オグマナオト
おぐま・なおと
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1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
クアーズフィールドでは通算成績で打率.387、7本塁打、20打点、OPS1.226超をマークする大谷
日本時間4月18日からロッキーズの本拠地クアーズフィールドでの4連戦に臨むドジャース。標高1マイル(約1600m)に位置するMLB随一の高地球場であり、打球が飛びやすいことから"打者天国"とも称されるこの地で大谷翔平はいったい何発打つのだろうか?
※データはいずれも日本時間4月8日時点
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今春のWBCでは大会最多タイの3本塁打を放ち、DHとしてベストナインに選出されるなど、前回大会よりも打撃の調子は良かった〝侍ジャパンの大谷翔平〟。
だが、MLB開幕直後の〝ドジャース大谷翔平〟の打撃成績には、ヤキモキしたファンも多いのではないだろうか。
昨季は自己最速タイとなる開幕2試合目(8打席目)でシーズン第1号本塁打が飛び出たのに対し、今季第1号は開幕7試合目(28打席目)だった。今季の「打者・大谷」の調子はどう見ればいいのか?
現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏はこう解説する。
「WBCでは調子が良かったものの、一度ピークをつくったことによる集中力の欠如や投手調整での疲れもあり、MLB開幕直後の調子はいまひとつでした。テイクバックのカタチやフォロースルーの部分において、本人比で微妙なズレがありました。
スイングスピードも若干遅くなり、速い球に差し込まれがちだったことが、第1号が出るまで少し時間がかかった要因です」
なかなか本塁打が出なかった一方で、昨季から継続する「連続試合出塁」は、イチロー(元マリナーズほか)以来、日本人2人目となる「40試合超え」の大台に到達した。この点はどう評価すべきか?
「本塁打が出ずとも、怖い打者であることに変わりはありません。当然、ストライクゾーンではなかなか勝負してもらえず、四球は多くなります。また、今季の大谷は投打共にそこまで力まず、8割程度の力感で走塁も抑えめ。そのほうが負担を減らせて確実性も高まり、連続試合出塁にもつながります。
そして、大谷にとっての8割の力感とは、普通の打者の110%と言っても過言ではなく、微妙なズレさえ修正できれば、自然と本数も増えていくでしょう」
実際、待望の今季1号が出た後は、すぐに第2号、第3号と連発してみせた。このように、本来の実力が出せれば、何も心配はいらないという。
「野球選手の能力・成績は、シーズンを通した長い目で評価するもの。開幕数試合で本塁打が出なかったからといって問題はありませんし、世間が『大谷どうした!?』と騒ぎ始めた頃に打ちそうだと思っていたら、やっぱり打ってくれました。開幕前に『今季もシーズン打率.290、50本塁打程度は狙える』と期待していましたが、問題なさそうですね」
ただ、その「期待どおりの成績」を出す上では、懸念すべき点もある。大谷にとって今季は「二刀流完全復活」を目指す、例年以上にハードなシーズンであることだ。
「打者に専念して『50-50』を達成した2024年と比較すると、開幕から二刀流で臨む今季は、どうしても集中し切れない打席が増えることも考えられます。
実際、今季初登板の試合では6回1安打無失点の好投で初勝利を挙げたものの、5回に自分の打席を忘れてしまい、慌てて準備する場面がありました。誰よりも過酷な環境で戦っている点は考慮する必要があります。
それでも、例年シーズンのどこかでやって来る本塁打量産モードに入りさえすれば、今季もすごい打撃成績を残してくれるはずです」
実は今季の「開幕7試合目(28打席目)での第1号」より遅かったのが2年前。このときは「開幕9試合目(41打席目)」でようやく第1号を放ったが、その後は2度も「月間12本塁打」を記録する爆発ぶりで、結果的にはキャリア初の50号到達。54本で本塁打王も獲得している。
いったん本塁打量産態勢に入れば、一気に数字を伸ばす姿を過去に何度も見せてくれたのが大谷のスターたるゆえんだ。
その意味で期待したいのは、日本時間4月18~21日。コロラド・ロッキーズの本拠地、〝打者天国〟の異名を持つ「クアーズフィールド(以下、クアーズ)」に乗り込んで戦う4連戦だ。
そもそも、クアーズが〝打者天国〟と呼ばれる理由もおさらいしておこう。最大の特徴は、「マイル・ハイ・シティ」と呼ばれるコロラド州デンバーの標高1マイル(約1600m)に位置するMLB随一の高地球場である点だ。
「海抜0m地点と比べると、空気密度は約15~20%低下。密度が下がることで空気抵抗も減少し、打球が5~10%遠くまで飛ぶ、とされています。例えば、海抜数mのヤンキースタジアムで400フィート(約122m)の打球を放ったら、クアーズでは440フィート(約134m)になる計算です」
ボールが飛びやすくなることを想定してか、クアーズは他球場と比べて外野が広く設計されている。ただ、その設計が打者にとって別の利点も生み出している。
「外野が広いため、二塁打や三塁打も出やすい球場です。また、外野手の守る範囲が広がるため、結果としてヒットエリアも拡大します。大谷であれば、2度目のサイクル安打も期待できそうです」
打球が伸びやすく、本塁打も多く出る打者天国クアーズフィールド。外野が広いため、二塁打や三塁打も出やすいという
また、空気密度の変化は打球だけでなく、投球にも影響を与えるという。
