅の個室トイレまで運ぶ。ドアを開けるとほかのバイトが待っていて、現金とカードを渡せばミッションは終了する。関係者が続ける。

「現金を渡す相手とは自己紹介もないし、帽子をかぶってマスクをしていることが多いから、お互いに誰かわからないようになっています」

指示役とのやりとりはすべて、テレグラムなどチャットの自動削除機能がついているアプリに移行して実施される。また、捜査当局にバレないようにするため、「gd」=取引、「tt」=計算、「man」=日本円、などの隠語を多用するのだという。

「出し子の報酬は1日最高でも3万円ぐらいでしょう。もらう前に警察に通報され、捕まることもあります」

逮捕されても出し子や受け子は末端の実行犯に過ぎない。ゆえに本丸の上層部までは捜査の手が及ばず、トカゲの尻尾(しっぽ)切りで終わってしまう。それがトクリュウ捜査の難しさだ。

警察はすでに、実際に闇バイトに応募し、実行犯に成り済まして指示役に接触する「仮装身分捜査」の手法も導入しているが、それでも上層部の解明は一筋縄ではいかない。前出の櫻井氏が語る。

「出し子や受け子、それらのリクルート役まではベトナム人がやっているでしょう。その上の指示役からは日本人だと思います。ただ、指示役の側には日本語ができるベトナム人が通訳としているかもしれない。

トクリュウの上層部には暴力団も関わっていると私はみていますが、現状の捜査ではなかなかそこまでたどり着けない。それが一番のネックです」

ボドイによる犯罪が増える日本社会。来年度から技能実習制度に代わり、育成就労制度が施行される。来日時に支払う費用の上限が設定されるなど外国人の負担は軽減されるため、不法滞在につながる失踪者は減少傾向に向かうと期待されている。この先、果たしてベトナム人の犯罪は減少するのか。

  • 水谷竹秀

    水谷竹秀

    みずたに・たけひで

    ノンフィクションライター。現在、東京を拠点に各国で活動。2011年『日本を捨てた男たち』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。著書に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)など

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