超進化する《中華ラブドール》の現在地

取材・文・撮影/安田峰俊

中国メーカー「SINO-DOLL」の高級ラブドール。写真でも顔に不自然なテカリはなく、肌の質感の高さがわかる中国メーカー「SINO-DOLL」の高級ラブドール。写真でも顔に不自然なテカリはなく、肌の質感の高さがわかる

スマホやアプリ、EV、そして各種ロボットなどなど。中国発の先端技術が生活に欠かせなくなっている中、その技術がフィードバックされ超進化した中国製のラブドールも登場している。

その進化をユーザーはどうたしなんでいるのか? ルポライターの安田峰俊さんがリポートします!

【中国製が圧倒的品質で市場を席巻!】

ラブドールは、日本発のエロ・サブカルチャーのひとつだ。かつて2000年代、オリエント工業などがシリコン製の高品質ドールを発表。本物の女性そっくりの姿がネット民を騒がせ、一時はラブドールと遊べる風俗店が乱立するなどブームになった。

流行はやがて海外に広がり、今や全世界の市場規模が600億ドル(約9.5兆円)に迫るという報道もある。

もっとも、実は近年の日本メーカーは凋落が著しい。業界のパイオニアだったオリエント工業も、一昨年に一時は閉業を発表するなど、あまり元気がない。

対して台頭しているのが中国だ。当初こそチープだった中国製ドールだが、10年代後半から急速に高品質化。今やクオリティとシェアの双方で、日本の市場においてすら国産製品を圧倒して久しい。

異様にとがった胸、テカリ気味のウィッグなど、最新モデルとの差は歴然の2018年式ラブドール異様にとがった胸、テカリ気味のウィッグなど、最新モデルとの差は歴然の2018年式ラブドール

「ドールは性的用途のみならず、撮影したり生活を共にしたりする楽しみも重要だ。私はオリエント工業の製品も所有しているが、顔立ちがおぼこくてコスプレ撮影が楽しくない。手足の可動性も中国製の高級品には及ばず、物足りないよ」

中国・貴州省の山奥の村で8体のラブドールと共同生活を送るラブドール評論家・離塵(リイチェン/通称〝ラブドール仙人〟、68歳)は、現状をこう論評する。今や人造美女の世界の旗手となったのは中国なのだ。

ぜひ最新事情を直接見聞したい。だが、昨今は国際情勢が不穏、中国渡航はリスクがある――。そう悩んでいたところ、思わぬ場所で答えを見つけた。

それは台湾中部の台中市。中国各メーカーのラブドールを20体以上もずらりと並べ、「来て見て触って」ができる、夢のラブドールカフェが存在するというのだ。

「初めは、個人的にドールに興味があったんです。なので『ビジネスのためのサンプルだ!』と妻を言いくるめて購入。その結果、本気で商売することになって......」

台湾のラブドールカフェ「Mitica」(KD人形美術館)の店主、郭大(46歳)はそう語る。妻のHaru(42歳)とふたりで経営するカフェはしゃれたつくりで、2階にはYouTubeスタジオも設置。アダルトグッズ店っぽい雰囲気はまったく感じられない。

店内のラブドール、もしくは自身の彼女(ラブドール)とデート気分でコーヒーを飲める夢空間(お触り可)店内のラブドール、もしくは自身の彼女(ラブドール)とデート気分でコーヒーを飲める夢空間(お触り可)

台湾のラブドールファンが運営するカフェ「Mitica」台湾のラブドールファンが運営するカフェ「Mitica」

「まず19年から、ネット上でドールの販売とレンタル業を始めました」

当時、ほかの同業者たちは雑居ビルの一室でこっそり営業するような形態が多く、アングラめいた雰囲気を漂わせていた。気弱ないちげんの客が現物を確認するには勇気がいる。

「そこで、もっと明るい雰囲気で売ろうと思った。つまりは販売用のショールームですが、ライトユーザー向けにより入りやすくするため、カフェ形式にしたんです」(郭大)

評判は上々で、現在は台北市と高雄市にも支店を出した。台湾の人気セクシー女優・孟若羽(モンルオユイ)とコラボして、彼女のボディを完全再現したドールを中国メーカーにオーダーして販売し、今や台湾のラブドール業界(商品は中国製だが)を牽引する存在だ。

一方、ラブドールは安くとも十数万円以上はする〝高額商品〟である。ゆえに購入者の悩みの種が、メンテナンスの問題だ。

「修理のために中国の工場に送り返しても、税関で突き返されることがある。その場合、1万台湾ドル(約5万円)の送料がパーに。なので、ウチは自前で『ドール病院』(修理サービス)をつくって、アフターケアまでやることにしました」

エロ用途で使用した場合、股間や口の破損はつきものだ。ほかにも転倒や経年劣化、うっかりたばこの火や塗料を近づけて皮膚を損傷させるなど、生活を共にする〝伴侶〟ゆえのトラブルは数多い。台湾ですぐに修理できないと、ユーザーが困るのである。

