南ハトバ
みなみ・はとば
南ハトバの記事一覧
文筆家・漫才師・僧侶。上智大学法学部国際関係法学科、大正大学大学院仏教学研究科を経て、現在は実家の寺の副住職としての活動をしつつ、芸人としても舞台に立つ。趣味は暗闇ボクシング・テレビ鑑賞・パワースポット巡り・念仏。得意分野はエンタメ全般・プロレス・ドイツ憲法・二十五三昧会。
センダイガールズプロレスリング。2006年に元GAEA JAPAN・里村明衣子と、みちのくプロレス・新崎人生により旗揚げ(11年からは里村が代表)。写真の左上から時計回りにスパイク・ニシムラ、橋本千紘、岩田美香、岡優里佳、YUNA、高野玲菜、愛海
チケットは即完売、客席には往年のプロレスファンのみならず新規のファンが殺到。仙台発・少数精鋭の女子プロレス団体「仙女(せんじょ)」が、プロレス界をぶち抜いて空前の熱狂を起こしている。武道館満員へと突き進む女戦士たちの熱き舞台裏――!!
「勢いはけっこう『ぶちあげ系』ですね~(笑)。1年前には想像もできなかったくらい、幅広い年代の人に見てもらえていて本当にうれしいです!」
そう声を弾ませるのは、センダイガールズプロレスリング(以下、仙女)所属の若手レスラー・YUNAだ。
20周年を迎えた今年、宮城県仙台市を拠点とする20人足らずの少数精鋭団体に異例の事態が起きている。都内興行は完売が相次ぎ、客席には往年のファンだけでなく、若い女性グループや「YouTube番組での密着を見て、何十年ぶりかにプロレスを見に来た」という元プロレスファンの姿も目立つという。
飛躍の大きなきっかけが、今年1月にYouTubeで配信を開始した密着ドキュメンタリー番組『仙女魂/日本武道館への道』だ。選手の妊娠や緊急搬送の裏側など、プロレス界の〝聖域〟を公開し、チャンネル登録者数5万人余りながら総再生回数は3300万回を突破した。

仙女を率いるのは、世界最大手プロレス団体・WWEで選手兼コーチとしても活躍し、団体の経営に専念するため、昨年現役を引退した〝女子プロレス界の横綱〟里村明衣子(さとむら・めいこ)だ。里村が経営専任となってから、仙女の業績は飛躍的に伸びた。里村が明かす。
「昨年から比べてだいたい3倍ほどの売り上げになっています。会場動員・グッズ収入・スポンサー収入などが全体的に増えた形です。
ただ、同時にスタッフや選手も5人増えたんですよ。1人雇うだけでも大変で......。利益を考えると『もっと頑張ろう』という気持ちになります(笑)」
団体代表として挨拶をする里村明衣子(46歳)。"女子プロレス界の横綱"として国内のみならずWWEでも活躍。長与千種のまな弟子でもある
スター選手だった里村の引退を感じさせない現在の仙女の勢い。ここまで早く軌道に乗ると思っていたのだろうか。
「乗せなきゃいけないと思っていました。私の引退で団体が低迷してしまったら『やっぱり里村の団体だったんだ』で終わってしまう。引退後に団体としてもっと花を咲かせることが目標でした」
里村の引退から始まった〝仙女第二章〟。その中心は現在所属する選手たちだ。
「今のチャンピオンである橋本千紘(はしもと・ちひろ)を中心にうまくまとまっていますね。それを後から入団した高瀬みゆき・水波綾(みずなみ・りょう)が盛り上げてくれています。
これから団体を大きくしていくために即戦力が欲しくて、長年フリーでレギュラー参戦していた2人に声をかけました。彼女たちの入団あたりから団体の雰囲気も一気に引き締まって、変わり始めました」
団体のエースであり、団体最高峰のベルト・センダイガールズワールドシングル王座を持つ橋本千紘(34歳)
学生時代はアマチュアレスリングでも高い実績を獲得した、まさに武闘派
仙女の収入のうち、スポンサー収入は全体の10%に抑えている。プロスポーツビジネスではかなり低い割合だ。
「うちはスタッフが少ないので、スポンサーを増やすとすべてにきちんと対応し切れません。それに万が一、選手や会社の不祥事が起きた際、スポンサー収入が0になる可能性もある。そうしたリスク対策の面もあります」
