
坂口孝則
Takanori SAKAGUCHI
坂口孝則の記事一覧
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
すかいらーくHDは8月13日、ゴーストレストラン事業への参入を発表。来年4月にテイクアウトやデリバリーの消費税が1%に引き下げられる見込みであることから、今後も各社の参入が予想されている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「フードデリバリー」について。
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「送料無料、利益も無料ってこと!?」というブラックジョークが流行している(当社調べ)。食品デリバリー事業のことだ。先週の本誌で特集されていたように、KDDIのmenuは事業の終了を発表した。Woltも撤退した。出前館は大赤字が続いている。以前にはfoodpandaやDiDi foodも諦めたし、死屍累々(ししるいるい)だ。「配達スピードも、撤退スピードも業界一」と述べる向きがあったものの、皮肉がすぎる。
ところで、料理を提供する側はどうだろう。デリバリーに参入しているのはリアル店舗だけではなく、ゴーストレストランなる、顧客からは見えない幽霊(ゴースト)が急増している。
客席をもたずにデリバリーとテイクアウトのみを専業とするサービスだ。コロナ禍以降に存在感を増し、一時期はすこし落ち着いたものの成長を続けている。さまざまな統計があるが、世界でも日本でも拡大ペースは年率10%ほどだ。
飲食店側からすると人手不足が深刻化しているし、不動産価格も高騰しており、初期投資を抑える意味でも大勝負に出たくない。デリバリーのサービス範囲なら、マンションの一室で調理ができれば、初期費用が最低1000万円といわれる開業費が100万円ていどに最小化できる。少数の調理、梱包(こんぽう)のスタッフで足りる。さらにアプリ上で複数のブランドを展開できる。
ローソンは実験的にゴーストレストラン事業を開始し、現在では全国の1割で展開している。すかいらーくホールディングスも導入を発表した。すかいらーくは20以上ものブランドを展開できる。共働き世帯や単身、高齢世帯にアピールできれば深夜帯の売上を向上できるだろう。コンビニなら調理品だけではなく、アルコール飲料やその他をセット買いしてもらえば利益は上がる。なによりも遊休施設の収益化になる。
さらに、同一法人がゴーストレストランを経営し、そこで複数の飲食ブランドを運営する場合、保健所の営業許可や食品衛生責任者は共有できる。これから中小事業者が飲食店のリアル店舗を開く際に、リスクを負いたくない場合は最適解だ。
消費者にもメリットがある。もしニッチでマニアックな料理が好みだった場合、ゴーストレストランで供給が容易になれば選択肢が増えるだろう。だって、これまでは儲からないからやらなかった料理も提供されるんだからね。
特定の国の料理、ヴィーガン料理、嗜好料理、最新トレンドのスイーツまで、あるいはリアル店舗では飲食店が儲からない、採算が合わない地方でも、デリバリーならば提供可能かもしれない。だって店舗の立地や人通りの多寡に影響されずに売上が立つんだからね。
だけど、そんな簡単な商売はあるのか? そう、ゴーストレストランには「たまたま通った一見(いちげん)さん」が存在しない。アプリ上での莫大(ばくだい)なプロモーション費用が必要だ。
さらに競争が激しくなれば、自動調理ロボットの導入も必要になり費用がかさむ。消費者は実際の厨房(ちゅうぼう)を見られないから衛生管理を確認できないし、どんな食材を使っているかもわからず、安心させるコストがかかる。それでいて配送業者に売上の30%以上が取られる。
運ぶのも作るのも儲からない。見えないのは厨房だけでなく利益か。幽霊化は店舗ではなく儲けなのか。