宗教法人「闇の錬金術」最前線、1億円以上で転売し脱税とマネロンの抜け道に

取材・文/南ハトバ 写真/PIXTA 時事通信社

全国約5000の「不活動宗教法人」をブローカーたちが狙う全国約5000の「不活動宗教法人」をブローカーたちが狙う
信教の自由という"聖域"は、いつしか脱税とマネーロンダリングの抜け道になっていた。後継者を失った全国5000の寺社を巡り、ブローカー、富裕層、外国資本が群がる宗教法人売買。文化庁がようやく重い腰を上げた、その裏側に迫る。

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【1億円超で転売される宗教法人格】

近年、問題視されている「宗教法人売買」に対し、ついに文化庁が動き出した。

今年4月、国税庁、警察庁などの関係省庁が集まった会議では、宗教法人の不正利用の実態について説明がなされた。宗教法人売買の実態調査を進めるとともに、年内に不正利用対策のガイドラインを策定する方針だという。

後継者不足などで活動を停止した「不活動宗教法人」は全国約5000件規模。そして、宗教法人に与えられた税制優遇を求め、あまたのブローカーや買い手が実利目的でこれらを売買しようとする実態があるのだ。

宗教法人の売買は「代表役員の変更」という手続きを悪用して行なわれる。宗教法人を買いたい人間が寄付の形でお金を渡し、事実上の対価として代表役員の地位に就き、受け取る側は退職金としてそのお金を受領する構造だ。

真言宗豊山派(ぶざんは)に所属し、寺院経営のコンサルティングを行なっている群馬県前橋市の天明寺(てんみょうじ)住職の鈴木辨望(べんもう)氏は、寺院の経営支援に携わる中で、宗教法人ブローカーの存在を知った。

「法人の場所や状態にもよりますが、仲介するブローカーは売り手の寺からだいたい3000万円ほどで仕入れています。それを別の買い手へ2倍以上、時には1億円以上で転売しているのが現状です」

1件の転売ごとに数千万円の利ざやがブローカーの手に入っているという。このように法人格が流出してしまう背景には、寺社を中心とした宗教界が抱える構造的な経営難がある。鈴木氏は指摘する。

「お寺の場合、経営面に関しては僧侶が住職になってから実践で学ぶパターンがほとんど。かつてのように国や檀家(だんか)さんたちに守られていた時代は終わりましたが、そこから変われない地方の困窮寺院が次々と限界を迎えているのです」

宗教法人の新規設立には数年単位の活動実績が必要なため、既存の法人格を買うほうが早い。高値で転売されるのはそのためだ宗教法人の新規設立には数年単位の活動実績が必要なため、既存の法人格を買うほうが早い。高値で転売されるのはそのためだ
さらに、こうした寺院が所属する宗派の内部にも、構造的欠陥があるという。

「宗派の中心で活動する僧侶は、みな金銭的に余裕があるお寺に所属しています。一方で地方に増えている困窮寺院は、僧侶の収入だけでは食べていけず、別の仕事をして生き永らえているのが現実。

彼らには宗派の活動に参加する余裕はない。政治の構造と同じで、上層部には困窮寺院の苦労は見えづらく、地方の声が無視されがちなのです」

こうして"防衛力"の弱まったところに狙いを定め、アプローチをかけるのが宗教法人ブローカーだ。鈴木氏はその手口の巧妙さを語る。

「ブローカーたちは実際に現地まで足を運び、代表役員は誰かなど組織的にリサーチを行ないます。法人の登記内容が記された『履歴事項全部証明書』などもあらかじめそろえ、寺院関係者に接触してくる。

ブローカーの中には『自分には僧侶の資格がある』『寺院の住職だ』と偽り、お寺のコミュニティに入り込み、信頼を得ながら売り手と買い手を探すマッチングビジネスを行なう者もいました」

時には悪質な手段に出るケースもあるという。

「以前はハニートラップを仕掛けるケースもありました。住職を歓楽街へ連れていき、お酒を飲ませ女性たちをはべらせ、その姿を写真に収めて強請(ゆす)る。

断れない状況をつくり、境内地の一部を売買する書類に判を押させ、霊園開発の利権として分離させる悪質な事例も実際に起きています」

【顔ぶれもさまざまな買い手たち】

では、実際にどのような人物が宗教法人を購入するのだろうか。元マルサ(国税査察官)で、現在は税理士兼僧侶の上田二郎氏は「国内の実業家や医者など富裕層が中心」と語る。その目的は、税制優遇の悪用だ。

「自分の資産を宗教法人に寄付すれば、相続税など税負担を減らせます。また、自分の資産が債権者から取られそうになったタイミングで宗教法人に寄付を行なうと、債権者はその資産に手を出すことが極めて困難になる。このような『詐害行為』の隠れみのに使われるケースもあります」

マネーロンダリングの温床になっている可能性もある。

「海外事業を展開する富裕層が、裏金を国内に送金すると、銀行の国際送金監視システムに引っかかります。そこで、自身が取得した宗教法人の口座に"寄付金"として送金する手口が考えられます。

