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氷川町の避難所を訪れ、避難者と面会する高市早苗首相
7月の熊本地震の発生から1ヵ月、猛暑や台風などの苦境にも耐え、熊本は復興に向けて着実に歩んでいる。一方で、今も多数の被災者が避難所での生活を強いられているが、現地を取材するとそこには微妙な施設間の格差があった。そして、大きな自然災害が続発する日本が抱える「避難所の課題」も見えてきた!
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7月28日、M7.1の大地震に襲われた熊本。その被害は甚大で、地震発生から1ヵ月がたつ今でも県内68の避難所に2840人が暮らす(8月23日時点、内閣府調べ。以下、データは同時点)。
避難所の生活はどうなっているのか? 8月下旬、熊本県内の避難所を訪れた。
最初に向かったのは震度7の揺れを観測した氷川町だ。メインの避難所は3ヵ所あり、そのひとつは高市早苗首相が避難所のモデルケースとして視察に訪れた氷川中学校である。
氷川町にある氷川中学校は避難所として開設されたが、新学期を前にした8月24日以降は体育館などに集約
筆者が訪れたのは竜北東小学校に設置された避難所だ。入り口横に立っていた中年男性に声をかけてみると、この小学校の教頭先生とのこと。
「震災当日は大変でした。一刻も早く避難所を開きたかったんですが、停電、断水に加え、校舎や体育館の耐震性が維持できているか確認する必要があり、その日は開設できずじまい。住民たちは校庭での車中泊となりました。ただ、翌29日には九州電力の電源カーがやって来て停電が解消したので、その日のうちに避難所を設けることができました。
エアコンが使えるようになり、まずは教室を住民に開放しました。その後、周辺自治体の職員らが次々と支援に入ってくれたこともあって、仮設トイレや食料も到着。8月1日にはシャワー、2日には国からのプッシュ型支援(国が被災自治体からの要請を待たずに、必要と見込まれる物資を被災地へ輸送すること)によって、人数分の段ボールベッドも教室に備えることができました。避難所の立ち上げとしてはかなり迅速に進めることができたという印象です」
ちなみに、段ボールベッドは強度の高い特殊な段ボール素材で作られた簡易ベッドで、工具不要で組み立てることができ、主に災害時の避難所で使用されている。
鏡町の鏡小学校に届けられた段ボールベッド。つい立ては高さ2mほど。簡易的なプライベートスペースとしても機能する
竜北東小学校の近くにある竜北西部小学校の避難所も震災後の混乱のさなか、東小学校とほぼ同じタイミングで電気が復旧し、エアコン、ベッド、シャワーなどが設置されたという。
氷川町の南に隣接する八代市も大きな揺れを観測した自治体だ。八代市鏡町にある鏡小学校避難所(34世帯65人)に足を運んだ。
ここは八代市が鏡町に開設した5つの避難所のひとつ。担当する市職員はこう話す。
「体育館を避難所として使用していたのですが、震災直後ということもあり電気が通っておらず、エアコンもつけられなかった。そんなときに、避難所を巡回する医師らのチームが視察にやって来て、こう言われました。『八代市の避難所を見て回りましたが、ここが一番状態が悪いですね』って」
鏡小学校では段ボールベッドに敷くマットレスなども支給されていた。2種類あって、どちらか選べる
ただ、それ以降の施設整備は比較的順調に進んだという。
「電気の復旧が予想外に早く、地震から3日後には避難者にエアコンの効いた教室内で休んでもらうことができました。その後、8月1日に大型のエアコンが体育館に届き、翌2日からはより広い場所で皆さんにくつろいでもらえるようになった。
印象深かったのは段ボールベッドの設置。黄色いユニフォーム姿の『引越のサカイ』のスタッフさんが大勢やって来て、一気に運び込んで組み立ててくれたんです。手際良く、70台のベッドをあっという間に完成させてしまった。
その素早さたるや、説明書とにらめっこして四苦八苦しているわれわれとは雲泥の差です。まるで、"黄色い台風"みたいで、カッコよかった(笑)」
次に訪れたのは、鏡コミュニティセンターと有佐(ありさ)小学校という2ヵ所の避難所だ。このふたつは同じ鏡町内にあり、2、3㎞ほどしか離れていない。
