
武松佑季
たけまつ・ゆうき
武松佑季の記事一覧
1985年生まれ、神奈川県秦野市出身。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン
円谷プロダクションから3月28日にリリースされた"あの"ゼットンとの恋愛シミュレーションゲーム。笑いあり、涙ありの全14エンディングが用意され、スマホやPCで完全無料でプレイ可能。続編の『AFTER EPISODE』も4月27日にリリースされ、前作の2倍のテキスト量、3倍のCG量という並外れたボリューム感が話題を呼んでいる
ゼットンと恋の駆け引きをする――。そんな日が訪れることを誰が想像できただろうか? リリース直後から話題になったゲームの開発陣に突撃取材した!
まさかのキャスティングだ。ゲームのプレイヤー(女子高生)が通う学校に転校してきたのは、たくさんの子供たちにトラウマを植えつけたウルトラ怪獣・ゼットンだった――。
「ウルトラマン カードゲーム」のブースターパック第7弾「大怪獣超進撃」のPRの一環として3月28日にリリースされた恋愛ゲーム『宇宙恐竜-ゼットン-に恋して』の切ない展開に、涙する人が続出しているというのだ。
キャッチコピーは、ゼットンの放つ火球の温度にちなんだ「一兆度の恋」。学校生活を通して関係を深めるゼットンとプレイヤーに訪れる試練と恋の行方が描かれ、ハッピーエンドからバッドエンドまで豊富なシナリオが用意されている。
どうしてこんなトガったゲームが誕生したのか? 企画・制作を担当した円谷プロダクション・桐林勇太氏と、本キャンペーンを統括する井上元作(げんさく)氏に制作意図を聞くと、そこにはゼットンの火球にも負けない熱い思いがあった!
――いつもは寡黙で少し天然だけど、いざというときには怪獣から守ってくれる。まさかゼットンにときめく日が来るとは思いませんでした! いったい誰がこんなぶっ飛んだ企画を考えたんですか?
桐林 すみません、私です(笑)。「大怪獣超進撃」のPRをするに当たり、アンバサダーのゼットンを使って何か話題になるようなことをしようと考えたときに、ゼットンに恋する恋愛ゲームがあったら面白いんじゃないかなーっと。
制作者の桐林さんの父親は、初代『ウルトラマン』をリアルタイムで見ていた世代。幼少期からゼットンの恐ろしさを聞いていたというが、そんな彼が恋愛ゲームを作ることになるとは......
――ゼットンといえば、初代ウルトラマンを倒した最強の敵。ウルトラ怪獣のアイコン的存在なのに、まさか恋愛ゲームの主人公になるとはゼットンも驚きでしょうね。
井上 桐林から企画を聞いたときは「ホントに大丈夫か?」と思ったものの、今年はウルトラマンシリーズ60周年に当たる年。お祭り的に皆さんに楽しんでいただきたいので、取りあえずやってみようとGOサインを出しました。
桐林 私は普段、SNSの企画戦略を担当しているんですが、言い出しっぺということもあって、シナリオやスクリプトなど、グラフィックと音楽以外はすべて自分で開発したんです。
――めっちゃ多才!
桐林 もともと趣味でゲームを作っていたのがこんな形で生きるとは(笑)。
井上 こちらが「好きにやっていいよ」と言っていたにしても、最初の会議でゲームの9割が出来上がったものを持ってきたんですよ。その完成度の高さと、ゼットンという強キャラのギャップの落とし込み方が本当にスゴくて、「桐林はヤバイ」という社内評が一気に広がりました(笑)。
桐林 でも実は、ゼットンが学園生活を送るのは初めてじゃないんです。
――え、そうなんですか!?
桐林 15年前に放映された『ウルトラゾーン』という特撮バラエティの中の学園コント「不良怪獣ゼットン」で、不良高校生役として出演してるんです。そこでスケバン的な女のコといい感じになるって話があって、本作もそこに少なからずインスピレーションを受けてますね。
――すでにネタキャラになった過去があったとは。
井上 サブスクサービス「TSUBURAYA IMAGINATION」で見られるので未視聴の方はぜひ!
――ゲームを実際にプレイしてみると、ゼットンが本当に愛らしく見えてくる不思議な感覚があります。制作の上でこだわったことは?
