オンラインゲーム、SNS、教育子供を狙った"密室支配"の実態を被害者たちが告白! 世界中で社会問題化する「性加害グルーミング」の毒牙

取材・文/ツマミ具依 写真/PIXTA 時事通信社

教育現場だけでなく、オンラインにも広がるグルーミング被害。加害者は心理カウンセラーも顔負けの傾聴力で距離を詰めてくる(写真はイメージ)教育現場だけでなく、オンラインにも広がるグルーミング被害。加害者は心理カウンセラーも顔負けの傾聴力で距離を詰めてくる(写真はイメージ)

加害者が「良き理解者」を装い子供を心理的に支配し、性的暴力に及ぶ「性的グルーミング」。全肯定や共感で信頼を勝ち取り、心身の境界線を溶かしていく。被害者である子供たちは相手を信じ込むため、逃げ場を失い沈黙する。そのおぞましき犯罪の実態に迫る。

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【「娘は加害者に全幅の信頼を置いていた」】

「同世代の女の子の家に行く。そう言って出かけた中学3年生の娘が実際に向かったのは、画面越しにしか会ったことのない成人男性の自宅でした」

浜村 弘さん(仮名・41歳)は、苦渋をにじませながら当時の状況を語る。娘がその男と知り合ったきっかけはアクション系のオンラインゲーム。当時、不登校気味だった娘は、一日の大半をゲームに費やし、eスポーツ分野への進路を希望していたという。

「学校になじめていない様子だったので、趣味を通じて外部にコミュニティを持つこと自体は肯定的にとらえていました。娘の趣味を否定せず、共通の話題として尊重するようにも努めました。ただ、親として相応の目配りはできているという自負が、油断につながったのかもしれません」

ある日、娘から「ゲーム友達の家に行く」と言われた。相手は同世代の女子だと聞かされていたため、素直に送り出したという。夕方、娘は門限までに何事もなかったかのように帰宅したが、その2日後に事件が発覚する。 

「実は20代の男の家に行き、部屋で襲われたと打ち明けられました。ほかの友達も来ると聞いていたのに、行ってみれば男とふたりきり。

男はフォロワーを多数抱えるゲーマーでした。娘は憧れの存在に近づきたい心理を計画的に利用されたのです。オンラインで共闘し、SNSでもつながれたことで、娘は相手に全幅の信頼を置いていた」

浜村さんは有害サイトのフィルタリングなどの対策は講じていたが、娘が複数のSNSアカウントを使い分け、親の把握できない領域で交友を広げていることまでは看過していた。「厳格なルールを強いると親子関係が決裂するかも」というためらいが、結果的に加害者に隙を与えてしまったと浜村さんは後悔する。

DMで男性に性的画像を送ってしまったという鎌田さん。「教育に厳しい家庭環境への反抗心もあった」と振り返るDMで男性に性的画像を送ってしまったという鎌田さん。「教育に厳しい家庭環境への反抗心もあった」と振り返る

鎌田奈緒さん(仮名・21歳)も、中学2年生の頃にSNSを通じて被害に遭った。

「当時は性被害に対する具体的なイメージがなく、警戒心が完全に欠如していました。加害者にまったく悪い印象を抱いていなかったことが、今思えば不思議であり不気味です」

当時、鎌田さんは日常の不満や趣味をSNSに投稿していた。顔写真や学年は伏せていたが、日常生活の記述から、加害者は彼女を「中学生」と特定したのだろうか。やがてDMで頻繁に雑談を交わす相手が現れる。

「相手は顔写真も出していましたが、本当に普通のおじさん。でも、何を言っても否定せず、聞き役に徹してくれる。小さなことでも肯定し、褒めてくれるんです。

毎日のようにやりとりを重ねるうち、『手を見たい』と言われ、写真を送ると『指がきれいだね』と言われました。異性から承認される経験が乏しかった私は、その甘い言葉に舞い上がってしまったというのが本音です」

要求は「私服を見たい」「顔が見たい」へとエスカレートし、最終的に裸の画像を求められた。「一生のお願い」「誰にも見せないから大丈夫」としつこく迫られ、根負けして送信してしまう。

