「アメリカ産ジャガイモ」輸入解禁で日本の農家が壊滅!? 病害虫「センチュウ3兄弟」の激ヤバ繁殖力

取材・文/興山英雄 写真/共同通信社 写真提供/農林水産省植物防疫所

スーパーの売り場に並べられたジャガイモスーパーの売り場に並べられたジャガイモ
病害虫侵入を防ぐため、日本では生ジャガイモの輸入は原則禁止だが、2020年頃からアメリカが輸入解禁を求め、その圧に負けたのか、日本政府はついに解禁へ動き出した。だが、米国産ジャガイモの病害虫リスクは大きく、農家は戦々恐々だ。病害虫は具体的にどうBADなのか? 今回、特にヤバいとされる3つの線虫について取材した!

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【「あの畑には近づくな」】

米国産生鮮ジャガイモの輸入解禁に向けた動きが、にわかに加速している。

農林水産省は9月、国内への侵入を防ぐべき「21種の病害虫」を特定した。今後、アメリカ側と具体的な措置を詰めていくことになるが、主産地からは悲痛な声が上がる。

「輸入が解禁されたら、国産のバレイショを作れなくなるかもしれない」

北海道でジャガイモを栽培する、北見地区農民連盟の坂野和弘委員長は言う。懸念するのは安い輸入品に売り場を奪われることではない。

「アメリカからやって来た病害虫が、ジャガイモの作付けに欠かせない『種イモ(栽培用の種子に当たるイモ)』の生産を脅かすことです」

北海道には未知の病害虫に震え上がり、10年がたつ今もなお解放されない過酷な経験がある。2015年、網走市において国内で初めて「ジャガイモシロシストセンチュウ」が確認された。発見の端緒は、畑の異変だった。坂野氏は、当時の様子をこう聞いている。

「茎はきちんと立っているのに、下葉が落ち、まるで不自然に刈り込まれた盆栽のように枯れ上がっていく。詳しく検査して、病害虫の正体がわかったとき、ほとんどの生産者はその名前を聞いたのは初めてのことで、現場は『イモが壊滅的な状況になるぞ』と、本当に戦々恐々としました」

ジャガイモシロシストセンチュウの成虫(左)と幼虫(右)。一度でも農地に入り込むと根絶は極めて困難ジャガイモシロシストセンチュウの成虫(左)と幼虫(右)。一度でも農地に入り込むと根絶は極めて困難
そこから、産地の日常は一変した。

出荷や作付けが制限され、土を介した病害虫の拡散を防ぐため、畑を移動するたびにトラクターや収穫機、車両の足回りを洗浄する。その後、坂野氏が暮らす清里町でも発生が確認された。

防除を重ねたとしても一度侵入した線虫(センチュウ)の根絶は難しい。しかし、防除をやめれば再び増殖するため、作付け制限や洗浄などの重い負担は今も課され続けている。最初の発見から10年以上が過ぎても、闘いはまだ終わっていない。

畑の土が線虫を運ぶ恐れがあるため、警戒は人の行き来にも及ぶ。

「『あの畑には近づくな』と、どうしても言わざるをえない場面も見ます」

病害虫は農家同士の間に疑心暗鬼を生むことになった。

坂野氏によれば、ジャガイモや種イモの生産をやめ、別の作物へ転換する農家も多かったという。約50年前、別種の病害虫「ジャガイモシストセンチュウ」が確認された頃の話にも触れた。

「『もうこの地域で農家をやっていられない』と、自ら命を絶った生産者がいたと聞いています」

病害虫の恐怖は、経営だけの問題ではない。だからこそ坂野氏は、ここにきての急展開に強い不信感を募らせる。

「私たちは十数年前から毎年、農水省との意見交換で『解禁はあってはならない』と申し入れ続けてきました。それが今年5月に『病害虫の特定とリスク評価にメドがついた』と聞き、その翌月には『次のステージに進む』という。十数年も止まっていた話が、わずか1ヵ月で一気に進んだ。これではいけないと、危機感を覚えました」

【「土」の大問題】

植物検疫の現場を知る関係者は、「土には微小な生物や病原体が無数に潜み、水際で何が含まれているかを100%見極めることは不可能に近い」と、線虫だけでなく土そのものの危険性を指摘する。

実際、日本の植物防疫法は、土そのものと土のついた植物の輸入を禁止している。しかしジャガイモは、土を落とす際に厄介な問題がある。

「イモのくぼんだ部分の隙間に、線虫の卵を含むシスト(包嚢[ほうのう])が食い込み、そのまま付着してくる可能性が否定できません」

ジャガイモシロシストセンチュウの「シスト(包嚢)」。雌が死ぬ間際に体表を硬化させた殻で、大量の卵を抱えたまま土中に居座るジャガイモシロシストセンチュウの「シスト(包嚢)」。雌が死ぬ間際に体表を硬化させた殻で、大量の卵を抱えたまま土中に居座る
線虫を研究する龍谷大学農学部の岩堀英晶教授はそう話す。岩堀氏によれば、「国内未発生の『コロンビアネコブセンチュウ』のように、イモの内部へ侵入する種類もある」という。

表面の土を洗い落としても、内部の病害虫まで取り除けたことにはならない。このリスクに幾重もの対策を重ね、2006年に認められたのが、「ポテトチップス用」の米国産ジャガイモの輸入だ。

