【緊急検証】トランプの暴走は、幼少期の家族関係やトラウマが生んだ「自己愛性パーソナリティ障害」の影響なのか?

取材・文/川喜田 研 写真/共同通信社

「文明が滅びる」発言、自身をキリストに模した生成AI画像。エスカレートする言動に、国内外で精神状態への懸念が噴出!「文明が滅びる」発言、自身をキリストに模した生成AI画像。エスカレートする言動に、国内外で精神状態への懸念が噴出!

過激な言動を繰り返すトランプ米大統領に対し、今や支持層の内部からも異変を指摘する声が上がり始めている。では、この異変を精神医学的に見たとき、その振る舞いはどうとらえられるのか。臨床心理学の専門家であるトランプのめいが暴いた家族の過去から、その危うさの根底に迫る。

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【かつての支持者も「狂っている」と批判】

過激な言動がエスカレートするトランプ米大統領について、精神状態を危惧する声が高まっている。注目すべきは、深刻な懸念を抱いているのが、以前からトランプに対し批判的な民主党やリベラル層などの左派だけに限らないという点だ。

かつてホワイトハウスの報道官を務めたステファニー・グリシャム氏や弁護士を務めたタイ・コブ氏といった第1次トランプ政権のスタッフも、トランプの言動に関して「明らかに狂っている」「正常ではない」と批判し始めているのだ。

また、民主党のジェイミー・ラスキン下院議員は4月10日付でホワイトハウスの主治医に公式書簡を送り、「大統領の公的な声明や感情の爆発が、ますます支離滅裂で不安定かつ卑俗で、常軌を逸した威嚇的なものへと変化しており、全米で大統領の認知機能や職務継続に関する精神的適格性への懸念を駆り立てている。

わが国が戦争状態にあり、その戦争が大統領によって議会の宣誓や同意なしに開始された今、アメリカ国民は、最高司令官がその職務に不可欠な任務を遂行するだけの精神的能力を備えていると信頼できなければならない」と、大統領の認知機能に関する検査を行なうように要求した。

しかし、ホワイトハウスは「大統領は依然として頭脳明晰で精神状態にはなんの問題もない」と、これらの指摘を一蹴。トランプ自身も、自らを批判したかつての支持者らを「連中は低IQの負け犬で、頭がイカれた狂人だ!」と意に介していないようだ。

こうした応酬を、アメリカ在住の作家でジャーナリストの冷泉彰彦氏はこうみる。

「おそらく、トランプ自身はなぜ自分が右派からも批判されているのか理解できていないのだと思います。彼の言動が支離滅裂なのは今に始まったことではありません。

そもそも、自分の発言が論理的に破綻しているとか、過激で汚い言葉を多用することが問題だとは考えていない。それどころか、そうした言動こそが支持の源だとすら思っていたはずです。

ところがここにきて、支持層からも批判の声が上がり始めた。彼はそれを受け入れられず、さらに過激な言葉でののしり、結果として暴走を強めてしまっている状況です」

暴走をさらに加速させているのは、周囲に止める人間がいないという現実だ。

「第1次トランプ政権の前半には、途中で退任した大統領首席補佐官のジョン・ケリーなど、周囲にトランプをいさめられる人たちがいて、一定の抑止になっていました。ですが、現在の第2次トランプ政権には、そうした役割を担う人物が見当たらない。

もはや誰も話題にしませんが、最近は単純な言い間違いも増えています。認知機能の衰えが、彼の暴言や暴走に輪をかけている部分もあると思います」

【トランプはパーソナリティ障害?】

それにしても、〝世界で最も強い権力を持つ存在〟であるアメリカ大統領が、しかも核のボタンを握る米軍の最高司令官が、精神に問題を抱えているとしたら......。考えるだけで恐ろしい話である。

そこで、今改めて注目されているのが、2020年に出版された『世界で最も危険な男「トランプ家の暗部」を姪が告発』(小学館)という一冊だ。

2020年7月刊行(日本語訳は同年9月刊行。現在は絶版)。トランプ氏のめいで臨床心理学の博士号を持つメアリー・トランプ氏による告発本は、発売初週で約95万部を売り上げるヒットを記録し、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストでも首位を獲得した2020年7月刊行(日本語訳は同年9月刊行。現在は絶版)。トランプ氏のめいで臨床心理学の博士号を持つメアリー・トランプ氏による告発本は、発売初週で約95万部を売り上げるヒットを記録し、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストでも首位を獲得した

ドナルド・トランプのめいで、臨床心理学の博士号を持つ著者のメアリー・トランプ氏が、叔父ドナルドが育ったトランプ家の特殊な家庭環境や彼が成長過程で負ったトラウマ(心理的外傷)など、身近な家族だけが知るトランプ家の暗部を告発。彼の過激で自分本位な言動を「パーソナリティ障害」と呼ばれる、一種の精神疾患である可能性を指摘している。

「発売後、アメリカではベストセラーとなり、トランプがどのような家庭で育ったのかを広く知らしめた一冊です。今では、あの本で描かれたトランプ家の特殊な環境や生い立ちは、多くの人にとって〝前提知識〟のようなものになっている。いわば、トランプという人物を理解する際の共通認識をつくった本だと言えるでしょう」

では、本書が指摘する「トランプは深刻なパーソナリティ障害を抱えている」という見立ては、果たしてどの程度、妥当なのだろうか?

