
西田哲郎
にしだ・てつろう
西田哲郎の記事一覧
ライター・コンテンツディレクター。観光業界紙を経て、複数のスタートアップ企業でメディア立ち上げに従事。得意テーマは投資、スタートアップ、人材、地方など。
(左から)『四季報』伝説の元編集長・山本隆行氏、『四季報』115冊読破・渡部清二氏
株が上がりすぎて手が出ない......そんなあなたに届け! 全上場企業の情報を網羅する『会社四季報』を読み続ける達人に、注目銘柄を教えてもらったぞ!
――四季報は今回の夏号で創刊90周年だとか。
山本 四季報に関わり始めて35年以上たつけど、あの頃から紙面はずいぶん進化しました。昔は決算の説明が中心だったからね。
渡部 今よりずっと素っ気ない感じですか。
山本 そうそう。でも投資家が知りたいのはその先でしょ。新商品を出すとか、工場を増やすとか、海外進出するとか。会社の変化まで先取りして書いたり、記者の独自予想を充実させる方向で頑張ってきた。
渡部 おかげで、個人投資家にもかなり使いやすくなりました。証券会社がカバーしていない小さな会社については四季報記者の独自予想が唯一、個人投資家も参考にできる予想だったりしますからね。
『会社四季報 夏号』
――四季報を約30年にわたって読破している渡部さん、今号の第一印象は?
渡部 業績予想は、電気機器の強さが際立っています。半導体やデータセンター関連が引っ張る一方、ほかの業種は濃淡が大きい。勝ち組が一部に偏っている印象です。
山本 四季報の数字にも、相場の偏りが出てるわけだ。
渡部 ええ。年初から日経平均は大きく上がりましたが、3月刊の春号発売後に株価が上がった銘柄は全体の約3分の1だけ。上昇した業種も電気機器などに集中していました。つまり、今号で確認できる電気機器の好業績は、今年前半の株価にかなり織り込まれていた可能性があるんです。
山本 今から〝ベタな半導体銘柄〟は遅いかもしれないね。
半導体銘柄の大本命であるキオクシアHDは24年末の上場時から株価が40倍以上になっている
渡部 まずチェックしたいのは業績回復株です。過去の2倍株を調べると、前期が減益か赤字で、今期に増益したり黒字転換する会社が多かった。ずっと優等生の会社より、「悪かった会社」が立ち直るほうが市場が受け取るインパクトは大きいですから。
山本 渡部さんの注目は?
渡部 本田技研工業です。前期は北米で予定していたEV3車種の開発や発売を中止し、巨額の損失を計上。上場以来初めて最終赤字になりました。ただ、赤字の主因はEV戦略の見直しに伴う一時的な損失で、今期は黒字へ復帰する見通し。
バイクの好調には注目です。前期はインドやブラジル市場を中心に二輪車の販売台数と営業利益が過去最高。今期も販売を伸ばす計画です。
EV戦略の見直しなどが原因で、本田技研工業は最大6900億円の赤字となる見通しだと発表した
山本 サンデンも面白いよ。自動車用の空調機器を手がけ、長く赤字に苦しんできたけど、今期第1四半期はインドでの増産や原価低減が効き、売上高も前年同期比で約14%増えた。第2四半期以降は営業損益ベースでも黒字化が射程だ。
渡部 これはいいですね。買いたくなるなぁ(笑)。EVは、電池を冷やしたり温めたりする必要がありますけど、サンデンの電動コンプレッサーってその熱管理にも使えますよね。EV向けの仕事も増えそうです。こういう銘柄はワクワクしますね。
山本 そこまで食いついてもらえると、紹介したかいがあるよ(笑)。

山本 夏号では、記者コメントの見出しが【反落】の銘柄にも注目してほしい。3月決算企業の場合、春号の発売時点では前期の通期実績も今期の会社予想もまだ出ていない。でも夏号は、5月の通期決算発表を経た後でしょ。減益予想が正式に出た後だから、「ここが株価の底」ってことになるパターンも多い。
渡部 夏号の【反落】は、すでに株価に織り込まれている可能性があるってことですか。
山本 そう。加えて反落の理由まで検討すれば買える銘柄をあぶり出せます。前年に大ヒット商品や一時的な利益があれば、その反動で減益予想になりやすい。でも、本業まで悪くなるとは限らないからね。
映画『国宝』が大ヒットした東宝なんかは【反落】の常連だよ。ヒット作の翌年は減益予想になりやすいけど、結局は翌年も公開作品次第で数字が大きく変わって上方修正を連発したりする。
『国宝』『劇場版「鬼滅の刃」』のヒットで過去最高益を達成した東宝。ところが次期は大幅な減益を予想
渡部 確かに前年の好業績ゆえの【反落】は狙い目ですね。ほかに注目は?
山本 特に面白かったのは品川リフラだね。工業炉向けの耐火物が弱く、今期は利益が反落の予想。ただ、高温や腐食に強いセラミックス技術を半導体製造装置の消耗品へ広げている。鉄鋼業向けの落ち込みを、半導体向けの成長でどこまで補えるかが見どころだよ。
渡部 同社は配当方針も強化しているし、昔ながらの鉄鋼関連株というイメージでとらえているともったいない気がしますね。

