
佐藤優
さとう・まさる
佐藤優の記事一覧
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
メルツ首相は「ドイツ軍の通常戦力を欧州最強にする。そのために、連邦政府はあらゆる財政的支援を提供する」と首相就任の所信表明演説をした。本当に「ドイツ第四帝国」が出現するかもしれない(写真:ゲッティ=共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――いまなお続くウクライナ戦争は「ドイツ第四帝国」がウクライナを支援。すると、ロシアのラブロフ外相が「ドイツはウクライナを使って戦争しようとしているが、ドイツが直接ロシアと戦ってもいいと思い始めているようだ」と、喧嘩を買う気十二分の発言をしました。この現代のメルツ・ナチス第四帝国はどれほどヤバいのでしょうか?
佐藤 イギリスのコメディグループ「モンティ・パイソン」が、ヒトラーを題材にしたコント番組をやっていたのを知っていますか?
――知らないですね。
佐藤 ヒトラーが身分を偽って、イギリスの田舎のB&B(民宿)に身を潜めているという設定なんですよ。見た目とカッコはそのまんまなのですが。
ヒトラーと一緒にいるのは、日独防共協定を結んだリッベントロップ外相と、SS親衛隊のトップでホロコーストの元締め、ハインリヒ・ヒムラーで、地図を見て打ち合わせをしています。
――ソ連のスターリングラードをにらんで戦争の作戦会議ですか?
佐藤 それもありますが、ヒトラーはこの田舎町の選挙に立候補して、巻き返しを図る演説をします。
――「ハイル・ヒットラー!!」のナチス式敬礼はやりませんよね。
佐藤 さすがにそれはダメですよ。
――その規制だけ守ってあとはすごいことしていますね、イギリスのTV番組は......。
佐藤 そのコントが放送されたのは1970年ですが、だいたいいまのドイツでは、こんな感じが蘇(よみがえ)ってきているわけですよ。
――また第二次大戦の亡霊が蘇ってきましたね......。
佐藤 そう思います。結局、ヨーロッパのワクチンが切れたんですよ。ウクライナでもポーランドでも。
――で、どうなるんですか?
佐藤 民主主義というワクチンが切れて、元々あった地の部分が表れてきたということです。彼らがもともと持っているドイツ至上主義が、民主主義から取って替わろうとしているんです。
――なんと! 米国の掲げる民主主義の根幹は「米国が世界の模範となる理想的な国でなければならない」でした。そして、米国の歴代大統領はその理念を「丘の上の町」と表現し、公言してきました。しかし、トランプ大統領は言ってない、もしかしたら知らないのかも。
佐藤 「丘の上の町」を作るためには、ヨーロッパのような息苦しくて宗教や階級によって分断され、差別が激しい所ではやってられないと、新天地を求めて米国に逃げてきました。しかし、その米国建国前のヨーロッパの地が出てきた感じですね。
――そのドイツ第四帝国ですが、ドイツの自動車産業が10万人の人員削減をしています。そして、中国と連携していて、その人員削減した工場を中国が買っているんですよ。「中独同盟」、これは危険ではないですか?
佐藤 それは心配いりません。「ドイツ第四帝国」が軍産複合体に移行したら、戦車を作ればいいんですから。戦車に比べたら、自動車なんか価格が安い薄利多売の商品ですよね。
――ドイツの最新型戦車・レオパルト2A8は一台48億円でありますから、厚利少売となりますね。
佐藤 それにそもそも国家予算で作るわけですから、値段なんかどうでもいいでしょ?
――そりゃもちろんそうです。すると、「ドイツ第四帝国」はムダな自動車産業を中国に投げ売りしてボロボロにさせ、俺らは戦車をガンガン作って「敵はロシアだぜ」、と。
佐藤 そうです。とにかく陸上兵器ですね。自動車から戦車への流れを作っているので、失業者が出てくれないといけないんです。そうでないと、軍産複合体で安い値段で働いてくれる労働者が生まれませんからね。
――そのことを中国は理解しているんですか?
