推測報道には批判の声も...。警察OB解説者大量増殖の背景にある「2026年問題」とは?

文/安藤海南男 写真/photo-ac.com

解説者やユーチューバーも警察官の再就職先として注目されつつある解説者やユーチューバーも警察官の再就職先として注目されつつある
京都府・園部町で小学生の安達結希さん(11)が3月下旬から行方不明となり、遺体で発見された事件についてマスコミでの報道が相次いだ。事件報道の過熱ぶりの中で目立っていたのが、捜査の裏側を解説する「警察OB」たちだ。

捜査の裏側や犯人像の分析を語る元警察官たちは、いまやワイドショーに欠かせない"解説者"となっている。テレビのみならずYouTubeにも活躍の場を広げるなど、自身の経験を生かして発信する多くの「ヤメ警官」が登場する中、このトレンドと「2026年問題」ともいわれる警察官の大量退職との関連を指摘する声もある。

「もういいんじゃないですか、この話」。ご意見番の一言にスタジオが凍り付いた。4月20日、テレビ朝日系で放送された昼の情報番組「大下容子ワイド!スクランブル」での一幕。京都府南丹市園部町で3月23日、当時5年生の安達さんが行方不明となり、4月13日に遺体で発見された事件についてコメントを求められた元NHKのジャーナリスト・池上彰氏が言い放ったのだ。

結希さんの行方が分からなくなり、1か月近く続いてきた事件に関する報道は、京都府警が4月16日に義理の父親である安達優季容疑者(37)を死体遺棄容疑で逮捕して以降もとどまることなく、この日の放送でも取り上げられていた。スタジオで事件についての意見を求められた池上氏だったが、事件そのものについての言及を避け、「これ以上、扱わないほうがいい」と事件に関するメディアの報道姿勢に苦言を呈したのである。

「注目事件をマスコミが集中的に報じる状況は、SNSなどで常々批判を浴びてきました。京都の事件は、子どもが行方不明となり、その後、義理の父親が逮捕されるという、ある意味でドラマ性のある展開だったこともあり、視聴率が重視されるテレビ報道にとっては格好の『素材』となっていた面もある。池上氏の発言は、視聴者の関心に引っ張られがちなそうした報道姿勢への世間の声を代弁した形でした」(ネットメディア編集者)

事件の報道が長期化したことで、視聴者の関心を引き続けられながら、池上氏のスタジオでの一言が、「メディアスクラム」とも批判される過剰報道の側面も浮かび上がらせた格好だ。一方、事件に関する報道がこれほどまでに繰り返されてきた背景には、スタジオで繰り返しマイクを向けられていた警察OBの存在がある。

「現役時代の経験があるからこそ、視聴者に分かりやすく説明できる」。民放関係者はそう語る。確かに、捜査手法や犯人心理といった専門的な内容を平易に解説できる人材は限られる。元刑事や元幹部といった経歴を持つ彼らは、事件報道に"リアリティ"を与える存在として重宝されてきた。だが、その需要の高まりの背景には、別の構造的な変化もあるとも指摘されている。

【大量退職時代に多様化する再就職先】

警察取材の経験の長いある記者は、「警察組織をめぐっては、いわゆる団塊世代の退職に続き、年齢構成の偏りに起因する『大量退職期』が到来しているとされる。警察庁の白書などでも、将来的な人員構成の変動について言及がなされてきた。具体的な数値は年次や都道府県によって異なり一概には言えないものの、一定の期間に退職者が集中する傾向があることは、関係者の間では広く共有されています」と明かす。

こうした状況を、メディア関係者の一部は「2026年問題」と呼ぶこともある。あくまで通称に過ぎないが、退職者の増加が民間への人材流出を加速させる可能性を示唆する言葉だ。実際、警察を退いた人材の進路は多様化している。

一昔前までは全国の警察官らが組合員となっている警察共済組合が斡旋する"天下り先"に再就職するのが定番だったが、警備会社や企業のコンプライアンス部門に再就職する従来型のルートに加え、コンサルタントや講演活動、さらにはメディア出演といった"発信型"のセカンドキャリアも目立つようになった。

SNSや動画配信サービスの普及も後押しし、YouTubeなどで事件解説を行う元警察官も珍しくなくなった。テレビ出演とネット発信を並行するケースも多く、「ヤメ警官」の活動領域は確実に広がっているといえるが、現役時代のキャリア形成がセカンドキャリアにも影響するとの指摘もある。

「警察官としてのキャリアが17年から20年以上あれば、特認制度で行政書士の資格を得ることができることはよく知られています。ただし、この特例が適用されるのは、警務や会計などの行政事務に携わっていることが条件となります。

そのため、たとえば殺人などの強行犯の捜査に関わる捜査1課や窃盗犯などの摘発を担う捜査3課などでの実務経験が長い警察官は、行政書士の資格を得る上では、警察でのキャリアが不利に働いてしまいます。テレビ出演する警察OBに元捜査1課という肩書が多いのには、そういった事情も関係している」(前出の記者)

【問われる推測報道の是非】

さらに、警察OBの"タレント化"の流れについては、評価が分かれる面もある。

視聴者にとっては、専門的な知見を持つ解説者が増えることは歓迎すべき変化ともいえる一方で、元捜査員としての経験が、どこまで現在の事件に適用できるのかという疑問も当然のように生じるからだ。

「現役の警察官による進行中の捜査では、公開されない情報も多い。そうした中で、スタジオでの元警察官の"推測"が事実のように受け取られる危うさは、かねてから指摘されてきた問題でもあります。スタジオでのコメントが独り歩きしてしまうリスクは避けられません。

ただ、正確さが求められる一方で分かりやすさも求められるのがテレビ報道。その隙間を埋める存在として、警察OBが重宝がられている側面は拭いきれません」(前出の民放関係者)

警察OB解説者が、推測による持論を展開する事件報道のあり方にも是非が問われている警察OB解説者が、推測による持論を展開する事件報道のあり方にも是非が問われている
大量退職期を背景に供給が増え、メディア側の需要と結びつくことで"解説者としての元警察官"という新たな役割が定着しつつあるのが現状だ。

見逃せないのは、こうした構図がテレビ報道のあり方そのものと密接に結びついている点だ。事件の経過を追うだけでなく、スタジオでの議論や解説によって番組を構成する手法は、ワイドショーの定番となって久しい。そこでは、短時間で分かりやすい説明が求められる一方で、複雑な背景や不確実性はしばしば切り落とされる。

もっとも、この流れが今後も続くかは不透明だ。退職者の動向やメディア環境の変化によっては、再び別の形へと変化する可能性もある。ただ一つ言えるのは、事件報道を取り巻く環境が大きく変わりつつあるということだ。

テレビに映る「元刑事」の言葉。その一つひとつが、視聴者の理解に影響を与える時代になった。だからこそ、語られる内容だけでなく、その立場や背景にも目を向ける必要がありそうだ。

  • 安藤海南男

    安藤海南男

    あんどう・かなお

    ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中。

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