渡部 企業努力だけでなく、国の方向性が追い風になる銘柄もあります。今回気になったのがサイバー主権、つまり国や企業の重要なデータとシステムを海外製品に任せきりにせず、国内で守れる体制をつくろうという考え方に関連する銘柄です。
山本 国産ドローンや国産AIと同じで、サイバー防衛まで外国任せでは困るってことだね。
渡部 ええ。このテーマで注目は網屋です。企業の通信記録から不審な動きを見つけるログ管理や、社内ネットワークをクラウドで守るサービスを自社開発しています。
山本 網屋は私も注目してたけど、先に言われたか(笑)。ほかにはセグエグループもいいんじゃないかな。もともとはセキュリティ関連の輸入販売が強かったんだけど、最近では自社製品比率が高まっているんです。
インターネットを業務用端末から安全に切り離す「RevoWorks」とか。そして何より、政府や防衛省向けにも強い。
渡部 今後は政策面で具体的な動きがあるかにも要注目ですね。
山本 やっぱり国が必要だと考えてお金を動かす分野は強いからね。
大量の付箋が貼られた山本氏の四季報。気になった箇所にはマーカーを引くほか、気づきはノート(右)にまとめる
山本 一方で、民間の巨額資金が流れ込み、一気に裾野が広がる分野もある。直近だと宇宙ですね。ロケットの打ち上げや衛星通信を手がける米国企業・スペースXが6月に上場し、約857億ドルもの資金を集めた。
これだけのお金がロケットや衛星の増産に使われれば、材料や部品、加工機、試験装置を手がける会社にも仕事が回ってくるよ。
イーロン・マスク率いるスペースXは6月、米ナスダック市場に上場。資金調達額は約857億ドルと、過去最大級規模の案件となった
渡部 投資家も「スペースXから恩恵を受ける会社はどこだ」と探しますよね。
山本 例えばオークマ。航空・宇宙部品の複雑な形状を削り出せる工作機械を持っています。エスペックは、人工衛星や電子部品を高温や低温にさらして、壊れないか確かめる試験装置を作っている。宇宙市場が広がれば、こういう裾野の企業の受注も増えそうだ。

渡部 小さなテーマですが、気になったのはクレーンゲーム。景品を取るプライズゲームの売り上げは2024年度に4177億円と過去最高。ゲームセンター全体の売り上げの約7割を占めるまでになりました。
山本 昔はゲームセンターの片隅に置かれてたのにね。
渡部 ここまで大きくなれば、店を運営する会社だけでなく、景品会社にも仕事が広がります。例えばラウンドワンがクレーンゲーム機を増やせば、景品の仕入れも増える。すると、景品用のぬいぐるみなどを企画・販売するエスケイジャパンにも恩恵がありそうです。
山本 ちなみに同社の記者コメントには「競走馬のぬいぐるみが販売好調」とあるけど、これはゲーム『ウマ娘』をきっかけに、海外で日本競馬への関心が高まったのがきっかけとか。
クレーンゲームは訪日外国人観光客からも人気。また、ファミリーマートなどのコンビニにも設置されるようになっている

山本 宇宙でもクレーンゲームでも、成長市場のど真ん中だけじゃなく、その裾野を探すと掘り出し物の会社が見つかることが多い。
渡部 例えば、ペット市場の成長を見て犬猫生活に注目するとか。四季報なら、取引先や記者コメントから裾野企業をたどりやすいですよね。
山本 うん。ほかにも成長市場の例としては、高齢化やDX、インフラ整備などがあります。そして数号にわたって追えば、本当に受注や利益が増えたのかも確かめられる。読み続けるほどに会社の変化とお宝銘柄が見えてくるのが四季報なんですよ。
「最近はAIや半導体ばかりでつまらない相場だった」とおふたり。下半期は中小型株が注目される相場になることを祈る!
*データはいずれも 7月17日時点
●山本隆行(やまもと・たかゆき)
1959年生まれ。東洋経済新報社で『オール投資』『会社四季報』『四季報オンライン』編集長を歴任。2024年3月、同社を退職。著書『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい 改訂版』(東洋経済新報社)はシリーズ累計発行部数8万部を突破
●渡部清二(わたなべ・せいじ)
1967年生まれ。野村證券在籍時から28年以上『会社四季報』を通読し、読破数は115冊を突破。『プロも見逃す!10倍成長する株を探す「日経新聞」読み解き術』(フォレスト出版)など著書多数。四季報分析ワークショップなどを行なう投資スクール「複眼経済塾」塾長