【母親にドールを発見されて大惨事に!】

ところで、ラブドールは「アダルトグッズ」と本当に呼んでいいのか微妙な部分もある。理由は購入動機だ。

郭大によると、性的な用途でドールを使い続けるユーザーは全体のわずか3割。大部分の人は、精神的な癒やしを求めて購入しているという。

事実、このカフェで出会った独身のタクシー運転手・陳国宝(チェングオパオ/仮名、44歳)は言う。

「長時間勤務から帰宅すると、さみしいんだ。何か、柔らかくて優しい存在に触れたいという思いがあって......」

彼とドールの出会いは、なんと注文間違いだった。数年前、ネットで「1万2000元」の商品を発見。中国元での価格だったのだが台湾元と勘違いし、想定価格の4倍以上(約28万円)の商品をポチッたのである。購入元は中国のサイトであり、キャンセルができなかった。

「だまされていたら大損。ヒヤヒヤして開封したら、意外にも〝めっちゃアリ〟だった。次の一体が欲しくなり、今回はちゃんと実物を確認して買おうと、この店に来たんだ」

台湾のファンは彼女たちとのプレイよりも、デートや添い寝を優先。もちろん衣装選びも楽しみのひとつだ台湾のファンは彼女たちとのプレイよりも、デートや添い寝を優先。もちろん衣装選びも楽しみのひとつだ

うっかりミスのおかげで幸せになれた。なお、彼がドールをエロに使ったのは「体重が35㎏もあり重い」ので数回きり。その後は、就寝時に抱きついておっぱいとたわむれる使用法で落ち着いた。

しかし、実家住みの陳は再びやらかす。〝彼女〟の存在が母親にバレてしまったのだ。

「ギャー!と絶叫だよ。若い女性の死体だと思ったらしい。オレ、彼女に服を着せるのが面倒で、全裸でタオルケットだけかけてベッドに寝かせていたからさ......」

母は激怒したが、陳がドールの癒やし効果を熱弁したところ、最後はあきれて許してくれたという。父や弟にも、秘密を知られてしまった。

「こうした家族バレへの対策として、ソファにカムフラージュした特製収納ケース(キャスター付き)が、隠れた売れ筋商品です。実家住まい、妻帯者のユーザーはけっこういますからね」(Haru)

近年、日本はもちろん台湾や中国でも、恋愛や結婚のハードルは高い。また、結婚しても夫婦仲がいいとは限らない。ドールに癒やしを求める需要は広く生じているのだ。

ゆえに購入者には、経営者・医師・巨大半導体企業TSMCのエンジニアら、高ストレスにさらされるエリート男性たちもいるという。

【先端技術マシマシの中国製ドール】

実際にドールに触ってみると、思わず顔をうずめたくなる柔らかいおっぱいと、しっとりした皮膚の質感にビビる。高級モデルのリアルな顔立ちは、顔を近づけても違和感をまったく覚えない。

筆者は18年に同じ取材をした経験があるが、製造技術の飛躍的な進歩は明らかだ。

「ラブドールの肌の材質は2種類。安価で柔らかいが、表面に油が浮きやすく肌がのっぺりしがちなTPE(熱可塑性エラストマー)製と、人肌の質感再現に優れているが触感が本物の女体よりも硬くなりがちなシリコン製だ。しかし、中国メーカーの不断の技術革新を通じて......」

貴州省のラブドール仙人は、その進化を熱く語る。

「近年、TPE並みの弾力性を備えた奇跡のシリコン配合が開発された。より本物に近い肉の柔らかさと滑らかな肌触りを両立する、夢の女体が実現したのだ」

中国・貴州省の山奥で娘たち(ラブドール)と同居生活を送るラブドール仙人。息子は国内の大手ラブドールメーカーのデザイン部に就職。父子2代でラブドール道を歩む中国・貴州省の山奥で娘たち(ラブドール)と同居生活を送るラブドール仙人。息子は国内の大手ラブドールメーカーのデザイン部に就職。父子2代でラブドール道を歩む
 
進化はほかにもある。高級ラブドールは、手足の関節を可動させる金属製骨格をウレタン素材などで肉づけ、その表面をシリコン製の皮膚が覆う構造だ。

かつては技術的限界から、骨格は手のひら部分まで。指は骨なしか、せいぜい針金が入っただけだったが、こちらも改善している。台湾のカフェMiticaのドール修理スタッフはこう話す。

