【濃厚煮干しらぁめん】名店「麺屋 音」の濃厚なのに上品な極上煮干しラーメンが練馬でも:パリッコ『今週のハマりめし』第237回

取材・文・撮影/パリッコ

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

まず始めにおわびしなければいけないことがある。当連載の第227回で紹介した西荻窪の「麺屋ほっちゃん」だが、僕が記事を書いたすぐあとに閉店し、まったく別の酒場になってしまったようだ。万が一記事を読んで訪れたという方がいれば大変面目ないし、僕自身、もうあのラーメンが食べられないと思うと寂しい。

が、その母体である北千住の「麺屋 音」はまだ営業中。当該記事のなかで僕は、麺屋 音に関してこのように記述していた。

「実は数年前、ある週刊誌で、毎週1軒のラーメン店を取材して紹介するという連載記事の取材執筆を担当させてもらっていたことがある。~中略~そのシリーズでは、都内の名店と言われる店を50数軒はめぐっただろうか。もちろんどこのラーメンも個性的でうまかったが、個人的に特別その味に感動し、今でも記憶に強く残っている店がふたつある。そのひとつが、北千住にある『麺屋 音』。毎回撮影を担当してくれていたカメラマンさんとも、後々まで『あそこ美味しかったですよね?』と語り継いだくらいなので、ハマるひとにはハマる店で間違いないだろう。濃厚なのにえぐみがまったくない煮干しラーメンで、当時の記事を見返してみると、僕はその味を『丼一杯のフルコース』とまで評していた」

ところでその際に知ったことだが、麺屋 音の系列店は他にも数店舗あり、なんと僕の日常の行動範囲から遠くない練馬駅近くにも、昨年新店舗がオープンしたらしい。これは行かないわけにはいかないだろう。

「麺屋 音 練馬店」「麺屋 音 練馬店」
店は、練馬駅北口の大通りと線路の間の、ごく細い裏道にあった。店頭でメニューを確認すると、基本は「濃厚煮干しらぁめん」「濃厚煮干し油そば」「生姜鶏白湯」「背脂にぼしらぁめん」「淡麗煮干しそば」の 5種類で、北千住の本店とほぼ同様の構成のようだ。もっとも王道と思われる「濃厚煮干しらぁめん」(税込950円)を選択。トッピングもいろいろあるが、今回は基本形を味わうべくなしにして、「レモンサワー」(400円)のみをおともとする。

メニューメニュー「レモンサワー」「レモンサワー」
すぐに到着したレモンサワーは、「こだわり酒場」の缶。素性が明確なうえ、氷入りのグラスで2杯はとれるところが、酒飲み的に嬉しい。

嬉しいと言えばもうひとつ。「日替わりサービストッピング」の存在で、その内容は以下。月、チャーシュー。火、岩のり。水、味玉。木、トロ豚。金、のり。土、メンマ。日、ネギ。目玉はやはりチャーシューやトロ豚になるのだろうが、この日は日曜だったのでねぎ増し。大好物なのでむしろ大当たりだ。

「濃厚煮干しらぁめん」「濃厚煮干しらぁめん」
広めのどんぶりに麺とスープ、大きなチャーシュー、メンマ、海苔、ねぎ、頂点にのったゆずの黄色が華やかな、美しいラーメン。最大の特徴はなんと言っても、見るからに濃厚そうな煮干しスープだ。

いただきますいただきます
れんげですくい、かなり久しぶりに味わうそのスープをひと口。あ~......そうだった、この感じだ。口当たりはとろりとしていて、厳選したカタクチイワシを使ったという煮干しの強い旨味、香りが口から鼻へ抜ける。それでいて、えぐみや苦味が、どこを探しても見当たらない。ほんのりと甘みがあって、塩辛すぎることもなく、これだけ煮干しを感じさせながらも、ものすごく上品な印象で、もうひと口、もうひと口とスープを飲む手が止まらない。このギャップと完成度の高さにこそ、かつて感動したんだった。

純白の麺純白の麺
麺はかなりの色白で、ぷりぷりぱつぱつ食感のストレート。煮干し香るスープとともにすすると、噛むたびに小麦の味がして、またどこか、昔懐かしい中華そば的な風味も感じるような気もする。僕のような素人にはそれ以上の言語化が難しいが、とにかく全体のバランスが絶妙すぎる。シンプルに、うまい!

チャーシューの存在感チャーシューの存在感
豚ばらロールタイプのチャーシューも、存在感がすごい。豚の味がしっかりとして、炙られた表面が香ばしく、口当たりはとろりと柔らかい。箸で持ち上げれば崩壊しだすその肉と、溌剌(はつらつ)とした麺の相性がまた素晴らしい。当然、しゃきしゃきのねぎや、メンマや海苔、良きタイミングを狙って口に運ぶゆずの爽やかな香りなど、どの要素にも心は躍る。

卓上には、にんにく、ラー油、お酢、柚子胡椒、一味、粒花山椒、かえしと7種類の調味料が並んでおり、その使いどころがまた素人の僕には難しい。片っぱしから加えていけば、きっと味がぼやけてしまうことだろう。そもそもデフォルトで完成されているラーメン。けれども、味変もしてみたい。そんな逡巡の末、残りが1/3ほどになったところで、好物のにんにくを投入してみる。

すると当然ながら、がぜん変わる。スープは煮干しの他、鶏だしと野菜がベースらしいが、その濃厚さとにんにくが合わさると、不思議と濃厚とんこつスープのような印象になる。一気に完成形のバランスは失われてしまったけれど、これはこれでうまい。こうなったらもう! というわけで、ミルで挽く花山椒も加えてしまおう。

仕上げは花山椒で仕上げは花山椒で
あ、変わるな~。もとがハイクオリティにまとまっていたからこそ、調味料を加えるごとにその個性の色に染まってくれるというか、お次はがぜんガチ中華な味わいだ。

名残惜しくも麺と具を平らげ、スープも一滴残らず飲みきって、ごちそうさまでした。あの日感動した煮干しラーメンが、ご近所で味わえるようになったことに大感謝。

最後にひとつだけお願いをひとついいでしょうか。音さん、閉店してしまった麺屋ほっちゃん、もう一度、西武池袋線沿線あたりで復活させてもらえませんか?

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】

  • パリッコ

    パリッコ

    ぱりっこ

    1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
    著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
    公式X【@paricco】

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