
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
9月6日、ドイツのザクセン=アンハルト州議会選挙において、AfDが歴史的な大勝を収めた。その直後、同州筆頭候補で州首相候補でもあるウルリヒ・ジークムント氏は、両手を挙げて歓喜。右手だけを挙げていないところが注目すべきポイント(写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――ドイツで行なわれた州議会選挙で極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」が躍進しています。9月6日にはザクセン=アンハルト州で得票率43.8%と圧勝。20日にはメクレンブルク=フォアポンメルン州で38.2%を獲得し第1党に。メルツ首相率いる保守与党「CDU」の得票率は4.9%となり、戦後初、全ての議席を失いました。
これは、歴史的敗退です。旧東ドイツ地区から「ドイツ第四帝国」が確実に爆誕しております。
佐藤 始まりましたね。さらにベルリン市長選では、旧東ドイツの社会主義統一党の流れをくむ左翼党が獲りました。中道的なのは元気がなく、極端な方向に振れてています。
しかし両党とも、「戦争を止めろ」「ウクライナ戦争に関与するな」という点では共通しているんです。
――それに関してプーチン露大統領は言及してはいませんが、評価はしていますね。
佐藤 はい。ただし、AfDはナチスとは違います。なぜなら、AfDにはナチスのような人種主義イデオロギーがないからです。ナチスはユダヤ人から人権と市民権を取り上げるニュルンベルク法を作りました。さらにナチスは"アーリア純血種"の確保・増加のため、ノルウェーで「人間牧場」を作っていました。
AfDはこうしたことは考えていません。要するに、ナチス登場以前のドイツの右翼です。だから、狙っているのはポーランド、それからロシアの飛び地・カリーニングラードなどです。どちらも第二次世界大戦で"不当に奪われた領土"だと認識しているはずですから。
――ポーランドはウクライナ国境に韓国製の戦車と自走砲を並べて、対露軍防衛陣地を構築しています。しかし、ドイツへの警戒を考えると、西側のドイツ国境にも作らないといけなくなる。
佐藤 このままドイツの右翼が台頭すれば、「歴史的に自分たちの土地であるプロイセン、東プロイセンを返せ」と言い出すことも今後、十分考えられます。
――すると、今のドイツの与党が展開している「ナチス再興への警戒」は嘘で、実態はナチスが現れる前の健全なドイツ右翼ということなんでしょうか?
佐藤 はい。ある意味、健全かどうかはわかりませんが、ドイツらしい右翼政党が出てきたわけです。ドイツ国歌には「世界のトップたるドイツ」といった歌詞がありますが、まさに国歌の通りの道を進んでいます。
――この連載で以前、モンティ・パイソンのコント番組を紹介していただきました。イギリスの田舎にヒトラーが潜伏して選挙に立候補するという内容でしたが、現代ではまた違う展開になりますね。
佐藤 AfDとナチスを同一視すると、事の本質を見誤ります。国民が望んでいるのはナチス再興ではありません。国民が要求しているのは、戦争に余計な金を使うよりバターに金を出せという話です。
――素晴らしい。ただAfDは、学校でドイツ人クラスと移民クラスに分けると主張してます。
佐藤 しかし、このことは裏返して言うと、いわゆる"3K"、汚い仕事・きつい仕事・危険な仕事を移民にやらせず、自分たちドイツ人でやろうということになります。
いろんなことを移民などに押し付けず、全て自分たちでやるのがドイツらしさだ、と考えているんです。
――そりゃ、AfDは支持されますね。
佐藤 だから、それから左翼党にも反グローバリズムという点ではAfDと共通の要素があります。
――そう考えると、ベルリンの女性市長とニューヨーク市長を同じ左翼だと捉えると、ちょっと違いますね。
佐藤 はい。左翼党はスターリン主義の系統のドイツ社会主義労働党が源流です。憲法体制を破壊する可能性があるということで、ドイツ憲法擁護庁の監視対象になっている団体ですからね。
日本でいえば、革マル派や中核派と一緒です。なので、革マル派が市長になったというくらいの感じです。
――それは何とも言えないナイスな感じになってきました。でも、ドイツを一番恐れているのは隣国のポーランド。フランスはどうなっているんですか?
