日本列島に豪雨をもたらす「逆走ノロノロ台風」は2026年はまだまだやって来る!

取材・文/村上隆保

逆走ノロノロ台風が過ぎた後も台風一過の晴天とはならず、大雨が降り続いていた逆走ノロノロ台風が過ぎた後も台風一過の晴天とはならず、大雨が降り続いていた

通常、台風は西から東に移動するものだと思っていたが、8月上旬に発生した15号は東から西に行く「逆走ノロノロ台風」だった。なぜ、こんなことが起こったのか? 今後も起こるのか? どんな特徴を持っているのか? そのメカニズムと謎に迫った!

* * *

【台風を〝逆走〟させた南北傾斜高気圧と寒冷渦】

台風が東から西に〝逆走〟した!

8月11日、茨城県に上陸した台風15号は、その後、千葉、埼玉、東京、山梨、長野、岐阜、滋賀と本州を東から西に逆走、横断し、福井県沖に抜けていった(図1)。その速度は、時速約20~30キロと自転車並みだった。

そしてその後、13日の夕方から千葉県などで長時間にわたり記録的な豪雨が発生する。道路が広範囲にわたって冠水し、放置された車は2700台以上。1万人を超える帰宅困難者が出て、13人が死亡した。

通常、台風が通過した後は高気圧の状態となり晴れるはずなのだが、この逆走台風の後では違っていた。何か関連はあるのだろうか。

今回の〝逆走ノロノロ台風〟の原因などについて、三重大学気象・気候ダイナミクス研究室の立花義裕教授に聞いた。

「今回、台風が逆走した原因は、台風の南側に『寒冷渦』があったからです。寒冷渦は低気圧なので反時計回りです。

そして、もうひとつ。台風の北側には『南北傾斜高気圧』がありました。これは高気圧なので時計回りです。

この間に台風がやって来た。すると、寒冷渦と南北傾斜高気圧の両方の風を受けて、台風は東から西にグーッと引っ張られていきます。これが台風が逆走した直接的な理由です(図2)」

――では、なぜ寒冷渦と南北傾斜高気圧は、その位置にあったのですか?

「それは、偏西風が大蛇行しているからです。偏西風の北側は冷たい空気の低気圧、南側は暖かい空気の高気圧です。

8月上旬、日本列島の東辺りで偏西風が大きく南に蛇行していました。そして、その蛇行した先の部分が本体からちぎれてしまったんです。そのちぎれた部分が関東の南辺りに居座ってグルグルと回っていました。それが寒冷渦が台風の南にあった理由です。

寒冷渦は惰性で回っているわけですから、じわじわとその力は弱まっていきますが、通常、1週間から長くて2週間くらいは持続します。

また、近年は地球温暖化で偏西風の蛇行が大きくなった影響で、寒冷渦が南にちぎれて落ちてくる回数は増えています。ですから、寒冷渦がなくなっても、またすぐに現れることもあります。

もう一方の南北傾斜高気圧は、偏西風の蛇行によって北海道の東側に暖かい空気が入り込み、その位置に発生しました。

この高気圧は昔はあまり発生しなかったのですが、こちらも偏西風の大蛇行によって、最近は夏になると毎年のように発生しています。ここ数年、東北地方や北海道が暑いのは、南北傾斜高気圧がある影響です」

――自転車並みのノロノロ台風になった理由は?

「偏西風が大蛇行しているといっても、基本的に西から東に風は吹いています。その西風に向かっていくわけですから、進む速度はゆっくりになります(図4)」

千葉豪雨により冠水した千葉県の大網白里市内の様子。この豪雨は台風15号が引き連れてきた水蒸気によるものだという千葉豪雨により冠水した千葉県の大網白里市内の様子。この豪雨は台風15号が引き連れてきた水蒸気によるものだという

――では、台風が寒冷渦と南北傾斜高気圧の近くに行かなければ、逆走台風にはならないわけですね。

「そうですね。今回は寒冷渦と南北傾斜高気圧のある場所に台風が近づいてきたために逆走する形になったわけです。台風の発生域などが違えば、経路も変わってきます。

今回は日本の南東の海上で台風が発生したので、逆走する経路をたどりました。しかし、南西で発生すれば寒冷渦と南北傾斜高気圧には近づかず、西から東に向かうはずです。

ただ、今年はエルニーニョの年で、現在、スーパーエルニーニョ現象に向かっています。エルニーニョの年は、太平洋の東側の海面水温が高くなります。

台風は海面水温の高い場所で発生しやすいので、今年は日本の東側で発生しやすくなっているとも言えます」

――ということは、今後も逆走台風がまだまだ発生する可能性があるということですか。

「はい。そして、これが温暖化によって蛇行が激しくなった時代の台風の姿と言えるかもしれません。まず、逆走台風は東から西にゆっくり進むので長い時間大雨が降り続け、被害が大きくなりやすい。

また、台風は反時計回りしているので南側にある湿った空気を東側に運んできます。そのため台風の東側の雨のパワーが強く、西側が弱くなる。すると、逆走台風が過ぎた後もその東側で雨が降り続けます。台風一過とはなりにくいんです。

しかも、逆走台風は太平洋の南側から直接やって来るので、熱帯の水蒸気も一緒に運んでくる。ですから、台風の後ろにもたくさんの水蒸気を引き連れてきます。すると大雨になりやすい。

台風15号が通過した後に、千葉県で記録的な豪雨が発生したのは、おそらくそのためだと思います。

ですから、逆走台風は非常に怖い台風です。日本列島の東側に直接上陸する台風は、この10年くらいの間に何度かありました。

例えば、2016年の8月30日に岩手県の大船渡市付近に上陸した台風10号は、岩手県や青森県、北海道を中心に記録的な大雨となり、岩手県の複数の河川が氾濫しました。そして、岩手県内で24人が犠牲になっています」

【逆走ノロノロ台風は秋までやって来る!?】

――では、被害が大きくなる逆走台風はいつ頃まで発生するのでしょうか?

「偏西風が蛇行してちぎれる寒冷渦は秋も発生すると思います」

台風の発生は8月と9月が一番多い。逆走台風はまだまだやって来ると言えるだろう。そして、ここでひとつの疑問が湧いた。

――東から逆走台風が日本列島を横断して、西から通常の台風がやって来ることはあるのでしょうか。そうなると両方から来てぶつかった台風はまとまってさらに大きな台風になるのでしょうか?

「東と西の両方から台風がやって来ることはあるかもしれません。絶対にないとは言えません。

そして、2つの台風が近づいてくると、お互いが影響を及ぼし合って、ぶつかった所でグルグル回るような複雑な動きになるのではないでしょうか。

また、スピードも衰えるはずなので、同じ場所に長時間とどまり、ものすごい大雨を降らせると思います(図5)」

逆走台風だけではない。東西から来たダブル台風がぶつかる〝スーパークラッシュ台風〟は、予想を超える大きな被害をもたらすかもしれないのだ。

そうならないことを祈りつつ、台風への備えは万全にしておきたい。

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