お股ニキ
おまたにき
お股ニキの記事一覧
野球評論家、ピッチングデザイナー。さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を見る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してSNSで活動。その理論を取り入れる選手が急増し、オンラインサロンに40人以上のプロ選手が加入。プロ、アマ問わず、千賀滉大、藤浪晋太郎(共にメッツ)に次いでMLBや甲子園を目指す投手の個人指導を行なう。
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就任3年目でリーグ3連覇へ導いた小久保裕紀監督。南海時代以来60年ぶりの快挙達成だ
プロ野球はレギュラーシーズンが最終盤を迎え、頂点を決めるポストシーズンが目前に迫っている。日本一の大本命は、盤石の戦いぶりで連覇を目指すソフトバンク。鷹の強さの真因とポストシーズンの行方を徹底解剖する!
9月17日に3年連続22度目のパ・リーグ優勝を決めたソフトバンク。
3、4月こそ14勝12敗と平凡な滑り出しだったが、交流戦以降は一気に加速。9月29日時点でチーム打率.263、出塁率.338、防御率2.89、守備率.990(失策52)はいずれもリーグトップの成績を誇り、9月は16勝4敗1分け、勝率8割。まさに敵なしの状態だ。
現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏は、今季のソフトバンクの強さの本質をこう分析する。
「今季のソフトバンクは穴がまったく見当たりません。打つ、守る、走る、投げるのすべてでリーグの1位か2位という横綱野球です。9月の強さも勢いではなく、組織の完成度がそのまま数字になって表れたものだと私はみています。以前のように、シーズン序盤からダッシュする〝先行逃げ切り〟しかできない態勢ではなくなりました」
今季のソフトバンクの強さについて、「黄金期をつくった2010年代のチームよりも完成度は高い」と称賛するお股ニキ氏。その根底にあるのは他球団を凌駕する意識の高さだという。
「ソフトバンクは、投球、フレーミング、配球、バイオメカニクス、トレーニングの専門知を接続し、野球の全領域を突き詰めている。アメリカのトレーニング施設・ドライブラインのような機能を内製化し、みずほPayPayドーム福岡には、約5億円を投じてキナトラックスやホークアイの測定ラボを設け、トラジェクトアークも置いた。データとAIにも惜しみなく投資し、得られた知見を現場へ戻す仕組みも持っています」
設備や分析への投資だけなら、資金力のある球団はほかにもある。お股ニキ氏が強調するのは、その知見を選手に届ける〝高い組織力〟だ。
「1軍から4軍まで同じ指示で選手に落とし込むのがソフトバンク流。支配下の70人だけでなく、育成を含むより広い選手層を共通の思想と評価基準で動かせるので、誰かが抜けても次々に代わりの選手が出てくるのです。
パ・リーグでは楽天を除く各球団が、ドーム球場と3軍制を備える方向に進んでいて、この運用モデルが標準になりつつある。ソフトバンクは、それを先行してつくり上げたのです」
その再現性は、投手陣の運用に如実に表れている。今季は有原航平(日本ハム)が移籍。期待された大関友久は不振に陥り、リバン・モイネロも出遅れた。それでも首脳陣は復帰を急がせなかった。
「上沢(うわさわ)直之や上茶谷大河(かみちゃたに・たいが)を改良し、前田悠伍、大津亮介、松本晴(はる)らを伸ばして先発の穴を埋めました。高卒3年目左腕の前田悠がエース級になったのが、以前のパワー路線一辺倒ではなく、技巧派も育てられるようになった証拠です。
中継ぎも藤井皓哉(こうや)が故障で離脱する中、ロベルト・オスナを復活させ、抑えの杉山一樹らを中心に分厚い陣容を整えた。毎年顔ぶれが変わっても救援陣を整備できるところに、倉野信次投手チーフコーチの手腕と組織の再現性があります。リリーフ陣を継続的に運用できないチームは接戦を拾えない。日本ハムとの差を強く感じます」
高卒3年目左腕の前田悠。モイネロの出遅れであいた先発の穴を見事に埋めた
投手陣同様に、野手陣の層も分厚い。
「控えが控えじゃないんです。山川穂高が不調でも正木智也が出てくるし、栗原陵矢の伸び方もすごい。正木は交流戦前からブレイクの兆しがありました。画一的な指導ではなく、選手それぞれの個性を伸ばす育成がしっかりできている証拠です」
39本塁打、117打点で2冠目前の栗原。山川の不振を補って余りある大ブレイク
一方、打撃では目立たない捕手の運用にも、チームの価値観が表れているという。
「海野隆司は今季も打撃面で苦しみましたが、打てなくても使われるのは、チームが配球と守備の価値を理解しているから。坂本誠志郎(阪神)もそうですが、打撃より守りを評価される捕手を起用するチームが勝っている現実があります。
その上で打撃面を補うために、5月にDeNAから山本祐大(ゆうだい)をトレードで獲得。この戦略も見事でした」
5月にトレードで加入した山本祐。打撃に不安のあった海野をカバーし、万全の態勢を築いた
今季からCSに新ルールが導入された。リーグ優勝チームとファーストステージ勝者とのレギュラーシーズンのゲーム差が10ゲーム以上ある場合、優勝チームに「2勝」のアドバンテージが与えられることになったのだ。
ソフトバンクは2位西武に12.5ゲーム差、3位日本ハムに13.5ゲーム差をつけており、新ルール導入初年度ながら、早くもこのアドバンテージが注目されている。
「新ルールが適用されれば、最大7試合制(5戦先勝)となり、ソフトバンクは4敗までできるようになる。絶対的有利の状況ですが、2勝のアドバンテージがあってもなくても、ソフトバンクの戦い方は変わらないでしょう」
CSファーストステージで激突する西武と日本ハム。ソフトバンクにとって、どちらが「嫌な相手」か?
