10年ほど前から聞かれるようになった「レンタル彼女」というサービス。車やDVDなどをレンタルするのと同様に、料金を支払い「彼女」をレンタルするという、まだあまり聞きなれないサービスだ。

それって風俗? パパ活? 裏に怖い人いるの? わからないことだらけの「レンタル彼女」について、『喫茶れんたる』を経営する社長・よもぎちゃんに実態を聞いてみた。

「レンタル彼女」は恋愛対象ではない?

――よもぎちゃんがやってらっしゃる『喫茶れんたる』というのは、どんな会社ですか?

よもぎ ひとことで言えば「人をレンタルする会社」です。「彼女」に限らず、日頃の悩みやちょっとしたことを気軽に話せる友人のような、身近な相手をレンタルしていただけます。世間で言われる「レンタル彼女」ですね。

――働いているキャストの方は何人ぐらいですか?

よもぎ 今8人いて、ひとりは男性です。料金はキャストによって違いますが、友人としてのレンタルは1時間3000円~、恋人としてだと1時間4000円~です。プラス交通費やデート中に発生する費用を負担していただいています。

――男性をレンタルするのは、やはり女性ですか?

よもぎ 女性・男性半々です。私もビックリしたのが「男性同士でパンケーキを食べに行きたい」という需要があったことですね。

――男性を恋愛対象として見ているわけではなく?

よもぎ 女の子と行くと、周りから「お金が発生している関係」と見られるのが恥ずかしい、ということらしくて。若い女性と歩くには自分の年齢が上すぎたり、容姿に著しく自信がなかったりとか。そういう方たちが主に男性をレンタルしますね。

これは"レンタル彼女あるある"なんですけど、「オシャレしないで来てください」ってよく言われるんです。オシャレされると気が引けちゃうから、みたいな。

――「レンタル彼女」といっても、かわいい女性とデートを楽しみたいだけではないと。それにしても男性同士でパンケーキを食べて、その方はどうしたいんでしょう?

よもぎ 依頼者様を大きく分けると2パターンあって。ひとつは青春を取り戻したいパターン。理想の青春を過ごせなかったので、そんな憧れの時間を取り戻したい、という。

あともうひとつが、ただ純粋にお話がしたいパターン。パンケーキの依頼者様もこちらのタイプで、この需要のほうが多いですね。会話をしたり、相談をしたり、自分の考えを聞いてもらったり。キャストを「恋愛対象」と考える方ももちろんいらっしゃいますが、そういう方のほうが圧倒的に少数です。

他にもキャストと楽器の演奏をしたり、女性同士でアフタヌーンティーへ行ったり、推しの聖地巡礼を一緒にしたいなど、デート以外のレンタルもさまざまです。

――一緒に過ごす相手としては、若くてかわいいコがいいとは限らない、ということですか?

よもぎ 私は21歳のときにレンタル彼女業界に足を踏み入れて、当時「若すぎて何を話していいか分からない。逆に気を遣う」ってしょっちゅう言われていたんです。年齢を24歳とごまかしていたにもかかわらず(笑)。若い女の子相手に深い話はしにくいみたいで、やっぱり同年代が一番落ち着くんですよね。40代ぐらいの男性だと、家庭でも会社でも本音を話せる相手がいない方って多いんです。「弱音ってどこで吐いたらいいんだっけ?」みたいな。

――悲しい。 

よもぎ 奥さんをデートに誘ったら断られたので、仕方なく「レンタル彼女」と食事に行った方とか。「元気出して」って言いながら高級フレンチを食べたことがありますね(笑)。世の旦那さん、大変だなって。

■様々なレンタル利用者たち

――女性と楽しくデートをしたい人ばかりが利用するわけではないんですね。世の中つらい人が多い印象ですか? 

よもぎ 比較的多いですね。つらいというか、寂しいというか。特に驚いたのは、以前依頼者様に雑居ビルに連れていかれたことがあって。「ヤバいかも」って警戒してたら、ビルの受付で封筒を受け取ってるんですよ。何だろうと思ったらそこにお金が入っていて、「今月の給料もらったから」といって、中身の3分の2ぐらいを「レンタル料」って渡してくれて。「それ、私に使っちゃっていいのかな!?」みたいな。

もちろん、日々楽しく過ごしている依頼者様もとても多いですけど。

――そういう人は「レンタル彼女」に何を求めていると思いますか?

よもぎ 「受け入れてくれる他者」ですかね。毎日に楽しみや娯楽もなく、何をしたらいいか分からない、友達も彼女もいらっしゃらない。だから、日々思ったことをただ話すだけの相手がいないんです。

レンタル彼女って、どこにレンタル費用が発生しているかというと、ふたりの距離を縮める時間を全部カットして、いきなり彼女や親友との距離感でいられるところです。その距離感を買って自分の心の隙間を満たせる、それがこのサービスの魅力の一つだと思います。

――話し相手というと、キャバクラやガールズバーも役割的に近いと思うんですが、「レンタル彼女」はどこが違いますか?

