
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
「本当です。『ホームセンターに培養土が売ってるじゃないですか』とツッコまれますが」と答える藤井一至氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との2回目の対談です。前回は「土とは何か?」を聞きましたが、今回は「人類は土を作れるのか?」問題について。僕らは本当に土についてほとんど知らないんですね。
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ひろゆき(以下、ひろ) 「人類は〝土〟を作れない」と聞いたんですが、本当ですか?
藤井一至(以下、藤井) 本当です。日本に住んでいるとなかなかピンとこないですよね。日本はそこら中に土がありますから。
ひろ 確かに。公園に行けばいくらでもある(笑)。
藤井 そう(笑)。で、「土が作れない」と言ったときにまず返ってくるのが「ホームセンターに培養土が売ってるじゃないですか」というツッコミなんです。
ひろ 僕も思いました。あれって作った土を売っているわけじゃないんですか?
藤井 あれは、すでに出来上がった土をブレンドしているだけです。山から採ってきた砂や腐葉土を混ぜて袋に詰めている。工場でゼロから合成しているわけではないんですよ。
ひろ 「土そのものを作ったわけじゃない」ということですね。
藤井 そうです。人類がこれだけ科学技術を発展させても、作れるものは「化学構造や反応式がわかっているもの」に限られています。例えば、納豆は大豆に納豆菌を加えれば作れる。納豆は関わる微生物もかなり限られていますから、比較的単純なんです。
ひろ でも、土は作れないと。
藤井 土って、例えば落ち葉が分解されて土になっていく過程だけを見ても、ひとつの場所で1万種類くらいの微生物が関わっていることがあるんですよ。
ひろ 1万種類!? そのうちの1000種類くらいなくても作れる気がしますけど。
藤井 それは......実際そうです(笑)。ただ、私は比較としてよく人間の腸内細菌を挙げるんですが、人間の腸内細菌の数は約1000種類です。
ひろ 土の10分の1ですね。
藤井 もちろん腸内も十分複雑ですが、土はさらにその上をいきます。私たち人間が食べるものって、ある程度限られているじゃないですか。だいたい似たようなものを食べている。だから1000種類くらいでもなんとかなる。
ひろ でも、土はもっと多いと。
藤井 そうです。落ち葉、枯れ枝、根っこ、動物の死骸や排泄物などさまざまです。しかも、分解しづらいものばかり。さらに環境も過酷です。腸の中みたいに体温によって温度が一定に保たれていて、湿っていて、栄養も入ってくる、という世界ではない。乾いたり、濡れたり、暑くなったり、寒くなったり、栄養も乏しかったりする。あと、腸内細菌って世代交代がかなり早いんですよ。
ひろ どれくらいなんですか?
藤井 早いものだと8時間くらいで入れ替わります。だから消化もテンポよく進む。でも、土の中の微生物はもっと遅い。3ヵ月とか半年くらいのスパンで世代交代していくものが多いんです。
ひろ 寿命が長いんですね。
藤井 長いです。というか、「どれだけ我慢できるか」なんです。厳しい環境の中でじっと耐えて生き延びる。そういうタフさを持った〝選ばれし微生物〟が土の中にいるんです。
ひろ 腸内細菌が〝美食家のエリート〟だとすれば、土壌の微生物は〝サバイバルの達人集団〟みたいなものですかね。
藤井 そうですね。ただ、土の中の微生物って、土から取り出した瞬間にほとんど培養できなくなるんですよ。
ひろ 日に当たったり、空気に触れたりしただけでもダメになる、みたいなことですか。
藤井 ええ。温度や湿度、酸素の量、周囲にいるほかの微生物、そういう条件が少し変わるだけで生きられなくなる。よく腸内細菌の話に「善玉菌」と「悪玉菌」が出てきますが、土の中はそんなに単純じゃないんです。
ひろ というと?
藤井 ある微生物が出したゴミみたいなものを、別の微生物が分解してくれる。すると最初の微生物も快適に生きられる。そういうふうに、ものすごく細かい分業と助け合いで成り立っているんです。だからネットワークごと持ってこないと機能しない。わかりやすい例だと、ミミズです。
ひろ よく「ミミズのいる土はいい土」と言いますよね。
藤井 実際、ミミズがいる土はいい土であることが多いんです。じゃあ、ミミズがいる場所からミミズを持ってきて、自分の家庭菜園のプランターに入れればいいかというと、そうではない。
ひろ どうなっちゃうんですか?
藤井 逃げます。だいたいミミズは逃げ出して、コンクリートの上で干からびていたりします。
ひろ そんなに、その場所が嫌なんだ(笑)。
藤井 嫌なんです。ミミズも案外デリケートで、温度、水分、pH(酸性・アルカリ性の度合い)、周囲にいる微生物、その全部が「自分向き」に整っていないと居心地が悪い。自分が長い時間をかけてなじんできた土の環境じゃないと、うまく生きられないんです。土の中の生き物って、案外みんなそんな感じなんです。
ひろ それを聞くと、「土を作る」って、単に材料を集めて混ぜる話ではなくて、その場所にしかない生態系を丸ごと成立させる話に見えてきますね。
藤井 そうなんです。だから難しい。よく砂漠の緑化で「資材を入れて緑にしました」みたいな話があるじゃないですか。
ひろ ありますね。木質ペレットみたいなものをまいたりして。
藤井 あれも、ある意味では〝土作り〟です。また、農業でも「今年一年、うまく作物が育つように」と堆肥を入れることを〝土作り〟と言ったりします。それ自体は間違いではありません。ただ、私がここで言っている〝本物の土〟との違いは、毎年、人間が手をかけなくても維持できるかどうかなんです。
ひろ そこが分かれ目なんですね。
藤井 例えば、培養土って最初の1年はすごく優秀なんですよ。ジャガイモなんかも、かなりよく取れます。でも、1年たつとガチガチに固まってしまう。なぜかというと、そこにはミミズや小動物や、多様な微生物が十分にそろっていなくて、土をふかふかに保ち続ける仕組みが弱いからです。
ひろ 最初はいいけど持続しない。
藤井 自然の土だったら、放っておいてもある程度ふかふかの状態が維持されます。でも培養土は人間が耕し直さなくてはいけない。ある意味、人間がミミズの役割をしているんです。
ひろ 人が面倒を見る前提の土なんですね。
藤井 そうです。本物の土のすごさって、そこなんですよ。「自分で自分を維持できる力」こそが、土のいちばん本質的な機能なんじゃないかと私は思っています。
ひろ つまり、「植物が1回育つ材料」は人間でも作れるかもしれないけれど、「放っておいても生き物たちが勝手に働いて、ずっと土であり続ける仕組み」は、まだ人間には作れないと。
藤井 そういうことです。だからこそ、人間はまだそのシステムを完全には模倣できず、本当の意味での〝土〟は作れないんです。
ひろ なるほど。「土は作れない」という理由が、ようやくわかりました。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など





