
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
イラン最高指導者、モジタバ・ハメネイ師の2回の声明を読み解くと、恐ろしいことがわかってきた(写真:共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――アメリカのイランとの戦争、ずばりこれは今後どうなりますか?
佐藤 イランの現在の最高指導者、モジダバ・ハメネイは、3月12日と3月20日に姿は見せませんでしたが、声明は出しています。
重傷だとかもう死んでいるとか言われていますが、そんなことは関係ありません。要するに、モジダバ師の名前で出しているあの文書が、いまイランの権力を握っている人たちの意思なんです。
――そのモジダバ師が頼りにしているのは、イスラム革命防衛隊だけなんですね。
佐藤 そうです。そして手持ちのカードは、ホルムズ海峡閉鎖の一枚しかありません。
――しかし、その閉鎖カードを続けて使うと、「経済の障害になる」と中露までもが入ってきてしまうと佐藤さんは警告しています。
佐藤 はい。例えば昔、スエズ運河はエジプトではなく、英仏で運営していました。実際に、海峡の安全保障などを理由に、いまアメリカがホルムズ海峡を封鎖しようとしています。
ところが、3月20日のモジダバ師の声明では、違う持ち弾があると言っているんですよ。
――そんなことは書いてなかったと......。
佐藤 書いてあったのは、イランにとって重要な国は2ヵ国だという内容です。そして、私はこの2ヵ国がアフガニスタンとパキスタンだと見ています。ヨーロッパやトルコ、さらに日本になど全く期待していません。
アフガニスタンにはハリリ派というシーア派がいます。そして、彼らはいまのタリバン政権とぶつかっているんですよ。イランはこの連中を静かにさせられます。また、パキスタンにもタリバンと同じパシュトゥン族の連中がいるので、そこで抑えられます。
――イランは和平交渉の仲介を、このパキスタンにやってほしいと考えているのですか?
佐藤 違います。パキスタンの核兵器をイスラムの核兵器にするんです。パキスタンから、核を奪えばいいということです。
――え!! それが目的......。その昔、パキスタンの核兵器が政情不安でテロリストに奪取されるのを防ぐために、米国が米軍特殊部隊によって核兵器を確保し、インド洋の米空母まで運ぶ作戦があるとされていました。だから、やれるんじゃないですか?
佐藤 核兵器を盗めばイランに米軍が入ってきます。自国領ですが、その米軍の上で核爆弾をぶっ放すんです。
すると米国もヨーロッパも、皆、逃げていきますね。そして誰もイランに触れなくなりますよ。
――はい、イランは地球上の"絶対不可触領域"となります。
佐藤 それほどの玉砕覚悟であれば、自核爆発攻撃でパキスタンの核が使えるでしょう。運搬手段がないので侵略者の頭の上で、パキスタンの核を使って自分の身を守るんです。自国民も死にますが、それでも敵を皆殺しにしてやるということです。
――まさに真のジハード。9.11を超える史上最大のジハード攻撃となります。
佐藤 そうです。究極的なシナリオとしてモジダバ師はそんなことを考えているんじゃないかと思います。長いコメントでパキスタンとアフガニスタンを強調しているので、私はそう読んでいます。
パキスタンの核をイスラムの核にして、侵略軍の上で核自爆して、自国民もろとも始末する。そこまで腹をくくればイランが勝ちます。この核爆発で死んだイラン兵や一般国民は殉教者となり天国に行くので、それ自体、幸福なことになります。
――大日本帝国で考えると、テニアン島ノースフィールド飛行場にあった核兵器原爆を、関東軍の特殊部隊が日本に投下される前に奪取して、その場で核自爆。または、原爆を持ち帰り、米軍が九州に上陸したときに核自爆する。そんな感じですか?
佐藤 そうです。その昔、毛沢東はこう言いました。「中国人民は6億人いる。核戦争が起きて3億人死んでも、残り3億人は共産主義の楽園で生きるだろう」と。
腹さえくくれば実行できます。だからいま、なんとしてでもやらないといけないのは、パキスタンをイランから切り離すためのパキスタン支援です。
――パキスタンは米国とイランを取り持つ、和平を遂行する素晴らしい国ですよ。もしイラクが核武装したら、サウジアラビアがパキスタンから核兵器を譲り受けるという取り決めがあるそうですが、その話はまだ生きているのですか?
佐藤 生きています。そもそも経済的に厳しい状態にあるパキスタンが核開発を行えたのは、サウジアラビアが資金を提供したからです。サウジアラビアはパキスタンの核兵器のオーナーです。
――ならば、パキスタンをイランから守るために、ペルシャ湾南岸諸国連合がイランとの国境に防衛布陣する可能性もありますね。
佐藤 あらゆる可能性が排除されません。とにかく、イランとパキスタンを切り離すことが死活的な重要事項です。パキスタンは貧乏ですが核兵器を持っていて、イランは自国領で核兵器爆弾を自爆させるくらいの腹はくくっていますから。
――かつて、毒ガス、化学兵器、核汚染物質を搭載したダーティボムが"貧者の核兵器"と呼ばれていました。しかし、それがいま本物の核兵器になったと。
佐藤 新しい時代が来ました。
――すさまじい時代です。
佐藤 もしイラン軍がそれを実行したら、アメリカ軍は戦争を続けると思いますか?
――続けないと思います。イラン人たちはイランの発電所を人間の鎖で囲みました。そこを米軍が爆撃して、数百人のイラン人ごと発電所を破壊すれば、米国内の分断はさらに深くなる恐れが......。そして、核によってイラン本土に進攻した米軍兵士が、核により一瞬で数万人戦死すれば、そりゃもう二度とイランの話もしないし、噂もしなくなると思います。
佐藤 だから、これはどっちの方が腹をくくっているか、ということになるんです。
――トランプはチキン野郎ですぐにビビって止めるでしょうね。
佐藤 さらにイランには、もう一枚の切り札があるのです。
――2枚目の切り札......?
佐藤 ハメネイの演説で「光のキャラバン」という言葉が出てきました。「光のキャラバン」とは死者との連帯を表していて、それを強調しているのです。
――それは新兵器ですか?
佐藤 当たり前ですが、生きている人間より、これまでに死んだ人間の数の方が多いですよね。その亡くなった人々もイランについている、という認識です。
――生者と死者の連合軍!
佐藤 イランには死者と連帯して、「光のキャラバン」に殉教者が加わっています。モジダバ・ハメネイ師の戦いには、父のアーリー・ハメネイ師も加わっているんです。それが、モジダバ師には見えているんですよ。
――すさまじい最終兵器となる軍団、「光のキャラバン」。まさに無敵です。
佐藤 そうなのです。
次回へ続く。次回の配信は5月1日(金)を予定しています。