「空気密度が低いため、スライダーやカーブなどの変化球が曲がりにくくなります。変化量は20%程度減少し、投手にとっては大きなハンディとなります。投手サイドからすると、『より大きく曲げよう』という意識が強くなるためか、ロッキーズの投手はトミー・ジョン手術を受ける傾向が他球団よりも強い印象です」
1990年代後半には打者天国である点を生かし、「40本塁打トリオ」や「30本塁打カルテット」といった超強力打線でMLBを席巻したこともあるロッキーズ。だが、近年はその強力打線の面影はなく、ただただ投手受難の球場になってしまっている。
「ロッキーズの場合、エース級の投手でも防御率4、5点台は当たり前。他球団に移籍して急に成績が良くなるケースもよくあります」
43勝119敗という記録的な低迷で地区最下位に沈んだ昨季のロッキーズ。敗戦数は1900年以降ではMLB史上ワースト3位タイ。「得失点差マイナス424」は歴代最悪の数値で、チーム防御率5.97も両リーグワーストだった。
そんな相手に対し、王者ドジャースは昨季11勝2敗とお得意さまにし、大谷も昨季の対ロッキーズ戦で5本塁打をマーク。そのうち3本がクアーズで放ったものだった。
「クアーズでの大谷は通算成績もすさまじく、打率.387、7本塁打、20打点、OPS(出塁率+長打率)は驚異の1.226超です。2年前には145mの超特大弾を放つなど、大谷にとってもまさに〝天国〟と呼べる球場です」
単に「打者天国だから」という理由以外にも、大谷がこの地で好成績を残せる要因があるという。
「大谷のスイングは、リラックスした構えから体の回転を最大限に生かす合理的なフォームです。本塁打が出やすいとされるバレルゾーン(打球速度158キロ以上、打球角度26~30度)への到達率がMLBトップクラス。フライボール革命を体現するアッパースイングで長打を量産します。
クアーズでは、これらの『強い打球』がさらに飛距離を伸ばし、通常なら外野フライとなる打球もスタンドインしやすくなります」
そして、クアーズは日本人選手にとって非常に縁起がいい球場であることも、大谷の爆発を期待したくなる要因だ。
「1996年に野茂英雄(当時ドジャース)が日本人として初めてノーヒットノーランを記録した球場として有名です。開場から31年、この打者天国でノーヒットノーランを達成したのは野茂ただひとり、という大偉業。
ほかにも、イチロー(当時マーリンズ)が2016年にMLB通算3000安打を達成したのもクアーズでしたし、2年前には大谷自身、イチロー超えの日本人シーズン最多記録となる『57盗塁』をこの球場で達成しています」
こうしたいくつもの要因から、今回の4連戦が「大谷の本塁打量産のきっかけ」になりうる。
「春先の調整段階でクアーズの恩恵を受けることで、一気に本塁打ペースを上げるシナリオは十分に考えられます」
今季のクアーズでの試合は、大谷の打撃以外にも楽しみがある。ドジャースの大谷と山本由伸、佐々木朗希、そして今季からロッキーズでプレーする菅野智之の日本人対決だ。彼らは〝打者天国〟というハンディの中、どんな投球を見せてくれるのか?
「ローテどおりなら菅野の登板機会はありそう。ドジャースは大谷の登板間隔次第でローテが変わりそうですが、3人のうち1人か2人は4月のクアーズで投げる可能性が十分にあります」
菅野は今季2度目の先発で本拠地初登板。6回78球を投げて被安打4、本塁打による1失点のみで移籍後初勝利を挙げている。
今季からロッキーズに加入した菅野。今季2度目の先発登板で6回1失点と好投して移籍後初勝利を挙げた
「菅野はNPB時代からシーズン終盤よりも春先の調子が良い投手です。また、日本でも本塁打が出やすい打者有利の東京ドームでエースとして投げ続けてきた男ですから、その経験も生かしてほしい」
「菅野vs打者・大谷」といえば、昨年9月の対戦で大谷が2打席連発を放ったことは記憶に新しい。夏場に調子を落としていた打棒が復活するきっかけにもなった。今季も大谷の打棒が上向く契機となるのか? それとも菅野がリベンジを果たすのか?
「今季の菅野はオリオールズ時代と比べてスイーパーを減らし、ジャイロスライダーを増やしています。ただ、変化量が小さくなるクアーズでは、カットボールやスライダーでも『より大きく曲げよう』という意識が大切で、そのさじ加減をどうするか。また、7回まで投げようとせず、5回まででいいから高い出力を出し切る意識も必要です」
一方のドジャースの日本人トリオには、クアーズでどのような投球を期待したいか?
「大谷は昨年8月にクアーズで登板し、4回9安打5失点で負け投手に。昨季5失点以上したのはこの試合だけで、大谷にとっても一筋縄ではいかない球場です。
ただ、今季の『投手・大谷』は打撃同様、力感を抑えながらも質の高い投球を見せています。昨季から続く『連続無失点投球回』を現役投手最長まで伸ばすほど安定しているので期待したいです」
昨季はクアーズフィールドで2度登板した山本。5回無失点、7回3失点とさすがの安定感を発揮していた
山本は昨季、クアーズで2度登板。6月の試合では5回1安打無失点という見事な投球で勝利投手に。もう一戦は勝敗こそつかなかったものの、7回を投げて4安打3失点と大崩れはしていない。
「投球を細かく分析すると、山本でも変化球の曲がり幅はドジャースタジアムと比べて明らかに小さくなっていました。その中でも安定した投球ができているのはさすが。菅野との『沢村賞投手対決』も見てみたいですね」
クアーズフィールド未登板の佐々木。「ジャイロフォークでも変化が小さくなるか気になります」(お股ニキ氏)
なかなか制球が定まらない佐々木はどうか?
「佐々木はまだクアーズで登板したことがありません。佐々木のジャイロフォークでも変化が小さくなってしまうのか気になります」
日本人選手が数々の伝説を残した球場で、今年はどんなドラマが生まれるのか? 勝負どころの8月後半に控えるクアーズ3連戦にも注目だ。