食品減税で始まる「テイクアウト&デリバリー戦国時代」の勝者と敗者

取材・文/小山田裕哉 写真/共同通信社 時事通信社

ウーバーイーツは2016年に日本市場に進出。現在は47都道府県でサービスを展開しているウーバーイーツは2016年に日本市場に進出。現在は47都道府県でサービスを展開している

食品減税の影響は小売店だけでなく、飲食店にも及ぶ。イートインでは10%となるため、スーパーなどとの税率差が際立ってしまうが、テイクアウトやデリバリーなら減税対象となるからだ。

これは外食産業にとって商機なのか? 早くも起きつつある"地殻変動"の現場を追った!

【外食産業には大打撃】

2027年4月1日から2年間、食料品の消費税率を1%へと大幅に引き下げる「食品減税」が閣議決定された。消費者には大きな恩恵だが、店内飲食は10%のまま据え置かれ、飲食店には向かい風となる。

そのため外食産業は減税が適用されるテイクアウトやデリバリーの拡充など、抜本的な改革を迫られている。

ファミリーレストラン大手のすかいらーくHD(ホールディングス)は「ガスト」や「バーミヤン」といった複数の人気ブランドのメニューを1ヵ所の店舗で調理するテイクアウト&デリバリー専門店の出店を進め、ノウハウを蓄積してきた。今後はテイクアウトとデリバリーに特化し、店内に飲食スペースを持たないゴーストレストラン業態を展開する方針だ。

一方、「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」を展開するロイヤルHDは持ち帰り専用メニューを導入する方針だという。

ファミリーレストランのガストはテイクアウト&デリバリー専門店をコロナ禍の2021年から展開しているファミリーレストランのガストはテイクアウト&デリバリー専門店をコロナ禍の2021年から展開している

ガストガスト

テイクアウトやデリバリーの利用が増えれば、食品減税によって減少すると懸念される店内飲食の売り上げ分を補填できるだけでなく、むしろ商機となるのではないか?

しかし、外食専門コンサルタントの永田ラッパ氏は、「それどころか外食産業には非常に厳しい状況となる可能性が高い」と語る。

「食料品の消費税が1%になり、店内飲食が10%のままとなれば、会計の際に単純計算で9%分も価格差が生じます。これだけの差がつけば、当然外食離れが起きる。だからこそ、外食産業の各団体や上場企業が一斉に反対を表明しているのです」

しかし、飲食店も仕入れの消費税が1%になって経費が下がるのだから、影響はほとんどないのでは?

「実態はまったく違います。近年、原材料の調達コストは高騰しています。飲食店は慎重に値上げをしてきましたが、それでも適正な価格転嫁はできていません。それは納入業者も同じで、取引先を失うことを恐れて原価高騰分の値上げを我慢してきた。

そうした中での減税は、値上げの引き金になるのです。消費税は1%でも価格そのものがドカンと値上げされるため、結果的に飲食店側が支払う金額は変わらない。むしろ、飲食店でもさらなる値上げを余儀なくされる可能性すらあります」

食品減税を進める高市首相。来年4月から2年間、現在の消費税率の8%から1%に引き下げる食品減税を進める高市首相。来年4月から2年間、現在の消費税率の8%から1%に引き下げる

さらに、テイクアウトやデリバリーの恩恵にも懐疑的だ。

「まず、テイクアウトには立地の問題があります。1階の路面店なら通りがかりの人が立ち寄りやすい。しかし、雑居ビルの3階にある居酒屋だったらどうでしょう。わざわざ弁当を買いに階段やエレベーターを使う人は少ないですよね。

テイクアウトで勝負できるのは立地に恵まれた店に限られます。これは全体の20%程度であり、テイクアウト対応だけでも最初から大きな格差があるのです」

デリバリーも厳しい。

「直近ではmenu(メニュー)の撤退もあり、ウーバーイーツ、出前館、ロケットナウの3社が激しいシェア争いをしています。特にロケットナウが打ち出した『お店と同価格キャンペーン』の影響は大きく、消耗戦の様相を呈しています。

現在はキャンペーン費用をプラットフォーム側が負担していますが、消費者が店頭同一価格に慣れてしまった後は、それも飲食店側が負担することになるでしょう。その上、平均で約35%という高額な手数料もかかります。これらのコストをどう吸収して利益を残すのかが、飲食店にとっての課題です」

永田氏によると、そもそも中小規模の飲食店では、デリバリーの売り上げは実はそれほど大きくないのだという。

「個人店クラスでは1日のデリバリー売り上げは平均で1万円台。日本の飲食業界約50万店のうち、大手チェーンの比率は2割未満で、大半は中小の個人店です。彼らが減税による客離れのダメージを食らう中で、デリバリーが活況になるから大丈夫、という理屈は通用しないのです」