宗教法人は、年間収入が8000万円以下なら、収支計算書の提出義務がない。例えば海外から毎年4000万円を分割送金し、送金ごとに別人の名義を使うと、受取口座からは正当な寄付金があったようにしか見えない。それを経費として処理すれば、税務調査で実態を暴くのは極めて困難です。

頭のいい悪人が宗教法人を『追跡不能な悪い財布』として利用しているのです」

買い手の顔ぶれも一様ではない。鈴木氏によれば、名の知れたIT企業の創業者が地方寺院を取得した事例や、政界にパイプを持つ経営者が宗教法人の長に収まっていた事例もあるという。葬儀社や石材店など「弔いのビジネス」を手がける企業が寺院に食い込み、永代供養など収益構造ごと握ってしまう例も目立つ。

文化庁は対策会議のほか、M&A業者・宅建業者・士業など、売買に関わりうる業界に注意喚起を開始。年内のガイドライン策定を目指している文化庁は対策会議のほか、M&A業者・宅建業者・士業など、売買に関わりうる業界に注意喚起を開始。年内のガイドライン策定を目指している
また、昨今は中国系富裕層の影も指摘されている。中国国内では個人の財産が将来的に国家に没収されるリスクがあり、日本の宗教法人を資産の避難先とするニーズが急増しているという。

最も巧妙なのは土地の値上がり益を狙った長期保有スキームだ。上田氏は「税務職員でも見抜くのは困難」と語る。

公益法人がおおむね10年以上保有した土地を売却した場合、その譲渡益は非収益事業と見なされ課税されない。

「民家を買い取り、簡単な本尊を置き本堂を装う。数人程度の知人を集め信者として偽装すれば固定資産税は非課税。維持費も法人の経費にできる。

高速道路延伸や鉄道新駅予定地など値上がりが見込まれる場所を狙い、10年以上寝かせて売却すれば、億単位の利益が出ても非課税となる」

このような怪しい流れを事前に察知して防ぐにはどうすればよいのか。「売買された法人の多くには、行政のチェックをすり抜ける仕組みが組まれている」と上田氏はその複雑な統括構造を明かす。

「各宗派に属する『被包括法人』は登記変更に本山の許可が必要ですが、悪用者は一度宗派を離脱して『単立法人』に変えることで網の目を抜けます。さらにそこを包括法人(親)に昇格させ、別の地方に実態のない被包括法人(子)を新設する。

文化庁は親法人がきちんと管理していると妄信するため、子法人への立ち入り調査はまず行なわれません」

この無法地帯化を助長しているのが先にも触れた「収支計算書」の提出要件だ。現在、収益事業をしていなければ収入8000万円以下の宗教法人は提出義務がない。

前出の鈴木氏は「対象外となる法人が全体の9割を占め、事実上ノーチェックの状態」だという。上田氏が憤る。

「国税庁はこのような状況を把握しておらず、調査が入るのは源泉徴収義務を果たしているまともな寺ばかり。エセ宗教法人が丸々放置されるゆがんだ構造が続いています」

この法の抜け穴を突かれた状態を放置すれば、「信教の自由」そのものへの信頼が揺らぎかねない。エセ宗教法人を的確に調査できる強制調査権を文化庁に与えてはどうか? 上田氏が応じる。

「いいアイデアだと思います。宗教勢力からの反発は予想されますが、本当の意味で信教の自由を守るために、背に腹は代えられない局面になってきています」

政府の対策強化と同時に、宗教界側の防衛策も急務だ。鈴木氏は「困窮寺院を減らし、空き寺をつくらないこと」を最優先に挙げる。

「宗派が中心となり、空き寺と資格を持ちつつも自分の寺がない僧侶をマッチングする仕組みをつくるのが望ましいでしょう。人が住み、寺院を守る体制が整えば、ブローカーも寄りつきません。

財政的に厳しい困窮寺院に対しても、経営ノウハウを伝え、地域の中で寺院を維持していくための支援を行なうなど、継続的なアフターケアまで含めた仕組みを構築することが求められます」

一方の上田氏は、管理不能となった不活動法人への最終処置を求める。

「単立への変更などを地域で情報共有する窓口を宗派でつくる。それでも後継者がおらず、管理が不可能な空き寺については適切な手段で潰すことも検討すべき。全国に広がる空き家問題と同じ構図です。

放置すれば最終的に悪人のマネーゲームの餌にされてしまう。個々の困窮寺院の力では解体費用を捻出できない以上、国や宗派が費用を拠出して強制処分を進める早急な法整備を望みます」

信仰の場と自由を守るためにも、政府・宗派・現場が連携してこの闇に網をかけるときが来ている。

  • 南ハトバ

    南ハトバ

    みなみ・はとば

    文筆家・漫才師・僧侶。上智大学法学部国際関係法学科、大正大学大学院仏教学研究科を経て、現在は実家の寺の副住職としての活動をしつつ、芸人としても舞台に立つ。趣味は暗闇ボクシング・テレビ鑑賞・パワースポット巡り・念仏。得意分野はエンタメ全般・プロレス・ドイツ憲法・二十五三昧会。

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