
堂本光一
Koichi Domoto
堂本光一の記事一覧
1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟氏がデビューした1987年頃からF1のファンに。
公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】
「今年のレースはあまりに複雑になりすぎて、昨年までのように戦略を予想して楽しむことができなくなった」と語る堂本光一
3月末に開催された第3戦の日本GPから約1ヵ月のインターバルを挟み、アメリカのマイマミGP(決勝5月3日)から2026年シーズンのF1が再開する。今年から新しいレギュレーションが導入されたが、開幕からの3戦でさまざまな課題が噴出していた。
そこで国際自動車連盟(FIA)はインターバルの間に関係者と会談を重ね、マイアミGPからエネルギーマネージメントに関するレギュレーションを調整することを発表した。予選で全開走行を増やすことや安全性の向上が目指されているが、果たしてルール変更はどんな影響をもたらすのだろうか?
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マイアミGPからエネルギーマネージメントに関するレギュレーションがいろいろと変わり、ドライバーから不満が出ていた予選は全開で走れる時間が増え、安全性の問題も対策がなされることになります。
レギュレーション変更について話す前に、自分の意見を明確にしておきます。いろんな考え、立場の方がいらっしゃると思いますが、僕はひとりのファンとして、F1は自然吸気(NA)のV8やV10エンジンで、100%持続可能燃料を使用してレースをしてほしい。それが一番の希望です。
世の中の流れや自動車メーカーの考え方を反映させたレギュレーションのもとで行なわれる、世界最高峰のモータースポーツがF1だと思います。今年から導入されたレギュレーションは2020年の後半ぐらいから検討が始まったと言われていますが、その頃から世界情勢や自動車メーカーを取り囲む環境は大きく変わりました。
2020年や21年の頃には世界の自動車メーカーは電気自動車(EV)に完全シフトしており、メルセデスは2030年までに新車販売のすべてをEVにすると宣言。ホンダも2040年にはすべての新車販売をEVと燃料電池車(FCV)とする目標を掲げていました。
ところがEVシフトは見直され、ハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)が再評価され、持続可能燃料を使って内燃機関(エンジン)を使用する道も残そうという流れも出てきています。だから将来、V8やV10を使ったF1に回帰するのも選択肢のひとつとして残すべきだと思います。
しかしF1では、エンジンと電気モーターの出力比率が50対50という現行のパワーユニット(PU)レギュレーションが導入され、開幕から3戦が終わったばかりです。今シーズンはルールを微調整しながら、これが世界最高峰のモータースポーツだというレースをしてほしいと思いますが、今のレギュレーションはあまりにも複雑です。
マイアミGPでマシンの大型アップデートを予定しているフェラーリ。開幕から3連勝中のメルセデスの勢いを止めることができるか
マイアミからのルール変更では、予選での1周あたりの最大エネルギー回生量が8メガジュール(MJ)から7MJに引き下げられ、スーパークリッピング時の最大出力が予選と決勝の両方で従来の250kWから350kWに引き上げられることになりました。
ですが、予選1周あたりの最大エネルギーの回生量や、スーパークリッピングの最大出力が変更されることで、何がどうなるんだということが、普通にレースを見ていたらわからないと思います。
新しいレギュレーションのもとで、ドライバーの仕事は増えただけでなく、かなり複雑になっています。予選で一発のタイムを出すために、そしてレースで勝つために、F1マシンをドライブしながらタイヤマネージメントをし、かつ効率的にエネルギー管理もしなければならない。
それなのに、ドライバーが「どこでどうエネルギーを充電して、どこで使うか」と頭を使いながら走る"大変さ"が見ている側には伝わってこないですし、われわれファンがドライバーに求めているのは「そこじゃない」という気持ちもあります。
F1は、地球上で最速のコーナーリングマシンです。驚異的な性能を備えたモンスターマシンをドライバーが自らのテクニックで操り、限界ぎりぎりのスピードでコーナーを駆け抜けていく。そんなシンプルですが迫力のあるレースを見たい。
その上で、ドライバーが抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げる姿を見て、「すごいな」と感激する。そういうF1ドライバーを、僕はヒーローだと思っていました。
でも現在のレギュレーションでは、ドライバーがコーナーを攻めたら逆にタイムが遅くなってしまうという現実があります。だから高速コーナーでスーパークリッピングするケースが目立っています。
つまり、ドライバーが全開で走行していてもスピードが落ちて充電している状態になっているのです。ドライバーからすればこんなストレスはないですし、それは見ている方も面白いと思えません。