「そのときもまだ相手を善意の人と信じていたので、関係を断つことが怖かった」

後に母親がやりとりを発見し、事態は警察沙汰となった。鎌田さんは、母親が教育熱心で家庭環境が厳格だった反動から「ありのままの自分を褒めてくれる存在」を外に求めていたという。

加害者は、こうした思春期特有の孤独感や承認欲求を入り口にして、子供の心の中へ土足で踏み込んでくる。

このような「手なずけ」を用いた性加害の手口は『性的グルーミング』と呼ばれ、近年、世界的に深刻な社会問題となっている。性加害者への再犯防止プログラムに取り組む、西川口榎本クリニック副院長の斉藤章佳氏は、その実態をこう解説する。

「性的グルーミングの本質は、加害者が被害者に『自分たちは特別な関係にある』と思い込ませる、心理的な支配環境を構築することにあります。加害者はまず、家庭不和や孤独感を抱えた『脆弱な状態』にある子供を冷徹に見極めて近づく。

そこで心理カウンセラーも顔負けなほどの受容・共感・傾聴を使い、子供の承認欲求を満たしつつ、自他の境界線(バウンダリー)を少しずつ侵害していきます」

「バウンダリー」とは、心理学上の自分を守るための心身の境界線。加害者はこの線を、暴力ではなく「重要な理解者」という仮面によって、性的意図を隠しながら、子供が気づかないように侵害していく。

「加害に及んだ後は、『ふたりだけの秘密』という形で周囲から心理的に隔離し、戦略的に口を封じます。彼らの手法は巧妙で、大人でも容易には見破れない。被害者の中には、加害者のことを〝日だまりのような人〟と回想することすらある。子供から被害の自覚を奪う、いびつな心理的拘束がグルーミングの恐ろしさです」

バスケチームの監督から20回以上も性暴力被害を受けたという嘉手川さん(左)。同様の被害を同級生たちも受けていたことを後年になって知るバスケチームの監督から20回以上も性暴力被害を受けたという嘉手川さん(左)。同様の被害を同級生たちも受けていたことを後年になって知る

この心理的な罠を、今から18年前に実際に経験した当事者がいる。沖縄県那覇市議会議員の嘉手川航汰さんだ。嘉手川さんは小学校5、6年生の頃、バスケットボール部の外部指導者から継続的な性被害を受けていた。

「その指導者は保護者からの評判も良く、子供からも〝優しいお兄さん〟と慕われていました。部活終わりに『まだ教えたいことがあるから公園に行こう』と誘われたときは、自分だけが期待されているようで純粋にうれしかった」

そこから斉藤氏が指摘する、段階的な「手なずけ」が始まった。公園での練習はやがて、自宅でのゲームや映画鑑賞への誘いに変わる。

「最初から不自然な要求をされていたら身構えたでしょう。でも、日常の延長線上の誘いだったので、気づいたときには逃げ場のない『心理的密室』に嵌まっていました」

何度目かの訪問で「ちょっと寝ようか」とベッドに案内された。眠りに就こうとしたとき、指導者に股間を触られ、口淫された。

「当時は何が起きているのか理解できず、とにかく怖くて寝たふりをし続けました。でも、最終的には抵抗できませんでした」

指導者からは「君は特別だから呼んだ。誰にも言わないでね」と秘密の共有を強いられた。

「彼は監督でもあった。声を上げればチームが崩壊し、保護者たちが苦労して探した指導者がいなくなる。自分が我慢すれば丸く収まる。そう自分に言い聞かせ、耐え続けるしかありませんでした」

加害者がつくり上げた「秘密」を守るために、被害者自らが沈黙という名の防壁となってしまったわけだ。

嘉手川さんの調査によれば、同じ指導者による被害者は少なくとも6人。加害者は行為を認めたものの、反省の色はなく開き直ったという。

【社会問題化する「ロブロックス」】

かつては学校などが犯行現場だったが、現在はその場がオンラインへとシフトしつつある。SNSの普及と利用者の低年齢化が、加害者に接触チャンスを与えてしまった。

とりわけ今、世界的に問題視されているのが、米国のゲーミングプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」だ。ユーザーが自らゲームや仮想空間(メタバース)を作成し、他者と共有できるプラットフォームである。

