「AV新法」は、施行から4年経ち目的を果たしているのか?

取材・文/浜野きよぞう

2022年6月に成立し、施行された「AV出演被害防止・救済法」。いわゆる「AV新法」と呼ばれる法律の施行から4年がたとうとしている今、業界の現状や問題点をあらためて浮き彫りにしたい。

【AV新法が成立・施行に至るまでの経緯】

AV出演による強要・被害の防止と、被害者の救済を目的に成立した「AV出演被害防止・救済法」、通称「AV新法」が施行されて、今年の6月で4年になる。さまざまな懸念材料があるAV新法だが、まずは成立・施行に至るまでの経緯を振り返っておこう。

2015年頃からしばしば報道されるようになったAV出演強要問題。AVライターの芝田カズさんが解説する。

「AV出演を巡って契約時に十分な説明がなかったり、性的行為を強要されたり、断ると多額の違約金を請求されるなどの事案が発生して社会問題となりました」

こうした状況を受けて、17年4月に法曹関係者が中心となった「AV人権倫理機構」が発足。第三者の立場から業界の発展と健全化を目指して設立され、契約書の整備や撮影内容の事前説明など、次々と自主規制を導入していった。そのかいもあって出演被害は激減し、AV出演強要問題は沈静化していくのだが......。芝田さんが続ける。

「22年4月、成人年齢が18歳に引き下げられ、18歳、19歳が未成年者取消権を失うことが不安視されました。これまでは法定代理人(主に親)の同意なく契約などをした場合、本人または親が無条件で取り消せましたが、この権利が消失したわけです。

これが契機となって、国会ではAV出演を巡る特別法の検討が急速に進められていきました」

同年4月中旬、与野党6党によるプロジェクトチームが結成され、5月13日には発足からたった1ヵ月でAV新法の骨子となる内容を立案。そして、同27日に衆議院本会議で、6月15日には参議院本会議で可決。

22日に公付され、移行期間を設けることもなく、なんと成立からわずか8日後の23日にAV新法は施行されたのだ。これは異例のスピードといえよう。

また、本来はAV出演における被害を防止し、出演者を保護する目的で施行されたはずの法律だが、業界内では不満の声も多く聞こえてくる。

AV男優歴33年のベテランで、AV出演者の有志が集まって設立した「映像実演者協議会」の監事でもある、桜井ちんたろうさんは言う。

「第一に私が問題だと思うのは、出演者やメーカーなど現場の人間へのヒアリングが一切なく施行されてしまったことです。被害者をなくすための法律とはいえ、新法がどう現場に影響するのか。そのあたりが一切考えられていないような印象を受けました」

AV男優歴33年の大ベテランにしてAV監督としても活動する桜井ちんたろうさん。映像実演者協議会の監事も務めるAV男優歴33年の大ベテランにしてAV監督としても活動する桜井ちんたろうさん。映像実演者協議会の監事も務める

また、AV女優の水谷梨明日さんはこう憤慨する。

「私が気になったのは、法律を読めば読むほどAV出演者はだまされやすく、逆にAV制作側はだます悪い人という前提に立っていることです。新人女優ならともかく、私たちはそこまで弱者ではないし、制作側にもいい人はたくさんいます。この前提が職業差別にもつながっていることは、とても残念に思います」

2023年にAVデビューした水谷梨明日さん。帰国子女で、現在はAV女優と大学生の二足のわらじをはく2023年にAVデビューした水谷梨明日さん。帰国子女で、現在はAV女優と大学生の二足のわらじをはく

それらを踏まえて、AV新法の問題点として真っ先に挙がるのが、「1-4(イチヨン)ルール」と呼ばれる熟慮期間の確保だ。これは「契約から撮影までは1ヵ月、さらに撮影から公表までは4ヵ月空けること」を義務づけたもの。

これによって出演者は、契約はしたものの気が変わって出演を中止したり、撮影した作品を発売前に取り下げることも可能になった。

「確かに、右も左もわからない新人女優や、社会経験の少ない若い方には、必要なルールだと思います。とはいえ、中堅やベテランを問わず、このルールをすべての出演者に当てはめるのはいかがなものか。

また、契約から発売まで最低でも5ヵ月の熟慮期間を設けることで、当然メーカーのお金の回りは悪化します。その結果、制作される作品が減っていき、収入が減ってしまった出演者が多くいるんです」(前出・桜井さん)

この「1-4ルール」で最も深刻なのは、代役不可になったことだ。1ヵ月前に契約した出演者しか撮影できないため、病気やケガが原因で出演が難しくなった場合でも、代役を立てることができない。桜井さんが続ける。

「代役が立てられないため、撮影が中止になると、多くの人に迷惑がかかります。押さえたスタジオ代などの無駄な経費もかかってしまう。それは忍びないと、多少の体調不良なら無理して現場に駆けつけることになりかねません。これこそ本末転倒で、出演者を守るための法律が、結果的に出演強要につながっていく可能性もあるんです」

