ひろゆき、生物学者・小林武彦と考える「命」について①「『ヒトはなぜ死ぬのか?』知ってますか?」【この件について】

構成/杉原光徳(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

東京大学定量生命科学研究所教授で、生物学者の小林武彦氏東京大学定量生命科学研究所教授で、生物学者の小林武彦氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回から新しいゲスト、生物学者の小林武彦さんをお迎えして、「寿命」「老化」「幸せ」などについて考えていきます。最初のテーマは「ヒトはなぜ死ぬのか?」。当たり前のことのようですがその理由はわかりますか?

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ひろゆき(以下、ひろ 今回から新しいゲストをお迎えしています。「寿命」や「老化」に詳しい東京大学定量生命科学研究所教授で、生物学者の小林武彦先生です。

小林武彦(以下、小林 よろしくお願いします。

ひろ 先生の著書『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)はベストセラーになっていますよね。でも、普通の人は「なぜ死ぬのか?」なんて、普段考えないじゃないですか。「死ぬのは当たり前」で済ませちゃう。

小林 そうですよね(笑)。でも、そこには生物としての明確な理由があります。

ひろ 僕は「強い遺伝子を残すために生物は死ぬことにしている」と思うんですが、どうなんでしょう?

小林 鋭いですね。基本的に〝死〟は、生物の〝進化〟と〝多様性〟を促進してきたと思います。

ひろ ということは、個体が死ぬかどうかよりも「種として繁栄することのほうが大事」ということが遺伝子に組み込まれているわけですか?

小林 そうとも言えます。基本はそれぞれが生き残ることが重要ですが、多くの動物は集団で生きているわけですから、長い目で見れば種としての繁栄につながります。

ひろ でも、種の繁栄を無視して生きている生物もいますよね。例えば、深海生物みたいに単独で生活しているものとか。それでも、種として集団で繁栄する仕組みは残るものなんですか?

小林 はい。多くの生物は有性生殖(精子と卵子が合体して新しい個体をつくる)です。パートナーがいなければ種が途絶えてしまいます。ですから、ひとりで生きているように見えても、どこかでパートナーと巡り会って子孫を残してきました。

ひろ なるほど。

小林 例えば、オランウータンのオスは基本的に単独行動です。群れをつくりません。でも、数少ないメスとの出会いのときには交尾をして子孫を残してきた。そして、そこには非常に強い「選択圧(環境の変化に強い特定の形質を持つ個体だけが生き残れること)」がかかっています。

ひろ ダイオウグソクムシ(深海200〜1000mに生息する巨大なフナムシのような生物。寿命は20〜40年)みたいに何年も動かない生物もいますけど、生殖しているんですか?

小林 しているはずです。そうでなければ進化して生き残れませんでしたから。ただ、その瞬間を観察できるかどうかは別問題です。

ひろ まあ、そうですよね。

小林 深海生物でいえば、ダイオウグソクムシは比較的メジャーな部類ですけど、レアなものとして北極海の海底に「ニシオンデンザメ」というサメがいます。ニシオンデンザメは450年くらい生きるといわれているんですよ。

ひろ 450年もですか!?

小林 しかも、成熟するまでに150年くらいかかる。

ひろ その成熟期間中に死なないのはスゴイですね。

小林 海底や地中深くにいる微生物も同じだと思いますが、環境があまり変わらない所にいる生物は、基本的に選択圧が低いんです。だから、進化がゆっくりでも生きてこられたものが多い。シーラカンス(「生きた化石」といわれる魚で、約3億5000万年前から姿をほとんど変えずに生きてきたといわれている)もそうですよね。

ひろ 環境が変わらないから進化しなくていいと。

小林 一方で環境が激しく変わるところでは、選択が頻繁に起こります。昆虫は寿命が短く、種類がものすごく多いですよね。彼らには非常に強い選択圧がかかっています。例えば、ある種のガは木の皮に擬態できないと鳥などにすぐ食べられてしまう。そういう「少しでも間違ったら死ぬ」という環境では、進化の速度が速くなるんです。

ひろ 敵が増えたり、環境が厳しくなると、その環境に合わせて進化できた種だけが生き残ると。

小林 ただ、それが目的だったわけではなくて、結果的にそうなったんだと思います。

ひろ ということは、ニシオンデンザメのように環境変化が少ないところで暮らす生き物は、種としてはあまり進化していないんですか?

小林 そうとも言えます。だから、環境が大きく変わったときには全滅する可能性も高いんです。過去にそういう種はたくさんいたはずです。寿命は長かったけれど、環境の変化に対応できず絶滅した。今、幅を利かせている生き物の多くは、寿命を短めにして多様性を持ち、環境の変化に対応してきた生物なんです。

ひろ ちなみに、恐竜の寿命は長かったんですか?

小林 恐竜は寿命が長いものも短いものもいたと思います。

ひろ そうなんですね。

小林 ただ、同じ系統の生き物で比べると、体が大きいものほど寿命が長くなる傾向があります。齧歯類でもハツカネズミのように10cmくらいの小さい動物は人間が大切に育てても寿命は2年ほどです。一方で、少し大きいカピバラやビーバーになると10〜20年くらいは生きます。

ひろ それって、人間にも当てはまるんですか?

小林 いや、人間には当てはまりません。

ひろ 人間は身長や体格によって、寿命は変わらないっていうことですね。

小林 だいたいそうですね。統計的にみると、日本人で一番長生きしやすいのは、中肉中背でやや太り気味くらいの人です。

ひろ ここまでの話をまとめると、生物としては早めに死んで世代交代をして、遺伝子をどんどん入れ替えたほうが種としては繁栄しやすいということですよね。でも、人間は個体として長生きしたがる。それは遺伝子の命令に逆らっているように思えるんですけど。 

小林 そうですね。

ひろ じゃあ、人間の場合、寿命が長い人にみんなが憧れて、寿命が長い人同士が交配した結果、寿命が延びたという可能性はあるんですか?

小林 丈夫な人同士という意味ではあると思います。ただ、長寿そのものが直接選択されたと考えるのは少し難しいですね。というのも、生殖年齢は比較的若い時期ですから、その時点で相手が80歳まで生きるのか100歳まで生きるのかはわかりません。

ひろ 確かに。じゃあ、人間が長寿になった理由は別にあるということですか?

小林 はい。私はそう考えています。その大きな要素が〝人間の社会性〟だと思っています。

ひろ お、気になりますね。そのへんは、次回ゆっくり教えてください。

小林 はい。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など 

■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI) 
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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  • 小林武彦

    小林武彦

    こばやし・たけひこ

    東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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