
安田峰俊
やすだ・みねとし
安田峰俊の記事一覧
1982年生まれ、滋賀県出身。ルポライター。中国の闇から日本の外国人問題、恐竜まで幅広く取材・執筆。第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』、第5回及川眠子賞を受賞した『「低度」外国人材移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)、『民族がわかれば中国がわかる 帝国化する大国の実像』(中央公論新社)など著書多数。
今年3月にカンボジアの詐欺拠点で押収された日本の警察官の警察手帳。海外通販で入手できる粗悪レプリカと思われる
海外を拠点として活動する国際的な特殊詐欺グループ。そこで詐欺をはたらく犯罪者たちの日常生活、福利厚生(!?)、そして試される人間力とは? ジャーナリストの安田峰俊さんがリポートします!
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今年2月、警察庁は昨年の特殊詐欺被害額が約1414億円に達したと発表した。前年比96.7%増で過去最悪の数字を記録、東京、大阪、神奈川などの大都市が厳重注意地域とされている。
特殊詐欺を実行する犯人グループには、中華系のマフィアと結びつき、東南アジアにある大規模な詐欺パーク「園区」を拠点に荒稼ぎする人々も多い。
警察や官公庁をかたる詐欺に架空投資詐欺、ロマンス詐欺、オンラインカジノ詐欺......と、手法も千差万別だ。昨年12月には、福岡県の大学生が「無料の海外旅行」を口実にだまされて連れ去られるなど、詐欺以外の被害者も報告されている。
そんな各地の詐欺拠点で働く日本人の総数は、相当な数(合計おそらく数百人以上)に上るとされる。人が集まる所、さまざまな出来事あり......。
関係者らの証言を基に、詐欺の「職場」のクレイジーな内情を紹介していこう。
「ウチの会社の日本人は、自分から来た人のほうが多いですね。だまされて来たヤツはモチベ低いし、顧客に信頼されない。業績が上がらないんで、使えない人材ですよ」
そううそぶくのは、カンボジアの園区で働く日本人詐欺師の坂崎(30代)だ。彼が現地に渡ったのは約3年前。以来、日本の高齢者らから50億円以上を詐取し、現在も複数の対日詐欺チームの管理職や技術コーチとして関与している。
カンボジアの詐欺拠点でボロ儲けした台湾人グループから押収された高級車。今年3月、台北でこれら押収車のオークションが行なわれた
彼らの業界用語で、詐欺拠点は「会社」と呼ばれる。だまし取る金額は「売り上げ」や「業績」、詐欺のカモは「顧客」だ。
事実、坂崎の会社の仕事現場では、会議を繰り返して効果的な詐欺手法を検討し、チーム内でより効率良くPDCAサイクルを回して......と、「業務内容(=詐欺)以外はマジで普通の会社っぽい」とのこと(ただし、業績が悪いと経営者のマフィアに拷問されるのだが)。
詐欺拠点の〝日本人社員〟たちは、会社の運営元である中華系マフィアの依頼を受けた日本側の暴力団や半グレの手下たちを通じて集められる。時には坂崎自身もリクルーターとなる。
「意外なスカウトルートは、出会い系サイトやライブチャットです(笑)。『会おうよ』と女のコをナンパして、海外の儲け話として教えてあげる。社員たちは男性が多いですが、携帯電話会社や銀行などのオペレーターを装う役目は、女のコのほうが向いてるんです」
ちなみに近年、日本人の風俗嬢の間では海外の出稼ぎ売春が盛んだ。だが、行き先で「コイツは稼げない」と判断されたり、ニセモノの求人に引っかかったりで、詐欺拠点に売られる例もある。
もっともこれは、男性も同様だという。
「架空のニセ求人で『タイで素人参加AVに無料で出られる』とだまされ、園区に連れ込まれたヤツらがいた。アホすぎて笑えるから、『しみけん』『(チョコボール)向井』『吉村(卓)』ってあだ名をつけて、AV男優トリオって呼んでました」
なお、しみけんは詐欺の仕事を嫌がり号泣。それでも200万円くらいは売り上げ(詐欺被害)を上げたそうだ。
だが、この手の「だまされ組」にも優秀な人材はいた。坂崎は続ける。
「ウチの仕事はある意味では金融業(笑)。なので、元証券マンの50代のおっさんが、長年の専門知識と営業力でスゲえ業績を上げてました。彼は『海外ビジネスの視察』とだまされて拉致され、500万円で売られてきた。でも、僕らの会社に適応してましたよ」
