中国BYDは半減でも国産勢は増額...。制度見直しで起きている最新EV補助金の「深層」

取材・文・撮影/週プレ自動車班 撮影/宮下豊史 山本佳吾

今年1月の東京オートサロンで、世界EV販売首位を誇示し、日本向け軽EV「ラッコ」を披露したBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長だったが......今年1月の東京オートサロンで、世界EV販売首位を誇示し、日本向け軽EV「ラッコ」を披露したBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長だったが......
4月1日、CEV補助金の新制度が動き出した。評価ルールの見直しにより、中国BYDは一転して減額対象となり、日本市場での販売失速は避けられない情勢だ。

一方、国内メーカーは相対的な優位性を保った。この"補助金格差"は、いったいどんな基準と政策判断から生まれたのか。

*  *  *

【テスラとBYDの「補助金格差」の訳】

いわゆるEV(電気自動車)補助金の"格差"が波紋を呼んでいる。

2026年度のEV購入支援策であるCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)が、4月1日から本格スタートした。予算は約1100億円。普通乗用EVは最大130万円、軽EVで最大58万円という手厚い制度だが、車種やメーカーの取り組みによって差はある。

補助額を見れば、その差は一目瞭然だ。トヨタ、日産、スバルなど国産メーカーは軒並み最大110万~130万円規模。一方、中国BYDは全車種が大幅減額され、一律15万円にとどまった。ところが、同じ海外勢でもテスラは国産メーカーとほぼ同水準。外資メーカーのテスラが、ここまで高く評価されることに違和感を覚える向きもあるだろう。

なぜ、これほどまでに明暗が分かれたのか。この補助金格差は、どのような評価軸と政策判断の結果なのか。

自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏が解説する。

「CEV補助金は、車種ごと、企業ごとの取り組みを総合評価して点数化します。評価項目は6つで、合計200点満点です」


もはや評価の軸は、車両性能のみにとどまらない。充電インフラ整備への貢献に加え、EV生産に不可欠な主要部品や重要鉱物の安定確保、さらにはサイバーセキュリティや整備体制に至るまで多岐にわたっている。

「各自動車メーカーは、高得点を狙って戦略を立てます。思惑どおり点につながらないなど企業側に不満が残るケースもありますが、最終判断は受け入れるしかない」

特に物議を醸しているのが、EV販売世界トップのBYDの扱い。果たしてこれは一部で指摘されているような"BYD冷遇"なのか。自動車専門誌の元編集幹部はこう指摘する。

「BYDの強みは、圧倒的な価格競争力。ただ、充電に関しては既存のインフラ頼みで、CEV補助金が重視する『企業としてのインフラ整備への貢献』とは噛み合わない。

一方、テスラは全国で140拠点超・700基規模のスーパーチャージャー(超高速充電網)を稼働させている。この差は、評価を点数化すれば決定的な開きになるでしょう」

つまり、テスラは日本市場における"インフラ企業"として評価された。BYDは冷遇されたのではなく、日本市場へのこれまでの"貢献度"で差がついたのだ。

【物価高に苦しむ国民が抱く疑問】

2025年の日本の新車販売台数は約456万台に上る。そのうちEVは約6万台にとどまり、依然として市場では限られた存在に過ぎない。国内販売の約4割を占める"国民車"である軽自動車は約166万台を記録しており、EVとの市場規模の差は際立つ。

車中泊で日本一周を達成した漫画家の小田原ドラゴン氏は、今年2月にJAIA(日本自動車輸入組合)の試乗会を訪れ、海外ブランドの高級EVを体験取材した。初めてEVに乗ったという同氏は、その印象を率直に語る。

「EVは今回が初体験なので他車との比較はできませんが、運転していてとても気持ちよかったです。エンジンのフィーリングや排気音といった要素にはあまりこだわりがないので"EVも十分アリだな"と感じました。

ただし、充電スポットが今より大幅に増えない限り、実際に購入しようとは思えません」

さらに、EV購入を後押しする補助金制度については、次のように踏み込む。

「そもそも、なぜEVだけがここまで優遇されているのかは正直よくわかりません。僕は、補助金制度自体を見直す、あるいは廃止してもいいのではないかと感じていますね」

何しろ日本は物価高に直面し、住宅ローン金利も上昇している。多くの人々が日々の生活を維持するだけで精いっぱいの状況だ。言うまでもなくEV補助金の原資は税金で、今回の取材では「高額なEVを購入できる層だけが得をする制度ではないか」という疑問の声が噴出していた。