むやみに数を追わず、一社一社に丁寧に対応する。この細やかな営業方針により、仙女のスポンサーは80%が20年前から継続して支援を続けている。
さらに興行数に関してもこだわりがある。
「興行を増やせば動員は増えますが、うちは無理に増やさない方針を取っています。仙女はシングルマッチやタッグマッチなど少人数での試合が多く、選手にかかる負担が大きい。しっかりした試合を見せるためには月5、6試合がベストだと考えています。
それに試合数が多すぎると『こなして終わり』になりかねない。だからこそ、各大会にテーマを掲げ、一試合一試合を大切に見せたいんです」

里村は仙女が現在注目されている理由を、選手たちの「人の良さ」だと語る。YouTubeの密着番組『仙女魂』では、リング上での激しい闘いとは違った、団体の明るい様子が視聴者に人気だ。
「会社の雰囲気が悪いと稽古や試合だけでなく収益にも関わってきます。プロレスって〝人〟でできている商売ですから。選手の人の良さはすごく大事なんです」
また、選手たちが今エネルギーにあふれる活躍ができているのは里村の方針もある。里村は長年女子プロレス界で三禁とされていたもの(酒・たばこ・男)を近年解禁した。
「何かを禁止することは選手個人の感性を削ってしまうことだと思うんです。レスラーで一番大事なものは感性。削らずどんどん磨いてほしい。
特に恋愛については積極的にしたほうが自身の経験になる。私は10代から20代の大事なときに恋愛ができなかったことを唯一悔やんでいます。今の選手たちにそんな思いをさせたくないんです」

ちなみに、前出のYUNAは「声優の津田健次郎のような男性」がタイプだそうだが......。
「めっちゃ恋愛したい!と言いつつ、何もないまま入門から3年が過ぎました(笑)。休日も趣味の音楽が楽しくって。なかなか時間がないんですよね~」(YUNA)
当分はプロレスと音楽を恋人に感性を磨く日々が続きそうだ。
今でこそ経営的に安定しているが、そこまでの道のりは険しかったと里村は振り返る。
「17年目、つまり3年前くらいまでは運営も安定していなかったですね。独立当初はほぼひとりで全部をやっていました。ミスも多く、人を雇ってもすぐ辞めてしまう苦境から、最近やっと抜けられました」
大会の宣伝のため夜中に電信柱にチラシを張っていると、警察に捕まって注意を受けたこともあったという。
「情けないことがあっても、何かつかんでからでないとやめられない」と必死でもがいているとき、仙女と並行して、選手兼コーチとして米最大手団体・WWEと契約した。
「21年からWWEと契約して、本当に年収がゼロ1つ変わったんです。それまではどれだけ会場が満員になっても自分の役員報酬は抑えていた。実はその頃までは若手とほぼ同じ年収でした。
WWEですごくいい経験をさせてもらって、やっぱりレスラーはここまでいかなければと気づきましたね」
酸いも甘いも知る里村の人生が、現在の経営方針に生きている。
だが、急成長ゆえのひずみも生まれている。看板選手である橋本はこう明かす。
「現場のスタッフの人数が足りていないんです。選手も事務作業をしますが、練習もしなくちゃいけない。
会場もだんだん広くなってきて準備が大変だったり、次から次へと通販の注文が来て発送が追いつかなかったり。勢いに人手が追いついていない感じはありますね」
仙女はリング上での激しい闘いから〝武闘派〟と呼ばれることが多い。体重の乗ったハードコンタクトな技の数々に、観客は息をのみ、選手たちの痛みと本気に熱狂する。
その独自のスタイルが世間に伝わった転機を里村はこう明かす。
「うちの団体は昔から武闘派と呼ばれていたのですが、それが一目でわかるような象徴的な存在がいなかったんです。
そこにアマレス出身の橋本と、柔道出身の優宇(ゆう/現在は引退)が組んで『チーム200キロ』というタッグを結成した。
ビジュアル的にも内容的にも強さがわかりやすくなって、他団体との違いが出たことで『いけるな』と思いましたね。チーム200キロが仙女を高めてくれました」

仙女のエースである橋本も、リング上の激しい闘いについて胸を張る。