よもぎ よく聞くのは、お酒や夜のギラギラした空間が苦手という方が多いですね。昼間のカフェでさわやかにアイスティー飲むデートがしたい、という。あと、レンタル彼女って圧倒的に1対1のコミュニケーションなので安心できる。他に店員がいるわけではないですし、キャバクラ特有の「私もドリンクいいですか?」とか、そういうお店感も一切ないので。

キャストも全体的にレンタル彼女のほうがリアルです。きらびやかな衣装やブランドで着飾るわけでもなく、そこら辺を歩いていそうな女の子が多い。私の事務所には子持ちのお母さんのキャストもいます。幅広い年齢層や立場の人が揃っていて、自分の話を聞いてもらいたい方にとっては、そのリアルな感じが逆に需要になっているんです。

――「パパ活」と混同されるお客さんもいませんか?

よもぎ いますね。デートして気に入った子にお店を通さず会おう、と言い出だしたり。女の子側もこの仕事をパパ活感覚ではじめちゃって、やたらおねだりをしまくっちゃうコが現れたりとか。

■「レンタル彼女」の今と理想の未来

――お店の禁止事項はあるんですか? 

よもぎ 性的なことは禁止です。タクシー、カラオケ以外の個室に入ること、プレゼントも現金は禁止です。当然、キャストの嫌がることもダメですね。

ただ、嫌なことを嫌と言えない子も多いんですよね。すべてに笑顔で対応しちゃうと依頼者様も「大丈夫なんだ」と思ってしまって、よりエスカレートしてしまう、それが一番危険です。嫌なことは嫌だと言うのも優しさだと思っています。そうしないとお互いに不幸な結末になってしまいますので。

――キャストとお客さんの間で、日々危ないことが起きている、という感じではないんですか?

よもぎ 危険なことはあまりないですね。よく「ホテルに連れ込まれたりするんじゃ?」とか言われるんですけど。私もこの仕事を始めた当初は、そういう交渉を毎回されるんだと思って覚悟していたんです。でも結果、そういうことはほとんどなかったですね。

「ホテル行こう」よりも、「結婚しよう」って言う人のほうが多いんです。求めているものが根本的に違うんだ、寂しい人が多いんだというのは、実際にやってみて気付きました。ちなみに、依頼者様からプロポーズされてしまったらプロとして負けだと個人的には思っています(笑)。

――会社としては、これからどういう展開を目指していますか?

よもぎ 依頼者様にはもちろん普通の方や女性慣れしている方もいるのですが、女性との接し方がわからない男性も多いので、いわゆる「本番デートのリハーサル」としても利用してもらえたらと思います。本番に備えて「キョロキョロしてちゃ駄目だよ」「貧乏ゆすりしちゃ駄目だよ」とか、要望があればアドバイスをしたりもします。鏡を見ない方もすごく多いので、「気を抜くと鼻毛って出てくるんだよ」というところから教えてます。

彼女のいない方にレンタルしていただいて、そこで女の子とデートするという意識があるだけで自分の身なりも意識するようになるので。私たちと時間を共有することで、「本物の彼女が欲しいな。そのためにはどうしたらいいんだろう?」ということを一緒に考えていける関係性を築けるのが理想です。あとは個人的な思いとしては、世の中からイタいおじさまを減らしたい、というか。

――イタいおじさまは多いですか?

よもぎ レンタル彼女を利用している人に限らず、SNSや日常でも多いですね。なので「こういうことをすると周りから好かれなくなるよ」というのを伝えていきたいなって思うようになりました。

言えば分かってくれるんですよ、「しつこく住所聞いちゃ駄目なんだよ」とか「体型を指摘しちゃダメだよ」とか。注意してくれる人が周りにいないから、ダメだと分からない。「女性がスカートをはいてきたら誘ってる」って、本気で思っている人ってまだいるんです。

――世代を問わず? 

よもぎ 比較的上の世代の方に多い印象ですね、年齢が上がると考えも固まってしまうので。オス感が強くて女性の意見なんて聞いてねえぜ、みたいな。そういう人たちに「その考えは今では駄目なんだよ」と伝えたりしてますね。

若い子にも「将来こういうことやっちゃ駄目だよ」ということも伝えたいですね。そして世の中にひとりでもスマートな男性が増えてくれたら、それが理想です。

☆よもぎちゃん
1993年生まれ、埼玉県出身。
大学時代にレンタル彼女として活動。
その後一般企業に就職するが、独立し『喫茶れんたる』を立ち上げる。
自らも「日本一高いレンタル彼女」として活動中。
所属事務所公式HP【http://www.9spro.co.jp/