EUが中国製HEV・PHEVにセーフガード発動! 欧州生産を猛進する最新中国カー"ホントの実力"をガチ検証!!

写真/共同通信社 撮影/山本シンヤ

10月18日まで開催されていたフランスの「パリモーターショー」でも中国カーが席巻。中でも注目を集めていたのが、中国の高級EVブランド・DENZAが公開した新型EVスーパーカー「Z9GT」。最高出力1500PS、時速100キロ到達まで2秒!!10月18日まで開催されていたフランスの「パリモーターショー」でも中国カーが席巻。中でも注目を集めていたのが、中国の高級EVブランド・DENZAが公開した新型EVスーパーカー「Z9GT」。最高出力1500PS、時速100キロ到達まで2秒!!
中国の自動車メーカーが欧州で大暴れしている! そこで気になるのは、最新の中国カーの実力だ。ワールド・カー・アワードの選考委員を務め、最新中国カーを精力的に取材している自動車研究家の山本シンヤ氏に解説してもらった!

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【欧州で中国車が攻勢を強めている!!】

――EU(欧州連合)は10月12日に中国製HEV(ハイブリッド車)・PHEV(プラグインハイブリッド)へのセーフガード(輸入急増から自国産業を守るための緊急輸入制限)導入を打ち出し、中国と合意しました。中国の自動車メーカーの戦略にも影響は出るんでしょうか?

山本 中国メーカーにとって、欧州は重要な成長市場です。一方、セーフガードは欧州域内で生産した車両には適用されないため、輸入規制が現地生産を促す側面もあります。欧州進出の障壁となる一方で、生産拠点の現地化を後押ししているわけです。


――中国メーカーが欧州進出を急ぐ背景には何が?

山本 中国国内では景気が減速し、多くの自動車メーカーやサプライヤーがひしめく中、過酷な価格競争が激化しています。そこで中国メーカーは欧州を"成長市場"と位置づけ、輸出に頼るだけでなく、現地生産や部品調達を組み合わせた事業モデルへと転換しています。

BYDは2030年までに4万人超の雇用創出を掲げ、長安汽車(チャンアン・オートモービル)、小鵬汽車(XPENG[シャオペン])、奇瑞汽車(チェリー・オートモービル)、広州汽車集団(GAC)も現地生産を計画しています。長安汽車は2027年初めにも欧州生産車を投入し、年間販売台数を28年に18万台、30年に35万台へ引き上げる目標です。

――現地生産は乗用車だけでなく、商用車にも広がっているそうですね?

山本 BYDはすでにEVバスで欧州市場に進出しています。さらに、9月にドイツ・ハノーバーで開催された「IAAトランスポーテーション2026」では、欧州向けの28t級大型EVトラック「ETH28」に加え、連結最大44tに対応する次世代EVトレーラー牽引(けんいん)車「ETT44」を披露。さらに、市場投入済みのEV小型商用バン「E-VALI」も展示しました。商用車でも欧州市場への本格進出を着実に進めています。

9月にドイツで開催された世界最大級の商用車見本市「IAAトランスポーテーション」ではBYDが商用EV攻勢を展開。電動バンから大型トラックまで大々的に展示し、乗用車に加えて商用車市場にも殴り込みをかける中国勢の存在感を印象づけた9月にドイツで開催された世界最大級の商用車見本市「IAAトランスポーテーション」ではBYDが商用EV攻勢を展開。電動バンから大型トラックまで大々的に展示し、乗用車に加えて商用車市場にも殴り込みをかける中国勢の存在感を印象づけた
――山本さんが現地で取材された際、会場での中国メーカーの存在感はいかがでした?

山本 かなり大きくなっていましたね。まず目を引いたのがブースの規模です。もちろん展示スペースの広さだけで実力は測れませんが、以前とは比べものにならないほど大きなブースを構えていました。

東風汽車集団(ドンフェンモーター)は大型トラック「T1」を展示。燃料電池システムの出力は400kWで、日本式の表記なら約544PSに相当します。

IAAトランスポーテーションでは、東風汽車集団(ドンフェンモーター)が大型トラック「T1」と、その心臓部となる燃料電池システムを展示。水素を活用した次世代商用車の開発でも存在感ギンギンIAAトランスポーテーションでは、東風汽車集団(ドンフェンモーター)が大型トラック「T1」と、その心臓部となる燃料電池システムを展示。水素を活用した次世代商用車の開発でも存在感ギンギン
――ヤバっ!!

山本 昨年、ベルリンで家電見本市「IFA」を取材した際も、かつて世界を席巻した日本メーカーの姿が消え、中韓勢が巨大ホールを占拠している現実にショックを受けました。クルマの世界でも、中国メーカーは展示規模から技術、製品に至るまで、存在感を高めていますね。

【中国自動車メーカーと欧州の関係】

――中国メーカーは、欧州での生産体制も整えつつある?

山本 BYDはハンガリーで工場を建設し、奇瑞汽車はスペイン・バルセロナで現地企業のEVモーターズと生産を進めています。零跑汽車(リープモーター)もスペインのサラゴサで欧州向け車両の生産を始めました。

単なる関税対策ではなく、生産から販売、サービスまでを現地で一体化し、欧州市場に本格的に根を下ろそうとしていますね。

――工場建設に加え、資本面でも欧州メーカーとの結びつきが強まっています。

山本 そもそも中国大手の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)は、ボルボ・カーズ、ポールスター、ロータス、LEVC、プロトン、スマートなどを傘下・関連ブランドに持ち、今やスマートは同社とダイムラーAGとの合併会社です。

また、ボルボ・グループの大株主でもあり、メルセデス・ベンツグループにも創業者の李書福(リーシューフー)氏が持ち株を保有しています。

――へー、そうなんスか!