基本は無料で利用でき、低年齢層を中心に爆発的に普及しているが、それゆえに各国でグルーミング被害が続出している。

昨年、アメリカでは9歳の男児がロブロックス内で子供のふりをして接近してきた男に、性的な画像を送るよう求められた事件が発生。今年2月にも同国でロブロックスでのコミュニケーションをきっかけに12歳と14歳の姉妹が誘拐されている。

ガジェットライターの武者良太氏も、ロブロックスの構造的危うさを指摘する。

「ロブロックスでは加害者が自ら『密室』となる部屋を作成し、子供を容易に招き入れることができます。そこでは、ゲーム内通貨を豊富に持つ者や、人気ゲームのクリエーターが、絶対的権威として君臨します」

運営側もAIによる顔年齢推定やチャット制限の強化を進めるが、実態はいたちごっこだ。

「AI生成した3Dモデルで認証を擦り抜けたり、年少者のアカウントがダークウェブで売買されたりしています。テキストチャットは検閲できても、リアルタイムのボイスチャットでの『生の声』によるマインドコントロールを完全に監視するのは、現代の技術でも困難です」

ロブロックスの問題は日本にとっても対岸の火事ではない。主要コンビニでの課金導線が整うなど利用環境は拡大しており、国内でも今後被害が表面化する可能性は高い。

ロシア、アルジェリア、イラク、エジプトなど、複数の国が子供の安全を理由にロブロックスへのアクセス規制を強化しているロシア、アルジェリア、イラク、エジプトなど、複数の国が子供の安全を理由にロブロックスへのアクセス規制を強化している

3月からインドネシアも「高リスク」と認定したサービスについて16歳未満の利用を禁止。これにはロブロックスも含まれている3月からインドネシアも「高リスク」と認定したサービスについて16歳未満の利用を禁止。これにはロブロックスも含まれている

【日本版DBSの限界】

一方で、教育現場という「リアルの密室」も依然として深刻だ。文部科学省の調査では、児童生徒らへのわいせつ行為等で処分された公立学校教員は、2024年度で281人。12年連続で200人を超える異常事態が続いている。

前出の斉藤氏も「再犯防止プログラムを受ける子供性加害者の約3割が子供関連の仕事に従事していた」と警鐘を鳴らす。

今年12月からは「日本版DBS(こども性暴力防止法)」が施行される。性犯罪歴を照会し、犯歴のある人物を子供と接する職種から排除する仕組みだ。

「学校や保育園など認定施設・事業所の透明化には一定の効果があるでしょう。しかし、現行制度ではボランティアスタッフが対象外となるなど死角は多い。何より、オンライン上のグルーミングを規制することは不可能です」

性的グルーミングから子供を守ることは至難の業だ。斉藤氏は「実際の加害が起きる前の『手なずけ』の段階で第三者が介入するのは極めて難しい」と語る。

「オンラインでの自衛策として、アプリの利用制限やフィルタリングの設定を推奨するが、それも万能ではない。SNSを使いこなす現代の子供は、容易に解除法を自力で検索し、突破してしまいますから。やはり、家庭や教育現場での啓発活動に重心を置く必要があります」

斉藤氏が対抗策の柱に据えるのが「包括的性教育」だ。

「体の仕組みだけでなく、自分や他者を大切にする人権教育がベースです。どんなに親しい相手でもプライベートゾーンを無断で触ることはNGという『体の権利』について学ぶことで、子供は初めて被害を認識し、早い段階で信頼できる大人につながることができるのです」

加害者は孤独や隙を冷徹に見極める。だからこそ、日頃からの親子関係が最大の防波堤になると斉藤氏は説く。

「性に対して『恥ずかしい』『汚い』という誤った認識を持つ前に、正しい情報を伝えていく。大人が自身の失敗体験を共有するなど、日頃から対話できる関係性を築いておくことが、子供をグルーミングの罠から遠ざける鍵です」

12月から本格始動する日本版DBSは、犯歴のある加害者の物理的な排除に寄与する一歩に過ぎない。制度の限界を認め、その隙間を包括的性教育という個々の知性で埋めていく。それこそが、巧妙なグルーミングを防ぐ抑止力となるのだ。

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