だが、前者は別府温泉から運んだ湯による移動型温泉施設「幻想の湯」が設置されている一方で、後者には風呂どころか、シャワー施設すらなかった。そのため、有佐小学校で生活する7世帯14人は親戚宅の風呂や別の入浴施設などの利用を強いられているという。
鏡コミュニティセンターには大分県別府温泉のお湯を使った温泉施設「幻想の湯」も設置。「少し漬かっただけですごく温まる」と避難者からは好評だ
鏡コミュニティセンターではキッチンカーが2台、それぞれにテントを張って炊き出しをしていた。テント前のブラックボードには手書きで「筑前煮」など、多彩な日替わりメニューが書き出されていた。
「ゴージャスな避難所だな」
不謹慎ながら筆者はそんなことを考えてしまった。
ただ、現地で炊き出しをしていた金光教大阪災害救援隊のひとりはこう漏らした。
「ひとつの避難所に炊き出しが多すぎるときがあるんです。今日はウチも含めて2団体が炊き出しをやっていますが、昨日なんて4団体もの炊き出しテントが並んでいて明らかに過剰でした。
記者さん、もし炊き出しが来てくれなくて困ってる避難所があったら教えてください。われわれも全部の避難所を回って調べられないので」
鏡コミュニティセンターの避難所で焼きそばを提供していた「金光教大阪災害救援隊」の炊き出しテント
必要な所に必要な分だけの炊き出しが行なわれていない、という実態は鏡町の別の避難所でも起きていたようだ。職員はこう証言する。
「ウチでも炊き出しが一定の避難所に集中している時期がありました。あるときなど、キッチンカーが4台も重なってしまい、避難所がまるでイベント会場のようににぎやかになったことがあったんです」
その様子を見た周辺の住民たちが大勢避難所に押し寄せ、キッチンカー前には長蛇の列ができたという。
「みんな被災者だし、キッチンカーの食事を目当てに集まるのは別に構いません。でも、避難者の中にはキッチンカー前の長蛇の列を見て、温かい炊き出しごはんをもらうのを諦め、冷たい菓子パンをかじって食事を済ませる人もいたんです。特にお年寄りの方は炎天下で並ぶこと自体が健康被害につながりかねないですから。
キッチンカーが訪れない避難所に比べれば恵まれているのでしょうけども、冷たい菓子パンをかじる方の姿を見て、なんだか悲しい気持ちになったのも事実です」
岡山県奈義町から鏡コミュニティセンターに派遣されたトイレカー。避難所には熊本県以外の自治体からも多くの支援が届いている
どの避難所を取材してみても、電気や水道といった避難所のライフラインは順調に整備されていたように見えた。だが、寝床となる段ボールベッドの設置には、やや時間がかかったようだった。
避難所に段ボールベッドがあるか否かは災害関連死に影響する。災害関連死とは災害の直接的な被害ではなく、精神的ショックや厳しい避難生活など、災害による間接的な原因で死亡すること。むき出しの床での窮屈な寝起きがエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓[そくせん]症)などを引き起こし、持病との合併症で死に至るケースが多数報告されている。
一方、段ボールベッドでの就寝は下肢を十分に伸ばすことができ、エコノミークラス症候群の発症を抑える効果が期待できる。そのため、2011年の東日本大震災以降、災害時における避難所の必需品のひとつと目されるようになった。
段ボールベッドの導入までに氷川町の竜北東小学校では5日間、八代市の鏡小学校ではなんと約10日間かかっていた。多くの避難所で十分な布団や毛布を準備できなかったことを考えれば、10日間もの雑魚寝は避難者にとってかなりの苦行だったはずだ。
施設名は伏せるが、国から届いた段ボールベッドをあえて設置しない避難所もあった。
段ボールベッドの設置スペースはひとつ当たり2㎡ほどで、一定の広さが必要だ。その避難所は手狭なこともあり、スペース確保のために設置が見送られたのだ。
また、段ボールベッドは避難者同士のコミュニケーションを阻害するものとして見られたようだ。というのも、段ボールベッドはその周辺に段ボール製のつい立てを立てることがセットになっており、簡易的なプライベートスペースにもなる。しかし、避難者同士の気心が知れてきたところに、そういったつい立てで仕切るのは無粋だ、という判断があったという。