「仙女の選手はみんな仲が良いですが、『この人になら負けてもいい』と思っている選手は誰もいません。いざ勝負となると、一番近い存在だからこそ『絶対負けたくない』という闘争心が大きくなる。
上を目指して強くなるための練習の頻度や強度に関しては、ほかのどの女子プロレス団体にも負けていない自負はあります」
トレーニングの段階から火花を散らし、試合で闘志を一気に爆発させる。一発の重さを大事にする背景には、里村の強いこだわりもある。
「最近はSNSの切り抜き動画の影響で、いいシーンだけをまねしたような試合が増えたと感じます。自分に合ったポリシーがないように思えるんです。タックルひとつ、フォールひとつにしても、人を動かすのはすごく大変。一挙一動の基礎をおろそかにせず、大切に見せるプロレスを届けていきたいです」(里村)
こうした本物の闘いを追う仙女が大きな目標として掲げているのが「日本武道館興行を満員にすること」だ。
橋本は「現在の達成度は60%。代々木(代々木競技場第二体育館)大会や仙台サンプラザホール大会といった大会場も確実に満員にすることが課題です」と現在地を語る。
その武道館への〝道〟を追い、ファン拡大に一役買っているのがYouTubeドキュメンタリー番組『仙女魂』だ。
動画を制作する映像ディレクターは坂上祐生(さかうえ・ゆうき)。東出昌大や二子山部屋のYouTube番組にも携わってきた敏腕ディレクターだ。
坂上は『仙女魂』を「武道館を満員にするための壮大なあおりV」として位置づける。
「プロレスと縁がなかった人でも面白いと思ってもらえるよう、業界用語をわかりやすく解説したり、リング設営風景など、視聴者の知らない世界を見せる工夫をしています。
でも何より、仙女は人に魅力があってキャラクターが全員しっかりしている。最強の橋本さん、ザ・プロレスラーの岩田美香さん、意外性の岡優里佳さん。個性豊かな選手たちが試合ではバチバチやり合うからこそ面白い。
動画でパーソナルな部分を知ることで『この選手を実際に見たい』と会場に足を運んでくれるんだと思います」
長期間密着をしている坂上が『仙女魂』で特に印象に残った場面として挙げるのが、今年デビューを果たした新人・高野玲菜のエピソードだ。
「高野さんのデビュー戦で、入場ゲートに行く前に『一言お願いします』と言ったら、『高野玲菜、プロレスラーになります!』と言ったんです。
こんな言葉が出てくるとは思わなくて驚きました。プロレスラーでいる限り、何回でも使える名シーンですよね」
高校卒業後すぐに仙女に入門し、7月にデビューした高野玲菜(18歳)
デビュー戦では大御所・アジャコングを相手に意地と気迫を見せつけた趣味は古着屋巡りと怪談ライブに行くこと
高野は番組内で入団からデビューまで密着を受け、新人として異例の注目を集めた。デビュー戦では女子プロレス界の〝大ボス〟、アジャコングと対峙し、圧倒的な力の差を見せつけられながらも、意地の一発を頭に叩き込み、膝をつかせる大健闘を見せた。
「仙女魂の動画の中に、最初にドロップキックを練習した瞬間が残っていて......だからこそ、この技を自分の中で一番いいものにできるように大事にしたいんです」
そう語る高野は、心が折れそうなときは「家でとめどなく泣いて、ポジティブに気持ちを切り替える」と笑う。苦しい練習に耐え抜き、プロレスラーの道を歩み始めたのは、強い憧れがあったからだ。
「仙女が女子プロレス界で一番強くて、カッコよかった。ほかのリングとは輝きが違った。だからプロレスラーになるなら、絶対に仙女でした。
自分がずっとプロレスに元気をもらってきたように、これからは選手として応援してくれる人たちと一緒に夢を見ていきたいです」
リングにかける本物の思いが、仙女のレスラーたちをつくり上げていく。夢を抱いた若手が加わり、20年かけて紡がれた〝仙女魂〟は、これからもより大きく輝いていく。
(敬称略)
坂上祐生が手がけるYouTube番組『仙女魂』。リング外での選手たちの自然な姿が見られる。中には選手やスタッフの間での本音のぶつかり合いなど、生々しい場面も




