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日本では「猛烈な台風」、アメリカでは「カテゴリー5のハリケーン」。別々の名前で呼ばれる2つの嵐は、実は同じ種類の気象現象だ。違いは「どの海にあるか」と「どの風速から呼び名がつくか」にある。
目次

台風とハリケーンのほかに、もう1つ知っておきたい呼び名が「サイクロン」だ。ベンガル湾やアラビア海などの北インド洋で使われる名前である。なお「サイクロン」は、熱帯低気圧に限らず低気圧全般を指す言葉として使われることもある。
台風もハリケーンもサイクロンも、それぞれの地域に存在する熱帯低気圧を強さによって分類した呼び名だ。
熱帯低気圧は、暖かい海面から供給された水蒸気が凝結して雲粒になるときに放出される熱をエネルギーにして発達する。上陸すると水蒸気の供給が絶たれ、陸地との摩擦でもエネルギーを失うため急速に衰える。この仕組みは、台風でもハリケーンでも変わらない。
気象庁によれば、台風は東経180度より西の北西太平洋と南シナ海に存在し、最大風速が約17m/s以上になったもの。ハリケーンは北大西洋、カリブ海、メキシコ湾と西経180度より東の北東太平洋に存在し、最大風速が約33m/s以上になったもの。サイクロンはベンガル湾やアラビア海などの北インド洋に存在し、最大風速が約17m/s以上になったものである。
なお、気象庁の3つの定義は、いずれも北半球の海域を対象としている。南インド洋からオーストラリア、南太平洋にかけては「tropical cyclone」などの用語が使われ、日本語ではこれらも熱帯低気圧の略称として「サイクロン」と呼ばれる。渦の向きも北半球とは逆で、南半球では時計回りになる。
ポイントは、呼び名が「発生した海」ではなく「今いる海」で決まることだ。ハリケーンが東経180度を越えて北西太平洋に入れば台風と呼ばれる。
熱帯低気圧は海域ごとに担当する気象機関が決まっており、名前のつけ方も地域で異なる。
日本では、毎年1月1日以後に最も早く発生した台風を第1号とする番号方式が使われる。これとは別に、日本を含む14の国・地域が加盟する台風委員会が2000年から「アジア名」をつけており、140個の名前を順番に使っておおむね5〜6年で一巡する。日本が提案した10個は、コイヌ、トモ、ヘビ、カジキなど、すべて星座に由来する名前だ。
一方、ハリケーンには人名が使われる。北大西洋ではアルファベット順に並べた21個の人名リストを6セット用意し、1年に1セットずつ使って6年で一巡する。1979年以降は男性名と女性名が交互だ。北東太平洋のハリケーンにも、同様の人名リストが使われている。実は日本でも、1947年から1953年5月までの台風には米軍が命名した女性名が使われており、「カスリーン台風」はその代表例である。

気象庁が「台風」と呼ぶのは、最大風速が約17m/s以上の熱帯低気圧だ。ところが英語で表記する際には、最大風速によって3つの階級に分けている。34ノット(約17m/s)以上がTropical Storm、48ノット(約25m/s)以上がSevere Tropical Storm、64ノット(約33m/s)以上がTyphoonだ。英語の「Typhoon」は数字の上ではハリケーンと同じ約33m/sからであり、日本語の「台風」のほうが指す範囲は広い。
ただし、同じ33m/sでも同じ強さとは限らない。風速の測り方が違うからだ。気象庁は10分間の平均風速を使うが、ハリケーンは1分間の平均風速で判定する。文部科学省と気象庁の報告書『日本の気候変動2025』は、1分間平均の値に0.88を掛けて10分間平均に換算している。つまりハリケーンの数字は、日本の基準に直すと1割あまり小さくなる。カテゴリー1の下限にあたる約33m/sのハリケーンなら、日本の基準では約29m/sとなり、「強い台風」(33m/s以上)には届かない計算だ。
気象庁は台風を「強さ」と「大きさ」で表す。強さは最大風速で、33m/s以上44m/s未満が「強い」、44m/s以上54m/s未満が「非常に強い」、54m/s以上が「猛烈な」。大きさは風速15m/s以上の強風域の半径で、500km以上800km未満が「大型」、800km以上が「超大型」だ。「大型で強い台風」はこの2つを組み合わせた表現である。
ハリケーンは5段階のカテゴリーで表す。1分間平均の最大風速で見ると、カテゴリー1は約33〜42m/s、2は約43〜49m/s、3は約49〜58m/s、4は約58〜70m/s、5は約70m/s以上だ。気象庁はこの分類を採用していないが、カテゴリー4〜5がおおむね「猛烈な台風」に相当する。
『日本の気候変動2025』によれば、世界全体では強い熱帯低気圧の割合が増え、個々の熱帯低気圧に伴う雨も増えると予測されている。一方、総数は減るか変わらないと予測されている。「数が増える」のではなく「強いものの割合が増える」という見方だ。
日本付近でも台風の強度が強まり、雨の量が増えると予測されている。世界の平均気温が工業化以前より4℃上昇した場合の予測では、10年に1回レベルの台風による最大24時間降水量が、20世紀後半の約800mmから約1000mmに増える結果が示された(詳しいシミュレーションによる、日本の陸上で最も多く降った地点の値)。
では「巨大化」、つまり大きさはどうか。熱帯低気圧の大きさが将来どう変わるかについては、強さや雨に比べて、まだはっきりしたことが言えない段階だ。

海外では、高潮が被害を広げた事例がある。2005年のハリケーン・カトリーナでは死者1,800人以上、全壊家屋約30万戸の被害が出て、ニューオーリンズ市の約8割が水没した。2013年にフィリピン中部を襲った台風第30号(ハイエン)では段波状の高潮が発生し、死者6,166名、行方不明者1,785名に上った。
日本も例外ではない。気象庁によれば、1959年の伊勢湾台風では死者4,697人、行方不明者401人の被害が出た。国土交通省によれば、高潮が伊勢湾全体の海面を1時間近く2m程度上昇させ、海抜ゼロメートル地帯だったため排水の完了まで約3か月を要している。
2004年の台風第18号では、屋根に上って転落したり、飛んできた瓦に当たったりする被害が相次いだ。早めに備えを終え、強風時には屋外に出ないことが大切だ。風の強さだけでなく高潮や大雨にも目を向け、備えは嵐が近づく前に済ませておきたい。
台風、ハリケーン、サイクロンはいずれも熱帯低気圧であり、違いは存在する海域と、呼び名がつく最大風速の基準にある。日本語の「台風」は約17m/sから、ハリケーンは約33m/sから。ただし風速の平均時間が10分間と1分間で異なるため、数字は単純に比べられない。
気候変動によって強い熱帯低気圧の割合や雨の量は増えると予測されている。海外のニュースで「カテゴリー5のハリケーン」と聞いたら、日本の「猛烈な台風」に近い強さだと置き換えてみると、その脅威がぐっと身近に感じられるはずだ。
気象庁「台風について」(台風とは/台風の大きさと強さ/台風の番号とアジア名の付け方/台風による災害の例) https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/index.html
気象庁「よくある質問集(台風について)」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq14.html
文部科学省・気象庁『日本の気候変動2025』 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/index.html
国立情報学研究所「デジタル台風」台風の名前(アジア名) https://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/help/tcnames.html.ja /台風(タイフーン)・ハリケーン・サイクロン https://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/help/world.html.ja
国土交通省「どのような高潮が起こったの?」 https://www.mlit.go.jp/river/kaigan/main/kaigandukuri/takashiobousai/03/index.html