佐藤 フランスは、とにかく大意を交わして東に行ってください、といった感覚です。
――するとポーランドは大変だ。そのポーランドが西行きを恐れているロシアは、今回のドイツの選挙結果をどう見ているのですか?
佐藤 ロシアからすれば、この結果は「対露強硬路線を進むドイツ指導層に、有権者が異議を唱えた」という物語に使えるでしょう。
プーチンはこのAfDの勝利についてはコメントしていませんが、欧州で現在起きていることは「政治、安全保障、経済の各分野における西側のグローバリズムのシステムエラー」だと言っています。AfD、つまり健全なドイツ右翼の台頭はそのひとつだと判断しています。AfDにナチスというレッテルを貼っても、実態は違いますからね。
――プーチン大統領の言う「グローバリズムのシステムエラー」とは、ヨーロッパの崩壊に繋がるのですか?
佐藤 その「システムエラー」をそのまま欧州の自壊と読むべきではありません。起こり得るのは連立交渉の難航、対ウクライナ支援や財政負担をめぐる対立、EU内の意思決定の遅れです。それは政治的な機能低下であり、欧州が必然的に崩壊するという予言ではありません。
――そうなんですね。ヨーロッパの崩壊と早とちりして、カナダのEU準加盟がその崩壊の始まりと思ってしまいました。EUの準加盟でトランプ米大統領はカナダに怒りまくっていますから。
佐藤 そのEU準加盟は、カナダがウクライナ問題から引けなくなることを意味しています。
――なんでまた、カナダが遠いウクライナに?
佐藤 カナダには西部ウクライナの出身者がすごく多いんです。カナダで一番喋られている言葉が英語で、次がフランス語です。そして3番目がウクライナ語というほど、ウクライナ人がカナダで暮らしています。
――なんと。カナダも移民の国ですからね。
佐藤 だから、カナダがヨーロッパと一緒にやっていくのは、ウクライナ支援の意味合いが大きいんです。カナダのウクライナ支援は、内政問題なんですよ。
――ややこしくなっているんですね、世界は......。
佐藤 カナダは、米国と本格的に事を構える腹があるため、生き残るためにはヨーロッパの後ろ盾が必要です。だから、カナダはヨーロッパと一緒になるということです。
――カナダはもう腹をくくったんですか?
佐藤 くくっています。トランプに飲み込まれる可能性がありますからね。
――これは「ドイツ第四帝国」の隣国・ポーランド、フランス、そしてトランプ第二帝国と国境を接するカナダは、戦争の前に外交交渉ですね。
佐藤 はい。これは幕末の徳川幕府が見せた対露外交に学ぶべきですね。
1861年に露海軍軍艦が対馬を占領していました。ただ、「これは戦争だ」と仕掛ければ当然負けます。そこで、幕府は幕臣・竹内保徳を正使とする使節団をヨーロッパに送り、その一行をロシアのサンクトペテルブルクにも赴(おもむ)かせました。そうしたら、その露海軍軍艦艦長が勝手にやっていた、ということになりました。
そして結果的に、幕露交渉は合意に至りませんでしたが、話し合いは続けるとの条項を入れました。その精神を学ばないとなりません。
――それで、幕府は自力だけでは露艦を退去させられないので英国に協力を求め、結果、露艦は約半年後に対馬から撤退したと。
佐藤 その後、徳川幕府は独自交渉して、英国も対馬に寄せ付けないようにしました。
――これは、いまの高市幕府も学ばないといけないテクニックですね。
佐藤 それは無理でしょうね。高市幕府にそんなダイナミックなことはできません。国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長の件でも、プロの外交ができていませんでした。だから、一番いいのは何もしないことですよ。
――「何もしない」、それが高市幕府の外交方針なんですかね。
次回へ続く。次回の配信は10月23日(金)を予定しています。