佐藤 知らないと思いますよ。
――それ、ヤバいですね。
佐藤 だから、ドイツのほうが"ごっつあん"だってことです。
――これ、中国にすれば、1980年代のバブルに浮かれている頃、日本が米国の土地をどんどん買って有頂天になっているのと同じ構図ですか?
佐藤 そうですね。ドイツは余剰人口を生み出して、それを全て軍事産業にもっていこうとしています。そして、ドイツの戦い方の基本は地上戦なので、戦闘機にはほぼ関心がありません。
――それ、軍事マニアの自分から言わせていただくと、負け戦に邁進しているような気がするのですが?
佐藤 ドイツは一時期は威勢がいいですが、長びく戦争で勝ったことはありませんからね。
――ドイツの戦争は最初が調子良くて、だんだんとボロボロになっていきます。
佐藤 自分たちの発想に満足してしまって、柔軟性がないんですよね。
――確かに。
佐藤 でも、ドイツ問題に今から焦点を当てていくと面白いと思いますよ。
――しかし、この前の話では、対ドイツの戦争が始まると、ロシアは平気で核兵器を使うのでは、とおっしゃっていましたね。
佐藤 はい。だから、核戦争となる第三次世界大戦が近づいてきているのです。
――ドイツのビューヒェル基地に、米軍のレンタル核爆弾・B61が数十発あるらしいですよ。これ、「ドイツ第四帝国」が奪取しませんか?
佐藤 それは米国が許しません。「ドイツ第四帝国」は核ナシで戦うでしょう。
――「ドイツ第四帝国」軍は核兵器を使わず、戦車だけでどんな戦争をするつもりなんでしょう?
佐藤 「史上最大の戦車戦」として知られるクルクスの戦いを想定しているのではないでしょうか。
――「ドイツ第四帝国」の大戦車部隊が集結した時点で、ロシアが核兵器をどーんとやれば終わりではないですか? ドイツは破滅が好きな国なんですか?
佐藤 でも、核を作ることは誰も許しませんからね。
――その「ドイツ第四帝国」の精神力というか、戦車魂はあっぱれですね。
佐藤 「ドイツ第四帝国」は自分たちが本気を出せば、ロシアは退散していくと思いこんでいるんじゃないですか。
――度々この連載でも言及していますが、1944年の大日本帝国の国策映画『かくて神風は吹く』の北条時宗のセリフではないですか。《心をもって、皇御国を守らんとする、これらの赤誠、天に通ず。4000余りの敵舟を一夜のうちに覆滅し候。これ、皆、伊勢におわします皇祖神霊の御神業》と。
佐藤 ヒトラーが率いたドイツ第三帝国はヨーロッパを全て制覇して、イギリス凋落を想像しながら空軍大戦略をやっていました。しかし、それでは調子が悪いなと。
――はい、そうでした。
佐藤 その時、ドイツ第三帝国がソ連を撃つとは誰も考えていませんでしたよね。独ソ不可侵条約を締結している状態でしたし。
――はい。
佐藤 でも、やはりヒトラーはソ連に打って出ました。そういうことをする国なんです。
――そうなんだ......。
佐藤 ドイツの国益にも国民益にも、そして世界にも何も関係ないようなことに熱中してしまう。
――ドイツは総合的な判断ができない国民性なんですか?
佐藤 非常に苦手なんでしょう。しかし一方で『ミクロの決死圏』みたいな方向で進むことは得意です。
――1966年公開の映画『ミクロの決死圏』。潜航艇をミクロサイズにして、脳内出血をした科学者を救うために人体に潜航して、外科手術をする話です。これは米国製SF映画ですが、「ドイツ第四帝国」はもしかしたら現実に......。
佐藤 だから、結論からすると、日本はドイツに抱き着かれないようにすることが重要です。
――ドイツはすでに、日英伊三国共同開発のGCAP(次期第六世代戦闘機計画)に参加を検討していますよ。
佐藤 そんなことより日本は米国のロッキードマーチン社の下請けをやったほうがいいですよ。
――下手に直接関わっていたら、イタリア抜きのシン日独同盟になってしまいますからね。
佐藤 とにかく、ドイツと組んだら負け戦になるという二度の世界大戦の歴史を忘れてはなりません。
次回へ続く。次回の配信は2026年7月31日(金)予定です。