若い女性のエースもいた。マカオでだまされて連れてこられた、「頭のネジが飛んだ天才」というコリアン系の美女だ。
「海外の複数の大学の通信課程に所属し、中・韓・英・日の4ヵ国語を操るエリート。園区でも『学費が稼げて結果オーライ』と普通にリモート講義を受けてました。最近、『マレーシアに新規の詐欺拠点をつくろう』とか、僕に誘いの連絡が来ましたよ」
彼女も会社に適応し切っていたようだ。
特殊詐欺の社員たちは、本人たちも搾取されている。彼らが実際に得られるカネは、詐欺でだまし取った金額の1割前後。残りはオーナーやその他の中華系マフィアにむしり取られる。
会社の中には「自分から退職を申し出たら、報酬の支払いは半額」という謎の鬼畜ルールを設けているところも多い。当然、社員たちは抜け道を探すことになる。
「ムカつくのが、オーナーのマフィアとヤる女子社員。風俗から転職したコに多いです。おかげで、勤務中の昼寝を大目に見られたり、稼ぎのいい部署に配属されたり。現場の士気が下がるんで、そういうのって困るんですよね」
もっとも、かく言う坂崎の行動もコンプライアンスとは程遠い。
「カップルで働きに来た20代の男女がいたんですが、彼氏の業績が上がらなくて......。で、彼女の側が僕にほれた。どんな会社でも、仕事(=詐欺)できる上司ってモテがちでして」
たとえ詐欺拠点でも、上司と部下のオフィスラブの花は咲く。結果どうなったのか。
「そのコとセックスしてる真っ最中、彼氏が来て修羅場に。その後は彼に対して『私情と仕事は切り分けろ』と上司として指導して、会社で引き続き働いてもらいました」
どこからツッコんでいいのかわからない。ひとつ言えるのは、一般的な会社でも起こりうる色恋沙汰が詐欺業界でも発生するということだ。
会社の「福利厚生」も紹介しておこう。園区の敷地内には風俗があり、ラオスやベトナムなど近隣国の若い女のコたちが勤務している。稼ぎのいい詐欺リーダーは、部下のモチベを上げるために食事や風俗をおごることも多い。
坂崎の場合も、多いときで部下を30人近く抱えていた。エース詐欺師として億単位の年収があったものの、部下たちの人心掌握のため、ひと晩の「福利厚生」が数百万円に達したこともあったという。
社員の娯楽はほかにもある。ドラッグだ。園区で最も一般的な薬物は、中国人や台湾人のアウトローに人気があるK粉(ケタミン)だった。
ほかにもセックスドラッグとして、さらにチンチンが思い切りビンビンになる謎のキャンディやゼリーが流通。加えて最終兵器のセックスドラッグとして、K粉と氷毒(覚醒剤)、MDMAを混ぜた「ハッピーウオーター」というヤバすぎる液体が存在した。
「新人社員に最初に薬物をごちそうしたときの反応が面白いんです。イカれて叫び出したりウンコを漏らしたり、男同士でイチャイチャとキスし始めたり」
エロと薬物をエサに犯罪従事し、業績が悪いと拷問――。人類最悪レベルのブラック企業である。絶対に働きたくない。
一方、だまされる側の愛憎あふれる人間模様もある。
「昨年末、現地の軍閥の攻撃で詐欺師たちが逃げ去ったミャンマー・カレン州の園区でロマンス詐欺のマニュアルを発見。持ち帰りました」
私の取材にそう語るのは、詐欺被害防止を目的に園区に潜入した経験を持つ、台湾の新北市市議・林秉宥である。
マニュアルはいずれも中国語で、ノートに手書きで書かれていた。このチームのターゲットは台湾人の女性たちだ。その内容を紹介しよう。
◎「理想の男」のキャラを、親の職業や住所、干支まで完璧につくり込め
◎知的で話題豊富な人格を装え。知らないことは即検索
◎タロット占いやMBTI(性格診断)、タピオカなど女性の趣味を徹底的に研究せよ
◎投資について「師匠と弟子」みたいな関係に持ち込め
◎貧乏な相手、脈のない相手は躊躇なく損切りしろ
こうした理想の男性像マニュアルに基づいた方針の下、わずか10日で女性を恋に落とし、暗号通貨の架空投資に大金を振り込ませる手口だ。
「この手のマニュアルには〝シナリオライター〟がいる。元ホストや心理学の専門家が作ってるんだ。で、相手の年齢や性格に合わせて、『甘える年下の男』とか『頼りになるエリート』とか、シナリオを切り替える」
コーラ兄貴こと、台湾人の王元兆さん。元マフィアだが、現在は特殊詐欺に関わる日本人や台湾人たちの救出活動をボランティアで行なっている。プロマジシャンとしても活躍中
ロマンス詐欺の裏側をそう解説するのは台湾人の王元兆(通称・コーラ兄貴)。彼は台湾最大のマフィア・竹聯幇の元構成員、現在は詐欺拠点に拉致された若者の救援・更生支援を行ない、台湾の拠点から日本人を助け出したこともある人物だ。
では、偽りの愛にだまされるのはどんな人なのか。
「ニューヨークの銀行で働くエリート女性の例だ。カネを散々振り込んだ後で、相手の男から『僕はだまされて園区で働く台湾人だ。君からたくさん巻き上げて申し訳ない』と正直に謝罪された。すると彼女は『それでもあなたを愛してるわ!』と言い出し......」
この会話の後、詐欺師の男性は被害者の女性と連絡を絶った。おおかた摘発されたか別の拠点に移ったかだと思われた。
「それで、彼女が俺に相談してきた。『詐欺拠点に身請けのおカネをいくらでも払う。彼を助け出して!』って。俺は『お嬢さん、その件も含めてだまされてるぜ』ってアドバイスしたんだが、聞く耳を持たないんだよ」
詐欺でもいい、彼のために尽くしたい! 彼女はそう繰り返したという。もはや、ウソから生まれた真実の愛だ。
カンボジアにある坂崎の日本人チームでも、愛の炎に身を焦がした被害者がいた。
彼の会社はロマンス詐欺はやらず、メインの顧客(カモ)は高齢者。だが、時には若い女性も引っかかる。結果、勝手に恋に落ちた人がいた。
「埼玉に住む、夫に相手をしてもらえない30代の人妻です。彼女に資金力がないとみて『これは詐欺だ。でも、おまえからはカネ取るのはやめたよ』って電話を切ろうとしたら、『なんて誠実な人!』と一方的に感動しちゃって」(坂崎)
あなたに会いたい。抱いて。人妻はそう言い出した。
「ウチの会社に自分から電話をかけてくるし、頼んでもいないおっぱいの写真を送ってくるし。ほかの業務(=詐欺)に支障が出るから、『俺はこれからドイツに行く!』と大ウソをついて逃げ切りました」
一方、本当に悲惨な人妻もいる。不動産業者の夫の浮気を疑い、気持ちが不安定になっていた30歳前後の女性だ。配偶者に対する復讐心につけ込まれ、完全なカモにされてしまった。
「最初は20万円くらいつまんでいましたが、やがてダンナのカネを盗んで入金を繰り返した。最終的には自宅を担保に入れ、総額1000万円くらいを払ってくれました」
完全にむしり取った後、坂崎たちは彼女に詐欺を自ら明かし、警察署に行くよう勧めたという。なぜ、わざわざそんなことを。
「警察に保護させ、自殺させないためです。弊社は、カネは取るけど人は殺さない。彼女を放置すると精神的にヤバそうだったので、僕らなりのアフターサービスですよ」
詐欺師なりに良心はある。彼はそう主張するのだが、時には顧客(カモ)をおもちゃにしているという。
「若い女で、カネがない顧客がいたんです。テレビ電話で『どうすればいいの!?』とオロオロしているので、『払えないなら服でも脱げ』と言ったら、本当に脱いだ。社員全員で眺めて、いろいろポーズ取らせました」
まさにやりたい放題だ。
昨年以来、東南アジアに拠点を置く特殊詐欺はやや下火だ。工業団地を丸ごと詐欺団地に転換した園区のような大規模拠点も数を減らしている。
理由のひとつは、園区が国際問題化したことでミャンマーの軍閥に掃討されたり、タイ軍の攻撃を受けたりしたこと。
また、昨年10月にカンボジアに拠点を置く中華系の巨大詐欺財閥・太子集団(プリンスグループ)が、暗号資産の多くをアメリカ政府に差し押さえられるなど、各国の制裁を受けたことの影響も大きい。
とはいえ、ラオスに在住する特殊詐欺関係者の中国人(30代)は、「詐欺は絶対になくならない」と断言する。
「関係者の一致した見解は『麻薬を売るよりも儲かる』だ。しかも、オフィスひとつの比較的小規模な拠点なら、どこの国にでもつくれる」
昨年、日本人の男女29人が逮捕されたカンボジアの詐欺拠点。ここからもスマホやパソコン、ニセ警察官をかたるためのアイテムが大量に押収された
現在、彼らの海外拠点はマレーシアやインドネシアに移転しつつある。さらにアフリカや旧ソ連圏諸国にも広がる。比較的取り締まりが厳しい中国や台湾にすら、中小規模の詐欺オフィスは多数存在するという。
国境にとらわれない中華系マフィアと、各国の捜査当局との地球規模のいたちごっこ。止めることはなかなか困難というわけだ。加えて、中華マフィアとは無関係の、日本国内限定の特殊詐欺集団も活動している。
巨大なウソと欲望に包まれた、極悪世界から伸びる魔手。私たち一般人にとって、今後も気を抜けない日々が続きそうである。