F1は世界最速のコーナーリングマシン。それが今、揺らいでいると僕は感じています。
第3戦の日本GPでようやく今季初完走したアストンマーティン。ホンダPUの振動問題がどれだけ改善されているのか、マイアミで真価が問われる
マイアミでのレギュレーション変更の一環として、スタートでの安全性を確保するために新しいシステムが導入されることになっています。スタートで大きく出遅れたマシンがあったら、それを検知して、MGU-Kを自動的に作動して最低限の加速をサポートするというものです。
スタートに関しては一番クラッシュも多いですし、安全を第一に考えなければならないと思います。でも少し前まではスタートでストールするマシンはよくありましたし、始動できないマシンに後続車がぶつかるというケースもありました。
スタート時のリスクを低減するのは大事ですが、外部からマシンのシステムに介入してまで支援する必要があるのかなと正直、疑問に感じます。
また日本GPでは、電気エネルギーの使い方の違いによって大きな速度差が生まれたことで、ハースのオリバー・ベアマン選手がアルピーヌのフランコ・コラピント選手にハイスピードで接触する大きなアクシデントがありました。
その対策として、レース中のブーストの最大出力を150kWに制限し、過度な速度差を抑制するとのことです。またMGU-K は「主要な加速ゾーン」という区間では 350 kW に維持され、それ以外の部分では 250 kW に制限されるといいますが、この変更でどうなっていくのかが正直よく見えないですし、すごく人為的に感じます。
繰り返しになりますが、とてつもない速さとコーナリング性能を備えたマシンをF1ドライバーという生身の人間がコントロールするのがF1の醍醐味であり、面白さだと僕は思います。
レギュレーションを調整して「スタートでストールしたらサポートします、危険な区間はパワー制限します」と言われても、どこか間違った方向に進んでいるように感じてしまう。それが僕の杞憂だといいのですが......。
マイマミGPではレギュレーション変更だけでなく、フェラーリ、マクラーレン、レッドブルなど多くのチームがマシンをアップデートしてくるのも注目です。日本GP後の約1ヵ月間のインターバルで、各チームがどれだけ開発できたのか? 勢力図に大きな変化が起きるかもしれません。
特にフェラーリは大がかりな改良をしてくるようなので、注目しています。開幕からの3戦を見る限り、今年のフェラーリの車体はすごく良さそうです。そこをさらに突き詰めた結果、メルセデスと互角に勝負ができるようになるのか。そこがマイアミGPの最大の見どころだと思います。
メルセデスはPUの性能だけでなく、タイヤの使い方に関してもフェラーリを上回っているといわれていますが、開幕からの3戦はいろんなことがありすぎて、タイヤにまで目がいっていないというのが正直なところです。
でもタイヤの戦略に関しては、昨年まではライブタイミングでラップタイムの推移を見ながら、「もっとピットインを引っ張ってもいいよね」とか「このペースだったらワンストップ作戦でいけるよね」などと予想する面白さがありました。
そんなふうに戦略を予想して楽しむためには、各ドライバーのマシンやタイヤの摩耗の状況がテレビの画面から伝わってくることが必須の条件でした。今年のレースはあまりに複雑になりすぎて、ドライバーが今、何をしているのか、マシンの状況はどうなのか、テレビの画面やライブタイミングを見てもよくわからないので、そういう楽しみ方もできないんですよね。
いろんな課題を抱えている現行のレギュレーションですが、必ずいいところに落ち着くと思います。それまでには時間がかりそうですが、マイマミGPがドライバー、チーム、PUメーカーなどの関係者と、世界中のファンが納得するレースへの第一歩となることを願っています。
電気自動車のFIAフォーミュラE世界選手権の最新マシンGEN4が公開された。第4世代となるマシンは2026/27シーズンに実戦デビューされる予定で、最高速度が時速335km以上。0-100km/h加速は約1.8秒という驚異的な性能を発揮する。
「新しいフォーミュラEのマシンは前のモデル(第3世代)に比べて、かなり性能が向上しているようですね。最高速やラップタイムはF1の方が速いですが、GEN4は常時四輪駆動を採用していますし、モーターは低回転から最大トルクを出せるので、0-100km/h加速はF1を上回っています。
フォーミュラEは基本的に都市部やリゾート地の市街地コースが舞台となり、レース距離は100キロ程度でF1の3分の1程度ですが、東京を始めとして世界各国で開催されています。
電気自動車のフォーミュラカーレースは、フォーミュラEという素晴らしいカテゴリーが存在するんです。F1も電動化を推進し、フォーミュラEの領域に入っていくのはどうなんだろうな......と感じますね」
13年目のシーズンを迎えるフォーミュラEの最新マシンGEN4。最大出力600kW(816馬力)、最高速度335km/h以上を誇る
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/tk.TAKEO KIKUCHI THE BOLDMAN/株式会社シビア