「手の指はもちろん、足の指まで骨が入り、関節が可動するモデルが登場。中国や台湾の男性は足フェチが多く、〝足指コキ〟の根強い需要に応えた画期的な技術革新です」

高いものでは20万円以上になるが、若者も購入しているという高いものでは20万円以上になるが、若者も購入しているという

頭髪も同様だ。かつてはウィッグ使用が前提......つまりドールの頭部はヅラだったが、現在は植毛技術が発展。より人体に近い、複雑な髪型の再現が可能になった。

現在はMYDOLL(潮影娃娃/チャオインワーワー)などのメーカーが、この植毛技術でサラサラの長い黒髪を持つモデルをリリース。髪フェチ大歓喜だ。

Miticaの店主・郭大と最新ラブドールたち。一見、セレブのパーティのような状態Miticaの店主・郭大と最新ラブドールたち。一見、セレブのパーティのような状態

さらに、謎のハイテク化で〝生命〟を吹き込まれたモデルさえある。郭大が語る。

「中国のSINO-DOLL(先納信/シェンナーシン)製、日本円で約73万円の高級モデルです。顔の素晴らしい造形もさることながら、売りは胸部に内蔵した重低音対応のブルートゥーススピーカー。スマホと接続することで、心音を鳴らしてドキドキできます」

AIの音声機能を使って会話することも、その気になれば技術的には可能。リアルで話し相手になってくれる〝彼女〟の誕生だ。

【中国製ラブドールが抱える問題点とは?】

最強の進化を遂げ、台湾や日本のマニアをもとりこにする中国製ラブドール。もっとも、他の業界の製品と同様、中国ならではの弱点も抱えている。

「近年は各メーカーが内巻(ネイジュエン/全員が消耗する極度の競争)に陥り、業績が悪化している。技術は進歩したものの、昔よりも業界の熱気は冷めているよ」(仙人)

ラブドール業界の最大の市場は、一生結婚できない男性が数千万人規模で存在するという中国の国内市場だ。

しかし、ドールは清掃に手間がかかり、メンテナンス面でも金食い虫。「リアルな人間よりもコスパが悪い」と冗談を言われるような代物だ。

中国経済が不調な昨今、高価な趣味グッズの費用は節約の対象である。各メーカーは、縮小する市場で技術と価格の過当競争に陥っている。

日本国内のラブドールオーナー約1000人が回答した「満足度が高いメーカー」の回答結果は、上位20社のうち19社が中国系。本記事でも紹介したSINO-DOLL(黄色)は市場の21%。一方、国産メーカーのオリエント工業(紫)は1.1%。調査主体が中華ラブドールの代理販売店であることを差し引いても、中国メーカーの勢いはわかる。『日本ラブドール白書2026』(Kumadoll)より日本国内のラブドールオーナー約1000人が回答した「満足度が高いメーカー」の回答結果は、上位20社のうち19社が中国系。本記事でも紹介したSINO-DOLL(黄色)は市場の21%。一方、国産メーカーのオリエント工業(紫)は1.1%。調査主体が中華ラブドールの代理販売店であることを差し引いても、中国メーカーの勢いはわかる。『日本ラブドール白書2026』(Kumadoll)より

業界関係者のひとりからは、別の悩みも聞こえてくる。

「近年、これまで黙認されてきた〝超ミニ系〟デザインのドールや妊婦ドール、極端なデブ専向けドールなどの製品の製造が中国国内では禁じられるようになった。摘発されたら数百万円レベルの罰金を取られ、在庫もパー。業者はみんな戦々恐々としているよ」

いずれも極北の変態ジャンル。規制されても仕方がない気もするが......。しかし、問題の本質は別の部分にある。

「禁止や摘発に当たっての法的根拠が示されず、『どこからアウト』か明確な基準がわからない点が困る。アダルト分野に限らず、当局がダメと言えば、どんなものでも突然作れなくなるリスクがあるのが中国なんだ」

そもそも、性にお堅い中国でラブドールが許されてきた背景は、14年まで厳格に実施されていた「ひとりっ子政策」(計画生育)が関係している。人口の爆発を防ぐ国家政策の下、無用な子づくりを控えるための健康器具――。過去、ラブドールはそんな強引な建前の下、ひとまず黙認されてきた存在なのだ。

だが、現在の中国は人口減少に突入し、政府が国民に結婚と子づくりを呼びかける時代である。当然、ラブドール業界を支えてきた建前は消滅。いつか、「公序良俗」の一声の下で産業全体がいきなり大規模な規制を受けたとしても、さして不思議なことではない。

世界一の品質を実現しながら、過当競争と先行きの不透明に見舞われる中国ラブドール業界。世界中のさみしい男たちを癒やすためにも、引き続きがんばってほしいところなのだが......。

  • 安田峰俊

    安田峰俊

    やすだ・みねとし

    1982年生まれ、滋賀県出身。ルポライター。中国の闇から日本の外国人問題、恐竜まで幅広く取材・執筆。第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』、第5回及川眠子賞を受賞した『「低度」外国人材移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)、『民族がわかれば中国がわかる 帝国化する大国の実像』(中央公論新社)など著書多数。

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