欧米で噴き出したイーロン・マスク氏の政治発言への抗議と不買の波。BYDに世界販売首位を明け渡したEVの絶対王者・テスラは日本で輝けるか!?欧米で噴き出したイーロン・マスク氏の政治発言への抗議と不買の波。BYDに世界販売首位を明け渡したEVの絶対王者・テスラは日本で輝けるか!?
この点について、小田原ドラゴン氏は苦笑いしながら、こんな皮肉を口にした。

「EV=富裕層というイメージが定着すれば、乗る側は優越感を得られる上に、"エコ"という付加価値もある。そう考えれば、それはそれでアリかもしれませんよ」

【世界EV失速の中で日本の補助金は何を生む!?】

なぜ国はEV普及に前のめりなのか。桃田氏はこう語る。

「大前提は2050年カーボンニュートラルです。日本のEV普及率は2%前後。まだアーリーアダプター段階を完全に抜け切れていません。一方でHEV(ハイブリッド車)が新車販売の6割超を占める、世界でも特殊な市場構造です」

ただ、その前提自体が揺らぎ始めているという。

「欧米では環境政策の見直しが進み、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢を背景に、エネルギー安全保障の重要性が高まっています。

カーボンニュートラルに向けたEV普及施策をどのように修正するべきかの議論は当然必要です。その中で、政府および地方自治体のEV、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(水素燃料電池車)に対する補助金のあり方そのものが再考の時期に来ています」

実は、自動車市場の二大巨頭である米国と中国でも、EVシフトに変化の兆しが見え始めている。米国では、バイデン前政権が推進してきたEV優遇策を、トランプ政権が次々と撤回。ゼネラルモーターズはEV関連投資の縮小に動き、フォードもEV部門で巨額の損失を計上するなど、潮目は変わりつつある。

だが、現地の評価は立ち位置で変わる。民主党寄りで環境意識の強い自動車関係者は強気にこう言い張る。

「補助金頼みの段階が終わり、市場の自立が試されている」

一方、トランプ政権寄りの自動車関係者は冷ややかに見る向きが多い。

「ゼネラルモーターズとフォードの戦略変更は、実需が伴っていないことの表れでは」

EV大国と呼ばれる中国も例外ではない。購入補助金は終了し、各自動車メーカーは値下げと低金利ローンで需要をつなぎ留めているが、販売競争は激化。BYDを筆頭に価格破壊が常態化し、中堅・新興メーカーの淘汰(とうた)が進む。

そんな世界情勢の中で、日本はなぜ1100億円もの公費を投じるのか。前出の自動車誌元幹部は、その狙いをこう読み解く。

「EVを単なる"商品"としてではなく、社会インフラや産業基盤の一部として組み込む発想です。評価では電池調達の安定性や重要鉱物の確保といった要素も重視される。

背景には、レアメタルや電池サプライチェーンを巡る地政学リスクを回避したいという意図も透けて見えます」

注目されるのが日産。量産EVの先駆者でありながら、今は経営再建の途上にある。今回のCEV補助金は日本のEV市場を拡大・活性化できるのか。

桃田氏はこう断じる。

「起爆剤にはなりません。ユーザーもディーラーも、補助金はすでに織り込み済み。むしろ怖いのは補助金が廃止された瞬間。そこで一気に販売は冷え込むでしょう」

補助金依存の市場構造は、それだけ脆(もろ)い。そして最大の課題はEVのリセールバリュー(下取り価格)の低さだ。

「バッテリー劣化の可視化は進んでいますが、それだけでは足りない。EVを社会インフラとして本当に根づかせる制度設計と、ユーザー側の意識変化がなければ、根本解決にはなりません」

物価高にもがき苦しむ大多数の国民にとって、CEV補助金は直接的な恩恵を実感しにくい制度であるのは事実。1100億円もの税金を投じてまでEVを選別することが、本当に"未来への投資"と呼べるのか。その点について、国民の納得は得られていない。

Photo Gallery

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP