
米国・イランが二週間の停戦に入り、二国間の交渉が始まったアメリカ・イラン戦争。週プレNEWSでは「アメリカ・イラン戦争の終わり方次第で、中東の原油は日本に一滴も入ってこなくなる!?」と報道した。このまま米国がイランから撤退すれば中国の影響が増し、中東から原油の輸入ができなくなるかもしれないのだ。
この戦争の終わり方が決まる可能性が高くなってきたが、どうすれば原油の輸入ストップを回避できるのか。識者に話を聞いた。
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「場当たり的に動くしかありません。出口が見えませんから、日本はどこかがなにかを言ったらまずは米国の出方をうかがい、隙あらば石油を何とか回してもらう。そして、その合間に選択肢を多く持っていろいろな方面と交渉し、原油をとにかく持ってくる。それしかないと思いますね」
前述の記事でこう述べたのは、地政学、戦略学者の多摩大学大学院客員教授の奥山真司氏だ。
ならば、さっそく場当たり的な動きを考えてみよう。
ホルムズ海峡の安全な航行の再開に向けて、英仏が主導の連合艦隊を作り、日本など35ヵ国に参加を打診している。米国は不参加だ。これに日本の海自が参加すれば、油一滴をもらえるのではないか? 国際政治アナリストの菅原出氏はこう分析する。
「米国抜きのG7諸国が中心となり、さらに中堅国を加えて新たな安全保障協力の枠組みをつくる動きで、今後こうした新しいアライアンスの取り組みが増えるでしょうね。
中国はすでにSCO(上海協力機構)やBRICSのような枠組みで、欧米主導の秩序に対抗すべく動いています。これに対して米国が既存秩序をぶっ壊してしまい、このままでは中国主導の秩序が支配的になると困るので、フランスが主導して既存秩序を守る中堅国連携を強めようとしている、ということかと思います」(菅原氏)
英仏はトランプ米国を除いた枠組みを作ろうとしている。そして、その動きに賛同した湾岸諸国も動き始めている。
元英国保護領のUAEはホルムズ海峡での運航再開へ、武力行使を含む措置承認案を国連に提出。だが、4月7日に開催された国連安保理で中露が拒否権を行使して否決された。
しかし、他の道もある。
各国は米国を無視して、イランと交渉に入っている。イランに通行料を暗号資産で払い、すでに中露、比、パキスタン、インド、トルコ、タイのタンカーはホルムズ海峡を無事通過した。
ただし、もし日本がこれをやれば、トランプが日米同盟を解消してくる可能性は捨てきれない。トランプは「イランに通行料を払った全ての船舶は捜索して拿捕(だほ)する」と言っている。NATO脱退を真剣に考えているトランプならば、それをやりかねない。そして、そのトランプは停戦交渉決裂後、すぐにイランのペルシャ湾、オマーン湾に面する港を全て封鎖して、ホルムズ海峡の機雷除去作戦を開始した。
また、憲法9条に引っかかる可能性があるため、日本が英仏連合艦隊に参加するとしても戦後になるだろう。そうなると、世界に名高い海自機雷掃海部隊が真っ先に現地へ向かうのだろうか?
海自最新鋭の掃海艦「あわじ」。遠隔で爆破できる自走式機雷処分用弾薬(EMD)を搭載し、もっともスタンドオフMCMに近い運用ができる(写真:柿谷哲也)
海自艦艇を取材しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は否定する。
「日本の掃海技術は高いと巷では評判ですが、すでに英仏を中心としてヨーロッパの掃海方法は、掃海艦艇やダイバーが機雷原に入らない、スランドオフ掃海が主流になっています。日本の掃海はこれはまだ研究段階で、掃海艦艇が機雷原に入って掃海具やダイバーで対処しています。日本が英仏掃海隊に参加しても足手まといになる可能性があります」(柿谷氏)
海自掃海部隊は、水中処分員(ダイバー)が、ヘリやボートで投入して機雷に処分する方法を得意とする(写真:柿谷哲也)
海賊対処のためにジブチに展開する海自護衛艦。当初は二隻体制だったが、今は一隻で対処している(写真:柿谷哲也)
では、戦後に日本から護衛艦を派遣することは無いのか?
「日本はソマリア沖海賊対策で1隻の護衛艦を派遣していますが、日本周辺の環境が悪くなっているので、手一杯の状況。さらにもう1隻の護衛艦を中東に長期派遣するのは難しいと思います」(柿谷氏)
しかし、40隻の自衛艦を管理していた元呉地方総監の伊藤俊幸元海将は「実は日本の対応策は4つある」と語る。
「まず『新たな特措法』の制定です。海賊対処の特措法のように、英仏主体の艦隊と共に、船舶護衛やゾーンディフェンスができるようにする法律です。ただ、これは国連などのお墨付きが必要ですが、4月8日に国連安保理でUAEの出した決議案が中露の拒否権で否決されたことでできなくなりました。
次に『存立危機事態の適用』です。しかし、これも非戦闘地域要件や米国不在である限り適用できません。
もうひとつが『海上における警備行動』ですが、日本関連のタンカーしか守れないため、現実的ではありません。
最後が『国際平和支援法の適用』です。昔は『テロ特措法』と言いました。9.11の後に制定された、海自が連合艦隊に燃料補給するという後方支援を目的とする枠組みです。これは平和安全法制の際に恒久法となりました。
ホルムズ海峡情勢では護衛任務よりも、この『後方地域』などで英国などが派遣する艦隊に補給支援する形こそ、日本の現行法との法的整合性が一番高いのでしょう」(伊藤氏)
海自には他国海軍に装備されている例が少ない大型補給艦がある。全長221m、基準排水量1万3500トンのましゅう型だ。それで補給任務に徹することができれば、少しは原油を分けてもらえるかもしれない。
日本は中東において2001年から2010年まで新テロ特措法に基づく外国艦への補給活動を行なっていた。写真は北アラビア海で米艦に給油する補給艦「とわだ」(写真:柿谷哲也)(写真:柿谷哲也)
3月末に訪日したマクロン仏大統領は、日本が傾聴すべき発言を残した。
「我々の目的は、ふたつの覇権国家の属国になることではない。中国の支配に依存することも望まないし、米国の予測不可能性に過度に晒されることも望まない」
前出の菅原氏もその発言にはうなずく。
「日本としてはこうした取り組みに協力することで、米国との同盟に依存するだけの体制から脱皮をしたほうがよいと思います。
だからと言って日米同盟を破棄するとかそういうことではなく、今回のホルムズ護衛のように、米国が主体的にやらない安全保障上の取り組みを英仏主導で進めるのであれば、日本としては引き続き同海峡の利用がマストなのですから、積極的に参加すべきだろうと思います」(菅原氏)
日本は中東原油を確保する対策を多方面に作りながら、米国一辺倒の安全保障から脱却するときなのかもしれない。前出の伊藤元海将は嘆く。
「そもそもホルムズ海峡には戦時国際法が適応されていますから、NATOも日本も掃海艇や軍艦を出すとアメリカ・イスラエル側の軍事行動に参加するとみなされます。つまり戦時国際法上の『中立国義務違反』となるのです。
前述したとおり、英国などは「ホルムズ海峡の通航だけに特化した枠組み(コアリッション)」を国連のお墨付きがなくても作れます。日本はこういったことはできませんが、高市政権の判断は日本国憲法によって守られているのではなく、『国際法』によってきちんと考えられた対応をしているのです。
問題は、こういった関係性を米軍はわかっていながら、トランプ大統領とヘグセス国防長官がめちゃくちゃにしていることなのです」(伊藤氏)
米海軍はイラン戦争後もペルシャ湾にいるのだろうか。海軍系シンクタンクで戦略アドバイザーを務める、米海軍専門家の北村淳氏はこう言う。
「米海軍第5艦隊が撤退すると、イランが大勝利と騒ぎ立てますので、バーレーンに居残ることになるでしょう。たとえトランプが『コスパが悪過ぎるから、ホルムズ海峡などは日本、韓国、そしてヨーロッパに丸投げしてしまえ』と言っても、海軍戦略家たちは抵抗するはずです。
ただし、米海軍首脳も腰抜けで、自己保身のイエスマンが少なくありません。もしトランプに迎合してしまった場合には、米海軍はまた終わりに一歩近づくことになるでしょう」(北村氏)
トランプのひと言で世界は右往左往する。結末は不明だが、一刻も早い終戦を望みたい。