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瓦町FLAGの中にある、高松琴平電鉄の瓦町駅
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「デパートの中の駅」について語る。
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駅ビルという言葉を聞くと、多くの人は「駅の上にショッピングセンターがのっている状態」を思い浮かべると思います。駅が主役で、商業施設はどっちかというとおまけ。改札を出て、エスカレーターで上の階に行けば、雑貨屋さんやレストラン街がある、というあの安心設計。ある意味、健全な上下関係。
ところが世の中には、その秩序がきれいにひっくり返った場所があります。駅が百貨店を支えているのではなく、百貨店に駅がのみ込まれているような構造の駅です。
その関東代表は、松屋浅草店が入るビルの2階にある、東武鉄道の浅草駅。ホームに立っているはずなのに、視界に入るのは線路よりも松屋浅草の気配。デパートの内部に列車が滑り込んでくる感じ。発車ベルより先に、今日の惣菜(そうざい)のにおいが生活感を刺激してくる(言いすぎ)。
デパートのフロアガイドに、店舗のように「東武線浅草駅」と書いてあるのもツボです。「駅とデパートが直通」とはワケが違います。
関西代表は阪急電鉄の大阪梅田駅。広大なホームに圧倒されていると、いつの間にか阪急うめだ本店のフロアに吸い込まれている。電車を降りた記憶はあるのに、「駅の外に出た」という感覚がまったくない。気づけば地下でコロッケを選んでいる。移動と買い物の境界線が、ここではとても曖昧。
香川を走る高松琴平電鉄の瓦町駅も興味深い。瓦町FLAGという商業施設の中に駅がすっぽりと収まっている構造で、改札は境界線ではなく単なるフロアの継ぎ目。駅ビル的発想なら「駅を出て施設に入る」だが、ここでは「気づいたら駅にいた」という逆流現象が起きてます。
それが地下になると、その違いがさらに曖昧になる感覚を覚えます。横浜高速鉄道・みなとみらい駅では、駅の上にクイーンズスクエア横浜という施設がある、のではない。駅そのものが巨大商業空間の〝地下フロアの一部〟になっているのです。
普通の駅ビルなら「上へ上がる期待」があるが、ここでは最初からショッピングモールの中に放り込まれる。電車に乗るために地下へ降りたはずが、気分はすでに買い物客である。上の階で買い物しながら、吹き抜けからホームがのぞけるのも特徴的。駅の屋根をパカッと開けたかのような、見てはいけないものを見てる気持ちになるのは私だけかしら。
熊本市電の通町筋(とおりちょうすじ)停留場も面白い。ここに至っては「内包」という言葉すら当てはまらず、鶴屋百貨店の入り口と停留場がほぼ同義になっている。駅ビルが「駅+百貨店」の足し算だとすれば、これはもはや「百貨店=駅」という等式です。
こうした駅は「ちょこっと場所をお借りしますぅ」と肩身狭そうにしてるところに哀愁を感じますが、実はちょっと違うかも。こういう駅では、「改札を出る」という行為の意味が少しだけ変わる。
どこかへ向かうための通過点だったはずの場所が、そのまま滞在の場になる。電車を降りた瞬間に、すでに寄り道が始まっている。乗り換えのつもりで降りたはずなのに、なぜか手には紙袋が増えている。その瞬間、あなたは駅を利用したのではない。駅ごと百貨店に利用されたのです。わお。
●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。「学習・カルチャー・カフェ・うどん・サービスのフロア」とフロアガイドに書いてある、瓦町FLAGの10階が気になる。公式Instagram【@its.sayaichikawa】