今春の東京六大学野球、ドラフト候補と未来のスターたち

取材・文・撮影/菊地高弘

明治神宮野球場はプロ球団・東京ヤクルトスワローズの本拠地だが、ヤクルトはあくまでも〝間借り〟している立場に過ぎない。そもそもこの球場は東京六大学野球のために建設された、アマチュア野球の聖地なのだ。今春も、人気と歴史のあるリーグ戦が神宮球場で展開されている。

高校時代に名をはせた有望選手が集中するため、バックネット裏にはプロのスカウトが詰めかける。今季からDH制が導入され、新時代の到来を予感させるリーグの注目選手を紹介していこう。

明治大は昨年まで、16年連続でドラフト指名選手を輩出するという史上最長記録を更新した。そして今年、17年連続となるのは確実だろう。榊原七斗(報徳学園)、岡田啓吾(前橋育英)、光弘帆高(履正社)、福原聖矢(東海大菅生)、松本 直(鎌倉学園)と、最大5選手がドラフト指名を受ける可能性があるからだ。

今秋のドラフトで上位指名が予想される明治大の榊原。小柄ながら長打力に長けた、強肩の中堅手だ今秋のドラフトで上位指名が予想される明治大の榊原。小柄ながら長打力に長けた、強肩の中堅手だ

上位指名の期待がかかるのは、中堅手の榊原。広大な守備範囲と低い軌道で伸びていくスローイングは、今すぐプロに入ってもトップクラスだ。身長173cmと小柄にもかかわらず、大学3年間でリーグ通算9本塁打を放つなど、意外な長打力も秘めている。

左投げ左打ちの榊原だが、野球以外の利き手・利き足はすべて右。ペンも箸も右手で持ち、サッカーボールは右足で蹴る。それどころか、ハンドボールやドッジボールも右手で投げるという。榊原は「左手で投げられるのはソフトボールまでです」と語る。高校時代は投手として140キロ超の快速球を投げ込み、大学でも二刀流としての育成が本格的に検討された逸材だ。

明治大の岡田は快速の二塁手。同大にはほかにもドラフト指名が期待される選手が多い明治大の岡田は快速の二塁手。同大にはほかにもドラフト指名が期待される選手が多い

二塁手の岡田はプロ顔負けの一芸を誇る。昨年12月に愛媛県で実施された大学日本代表候補合宿では、50m走5秒69という驚異的なタイムを計測(光電管を使用)。これまでの最速は、日本体育大の矢澤宏太(現日本ハム)が2021年に計測した5秒80。岡田の快足ぶりが尋常ではないことが伝わるだろう。

レギュラーに定着したのは3年秋からと遅く、通算盗塁数は1個のみ。しかし、昨秋は左足首の靱帯を部分断裂する重傷を負っていた。そんなコンディションでリーグ5位の打率.389をマークしたのだから、驚異といっていい。体調万全の今季は、大暴れする可能性も十分にある。

遊撃手の光弘は高校時代から堅実な守備力が評価されてきたが、大学に入ってパワーアップ。力強い打球を飛ばせるようになり、ドラフト指名圏内に入ってきた。

捕手の福原は昨年まで小島大河(2025年の西武ドラフト1位)の陰に隠れていたが、フットワークを生かした守備力は本物。身長167cmの小さな体を極限までかがめ、低く構えられるのも評価のポイントだ。

松本は一般受験から名門野球部の門を叩いた速球派右腕。リーグ実績は乏しいものの、好調時の150キロ台の快速球は迫力がある。今春はクローザーとしてブレイクが期待されている。

他大学のドラフト候補に目を移すと、慶応義塾大では渡辺和大(高松商)と広池浩成(慶応義塾)の左右二枚看板、早稲田大からはエース候補・宮城誇南(浦和学院)の名前が挙がる。渡辺、宮城の両左腕は、派手さはないもののゲームメーク能力が高い実戦派。リーグ戦で結果を残し、スカウト陣の評価を高めたい。

広池の父は元プロ野球投手で、現在は埼玉西武ライオンズの編成トップを務める浩司さん。最速153キロをマークする剛腕に、MLBのスカウトも熱視線を送っている。

立教大の斎藤は、高校3年時に夏の甲子園で優勝した左腕。肘の手術を乗り越えてエースに成長した立教大の斎藤は、高校3年時に夏の甲子園で優勝した左腕。肘の手術を乗り越えてエースに成長した

今春にかけて急成長を見せているのが、立教大の斎藤 蓉(仙台育英)だ。高校3年夏には中心投手として、東北勢初の甲子園優勝を成し遂げている。だが、左肘を痛めたため、大学1年時にトミー・ジョン手術を受けて長期離脱。これまで目立った実績はなかったが、今春は一躍エース格に急浮上した。

リーグ開幕前の社会人・六大学対抗戦では、アマ屈指の強力打線を誇る東京ガスを3回パーフェクトに抑え込んだ。140キロ台後半の快速球とカットボール、スプリットはプロ入りを意識できるレベル。今季のアピール次第では、ドラフト上位候補に名乗りを上げるかもしれない。

法政大2年の井上は昨秋のリーグだけで4本塁打を放ったスラッガー。捕手としても成長を続ける法政大2年の井上は昨秋のリーグだけで4本塁打を放ったスラッガー。捕手としても成長を続ける

下級生にも逸材がひしめいている。もはや「東京六大学の宝」と言っても過言ではないのが、法政大2年の井上和輝(駿台甲府)である。

身長184cm、体重93kgのたくましい体躯の持ち主で、逆方向にも飛ばせる雄大なスイングは村上宗隆(現ホワイトソックス)を彷彿とさせる。昨秋に法政大の正捕手に定着すると、リーグ15試合で打率.364、4本塁打、12打点と驚異的な成績を残した。

高校時代は公式戦でパスボールを連発するほど捕手としての守備力は未熟だったが、現在は急激に上達している。2年後にはドラフト1位候補になるはずだ。

法政大には井上の同期に、境 亮陽(大阪桐蔭)という有望外野手もいる。昨年は1年生ながら、春秋通算で34安打をマーク。明治大・髙山 俊(現オイシックス新潟)が持つ東京六大学記録の通算131安打も狙えるペースで安打を量産している。右翼からのレーザービームも必見だ。

最後に早稲田大のスーパールーキー・阿部葉太(横浜)を紹介したい。横浜では強肩強打の外野手として活躍し、昨春のセンバツを制覇。高校2年の5月から名門・横浜の主将を務めたキャプテンシーの持ち主でもある。高卒でのプロ志望届の提出を見送った際には、多くのスカウトがため息を漏らした。

大学進学後は春季キャンプで右太もも裏の肉離れで離脱したものの、早稲田大の小宮山 悟監督は「1番・中堅で使いたい」と明言。リーグ戦デビュー前にもかかわらず、すでに大学野球の雑誌の表紙を飾るほど注目度は増している。

果たして、東京六大学に新たなスターは現れるのか。再開発が進む神宮の杜で、歴史が動き始めている。

  • 菊地高弘

    菊地高弘

    きくち・たかひろ

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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