山本 東風汽車集団と欧米大手のステランティスも30年以上の関係があり、両社は中国国内だけでなく、欧州市場をターゲットにした新たな合弁会社を欧州に設立することで合意しています。このように、中国メーカーと欧州メーカーの関係は、もはや競争・競合という言葉だけでは語れないのが実情なのです。

【最新中国カーの実力を試す】

――なぜ中国の自動車メーカーは、これほど勢いがある?

山本 中国では"クルマのスマホ化"が急速に進んでいるからです。日本は黒電話から段階を踏んでスマホへと進化しましたが、中国はインフラも含め、いきなりスマホから始まったような社会。その感覚の違いが、クルマに求めるものにも表れています。

――具体的には?

山本 大画面のインフォテインメントシステムやソフトウエア更新に加え、カラオケ、冷蔵庫、マッサージシートといった装備も重視されます。

中国のお父さんは夜遅くまで働き、帰宅後も家族や子供の世話に追われ、息つく暇がない。唯一、ひと息つける場所が"クルマの中"だともいわれています。だからこそ、車内が快適にくつろげる空間であることが重要なのです。こうした市場では、メルセデスやBMWでさえ「高級だけど古い」と見られることも。

――日本未導入の最新中国カーを現地で取材したそうですが、中国では電動車が増えているんですか?

山本 何度か上海を訪れていますが、街を走るクルマを見ると、電動車が明らかに増えていると感じます。緑色のナンバープレートをつけた新エネルギー車も、以前より目立つようになりました。ただ、中国は国土が広く、地域によって普及率も異なるので、上海の印象だけで中国全体をひとくくりにはできませんね。

――なるほど。

山本 そんな中で、現地で特に目を引いたのが、高級MPV(ミニバン)の需要拡大です。これまではトヨタのアルファードやヴェルファイア、レクサスLMが存在感を放ってきた市場ですが、需要の高まりを受け、対抗する中国製モデルが続々と登場しています。

今回は、BYDのハイエンドブランド・DENZA(デンツァ)の「D9」と、東風汽車・VOYAH(ヴォヤー)「ドリーマー」の後席を実際に体験してきました。

上海の街で存在感を増している中国製高級ミニバン。右はBYD系高級ブランド・DENZAの「D9」、左は東風汽車系高級ブランド・VOYAHの「ドリーマー」で、山本シンヤ氏が現地で徹底チェックした2台。トヨタのアルファード/ヴェルファイアやレクサスLMが築いた牙城に、中国勢が本気で挑み始めている上海の街で存在感を増している中国製高級ミニバン。右はBYD系高級ブランド・DENZAの「D9」、左は東風汽車系高級ブランド・VOYAHの「ドリーマー」で、山本シンヤ氏が現地で徹底チェックした2台。トヨタのアルファード/ヴェルファイアやレクサスLMが築いた牙城に、中国勢が本気で挑み始めている
――中国製高級ミニバンの実力はいかがでしたか?

山本 どちらも1.5Lターボ+モーターのPHEVでしたが、静粛性と動力性能は十分で、街中をEV走行している限りは実に快適です。室内もスマホ型のコントローラーで冷蔵庫や強力なマッサージシートを操作できたり、3連ディスプレーが並んでいたりと、おもてなし装備の先進感は日本の先を行っています。 

――走りは?

山本 走りに関しては粗さも残りますね。D9は速度が上がるとリアサスペンションの動きがドタバタして落ち着かず、逆にドリーマーは低速域で路面の段差を拾いやすく乗り心地が硬い。どちらも走行シーンによって足回りのセッティングに課題が見受けられました。

――ズバリ、中国の高級MPVは、日本のMPVに追いついていますか?

山本 装備やスペック、コストパフォーマンスの面では間違いなく強力なライバルだと感じましたが、高級車の価値は"総合力"で決まります。シートの座り心地、静粛性、あらゆる速度域でのフラットな乗り心地、そして数値に表れない"すり合わせ"の熟成度。

たとえるなら、今の中国車は栄養素が満点な健康食のようなもので、老舗メーカーが培ってきた"うまみ"や"魂"といった感性領域においては、まだ"アルヴェル"や日産のエルグランドなどの完成度が一枚上手だと感じましたね。

――それなら、日本メーカーはまだまだ優位を保てる?

山本 いや、安心はできません。中国メーカーは"コピーの時代"から"独自進化の時代"に突入しています。日本車を徹底的に研究し、土日も夜も関係なく、企画から量産まで24ヵ月という日本の常識を覆すスピードで開発を進めています。

さらに広大な国土を生かし、マイナス30℃の極寒から50℃近い酷暑までのテストをすべて国内で完結できる強みもあります。

――勝負はこれから?

山本 そうです。重要なのは現在の完成度だけでなく、3年後、5年後にどこまで進化しているか。高い垂直統合力とコスト競争力に加え、彼らが日本車の持つ"味"や"すり合わせ"の領域まで本気で身につけたとき、本当の意味で恐ろしい存在になります。

中国メーカーの真の脅威は、今の完成度以上に、その桁違いの進化スピードにあると思いますね。

●山本シンヤ Shinya YAMAMOTO 
自動車研究家。自動車メーカーの商品企画、チューニングメーカーの開発、自動車専門誌の編集長などを経て2013年に独立。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営

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