今季のソフトバンクとの直接対決は、西武が11勝14敗に対し、日本ハムが5勝18敗2分け。成績では西武のほうが善戦しているように見えるが、お股ニキ氏は首を横に振る。
「ソフトバンクにとって、短期決戦で当たりたくないのは日本ハムでしょう。確かに西武は投手だけならソフトバンクと互角に持ち込めるくらい質が高い。実際、チーム防御率は2.90とソフトバンクと競っています。
ただし、打線が良くないので勝ち切れないはず。低迷期から脱出し、今季は2位まで浮上してきたのは素晴らしいですが、まだ打線は発展途上です」
防御率1.36とリーグトップの平良。西武は王者ソフトバンクと互角に渡り合う投手力を誇る
一方、ソフトバンクにとって、日本ハムはどのような点でやりにくいのか?
お股ニキ氏は、ポストシーズンという短期決戦ならではの〝落とし穴〟を指摘する。
「もちろん、レギュラーシーズンで大きく勝ち越していますし、新ルール適用で2勝のアドバンテージもあるため、十中八九、ソフトバンクが順当に勝つでしょう。しかし、達孝太や北山亘基(こうき)、福島蓮(れん)といった右の本格派が絶好調でそのポテンシャルをいかんなく発揮すれば、なかなか得点を重ねることは難しくなってしまいます。
ロースコアでの展開が続けば、12球団断トツの177本塁打を誇る日本ハム打線に一発を浴びて敗戦......という展開も十分にありえますし、短期決戦でそれが数試合続いたら致命的です」
最速156キロを誇る達。今季序盤は不調だったが、夏場から本来の姿を取り戻した
ソフトバンク相手には、左投手の起用もカギを握るという。
「ソフトバンク打線は左投手を苦にする傾向がややあるので、加藤貴之や山﨑福也といった先発左腕にベストピッチをされるのは嫌でしょうね。右の本格派と左腕がそろう日本ハム先発陣が好調なら、短期決戦ではかなり怖い存在になります。
ただし、先発の回し方には工夫が必要です。レギュラーシーズンでは、ソフトバンクとの3連戦で右の本格派を並べたり、左腕を並べたり、一辺倒になりがちでした。これでは慣れられてしまい、意味がありません。相手の目先を変えるためにも、左右交互に投げさせるべきでしょう」
とはいえ、日本ハムが勝ち上がれば下克上の可能性が高いかといえば、そうでもないという。
「優勝に迫った昨季と比べ、ソフトバンクとの差は大きく広がっています。ホームランは打てても、守備と中継ぎで崩れる大味な試合になりがち。ソフトバンクには2勝のアドバンテージもあるので、なかなか厳しい戦いになりそうです」
CSを突破した先に待つのは日本シリーズだ。セ・リーグの阪神、巨人、DeNAをお股ニキ氏はどうみるのか?
阪神は昨年の日本シリーズでソフトバンクに1勝4敗と敗れている。しかし今季は、佐藤輝明と森下翔太がさらに進化。個の力を軸に、打ち勝つ力は十分ある。
「昨年の日本シリーズは接戦のほとんどをソフトバンクが勝ち切り、総合力の差が出ました。佐藤や森下には、ソフトバンクの野手と比べても遜色ない、あるいは上回る要素があります。ただし、今季の阪神はシーズン最終盤まで優勝争いをしており、ポストシーズンは疲弊した状態で臨むことになるので、コンディション面で不安が大きいです」
打率.315、37本塁打、100打点とすべてリーグトップの数字を残している佐藤。三冠王目前だ
巨人は今季、岡本和真(ブルージェイズ)が抜けた穴を外国人のボビー・ダルベックが埋め、チーム最多の25本塁打を放っている。しかし、チーム本塁打数はセ・リーグ上位3球団で最少。打線の火力不足は否めない。
「岡本の穴埋めという意味では、ダルベックはよくやっていると思いますが、ファンは不満があるようですね。開幕前から言っていたとおり、投手陣と守備はいいものの、なかなか点が取れない。大勢がシーズンをフルで稼働していれば、強みの中継ぎ陣にもっと上積みがつくれたと思います」
岡本の穴を埋め、チーム最多25本塁打を放ったダルベック。短期決戦では一発が脅威となる
DeNAは6月に4勝15敗と沈みながら、9月は15勝8敗と急上昇。牧秀悟が自身初の30本塁打に到達し、エースの東克樹が12勝を挙げるなど、投打の柱が状態を上げている。
2024年には、レギュラーシーズン3位ながら日本シリーズへ進出し、ソフトバンクを倒して下克上日本一を達成。今季もその再現を狙いたいところだ。
「ソフトバンクにとって、セ・リーグで一番嫌なのはDeNAでしょう。守備や走塁といった細部には粗さがあるものの、牧の打撃や東の投球に代表されるように、打撃と投球そのものの出力が高いのが特徴。
総合力で劣っていても、局面ごとに最大出力を発揮して試合を決められます。2年前に下克上日本一を経験していますし、9月に入ってモメンタム(勢い)も上がっていることを考えれば、ポストシーズンでは非常に怖い存在です」
自身初の30本塁打に到達した牧。DeNAが"最大出力"を出せば、王者も油断できない
2年前の日本シリーズでは、敵地で2連勝しながら、そこから4連敗を喫したソフトバンク。だが、お股ニキ氏は「今季はそうはならないはず」と予見する。
「今季のソフトバンクの盤石ぶりは2年前、そして、1年前の比ではありません。間違いなく日本一の大本命です」
ソフトバンクが日本一連覇を成し遂げるのか、阻止されるのか。ポストシーズンの行方から目が離せない。
*成績はすべて9月29日時点