【#佐藤優のシン世界地図探索159】高市幕府と「軍神」

取材・文/小峯隆生

日本は大丈夫!?(写真:熱田神HPより)日本は大丈夫!?(写真:熱田神HPより)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――高市首相率いる「高市幕府」ですが、ホルムズ海峡閉鎖に関してはあまり動いている印象がないですね。

佐藤 ずっと見(けん)に回っているからですね。それでいいんですよ。

――今回の原油騒動に関して、高市幕府は「大丈夫だ」と説明していますが、本当に大丈夫なんでしょうか?

佐藤 「明日できることは今日やるな」ということです。情勢は変わりますからね。不確実なシミュレーションを何度も繰り返してエネルギーを消費するよりも、切羽詰まってから準備する方が合理的です。

――「明日できることを今日やるな」とは素晴らしく深い言葉。誰のお言葉ですか?

佐藤 私の言葉です。通常は「今日できることを明日に延ばすな」と言いますが、その逆ですね。

――原油の確保に関しては、情勢が激変するから拙攻(せっこう)するな、ということですね。

佐藤 はい。イラン危機解決までにはいずれにせよ時間がかかります。

――1年ぐらいですか?

佐藤 それは今後の情勢の推移如何です。需給の法則ですから。ガソリンがリッター500円になれば、暴走族だって走行回数を減らしますよね。

――減らします。なるほど、それが需給の法則。

佐藤 物流だって同じです。300円のボールペンを送料2000円で買いますか?

――絶対に買いません。

佐藤 だから皆、消費を抑えます。例えば、1970年の一世帯あたりの1ヵ月の電力消費量は118.8kWh/口でした。それが2015年には247.8kWh/口と2倍以上になっています。

70年代は家庭にクーラーが一台あるだけで、あとは扇風機を使っていましたよね?

――そうです。

佐藤 その頃の水準に戻って生きていけないわけではありません。それで一年間しのげばいいんです。需給にあった形で生活すればいい、それだけの話ですよ。

――自分の家は、1973年当時はリビングルームにクーラーが一台のみでした。両親が寝ている部屋と、俺の部屋の入り口に扇風機を一台ずつ置いて夏が終わりました。

佐藤 そういうことです。なにもエアコンや扇風機のない江戸時代に戻るという話ではありません。

――以前の回で呼びかけていた「食生活を戦前に戻すと皆、健康になる」、それと同じですね。

佐藤 そうです。だから、大日本(おおやまと)は神の国であり、神々に守られている国です。だから、神を信頼すればどんな国難だって回避できるんです。

なにせ日本は、当時の超大国である蒙古(モンゴル)の侵略から二度も防衛しています。客観的に勝てないような戦いも、伊勢の神風によって凌いでいるんです。

――その通りです。

佐藤 日本という国では、なにか切羽詰まった事態に陥っても、そういう主観的願望で客観情勢が変わるということがこれまでに起きています。だから、今度もまた起こるでしょう。それが日本の特徴ですから。

――大丈夫ですね。

佐藤 シンガーソングライターの古内東子さんの『大丈夫』という歌を知っていますか? これを聞くと、大丈夫だという雰囲気になってきますよ。

――この曲の中に解決策があるんですか?

佐藤 あまり難しいことを考えない、そういうことです。

――悩みすぎは体に悪い!

佐藤 そういうことです。難しいことを考えなくても、なんとかなる。それがこの国のお国柄だと考えればいいんです。

――なんだか超難関のレベルで騙されているような......。

佐藤 この『大丈夫』という歌では不倫の切なさを歌っています。強がっていれば大丈夫だと繰り返します。

――確かに歌の中の状況は厳しいですね。

佐藤 これが日本の"大丈夫"なんです。だから、日本のホップミュージックはなかなか深いんですよ。

話は変わりますが、人間に相対したヒグマはなにを考えていると思いますか?

――クマですか? 相手を食うか、逃げるかを常に考えていると思います。

佐藤 我々はヒグマがその2択のどっちの行動をするか判断できますか?

――できないでしょうね。先日、最高裁判決で銃砲免許が復活したハンターは「ヒグマは人間を生きたまま食べる」と言っていました。

佐藤 そうです。だから、ヒグマとは極力関わらないのが原則です。最も軽はずみで危険な行動は、竹ぼうきや棒でヒグマの目を突くとかですよね?

――怖くてそんなことはできません。

佐藤 高市将軍はそういうことを避けています。

――女豹ですからね。

佐藤 高市将軍の外交には秘訣があります。内閣情報調査室、国家安全保障局と同じ方針で動いている時は成功します。高市将軍の独自性は発揮していないんですよ。そしていまのところ、独自性を発揮しているのは中国にだけです。

――その結果、対中国だけは喧嘩となっている。

佐藤 しかも日本に「軍神」が現れています。「軍神」問題にもっと関心を向けるべきです。

――1941年、真珠湾奇襲の際に戦死した9名の皇軍兵士「九軍神」でありますか?

佐藤 違います。いま存在する軍神は23歳の青年です。中国大使館に侵入して、大使に直訴した自衛官(三尉)ですよ。意見を聞き入れられなければ、自決するつもりだったと。

こうした事態が起きれば、通常は真相究明して瑕疵(かし)があれば謝罪、損害賠償、責任者、関係者の処罰、そして再発防止となります。しかし、この中の謝罪と損害賠償が日本の言っていることに欠けているんです。

――それは彼が「軍神」だからなんですか?

佐藤 こういう軍人が出てくると、世界からどう見たって日本は変な国だと捉えられます。自衛隊の幹部大学校で、外国大使館に乗り込んで強訴して、意見が聞き入れられなければ自決するいうような「軍神」教育をしていると思われる危険がありまです。しかも、一人出てくれば、それで終わりだと思いますか?

――他にも出てくる恐れはありますね。

佐藤 中国がそう思っている可能性があります。

――日本の陸海空自衛隊が長距離ミサイルを装備して、中国本土に対して敵基地反撃が可能になりました。さらに中国はかねてより「日本のイスラエル化」を非難しています。

佐藤 それはやはり、かつて我々はイスラエルと一緒だったからですね。「全世界に同情されながら死に絶えるより、全世界を敵に回して戦い生き残る」と。2発の原爆とソ連の参戦で折れましたが、それまで大日本帝国はこの路線でした。

《戦局は切迫しておりますが、必ずしも悲観するにはおよびませぬ。全国民が大御稜威(おおみいつ)のもと、国体の不滅を信じ、大東亜戦争が正義の戦いであるというゆるぎない信念を堅持して戦い続ける限り、勝利への道は必ずや開かれるものと確信いたします》

これは、1945年2月26日の東条英機首相の天皇への上奏ですが、この考えはまさにイスラエルと一緒です。

――そして、この信念は日本からイスラエルだけでなくイランにも引き継がれているということでしょうか。

佐藤 そうです。だから、日本人はイスラエル人、イラン人の気持ちをよくわかるんですよ。

――やはり日本は異端。しかし、日本は「大丈夫」なので、うまくいくんでしょうね。

佐藤 うまくいきます。大丈夫です。熱田神宮の刀剣が守ってくれるし、天照大御神の御加護がありますから。

次回へ続く。次回の配信は5月15日(金)を予定しています。

★『#佐藤優のシン世界地図探索』は毎週金曜日更新!★

  • 佐藤優

    佐藤優

    さとう・まさる

    作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

  • 小峯隆生

    小峯隆生

    こみね・たかお

    1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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