ひろゆき、土壌学者・藤井一至とひも解く"土の秘密"④「日本の土は、世界の中で"どれくらいいい土"なんですか?」【この件について】

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

藤井一至氏いわく日本の土は「『中の上』です。これを言うたびに『日本の土を低く評価しやがって』と怒られる(笑)」藤井一至氏いわく日本の土は「『中の上』です。これを言うたびに『日本の土を低く評価しやがって』と怒られる(笑)」

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との4回目です。ウクライナの土は、世界トップクラスだそうです。では、日本の土はどうなのか? また、日本には田んぼというコメ作りの方法もありますが、これはどれくらい有益なのかなどを聞きました。

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ひろゆき(以下、ひろ 前回はウクライナの黒土が世界最強だというお話でしたが、日本の土はどうなんですか?

藤井一至(以下、藤井 農業をやろうとすると「中の上」ですね。

ひろ なんかちょっと微妙な感じですね(笑)。

藤井 これを言うたびに「日本の土を低く評価しやがって」と怒られるんですよ(笑)。でも、どうしようもない事情があるんです。

ひろ というのは?

藤井 ひとつは地形の問題です。日本って山や川が多いじゃないですか。農地を1km四方のグリッド(格子)で区切ると、山か川が入ることが多い。平らな農地の密度が圧倒的に少ないんです。

ひろ 確かに「地平線まで畑が広がっている」という感じではないですね。

藤井 もうひとつは「土が酸性」ということです。日本は雨が多くてカルシウムなどが流れてしまうので土が酸性寄りになっている。

ひろ じゃあ「中の上」の「上」の部分はなんですか?

藤井 まず水です。世界的に見ると、水が安定してある国というのはそれほど多くない。「世界三大穀倉地帯」として知られるウクライナも雨は多くありません。日本は水が比較的安定して確保できます。それともうひとつは火山です。

ひろ 火山?

藤井 短期的には噴火で農地が被害を受けることもありますが、長期的には火山灰は栄養分のサプリになる。僕はよく野球のドラフト会議にたとえるんですが、毎年強い新人が補充されるイメージです。

ひろ 日本では土は当たり前の存在ですけど、僕が住んでいるパリは道路が全部石畳で、表面が砂だったりするんです。

藤井 地質の違いは大きいですね。ヨーロッパは石灰岩地帯が多くて、石灰岩のところは基本的に土が薄いし、失われやすくもあります。

ひろ そもそも、ヨーロッパには土が少ないと。

藤井 ただ、ないなりにうまくやってもいて、土が薄い急斜面でも育つのがブドウです。だから地中海沿岸ではワイン造りが発達した。「テロワール(風土や生育環境)」というフランス語は「テラ(土)」が語源です。フランスだけでなく、世界中どこの国の人たちも自分たちの土地の条件に合わせて最善を尽くしてきたんです。

ひろ だったら、農業に向いている土地を持つ国が作って、向いていない国は輸入すればいいんじゃないですか? 石油とかはそうなっていますよね。

藤井 それが食料だけはそうできないんです。フランスのドゴール元大統領も「食料を自給できない国は独立国ではない」という意味のことを言っていて、食料を他国に頼っている国は、いざというときに不利になります。イスラエルも乾燥地で点滴かんがいをしていて、植物の根元に水をポタポタ落として農業をしています。効率はいいとは言えませんが、ある程度は自国で作りたいんでしょうね。

ひろ 安全保障の問題ですか。いざというときに輸出を止められたら終わりですからね。

藤井 実は、それが現実に起きていたんです。2006年にベトナムで害虫が大発生したため、ベトナムは突然コメの輸出を禁止しました。日本では「国内で米が取れなくてもカリフォルニア米やベトナム米を輸入すればいい」と考える人もいるでしょうが、相手国が突然輸出をやめる可能性もあるんです。

ひろ しかも、一度、田んぼを放棄してしまうと、なかなか戻せないとも聞きました。

藤井 そうなんです。5、6年放棄するとヨシや木が生えてきて、その根っこが田んぼの下にある粘土層を突き破ってしまうんです。田んぼは水を張ることで機能するんですが、粘土層に穴が開くと水が抜けてしまって、田んぼとして使えなくなります。

ひろ 元に戻すことはできないんですか?

藤井 できないことはないんですが、ネバネバの粘土を大量に入れ直して下の層を作り替えるような土木工事が必要になります。田んぼはもともと人工的に作り上げた、かなり手の込んだ生態系なんです。「長年放置していたけど来年から再開しよう」と思っても、そう簡単にはいきません。

ひろ そもそもですけど、日本はリン鉱石が出てこないから肥料を輸入に頼っていて、完全な自給はできないですよね。

藤井 完全な自給は難しいですね。日本はリン鉱石のような肥料資源が乏しいので、その点では海外に頼らざるをえない。ただ、日本の土には見落とされがちな強みもあるんです。火山灰土には長い年月をかけて窒素が蓄えられていますし、高度経済成長期に肥料として大量投入されたリンが、かなり土の中に残っている。ですから、日本の農地は肥料を外国から入れないと即座に立ち行かなくなるほど弱くはないんです。

ひろ 知らなかったです。

藤井 さらに大きいのが田んぼです。田んぼは畑よりもはるかに粘り強い。肥料がゼロでも収穫がゼロにはならず、半分くらいは取れることがある。しかも、それが100年単位で続く場合もあるんです。

ひろ 肥料ゼロでも取れる?

藤井 水を張ることで藻類や微生物が働き、大気中や土の中から養分を引き出してくれます。山からも栄養分が流れてきます。水田は水さえあればある程度は自力で栄養を回せる仕組みになっている。日本に山が多いことがここでは強みになります。

ひろ それだけ水田は生産性が高いのに、なぜアジア以外に広がらないんですか?

藤井 水田って手間がかかるんですよ。特に用水路やあぜのようなインフラの整備、除草、育苗、水管理など。日本の農業用用水路を全部合わせると約40万kmにもなります。つまり地球から月までの距離を根性でつないだ。普通そこまでの土木工事はできません。

ひろ アジアは人口密度が高く、人手があったからですかね。

藤井 ヨーロッパの小麦栽培は「農業は種をまいたら育つもの」という感覚が強い。日本の田んぼを見た海外の研究者は「これは農業じゃなくてガーデニングだろ」と驚いていました。明治の初めにアメリカから来た研究者も日本の農業を見て、「パーマネントなアグリカルチャー」と評したんです。

ひろ 今だと〝持続可能でいい農業〟みたいに聞こえますけど。

藤井 当時の意味は「ずっと同じことを繰り返していて、進歩のない農業」という意味でした。アメリカ型の大規模で効率化された農業から見ると、日本の農業は古くさく、停滞しているように映ったんでしょうね。

ひろ 面白いですね。昔は「停滞している」と見られていた日本の農業が、今は逆に持続的な仕組みとして見えてくる。食料安全保障まで含めて考えると、かなり合理的かもしれないですね。

藤井 生産性だけに最適化された農業は、海外からの肥料や燃料の供給、物流が揺らぐと一気に不安定になります。土は「中の上」でも、水や栄養分の循環と持続性という日本の農業の強みを忘れないようにしたいものです。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など 

■藤井一至(Kazumichi FUJII) 
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など

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  • ひろゆき (西村博之)

    ひろゆき (西村博之)

    にしむら・ひろゆき

    1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など

  • 藤井一至

    藤井一至

    ふじい・かずみち

    1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など

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