この契約から発売まで最低5ヵ月かかることと、代役不可の実情は、メーカーに多大な負担を強いている。それが作品数の減少や出演者の収入減にも直結。桜井さんによれば、男優の場合、ギャラが安くて需要の多い若手は収入がほとんど変わらないものの、ベテランになるほど大変で、収入が半減しているケースもあるという。

ちなみに、監督としても年に20本程度の作品を撮っている桜井さんが、現在の制作費事情を打ち明ける。

「20年前ぐらいの一番いい時期で1本150万~200万円でした。新法前の4、5年前で80万~90万円、今は60万円くらいです。これには女優さんのギャラ以外の人件費、スタジオ代、弁当代などの雑費がすべて含まれていて、残ったものが監督のギャラになります。決して良くはないですね」

【より良いAV新法にするためには?】

〝21世紀の禁酒法〟とも揶揄されるAV新法。現実を無視した規制をかければ、地下化していくというのは歴史が証明している。前出の水谷さんが心配の声を上げる。

「必ずしもAV新法の影響だけとは言い切れませんが、適正AVから離れる女優さんが増えているのは事実です。彼女たちは違法な同人AVへ行ったり、無修正のライブチャットや海外売春など、地下に潜る流れが加速しています」

AV新法の影響は、制作スケジュールにも及んでいる。水谷さんが説明する。

「多くの新人女優は、デビュー作撮影後の半年くらいはまったく仕事がなかったりします。実は私もそうでした。やはりメーカーとしては、デビュー作の内容や売れ行きを確認した上でオファーをしたいわけです。

でも、せっかく覚悟を決めてAVに出たのに、半年も仕事がないというのはけっこうきついですよね。幸いなことに私はデビュー作が好調だったので、発売直後からたくさん声をかけていただいたので良かったですが」

トレンドが追えないというマイナス効果もある。前出の芝田さんが説明する。

「近年だと〝逆バニー〟のように、大ヒットした作品に他メーカーがすぐ追従して、業界で一大ブームを巻き起こすことが多々ありました。でも、今は最短でも5ヵ月後の発売になり、大きなムーブメントができにくくなっています。

季節モノのAVも作りづらくなりました。それは真冬に夏の海を舞台にしたり、真夏にクリスマスがテーマの作品を作るのが難しいからです」

問題点が取り沙汰されることの多いAV新法だが、もちろん良かった点もある。前出の桜井さんは言う。

「契約内容をきちんと書面で残せるようになったのは非常に良かったと思います。事前に撮影内容がわかるのもありがたく、現場でむちゃな要求をされることはほぼなくなりました。ひどいときは、1カラミの予定が3カラミになっていたこともあったので」

AV新法の勉強会参加者。(前列右から)足立康史参議院議員、水谷さん、MCのひろゆきさん、小林修平衆議院議員、音喜多駿元参議院議員、(後列右から)要友紀子さん(人権活動家)、守如子さん(関西大学社会学部教授)、桜井さん、亀山早苗さん(映像実演者協議会代表理事)AV新法の勉強会参加者。(前列右から)足立康史参議院議員、水谷さん、MCのひろゆきさん、小林修平衆議院議員、音喜多駿元参議院議員、(後列右から)要友紀子さん(人権活動家)、守如子さん(関西大学社会学部教授)、桜井さん、亀山早苗さん(映像実演者協議会代表理事)

女優としての立場から水谷さんが言う。

「私はAV出演者というのが法律でしっかり定義されて、その存在が法的に認められたことはとても有意義なことだと思います。また、AVに出たいと思った人に、しっかり考えてねというメッセージになっているのも良かった点です。

ほかの性産業では、契約書を読み上げたり、プロデューサーのような立場の人が出てきて説明してくれるようなことってないですよね。それだけで、新人は大ごとなんだと認識しますから」

今年4月24日、衆議院第一議員会館において、AV新法を中心とした勉強会が開催された。参加した国民民主党の足立康史参議院議員は、「AV新法を改正する見込みはほとんどない」とコメント。

いわく、「国会内で適正な改正に向けて動いているものの、規制緩和すべき派と、もっと強化するべき派が存在。さらには、新法には触れてくれるな派もいて、政治情勢的に難しいのが現状」と説明した。前出の桜井さんが言う。

「改正が難しいなら、せめて追加条項として『1-4ルール』の緩和と『条件付きの代役の承認』を推し進めたい。キャリアのある出演者に5ヵ月もの猶予期間は必要ないし、体調不良などの緊急事態時の代役だけでも認められれば、それだけでAV業界の混乱はかなり防げるはずです」

最後になるが、AV新法の附則第4条には「施行から2年以内の見直し」が明記されているが、4年たつ今も実施されていない。ともあれ、きちんとルールを順守し、いい作品を作ろうとAVに真摯に向き合っている人たちを守ってくれるAV新法になることを願ってやまない。

Photo Gallery

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP

週プレNEWS春のプレゼントキャンペーン