その条件は徹底している。

「土壌検査でシストセンチュウの発生がないと確認された畑で生産され、輸出時にも検査を受ける。日本到着後は密閉コンテナで指定施設まで運び、薄切りしたものは130℃以上の油で2分以上加熱。皮などの残りかすは焼却または同等の処理を行なう。施設には、排水中の残渣を濾過する設備も求められます」(前出・植物検疫関係者)

万が一、港での検査で土の付着が見つかれば、その荷物は全量廃棄か返送処分となる。

今回は、アメリカから輸入された生のジャガイモをスーパーに並べ、消費者の台所へ届けるという話だ。

「大量に輸入されるジャガイモを、すべて土がついていない状態にできるのか。そこに疑問があります」(坂野氏)

現在のポテトチップス用でも、アメリカ側の検査は、輸出する荷物のまとまりごとに、ジャガイモの1%以上を調べる方式だ。1個残らず内部まで確認する仕組みではない。

9月18日に農水省が開いた説明会でも、こうした検査の擦り抜けをどう防ぐのかと質問が相次いだ。同省は「擦り抜けによる侵入リスクも考えています」と答えたが、具体策は今後の協議に委ねられた。

【大量の卵を抱えて土の中に潜る】

米国産生鮮ジャガイモの輸入解禁を巡り、農水省が今年9月、対策を協議すべき対象として特定した21種の病害虫。今回は中でも代表的な3つの線虫の生態を見ていこう。

まずは北海道の産地に10年に及ぶ苦闘を強いてきた、「ジャガイモシロシストセンチュウ」。その生態は厄介だ。

「雌は体内に200~500個の卵を残して死にます。するとその体表は卵を守るために硬化し、『シスト』という、わずか0.5㎜ほどの殻になるんです。中の卵は、土の中で15年以上も生き続けます。10年以上作付けをしなかった畑でも、再びジャガイモを植えれば、根から分泌される物質に反応し、幼虫が次々と卵から出てきて、根に寄生します」(岩堀氏)

畑への侵入を見た目で察知するのは難しい。

「この線虫の密度が低いうちは地上部の症状は見えませんが、高くなると水分吸収を阻害され、ジャガイモはだんだんしおれてきます。さらに高密度になると、ジャガイモは半分も収穫できないような状態になる」

シロシストセンチュウに寄生された畑。下の葉が枯れ果て、上の葉だけが不自然に残る「毛ばたき症状」が特徴シロシストセンチュウに寄生された畑。下の葉が枯れ果て、上の葉だけが不自然に残る「毛ばたき症状」が特徴
約50年前に国内で初確認された「ジャガイモシストセンチュウ」も脅威だ。産地は長年、この線虫が増殖しにくい抵抗性品種を開発・導入することで被害を抑え込んできた。だが、岩堀氏はこう警戒する。

「輸入要請で懸念されるのは、別系統の侵入です。長年かけて開発した線虫に強い品種が通用しなくなる恐れがあります」

しかも食卓の定番、男爵薯やメークインはこの線虫に弱い。汚染地の拡大で売れ筋の品種がより大きな被害を受ければ、農家の経営を直撃する。

コロンビアネコブセンチュウの被害イモ(左)と健全なイモ(右)。被害イモは無数のこぶが皮を突き破るように隆起し、売り物にならなくなるコロンビアネコブセンチュウの被害イモ(左)と健全なイモ(右)。被害イモは無数のこぶが皮を突き破るように隆起し、売り物にならなくなる
また、国内未発生の「コロンビアネコブセンチュウ」は、イモの内部にまで侵入し、表面にいびつなこぶを作って商品価値を失わせる。岩堀氏が「世界的にも厄介な線虫の筆頭」と指摘するネコブセンチュウの仲間だ。アメリカ北西部のジャガイモ産地では、防除しなければ年間4000万ドル(約60億円)の減収をもたらすと推定されている危険種だ(減収額の想定は植物防疫所『病害虫情報』より)。

病害虫には細菌やウイルスなども含まれる。イモを変形させ、収量を減少させる「ジャガイモやせいもウイロイド」や、油で揚げると黒いしま模様が現れ、商品価値を奪う「ゼブラチップ病」を引き起こす細菌もいる。

【一度でも病害虫に侵された畑は......】

これらの線虫は人間には寄生しない。だが、「怖いのは調理でむいた皮や芽が家庭菜園を伝って拡散すること」だと前出の坂野氏は指摘する。

「安価な米国産を種イモとして庭に植える人が増えれば、そこで線虫が繁殖し、靴底や車のタイヤを媒介に農地へ運ばれていく恐れがあります」

その先で、坂野氏が危惧するのが種イモへの打撃だ。

ジャガイモ栽培は、検査をクリアした健全な種イモを植えることから始まる。仮に一部の地域であっても、生産地が病害虫に侵されれば、移動・出荷制限によって種イモの供給は細る。そうなれば、被害のない畑でも、次の作付けを支える「種」そのものが足りなくなる恐れがあるのだ。

坂野氏はこう訴える。

「消費者の方が、安さを望む気持ちはわかりますし、選択肢が増えるのは良いことです。ただ、病害虫によって種イモ畑が脅かされ、その結果、国産の種イモが途絶えれば日本の食卓から国産ジャガイモそのものがなくなることにつながる。そのことをわかっていただきたいのです」

生産者たちの根深い不安を残したまま、米国産ジャガイモは日本に輸入されることになるのか。

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