桐林 ゼットンは感情表現のない生物兵器で、発するのは「ゼットン」という声と「ピポポポポ」という電子音のみ。そのキャラクター性は絶対に壊さないようにしました。恋愛ゲームだけど、ゼットンの感情はプレイヤー側の主観のみで語られるのを徹底したことで、本能で動くゼットンが愛らしく見えたんだと思います。
ゼットンのせりふは「ゼットン」と「ピポポポポ」の2種類だけ。にもかかわらず、ゼットンのこまやかな感情がプレイヤーに伝わる精巧なシナリオだ
――原作愛ゆえの完成度でユーザーからも「泣けた」「まるで純文学」と大バズり。号泣するゲーム実況者もいたらしいですね。確かにどこか切ない筆致は2000年代にはやった〝泣きゲー〟の雰囲気を感じました。
桐林 私自身、その時代のノベルゲームのカルチャー自体には親しみがあったので、マルチエンディングの一部のシナリオは〝泣きゲー〟を強く意識しました。いわゆる〝滅びの美学〟みたいなものは当時すごく活発だったじゃないですか。
――ゼットンがプレイヤーを守って、ペンシル爆弾(ゼットンを倒した武器)によって粉々の肉片になってしまうスペシャルエンドですね。初登場時と同じゼットンの最期にファンはニヤリとしてそうです。
桐林 本当は本編どおり真っ赤な肉片が散乱するCGにしたかったんですけど、それじゃグロすぎるとグラフィッカーから指摘がありまして(笑)。結果、マイルドに修正しました。
バッドエンドのひとつでは、ゼットンがペンシル爆弾にやられて肉片になってしまう。そしてPRしているトレーディングカードは、ゲーム内でキーアイテムとして登場
――ほかにもこのような小ネタを随所にちりばめているんですか?
桐林 「ゼットンの呪縛」というホラー感のあるバッドエンドでは、プレイヤーの娘にゼットンの遺伝子が発現してしまうのですが、これは『ウルトラマンマックス』(05年放映開始)の13話「ゼットンの娘」のオマージュです。僕自身、大のウルトラマン好きなので、こういうファンサービス的要素はかなり入れてますね。
――ゲームの完成度を上げるために工夫したことは?
桐林 短いゲームですから、ゼットンの好感度を上げる選択肢を選んでいけばクリアできちゃうってなるとつまらない。そこでゼットンの体温ゲージを導入して、照れさせて体温が上がりすぎると1兆度で焼かれて即ゲームオーバーになるというギミックもつくりました。
恋愛しなきゃいけないのに、攻めすぎてもダメ。こういう二律背反的要素があると緊張感があって面白いじゃないですか。怪獣との恋は大変なんだぞと(笑)。
井上 私も何度もゲームオーバーになりました(苦笑)。
――シナリオだけでなくゲーム性も両立して大きな話題となったわけですが、本企画ではほかに、「ゼットンの1兆度ホームラン競争」や「ゼットン×焚き火 4時間耐久ASMR」といったコンテンツも展開。いずれも好評ですね。
桐林 ホームラン競争はゼットンの絶望を味わってもらおうという狙いから、難易度を非常に高く設定しています。完全クリアに40時間以上かかったプレイヤーもいました。
――鬼畜すぎる!
桐林 ASMRは視聴者の最大同時接続数が約1万3000人にも上りました。大手配信者でも1万人に到達することはなかなかないので、これはスゴイことなんですよ!
――なぜゼットンはこんなにも愛されるのでしょうか。
桐林 そもそもウルトラ怪獣はデザインだったり出自だったり、それぞれが非常に魅力的。彼らはウルトラマンシリーズのもうひとつの主役と言ってもいいほどの存在です。その中でも最強と言えるゼットンの見せる意外な一面を、皆さんが面白がってくれてるんじゃないかと思います。
――実際どのくらいの宣伝効果があったんですか?
井上 施策全体で想定の6~7倍のインプレッション(表示回数)を獲得しましたし、ブースターパックの初動売り上げも(自社ECサイトの)『TSUBURAYA STORE』では過去比で5~6倍となっています。これだけの反響は今までにないことですね。
販促企画を統括する井上さん(右)と桐林さん(左)。ブースターパック「大怪獣超進撃」は日本国内のみならず、アジアを中心とした多くの国で好評発売中だ
――ゼットンさまさま! これだけ評判がいいのであれば続編を作ったりは......?
桐林 実はもう続編の『AFTER EPISODE』が4月下旬にリリースされてます!
――マジですか!?
桐林 ゼットンの体から毒素が出ているというオリジナル設定を作り、近くで徐々に体がむしばまれていくプレイヤーはゼットンと別れるか、それとも添い遂げるかの究極の選択を迫られます。
――なかなかハードな展開......。
桐林 いわゆる〝鬱ゲー〟ですね。第1弾リリース前に「こういうシナリオも入れたかったな」と思っていたところ、好評を受けて会社から続編の話が来たので、「シナリオはもうできてます」と返しました(笑)。エンディングは10ルート作りましたが、まともに生き残る展開はひとつしかありません。そしてあの光の使者も登場するんです!
――桐林さんのクリエイター魂に火がついている!
井上 ちょろっとおまけエピソードを作ってくれればよかったんですが、前作の2倍のボリュームで上がってきました。桐林はすっかりシナリオライターです。われわれもよけいなこと言っちゃったかな......(苦笑)。
――第3弾も期待してます!