これらは避難した住民同士の話し合いで決定したことだったが、避難中の50代女性は不満をつぶやく。
「ここは被災した家から徒歩1、2分の距離。近いから利用しているだけ。女性だから着替え時などは人目が気になる。段ボールベッドのつい立てがやっぱり欲しい。ただ、みんなで決めたことだから従うしかありませんけど......」
「避難所・避難生活学会」代表理事の水谷嘉浩氏は、今回の熊本地震の翌日に現地入りし、熊本県宇城市の避難所の段ボールベッド設置を差配した
段ボールベッドを考案した避難所・避難生活学会の水谷嘉浩(よしひろ)代表理事は厳しい口調でこう話す。
「避難者の健康維持とはまったく関係のない話です。いくら住民が話し合って決めたこととはいえ、行政の担当者は避難者を説得してでもベッドを利用すべきでした」
避難所では地域のコミュニケーションを重視するあまり、こうした非合理な選択がしばしば見られるという。
水谷氏は「日本の避難所にはまだまだ課題が多い」と語る。同氏が避難所先進国のモデルケースとして見ているのはイタリアだ。
「イタリアの災害避難所は避難者250人、支援者50人の300人を1ユニットとし、災害発生から48時間以内にT(トイレ)、K(キッチン)、B(ベッド)など、避難者が必要な標準の施設や資材を調えることがルールになっている。
だから、どこの避難所でも同じ質のサービスが提供・再現されるんです。日本のように避難所の設備や運営が場所によってバラバラで格差が生じることは起こりません」
水谷氏によれば、日本では大災害のたびに災害関連死が数百人単位で発生するが、イタリアでは長い間、出ていないという。
「とにかく48時間以内にT、K、Bをそろえ、平常時と同じ生活環境を整えること。イタリアはこのルールを徹底し、災害関連死ゼロを続けています。こうした点は日本も見習うべきでしょう」
鏡町の鏡中学校の避難所(避難者は約70人)に設置されている水循環型の屋外シャワー施設「WOTA BOX」。2台はやや少ない?
日本では法律にも不備が潜んでいる。災害対策基本法では住民の安全を守るのは市町村の役目となっていて、国と都道府県はその後方支援、側面支援という位置づけだ。
「日本では基本的に災害対応は市町村が担当する。だから、避難所も被災した市町村内に設置されることになる。でも、被災地はライフラインが止まっている。そんな所に避難所を置いても機能しません。それよりも被災を免れ、ライフラインが生きている別の市町村に設置すべきなんです。
その点、イタリアは『広域総合支援』といって、被災地に避難所をつくらず、周辺の安全な別の自治体に開設する。運営ももちろん、その自治体職員が当たり、被災自治体の職員が携わることはありません」
イタリアでは住民誘導から避難所開設までを想定した防災訓練を行なっている点も参考になりそうだ。水谷氏が続ける。
「避難所の開設だけでなく、炊き出しでの食事作りなど、実際の運営を想定した3泊4日の防災訓練までやっている。そうして問題点を洗い出して災害に備えているんです」
水谷氏は当面、国内に250人分のTKBがそろった災害対応ユニットを、500組標準整備することを提言する。
「1ユニット250人だから、これだけで12万5000人に対応できます。そして、その整備費は1ユニット5億円ほど。つまり、2500億円あればできるんです。
こう聞くと高いと思うかもしれませんが、ユニットの備品などは20年間は利用できる。すると、年間のコストは125億円。国民1人当たりだと年間100円、防災訓練の費用に年100円の負担を追加するとしても計200円ほどです。26年度の国の防衛費は約9兆円で、国民1人当たり年間約7.3万円を出費していることを考えれば、200円は安いものでしょう」
10年前の熊本地震では278人の死者のうち、災害関連死は228人にも達した。今からでも遅くはない。イタリアの経験に学び、日本も災害関連死ゼロの防災大国を目指してほしい。
●日野和明 Kazuaki HINO
関西を拠点に、主に西日本エリアを幅広いテーマで取材するライター。神戸で阪神・淡路大震災を経験し、被災マンションの理事長としてマンションの建て替えに携わる。熊本地震は10年前に続いて今回が2度目の取材となる