【デリバリーの勝ち方】

では、実際のデリバリー市場では何が起きているのか。飲食店のレシピ開発支援やデリバリー出店代行などを手がけるWannaEat(U-NEXT・HD)の代表取締役社長・長澤里美氏に、食品減税の影響を聞いた。

同社は既存の飲食店が店舗の厨房を利用して、テイクアウトやデリバリー向けの別ブランドを導入できるフードライセンスシェアリングサービス「フーシェア」を展開。全国約2260拠点で同社のブランドが提供されており、その動向はデリバリー市場の縮図と言える。

「弊社ではコロナ禍での創業以来、累計で200種類以上のブランドを開発し、デリバリープラットフォーム上で累計2万店以上を出店してきたデータとノウハウの蓄積があります。

現在、減税を見据えて爆発的に問い合わせが増えているわけではありませんが、感度の高い大手チェーン店からの相談は確実に増えています。一方、中小規模の店舗からの問い合わせは現状そこまで多くはありません。テイクアウトやデリバリーが重要だと認識されつつも、まだ強い危機感は浸透していない印象です」

資本力のある大手チェーン店がノウハウを求めて問い合わせをしてくるとは意外だ。

「というのも、テイクアウトやデリバリーは店内飲食とはまったく別のマーケットで、大手ほどその違いを実感しているからだと思います。

単に店舗の人気メニューをそのままデリバリーのプラットフォームに出すだけで売れるのは、すでに知名度がある人気店がデリバリーにも対応するケースなどに限られます。多くのお店では、見せ方を含めたデリバリー向けの商品開発やPRが不可欠になります」

では、デリバリーに特化した対策とは?

「デリバリーでは、店舗で料理が完成してから実際にお客さまが召し上がるまでに、配達時間を含めて30分以上はかかります。丼ものであれば、このタイムラグを踏まえ、冷めてもおいしい味つけや具材の切り方を考えなければなりません。

例えばわれわれが展開している豚丼のブランドでは、デリバリーのレビューを分析して肉の厚さを㎜単位で変えたり、タレの粘度や味つけを変えたりと試行錯誤を繰り返しています。

また、店舗とデリバリーのメニューが同じ調理工程だと、ランチやディナーのピークタイムに現場が回らなくなり、デリバリーの受注を停止せざるをえなくなりますが、これは大きな機会損失です。

現場のアルバイトが盛りつけたり、レンジで温めたりするだけでもクオリティが保証できるような、オペレーションが簡単なメニュー開発も大切です」

実際、現在デリバリー形態での出店数が多く、人気も集めているアサイーボウルや麻辣湯は、まさにこの「調理工程が少なく、味も見栄えも良い」という条件に合致している。

「もちろん、人気があって参入者が多いからこそ他店との差異化は欠かせず、どうやって独自性を打ち出していくのか真剣に考えなければ生き残れません。もはや副業感覚でデリバリーに参入しても、激しい競争の中で成功することは難しい。

店内飲食と並ぶふたつ目の事業として本気で向き合い、安定して長く稼働できるように商品のクオリティもオペレーションも整備することが欠かせないのです」

【約10万店が消える!?】

永田氏は、飲食店の淘汰が進む可能性を示唆した。

「今の日本は人口に対して飲食店が多すぎるオーバーストア状態にあります。2030年頃には現在の約50万店舗から45万店舗程度まで業界が縮小すると予測していますが、今回の減税がその淘汰の強力なアクセルになるでしょう。最悪の場合、40万店舗まで一気に減る可能性もあります」

では、この食品減税における勝者はいない?

「強いて言えば大手チェーン店です。彼らは今回の減税を、テイクアウトやデリバリーのシェアを拡大する最大のチャンスだととらえています。マクドナルドなどはすでに公式アプリからの注文に誘導し、配送だけをウーバーイーツなどに外注していますから。

牛丼、うどん、ドーナツなどの『もともとテイクアウト比率が高い大手チェーン』も恩恵を受けるでしょう。彼らは近年、テイクアウトに特化した店舗や2レーン式ドライブスルーを備えた店舗をロードサイドに増やしていました。資本力のある大企業と、街の中小規模店との格差は広がるばかりです」

マクドナルドは自社のデリバリーサービス「マックデリバリー」を提供。公式アプリから利用できるマクドナルドは自社のデリバリーサービス「マックデリバリー」を提供。公式アプリから利用できる

ということは、最も食品減税の割を食うのは......。

「地域に根差した中小のローカル飲食店です。真っ先に街の個人店が消えていくでしょう。すでに述べたように日本の飲食店の大半は中小規模の個人店です。ここが最も打撃を受ける施策は、日本経済にとっても大打撃のはず。政権は消費税を一律8%に下げるなど、消費者も事業者も利する施策を打つべきだったのではないでしょうか」

食品減税は外食産業の二極化を加速させる決定打となるかもしれない。

  • 小山田裕哉

    小山田裕哉

    おやまだ・ゆうや

    1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。

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