精神科医でパーソナリティ障害に関する著書も多い、岡田クリニック院長の岡田尊司氏に聞いてみた。

「まずお断りしておくと、実際に診察していない人物について診断を行なうことはできません。従って、この本の内容やトランプ大統領の言動だけで、パーソナリティ障害だと断定することはできないのです。

その上で、アメリカ精神医学会が定めた診断基準に照らしてみると、これほど多くの項目に当てはまるケースも珍しいと思います。

また、その背景をトランプ一族の家庭環境、特に親子関係に求めるこの本の指摘についても、親族として内情を知る立場にあり、臨床心理学の博士号を持つ専門家でもあるメアリー氏ならではの視点で、一定の説得力があると感じます」

では、そもそもパーソナリティ障害(人格障害)とは、どのようなものなのか。岡田氏はこう説明する。

「パーソナリティ障害とは、その人の考え方、感じ方や対人関係、行動や感情の反応などが社会の常識から著しく偏った状態が長期間続き、それが本人の生きづらさや苦痛となる精神障害です。

ときには、その苦痛の原因を周囲に求めてしまい、攻撃的な言動として表れることもあり、結果として社会生活や人間関係に支障を来すこともあります」

昨年、ホワイトハウスの主治医は、トランプ氏の頻繁なゴルフでの勝利を健康の証拠に挙げ、認知機能も身体も良好だと強調した昨年、ホワイトハウスの主治医は、トランプ氏の頻繁なゴルフでの勝利を健康の証拠に挙げ、認知機能も身体も良好だと強調した

ちなみに、アメリカ精神医学会の定める診断基準では、パーソナリティ障害は大きく3つに分類されている。

現実認知のゆがみや対人関係の困難さが特徴で、「奇妙」「風変わり」といった印象を持たれやすい【クラスターA】。感情の起伏が激しく、対人関係や行動において衝動性や自己中心性が強く表れやすい【クラスターB】。そして、不安や恐怖を基盤とし、対人関係において過度に慎重になったり回避的になりやすい【クラスターC】だ。

「トランプ氏の言動を見ていると、【クラスターB】の特徴が色濃く表れていると考えられます。中でも、メアリー氏が指摘するように、『自己愛性パーソナリティ障害』に最も該当するでしょう。

その病理をひと言で言うと、幼い〝誇大自己〟が大人になっても強く残っている状態です。自分は特別なのだという意識や、強い称賛への欲求があり、究極的には『万能な神のように崇められたい』という願望につながる。最近のトランプ氏の言動には、そうした内面が表れているように見えます。

『自己愛性』以外にも、ルールや他人の権利を軽視し、嘘や衝動的な行動が目立つ『反社会性』、注目への欲求が極端に強く、感情表現が大げさになる『演技性』などの傾向も見られます」

ちなみに、自己愛性や反社会性の障害に共通するのは、幼少期に共感能力が十分に育たず、結果として極端に自分本位になりやすい点だという。

「その背景には、いわゆるネグレクトがあるでしょう。乳幼児期に自分の気持ちを映し返してくれる存在が欠けると、共感力が十分に育たないケースが多いのです。

トランプ氏の父親は、思いやりや共感力を弱さと見なし、『ビジネスで成功するためには冷酷なキラーになれ。やられる前にやれ』という価値観で息子を育てました。また、そんな父親に押し潰されてしまった兄(メアリー氏の父)を見て育った経験も重なり、人格形成を大きくゆがめた可能性があります。

こうした点を踏まえたメアリー氏の指摘は、私の専門である愛着障害の視点から見ても説得力があります」

つまり、幼少期の環境が、現在のトランプの言動に影響を及ぼしているとも考えられるのだ。

「パーソナリティ障害の問題は、社会の一般的なルールや常識を共有できないこと。そうした行動をアメリカの大統領が取ってしまうのは問題でしょう。

さらに厄介なのは、強い権力を持つ人の場合、そうした言動を止めたり、いさめたりする人を排除してしまうこと。そのため、本人の葛藤や苦悩を引き起こしている問題が自覚されないまま、周囲に責任転嫁し、思いどおりにならないと怒りに任せて攻撃することがある。

そこに加齢による前頭前野の衰えが重なれば、認知機能の低下によってブレーキも弱まり、ただでさえ難しい感情のコントロールはさらに困難になります」

ちなみに、メアリー氏は、著書の中で「この危険な男を絶対に大統領にしてはいけない」と警鐘を鳴らしていた。今、その言葉は現実の重みを持って突きつけられている。

  • 川喜田研

    川喜田研

    かわきた・けん

    ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。

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